今シーズンが始まってから何度かメディアでも指摘されているのが「なぜヴェンゲルはラカゼットを途中交代させるのか?」ということだ。せっかく史上最高額で獲得した選手を、べつに調子が悪そうに見えなくても真っ先に交代させることについて不思議に思った人も多いんじゃないだろうか。ぼくもずっと疑問に感じていたし、試合後の会見では何度かプレスからツッコミが入ったこともあるから、やはりふつうに奇妙と感じられるのだろう。
ラカゼットは今季リーグ戦8試合ですべての試合に出場しているが、そのなかで90分ピッチにとどまったのは、開始2分でいきなり得点を決めた初戦のレスター戦(アーセナルでのデビュー戦)だけで、その後の7試合で途中交代となっているとのこと(出場はそれぞれ78、28、75、66、83、71、68分)。彼だけが特別バテていたという様子がなくても、まるで最初から決まっていたかのように最初の交代はラカゼットOUT、ジルーINとなる。
彼は感情をあまり顔に出さないタイプのようだが、表情を見ていれば交代を快く思っていないことくらいはわかる。プライドの高いスター・フットボーラーが途中交代を屈辱に感じたとしてもおかしくはない。
Arsenal fans accuse Arsene Wenger of mishandling star player
ぼくも試合を観ていて毎回ラカゼットが途中交代させられることに納得がいっていないファンのひとりである。フットボールの試合で攻撃の選手を最初に交代させることはとくに珍しいことではない。けれど、あきらかに疲労が見えるようなほかの選手を残して、彼を優先して交代させることには違和感を感じていた。しかも彼はアーセナル史上最高額で獲得したばかりの新戦力で、いくつかの試合ではベストプレイヤーともいわれ、ここまで及第点といえる活躍も見せているのである。これでは宝の持ち腐れだ。
毎回ジルーとの交代となるが、ラカゼットはワイドでもプレイできるので2トップにせずともCFジルーとの共存は可能だ。なぜフランスのチームメイトでシナジー効果だって期待できそうな彼らを同時にプレイさせないのか。ちょっと理解できない。
ヴェンゲルの考え
ヴェンゲルがラカゼットについてどう考えているのか。ボスの頭のなかにある理由についていくつかは予想できなくはない。
- ラカゼットはイングランドのフィジカルなフットボールに適応中である。ゆえに長時間使って怪我をさせたくない。
- ラカゼットは高額で獲得した大事な選手である。ゆえに長時間使って怪我をさせたくない。
- ラカゼットはCF以外で使う気はない。ジルーとラカゼットの2トップを試す気はない。
- ラカゼットとジルーを同時に使うことは攻撃偏重すぎる。緊急時以外では同時に使えない。
一番ありそうなのが最初の「適応中」だろうか。確かにイングランドはフランスとはだいぶ違うとラカゼット本人もリーグの違いについてコメントしていたくらいなので、適応期間中であるのは間違いがないだろう。しかしだとすると、今後彼がEPLに慣れていけば自ずとプレイタイムは伸びていかなければならないが、リーグ8試合を終えても依然その兆候は見えない。
2番めについては、もしほんとうにボスがそんな言い訳をするようなら飯を噴いてしまう。大きな怪我をするまで使い続けるというレギュラーメンバーの固定化はヴェンゲル監督が持つ悪しき習慣のひとつだが、そのふだんのやり方と矛盾するじゃないか。どの面下げてということだ。
ラカゼットのポジションについて、獲得した当時のヴェンゲルはラカゼットをほとんどの時間をCFで使うとしながらも、同時にジルーの後ろや左サイドでもプレイできるとも言及している。しかしここまでジルーとともに使ったこともなければ、ラカゼットをCF以外のポジションで起用したこともない。
今後、ヴェンゲルがラカゼットの起用方法について別のアプローチを試すことはあるんだろうか。
途中交代で自信を削がれるラカゼット
この件で、もっとも心配されているのがラカゼットのメンタルだろう。
アーセナルではフランス人はいくらか順応しやすいとはいえ、彼は新しい環境に移籍してきたばかりの選手で、ことばや生活習慣の違いや慣れないリーグへの適応に苦労しているだろうし、高額の移籍金が支払われたということで周囲の大きな期待をプレッシャーに感じることもあるだろう。彼の今後のイングランドでのフットボーラー人生を考えれば、いまはフランスにいたときのような「ゴールゲッター」という自信をつけなければならない非常に大事な時期であるといえる。とくにストライカーは自分のプレイに自信を持つことが重要だといわれるポジションでもある。
しかし実際は、彼は毎回途中交代させられることで、プライドを傷つけられ自信を削られているかもしれない。彼のような特別な選手が、自分がエジルやサンチェスと同等に扱われていないと感じれば、それが大きなフラストレーションとなってもおかしくはない。
途中交代も得点しているうちはまだいい。が、仮に今後なかなか得点できないような不調の期間が出てきたりすれば、一気に不満は溜まっていくのではないだろうか。自信の欠如がプレイに悪い影響を及ぼす様子をわれわれはアーセナルで嫌というほど観てきた。
ヴェンゲルはエジルやサンチェスの扱いに失敗したという前例がある。べつにラカゼットをエジルやサンチェスのように過保護にする必要はないが、ただ「信頼している」ということばをかけるだけではなく、采配においてもいかに彼がアーセナルにとって重要なメンバーであるか、最大限のリスペクトを見せるべきだと思う。
このままではラカゼットもまた、数年後には一度も契約更新することなく移籍希望を出すような事態になるのではないかと心配である。
陰謀論
In Lacazette’s contract it must have something like 15mil in add ons when he completes a full match for Arsenal
— Gooner Nick (@NickVann1987) 2017年10月14日
ラカゼットとアーセナルの契約にはフル出場すると15Mポンドのアドオンが乗っかるみたいなのがあるとかないとか。