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アーセナルFCのファイナンス事情【2019夏】その2

その1からのつづきでござい。。がんばって読もう。



アーセナルのファイナンス分析2019 by Swiss Ramble

アーセナルの不動産開発による収益

AFCはステイディアムの移転によって、不動産開発からまともな収益を得てきた。しかし、これはもう枯渇しつつある。クラブはこの活動からこの3年間で£7Mを稼いだだけで、2011年までの3年で稼いだ£30Mの1/4にも満たない。

給与の伸び

AFCの£223Mの給与総額の大きさは問題ではあるけれど、ライヴァルたちはそれをはるかにしのいでいる。例えば、AFCの2015年以来の伸び£31Mはチェルシーの£28Mを上回っているに過ぎない。リヴァプールの£98Mやマンシティの£93Mは、AFCの給与総額のほとんど3倍だ。

アーセナルの給与 vs その他ビッグ6クラブ

リヴァプールとの比較がとくにわかりやすい。彼らのピッチ上での近年の成功をよく表している。2010年ではAFCの給与とほとんど変わりなかったが、2018年では£40Mも差がついている。事実、AFCの給与総額はライヴァルのどれよりも少ない。ただしトテナムは除く。予想以上を越えた少なさ£148M。

PLの高給取りディレクターランキング 2017/18

もちろん、AFCの給与総額はこの夏の退団選手のおかげで減るだろう(ラムジー、チェフ、ウェルベック、リヒトシュタイナーにオスピナ)。しかし移籍可能性のある、とんでもなく高い給料の選手たちの整理については苦しむことになりそうだ。例えばエジル、ミキタリアン、ムスタフィ。

元チーフエグゼクティヴのアイヴァン・ガジディスは、どうしてそれができたのか、£2.7Mもの高給を受け取っていた。AFCがCL出場を逃しても、すべての収益が落ち込んでも、給与コントロールができなくなっていてもだ。云い方によっては、彼はリヴァプールのチーフエグゼクティヴ(£1.3M)よりも2倍近くを「稼いでいた」とも云える。

アーセナル アイヴァン・ガジディスの報酬

実際のところ、ガジディスはAFCに居た10年のあいだ、この低調っぷりに責任がある立場ながらもおよそ£22Mを稼いだ。いい仕事っぷりだ。彼はミランではもっとうまくやるだろう。グッドラック、アイヴァン。

特別損失 直近4年

2018年、記憶が確かなら、AFCは初めて特別損失を計上せねばならなかった。退団したアーセン・ヴェンゲルと彼のコーチングスタッフたちのための£17M。興味深いことに、ほかのクラブはこういった支払いに慣れていて(チェルシー、リヴァプール、トテナム)、最近では削減する方向にある。

PLのキャッシュバランス

かつてAFCが持っていた、ほかのクラブに散財させる能力はなくなってきている。2012年にAFCはPLのほかのクラブをすべて合わせた(£181M)のとほとんど同じくらいのキャッシュ(£154M)を持っていた。しかし、2018年にはほかのクラブのキャッシュはPLのTV放映権のおかげでブーストされ、アーセナルは£231Mに比べ、彼らはいまでは£686Mを持っている。

為替レイト GBPとEUR (2012-2018)

2011年にガジディスはこう云った「われわれは万が一に備えている」。AFCの支出計画に云いたいのは、それは意味がなかったということだ。移籍金はインフレしていて、つまり金額は急上昇している。€にくらべて£が弱くなっているということは、クラブの海外での支出パワーが削がれているということになる。

PLのグロス負債 2017/18

パンディットのなかには、AFCがステイディアム建設時の負債を完済したと信じているひともいるかもしれない。しかし、それは真実ではない。AFCは2018年においても£217Mの負債を抱えており、その多くは2029年に返済するためだ(2031年に£50M)。マンUもまだ£500Mあたりの負債があるし、トテナムの負債が増えているのは新しいステイディアム建設のため。

PLの支払い利息

したがって、AFCはいまも年に£12M程度の利息を支払っている。これに£8Mのローン支払いがあるので、つまり年に£20Mの出費があるということ。この利息はマンUの£19Mよりは少ないが、トテナムの£14Mは新ステイディアムのローンを払い終えたら、また上がるはずだ。

資金調達コスト 直近5年

しかしながら、マンUが彼らの負債を返済しつづけられているのは、彼らのキャッシュを生み出せる能力のおかげで、これはAFCには望むべくもない。この5年間で£100M以上を生み出すということ。対照的に、リヴァプールは同じ期間でたったの£13Mしか利息を払っていない。これは競争するうえではとても大きなアドヴァンテイジになる。

税金の支払い 直近5年

AFCは直近5年で£33Mも税金を払っており、金の使い方としては不本意だった。チェルシー、リヴァプール、マンシティが払った税金を合わせても£1Mだったのにだ。AFCを上回っているのは、17/18だけで計上した£26Mを含むトテナムの£46Mだけだ。

オーナー投資 直近5年

これはいくつかのクラブがオーナー投資の恩恵をかなり受けていることの証拠になっている。とくにチェルシーとマンシティ。彼らはこの5年で£300M以上をオーナーから受け取っている。加えて、リヴァプールが受け取ったのはアンフィールドの拡張した分以外で£93M。対照的に、AFCはスタン・クロンキから一切受け取っていない。

結論

AFCのエグゼクティヴたちの愚かなリーダーシップが発揮されると。

仮にクロンキの投資があってもそれをどうやって使うか議論になるが、結局彼らがができるのはこのどちらかしかない。

  • 負債の借り換え(高い罰金があるのに)
  • ウォルマートとのスポンサーシップ(£20M。それが「マーケットヴァリュー」なんだとか)

長期戦略の一環としてクロンキはAFCのアカデミーにも大きな投資ができたかもしれない。その結果として才能あふれる選手たちの宝庫になり、それがファーストチームのスクワッドをさらにリッチにしたり、あるいは彼らを売れば金になった(それがチェルシーモデル。もしほんとにやるならだけど)。

AFCにはいまのところFFPの問題はない(PLでもUEFAでも)が、それは2017/18の選手売却によるところが大きい。しかし、それはこれからはもっと気をつけなければならなくなる。アカデミー、インフラ、女子フットボールとコミュニティへの投資を除外したとしても。

つまり、AFCのマネジメントについては十分に検討すべきことがらがたくさんある。とにかくCLにできるだけ早く戻ることが必要だというチャレンジそのものが単純だったとしても、これは全然簡単なタスクなどではないのだ。とくにライヴァルたちがピッチ外でも大幅に成長しているのだから。

以上。

いつものように自分で訳を読み返しても、ところどころ意味がよくわからないところがある。必要ならお手数ながら各自オリジナルをご参照願いたい。いつもすみませんね。



おれの雑感

このリポートが伝えていることはつまるところひとつだ。

アーセナルのマネジメントはウンコ(だった)。

SR氏はアーセナルのファンということなので、端々に嫌味とか皮肉が入っているが、それがとくにバイアスになっているようには感じない。

データひとつひとつもファンの関心が高いもので、多くのメディアやジャーナリストからの信頼もある。いずれにせよこれがAFCの都合の悪い真実なのだろうと思う。

ポインツをいくつか。

  • CLを逃していることによるダメージがでかすぎワロタ
  • リヴァプール・ToTうまくやりすぎワロタ
  • ガジディスうんこすぎワロタ
  • アーセナルの借金はまだけっこうあってワロタ
  • 選手売却へたすぎ=選手リクルート問題ありすぎワロタ

ワロタ。。

CLに出られないからお金がなく、お金がないから補強もできず、補強もできないからCLに出られず。悪が循環しているよね。

ビジネスで成功するにはピッチ上での成功が必要

以前アーセナルは、クラブを率いているエグゼクティヴたちが、フットボールのなんたるかを知らないビジネスマンしかいないと揶揄されていたのだけど(たとえば選手OBが要職を担うバイエルンなんかと比べて)、結局ビジネスでもまったくうまくいっていないというのが最大の皮肉だ。

エミレーツステイディアムを建てて以降、大きな借金を抱えたアーセナルは毎年中心選手を売ってしまうセリングクラブだとからかわれて、それでもつぎつぎにタレントを発掘して競争力を維持し彼らを売ることでこのリポートでも指摘されているように、ビジネス的にはどのクラブよりもうまくやれていた。ファンにはたいそうストレスの貯まる時代だったが、いま思えばだいぶマシだったかもしれない。

そのおかげで4位が定位置なんて云われて悔しい思いをしていたのに、いまではその4位に入ることが目標になってしまっているのだから。

アーセナルが拙いマネジメントをやっている一方、時代の変化による影響もかなりあるのだろう。このリポートが教えてくれるのは、つまるところそういうことでもあると思う。アーセナルには踏んだり蹴ったりな状況だ。

リヴァプールとToTのCLファイナルなんて、ほんの数年前には想像すらできなかった。そこにはRMもバルサもバイエルンもユヴェントスもPSGもいないのだ。ヨーロッパのトップがこの2チームだったなんて。

なによりわれわれが突きつけられて痛い現実は、リーグをリードするようなビッグクラブにおいて、結局ピッチ上での成功がほとんどすべてだということ。AFCのウンコエグゼクティヴたちがスポーツをないがしろにしてまで追い求めたビジネスでの成功も、そこにくっついてくるのだということ。

アーセナルの新マネジメント体制はクラブを成功に導けるのか?

いまのアーセナルがリヴァプールを理想のモデルとしてもべつにおかしくはない。

しかし、アーセナルがリヴァプールのような成功を収めるには、あまりにも多くの、高い、大きなハードル・課題があると思う。

優秀なヘッドコーチ? 優秀な選手? いや、その課題のなかで最大のものはやはり「マネジメント」なのだ。

不可解なミズリンタットの退社や、モンチの招聘失敗。それに、不要な選手の売却になかなか進捗が見られないこと。現在進行中で世間を賑わせているウィルフレッド・ザハの件もある。

ぼくがザハに大金をぶっこもうとしていることに若干否定的な意見を持っていることは、先日のエントリでも書いたとおり。守備の強化が最優先であるべきなのに、ポリシーを変える(間違える)ってけっこうなことじゃないか??

もちろんアーセナルは新体制になったばかりで、それを評価するには時期が早すぎるが、現状どうも楽観的になれる材料にも乏しいと思えるのがファンとしての率直な印象だ。

前体制のミスマネジメントの尻拭いも含めて、現体制にとってはこれまで以上に苦しい状況だということは重々承知だが、少なくとも現状では芳しい成果がなかなか見えず、彼らの手腕に期待しているというよりはちょっと心配になってきている。

ちょっとした擁護

ところで、選手売却の項目(その1の「選手売却による収益 直近5年」)を見ていて、ああアーセナルの商売ベタはやっぱりひどいなあとあらためて思ったのだけど、一方でライヴァルクラブとの金額差を見るに、一部分の判断ミスが決定的な違いになっていることに気づいた。

それはもちろん、アレクシス・サンチェスとメスト・エジル、それにアーロン・ラムジーのこと。

もしこの3人を適正なタイミングで適正な金額で放出していたら、今頃アーセナルはどうなっていただろうか。

仮に60M、40M、50Mで売れる可能性があったとすると、なんとこの3人だけで150M稼いでいた計算になる。(まあエジルの40Mは怪しいか)

アーセナルの5シーズンのトータル売却益が165Mなのでこれで一気に300Mを超える。1位のチェルシー(337M)に迫るのだよね。そうなれば、商売ベタどころかトップ6で1位2位を争う商売上手?ということになる(ビジネスの観点では)。

結局この3人でアーセナルが得たものは、わりと悲惨なものではないだろうか。高給のミキとエジルはクラブにとってはすでに負債の様相を呈しているし、ラムジーのあのひっぱりダコっぷりを見れば、フリーで放出したことは悔やんでも悔やみきれない。

この間、超高額サラリーのふたりがおらず、さらに150Mの軍資金があればそれなりの補強もできただろう。とっくにCLに返り咲いていたかもしれないよ。

このキープレイヤー3人の扱いについて判断を誤ったことは、クラブにとってそれこそ5年単位で悪影響を及ぼしかねない痛恨のミスだったと思える。

それぞれの判断には当時の事情もあったので、マネジメントの100%ギルティだとは云わないが。まあ結果的には大罪でしょうな。

あ・全然擁護になってなかったわ。

以上です。いかがでしたか?

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7 Comments on “アーセナルFCのファイナンス事情【2019夏】その2

  1. 長文翻訳お疲れ様でした。
    勝ちに行く気がないというのを一番感じましたね。買収後にそこそこの運営つけておけば追加投資をしなくても勝手に資産価値が高まっているという判断もできるのかな。結局の所このまま長期に渡れば当然ながらネームバリューは低下していくはずなのですけどシーチケの順番待ちも未だ数年、広告収入は更新出来たとなれば方針変える必要性もないのかなと。
    一番最初に頭に浮かんだのは桃鉄の球団持った時の印象ですね。黒字だからまぁ良いかという奴です。

  2. リーグの結果で収益に差がでるのは頑張ってもらうしかないですが、
    選手の売却に関しては見極めるのが難しいですが改善しないといけないですね。。。

  3. チェンさん、お疲れ様です。

    うーん。財政的に健全ということだけが近年のアーセナル上層部のいいところというイメージだったが、違ってきているということですね。

    フットボールでの成功が財政上の健全にも結びつくというのはごもっとも。結局活躍しなければファンも増えないし、選手も売却出来ないのだから。

    個人的にはエジルとサンチェスの二人にチームバランスを崩すレベルの高給を与えたことがターニングポイントな気がする。そういう意味では現体制も負債を抱えたままのスタートということで多少同情の余地もあるかも。

    ちなみに、エジルとの契約延長当時、彼の給与の高さに関するファン界隈のトーンはどんな感じだったんですかね?お暇なら教えていただきたい。(ポジティブだったのか、ネガティブだったのか)

    1. つ https://www.reddit.com/r/Gunners/comments/7u9gxj/exclusive_mesut_ozil_signs_a_new_threeandahalf/

      2018/1/31にオーンステインがツイートしてその反応。

      ネガティヴってこたないですよね。

      だって、たった1年くらいでエジルの存在感がここまで落ちるなんてこのときはみんな思ってなかったんだから。

      そもそもそんなふうに予想できたら、クラブが巨額(350kpw)&長期(3年半)の契約を与えるはずもなく。

      ちなみに、サンチェスのサラリーはふつう?だったのでは。彼は一度も契約更新していないので。

      1. 返信ありがとうございます。自分の拙い英語力ながらポジティブなコメントが多いことは分かりました。

        僕も契約延長自体はいいことだと思いますけど、給料が巨額すぎるんだよなぁ。アグエロとかポグバとかアザールとかより高いっていうのはどうも疑問がある。代理人にうまくやられたってことなのかなぁ。

        それだけ当時のクラブは本気度が高かったってことなのかもしれないけど。。最近の投稿でもあったけど、この件を教訓にして現体制では選手が不良債権化しないように思い切った判断とリクルートをがんばってほしいものですな。コシェみたいなレジェンドも、もちろん大事にしてほしいところはあるけど、その辺のバランスは人によって意見分かれるだろうから、いちファンとして見守ることにします。

        なお、サンチェスの給与については勘違いでした。すいません。マンUに行ってからの給与と勘違いしてたところがありました。

  4. 初コメです。僕もこの方のツイート追いかけてたんですが途中で理解を諦めました。笑 なのでありがたいです。

    内容に関して。ガジディス担当であろうコマーシャル面の伸びの少なさ。これはやっとエミレーツ、adidas、ルワンダで60Mほど回収できるようですが、そもそもメインスポンサーがエミレーツなのになぜうちはオイルマネーの恩恵が少ないのでしょうか。色んなクラブの胸スポンサーしてるから?あと、アーセナルほどの知名度のクラブになぜ新スポンサーは付かないんでしょうか。

    1. オイルマネーの恩恵はちゃんと受けているんじゃないですかね。
      ネイミングライツとか胸スポンサーでいい金をもらってるはずなので。

      チェルシーやシティなんかのオイリークラブと違うのは、やっぱりオーナー投資ではないかと。彼らはオーナーがアラブ?とかロシアの富豪でオイル関係だけど、アーセナルのオーナーはアメリカ人でオイル関係じゃないので。

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