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【マッチレビューその2】19/20FAカップ アーセナル vs マンチェスター・シティ(18/Jul/2020)ヨーロッパのベスト2チームに勝った【マッチスタッツと論点】

試合の論点

アーセナル vs マンシティのトーキングポインツ。

ミケル・アルテタの信念がチームを生き返らせる

今回のシティのみならず、この2試合の勝利においては、ほんとうにいろんな論点があると思うのだけど、真っ先に指摘せねばならないのはやはりボスのことかなと。

彼がヘッドコーチとしてアーセナルに戻ってきて以来、チームはゆっくりではあるが全体的に上昇傾向にあるように見える。そして、そんななかで彼がずっと見せているのはモラルの一貫性だ。いいものはいい、悪いもの悪いと、才能以前に選手を評価するときのはっきりとした基準を示している。そのことがいかにチームに決定的に重要になっているか。

当初は彼の目にもダメだと映った選手もいたんだろうと思う。そりゃ全員が完璧なわけはないのだから当然だ。しかし、それでも彼は選手たちの本来の良さを信じることを諦めなかった。選手のいいところだけを見て伸ばそうとしたし、たとえもしミステイクをしたとしても、そこからしっかり学んで、リアクトしようとするならばキミは大丈夫なんだと訴え続けた。選手に対し自分に自信を持つよう促しつづけた。

それで、ジャカやルイスを始め、救われた選手はいまのチームに何人もいるだろう。ムスタフィにいたっては前任者から戦力外として完全に諦められ、見捨てられていたのだ。彼らのような選手はアルテタがいなければ、その後はダメ選手のレッテルを貼られ、あまりいいフットボーラー人生を送らなかったかもしれない。

そしてこの件においてダニ・セバーヨスはまったくの好例だが、当初ディシプリンに問題アリと見られていたが、いつしか心を入れ替えてトレイニングするようになり、試合に起用されるようになると徐々に安定した才能を見せ始めた。アーセナルでの彼はときにいいプレイもありながらついぞ一貫性を見せられず、1月にも退団が噂されたし、誰からも1年限りのローンで終わりそうだと思われていた。ところが、いまではアルテタが彼を残す道を探していると公言しているし、多くのファンが彼の来シーズンを望んでいる。今後アーセナルで成功するなら、彼のキャリアは彼がマインドセットを入れ替えたことで劇的に変わったと云える。それを快く受け入れたのはアルテタだ。

そして今回の試合で、退団希望と云われているAMNにもそれと似たようにことが起きようとしているのかもしれない。もちろんこれで彼にレギュラーが約束されたわけではないし、そういう意味で厳しい状況は変わっていないだろうが、少なくとも残って競争できる自信はついたかもしれない。ボスからのアツい信頼も悟ったことだろう。

信じる力がいいプレイを呼び、いいプレイでまた信念が強まっていくという好循環。そのことを目撃できる喜びよ。。

ぼくはこのブログにも何度か書いているかもしれないが、アーセナルの選手たちの技術レヴェルがそれほど劣るとはそもそも思っていない。たしかに本来アーセナルほどのビッグクラブが(大金をかけて)獲得する選手が悪いわけがない。ていうか、そんなことはあってはならない。

さすがにトップレヴェルにあるとは云わないまでも、少なくともボトムチームやミッドテーブルのチームを相手に、あそこまで苦しんでいいはずがないとは思っている。

問題はチームワークであり、セルフコンフィデンスであり、どう集団でプレイするかのコンセプトや指針がなかったことだと思う。そういうものがあればどんなチームだって強くなりうる。詳しくは知らないが、今シーズンのシェフィールド・ユナイテッドなどはそんなチームなんじゃないか。つまり、そういった方向性を与えてやり、正しく導き、自信を植え付けるなど、何か小さなことでもきっかけがあれば、彼らはもっといいプレイを見せてくれるはずだとは思っていた。

もちろんタイトルを狙うようなチームになるには話は別で、ここにさらに特別な才能を加えていく必要がある。

だが、いまウナイ・エメリのときと同じチームでリヴァプールにもシティにも勝ったという事実が、チームが小さなきっかけを掴んで好循環のサイクルに入っていきつつある何よりの証拠だろうと思う。あのバラバラだったチームが。いいところなく敗けて半べそをかいていたチームが(半べそをかいていたのはおれですが)。

そしてそれをやったのはボス。

たとえばクラシカル音楽が好きなひとは、指揮者でオーケストラの音が劇的に変わるなんてことは常識だとは思うが、フットボールもまったく同じに思える。同じチームでもマネージャーが変わるだけでこんなに見違える。いまわれらはそれを目の当たりにしている。こんな短期間で。。すごいことだなあ。

そんな彼がもっとも大切にしているのがファン。愛さずにいられない。

ペップとミケルの戦術バトル。強固なブロック守備と基本に忠実なビルドアップ

まあ師匠はいつもどおりプレイしたのかもしれないので、それに適応したアルテタのバトルというべきか。

今回のアーセナルの用意していたゲイムプランは非常に大雑把に云えば、極端にポゼッションしてくることがわかっている相手に対し、バック5(5-2-3/5-3-2)、ときにバック6になることもいとわず、とにかくオウンサードの中央スペイスを消し、シュートをブロック。そしてボールを奪えば、キツいプレッシングをかいくぐって鋭いカウンターをお見舞いする。。

そんなところではないだろうか。

この試合、彼らは16本シュートを放っているが、あのエリアで圧倒的ポゼッションがありながらシュート自体をたくさん打たせなかったともいえる。

ほとんど相手に攻められっぱなしで、守備のミステイクが致命傷になりうる試合だったが、ぼくのメモを見る限り、ムスタフィ、ベレリン、セバーヨスが危険な場所でボールを奪われるミステイクをやっているが、致命的にはならなかった。あれはどれもハイプレスからミスを強いられたかたちで、さすがにショートパスでのビルドアップをそう簡単にはやらせてくれない。

逆にそれ以外はほとんどボールを持たずに試合をコントロールしていたとも云えるんじゃなかろうか。ボックス内は、つねに複数人で身体をはって防御するさまは、まるでアトレチコみたいに強固だった。

まあ実際には幸運に助けられた部分もかなりあるだろう。あのシュートのうちのいくつかが不運にもゴールに転がり込んでいた可能性はあったのだから。

だが、スタッツを見ても概ね決定的なチャンスはつくらせていないこともたしかで、この試合は総じてわれわれの守備の勝利と云えそうだ。もちろんアルテタが相手のやりたいことを知り尽くしていたということも見逃せない。つい先月にリスタート直後で、ダヴィド・ルイスのアレもあり、PLアウェイで3-0といいところなく敗れているし、そこからよくぞここまでチームを変えたものである。

この試合で戦術的な面で興味深かったのは、深く強固な守備ブロックではなく、バックからのプレイのほうだ。

アーセナルは序盤こそボールを奪ってもほとんど何もできなかったが、試合が進むにつれボールを持つことに徐々に自信をつけていき、狭い局面でもうまくボールをつなぐなど、この試合のなかで興味深いビルドアップのシーンは何度も見ることができた。今年のアーセナルでは、あのキツいプレッシングのなかでかなりうまくバックからのビルドアップをやった試合ではないだろうか。

もっとも重要だったのは、相手のプレッシングを恐れすぎなかったことだろう。相手が詰め寄ってくるのを恐れすぎて選択肢を自ら狭めてしまいミスにつながるのは、相手の思うつぼである。エミマルなどは相当に落ち着いているように見えた。このあたりはリヴァプールで結果を出した自信も感じさせた。

アーセナルの初期配置はLCBにKTを置いた3CBだが、ビルドアップ時には2CBになりKTはLBポジションに入るというかたちになっていた。

シティはかなり高い位置に選手を配置しているが、リヴァプールと違ってエミマル、ルイス、ムスタフィまではキツいプレスを仕掛けてこない(寄せるときもある)。だから、そこからどうマークを外してつぎに展開するかが重要で、今回はセバーヨスとジャカがうまくフォロウしたというのもあるが(ゲンドゥージはこれが全然できていないという指摘アリ)、KTやAMN、ベレリンらマークの比較的薄い選手がボールを受けたときに、そのサイドに相手をひきつけて密集させて、そこから逆サイドのフリーの選手に展開するというシーンが何度も見られた。

アルテタはアーセナルに来た当初「ボールを持ったら相手をひきつけてから空いてる逆サイドにパスしろ」というような指示をしていたと伝えられており(とてもシンプルな原則だがエメリのフットボールをずっと見ていたぼくらには新鮮だった笑)、そのとおりのまったく基本に忠実なボール回しをしていた。それによって、アーセナルは防戦一方になることなく、少ない機会ではあったがボールを持てばちゃんと攻撃(ビルドアップ)のかたちができていた。

これを進歩と云わずしてなんと云おう。

もちろん、最初のオバメヤンのゴールは18本のパスをつなげたということで、このビルドアップのインプルーヴメントの象徴みたいなものだった。

公式がノリノリである。

この一連のビルドアップでもいいところがたくさんある。セバーヨスがCBをフォロウするところとか、KTからラカゼットへのドチャクソ強いパスとか(狭いスペイスであのスピードじゃないと通らなかったんだろう)、それをMFに落ちてなんなく受けて逆サイドにさばくラカゼットとか。

われらは、1シーズンに何度かはこういうプレイをやりますな。腐ってもアーセナル。

そのほか、素人が付け焼き刃で書いてもアレなので、詳しい戦術の話はこのあたりに譲る。復習しよう。

Tactics Column: Arsenal 2-0 Man City – Pep beaten by pressing and patience | Arseblog … an Arsenal blog

Arseblogの戦術解説。

Why Mikel Arteta’s Arsenal don’t ‘just get rid of it’

効果的だったバックからのビルドアップなど、マイケル・コックスの戦術解説。無観客でアルテタの指示する声が選手に通ったことが利したという指摘も。※要課金

誰かは存じないが、なかなか興味深い分析。

そして、そんなこんなでいつの間にかアーセナルが2点を先行。ボールを持って攻めてるはずのペップ・グアルディオラは困ってしまったんだよね。ミケルがとなりにいないことに。

フアンマ・リーヨが気の毒になるな。クソウケるw

※コメントくださるかたにお願い
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お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

13 Comments on “【マッチレビューその2】19/20FAカップ アーセナル vs マンチェスター・シティ(18/Jul/2020)ヨーロッパのベスト2チームに勝った【マッチスタッツと論点】

  1. 正にチームプレー。これが見たかった。
    ペペのアシストヤバかったっすね。
    ラカゼットもかなりあがってきてます。
    ビッグスクワッドのためには、ヨーロッパの大会はあったほうがいいと思います。
    あと3試合か。途方もなく長かったシーズン、いいかたちで終わりたいですね。
    COYG

  2. サカのユニフォーム待ちは、ベルナルドの方のシルバであります!

    1. ご指摘ありがとう! て、云われてもどっちがどっちか顔を見てもわからない!

  3. ウィロックのあのような場面の起用は、守備の強度を上げることと持ち運ぶためなのかな?
    最後の方はオバメヤン残し気味で全体が引いてたので

  4. オバメヤンは今の得点数でも十分すごいんですが、「もっと取れていたんじゃないか」と思わせるところがすごいですね。結構ビッグチャンス外す印象ですが、そもそも彼がいないとビッグチャンスにさえならんということでしょうか。仮にスピード衰えても、普通にリーグで15点〜20点は取ってくれそう。

  5. 一点目はやばかったですね AMN以外は皆がボール触ってたんじゃないかな 絶妙な位置に動き続けるダニと出し手に指示し続けるジャカのコンビが最高かよもう最高 MFみたいなラカと最後に決めちゃうオバもやばい
    しかしまぁ強固な守備だこと 運に助けられてるのも確かですが、運だけじゃないのも確実に見て取れる 守備エリアの最適化から個人エラーへの対処法といい、指導者って大事だねと改めて感じました
    これだけ汗かいて体張って声出して、結果まで出した選手たちに根付くネガティブな評価が見直されるといいな 一心同体を体現しつつあるチームで、そこに入れない子達はかわいそうですが
    大活躍マルチネスって、鬼キャッチングで競り合いも強いパスが上手いプレス耐性も強いイージーミスしないメンタル強い怪我も少なくロッカールームの人気者と、監督が一番欲しがるタイプのGKですよね 来期のGKはどうなりますかね オファー次第でどちらか売却でしょうか レノもマルチも大好きなので本当に複雑な気持ちですが、どちらもベンチに座って過ごす選手ではないですね

  6. すいません!ぺぺのコト悪くゅうのやめます!

    しっかし進歩すっなぁ。
    アルテタ恐るべし。
    ビルドアップもプレスもままならないトコから良くぞここまで。
    ファンから要らないと言われてた選手がしっかり戦力になっとる。
    PLは残り2つ勝って祈るのみ。
    ファイナルのウェンブリーではクソダサユニの青油に去年の雪辱を晴らして締めくくって貰いたいっすね。
    COYG

  7. アルテタボールの片鱗に、日曜朝からオジさん涙ぐみました。特にKT→ラカのキラーパスは観戦時思わず「そーだよ!」と独り言を漏らした次第ゆえブログ読んで大変嬉しく。

    私も仕事柄、時間差視聴の場合はコメントまでチェックするのは控えてましたが、今後はそんなご配慮まで、、、頭が下がります。

  8. ベルナルドはティアニーに似た雰囲気を感じますよね
    素朴かつ謙虚で、誠実そうというか‥
    他チームであっても大好きな選手の1人です

  9. アルテタの生涯のライバルになりそうなランパードにルイス対ジルー。
    舞台は揃いましたね。

  10. リバプール戦よりも安心して見ていられました。なんというか、チームとしてよくまとまっていて、バタバタしていませんでしたね。確かにアプローチはアトレティですが・・・。でも宇宙最強の2チームの連戦に勝つ日がくるなんて、なんというCOVID禍でのご褒美・・・。U字に苦しんでいた時代からすると本当に感慨深い。ベレリンがやはりフォームがあがってこないのと、もうエジルが見られないのかな・・・という寂しさはありますが、こうなってはロブエディサカネルソンにもっと機会を与えて、サリバ+ガブ復帰で十分、来期トップ2に挑戦できる気がしてきた。残りPL2試合でずっこけそうな予感を吹き飛ばしてくれればいいのですが、もうToTがレスターに勝っちゃったので、ヨーロッパはカップ戴冠していくしかないですな。バクーでジルーにやられてもう1年。倍返しです。COYG

  11. この試合はある意味素晴らしかった。戦術的にというかチームとしての意思の統一、試合のマネイジメント。
    近いうちに戦術やマネージャー能力を語るときにアルテタが中心になることがあるんではないかと思ってしまうくらい。大げさかもしれないですけど(笑)

    ティアニーLCB、ナイルズLWBは現状での守備の安定を考えると自分も選択肢には挙げたかったんですよね。嘘っぽいけど(笑)
    ただこの試合は過密日程なのとセドリックが出られないのがあって、ベジュリンのバックアップにナイルズを置いておいた方がという気持ち、攻撃のクオリティを考えるならWBは重要になるので休ませつつティアニーを後半からと。
    いやまぁ見事にLCBでティアニーはやってくれたんですけど。

    体力的な部分でもこの試合のマネイジメントはいい風に働いた。今までだったら常に全力でプレスをかけていたのが、意図的にプレスをかけない選択をチームとしてやっていた。プレスをかけたりかけなかったり。途中からはずっと引いてたかもだけど。とにかくこれには驚かされた。今まで気になっていたことだったのでそれが改善というか変わったというのは。こうしなかったらどこかで体力的なボロは出ていたかもしれない。この辺りは素晴らしかった。

    プレスのかけ方も少し変わったというか、リヴァプール戦から変わってたんだけど、
    プレスの最前線がラカでなくオーバとペペになっていた。WBのフォローもかなり高い位置まで来ていた印象。
    リヴァプール戦では上手く抜けられたり、両WG(ST?)が戻らなかったり上手くサイド深くを突破されることがあったけど、
    この試合は前半からオーバ、ペペも戻るべき時は戻っていたしシティも上手くプレスを突破出来ないというのもあった。
    リヴァプール戦でやっていたことがより習熟度が上がったという感じ。まぁオーバのこの辺りの貢献は相変わらずすごいので選手個人の差とも言えるかもしれないなと。
    まぁでもとにかく感心させられっぱなしの試合でした。

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