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【マッチレビュー】20/21EPL アーセナル vs レスター(25/Oct/2020)ミケルのドーナツ化現象

試合の論点

アーセナル vs レスターのトーキングポインツ。

認められなかったゴール。またまた物議を醸すVAR

個人的にはいろんな意味でレスターの3ポインツはこの試合の結果としてふさわしいと思っている。理由は後で述べる。

だが、フェアになれば仮に4分のCKからのラカゼットのゴールが認められていれば、まったく違う試合になっていた可能性はある。レスターのゲイムプランは、追いかけなければならないチームのそれではありえなかったのだから。

あのシーンはHTも試合後もほんとうに何度も繰り返し議論されていたが、あれが取り消されたのはまったくナンセンスだと思う。

ラインズマンがフラグを上げたのは、ラカが頭でヒットしたときにジャカもPEAもオフサイドポジションにいたからだが、ジャカはゴールに向かったボールをちゃんとよけて触っていない。

しかしそれをVARで確認したレフは、ジャカのボールタッチは認められなかったものの、今度はジャカがその前にGKシュマイケルを妨害したと判断したようで、やはりノーゴールとした。

オフサイドポジションにいた選手がGKの視界を遮ることで、関与とみなされるケイスはままあるが、ラカが頭でボールを反らせたとき、シュマイケルとジャカは十分離れていたし、視界を遮ってもいない。

あのシーンを何度観ても、ジャカとシュマイケルのコンタクトはCKの状況ではノーマルなものに見える。あの程度の接触でいちいちファウルを取っていたらPLは成立しない。その後に彼のポジショニングの邪魔になってもいないことも明白だ。

今回のことでVARシステムを批判することはおそらく間違えている。VARの技術的な仕組み自体が問題なのではない。それを観て、相手/場合によって、その都度異なる/説明できない判断をする人間が問題なのだ。

誤審というのは、ほんとうに興ざめがする。こういうのはきっとあとでレヴューもするんだろう。ヴェンゲルさんにはこういったことの改善に一番に取り組んでもらいたい。

ロングボールFC。ミケルのドーナツ化現象

最近はもうほんとに毎回毎回同じことを書いていてうんざりしてきた。これを読んでくれてる方もうんざりしてきたよね。ごめんね。

前半のアーセナルは相手を押し込んだ状態で、パスでボールを前に進めることには苦労していたが、その分ダヴィド・ルイスの正確なダイアゴナルのロングボールがおもしろいように決まっていて、それがチャンスをつくっていた。なんとアーセナルのクリエイターはCBだった。アーセナルの前半の攻勢は、攻撃のトリガーになっていたルイスに依るところも大きかった。

しかし、後半早々49分にルイスが退くと、まったく攻め手がなくなってしまった。

ガブリエルがルイスの代わりとばかりにロングボールを出し始めたのには、彼を頼もしく感じたのと同時に、アーセナルの攻撃のオプションのなさを痛感したものである。

つまりこういうことなんだけど。

アーセナルは攻撃の人数はそれなりにかけているのに、中央がぽっかり空いている。黄色のエリアは相手がつくるブロックの隙間、いわゆる「ライン間」である。

おそらくこのチームのなかで、唯一このエリアを使うように求められていたのがフォルス9のラカゼットだろうが、残念ながら彼のホールドアッププレイは際立っているとはとても云えない(アーセナルの攻撃の選手のなかでは多少マシというだけ)。だいたいパスが来ない。チャレンジをしない。実際、先に張ったパスマップのグラフィックを見れば、彼がほかの選手とのリンクはあまりできていない。

たしかにこの試合でレスターがドン引きしたときのライン間は狭小だった。だけど、PLにはこういう守備をやってくるチームはべつに珍しくないのだから、今回だって想定していなければいけない。

結局、ゴール前にロウブロックを敷いた相手に対して、アーセナルは攻撃のオプションが極端に少ないのだ。Uシェイプでボールを回し、左右のワイドをオーヴァーロードしてクロスを入れるか(それも左偏重)、あるいはロングボールでミッドフィールドを省略するか。

たとえば「少ないタッチのコンビネイションを使ってライン間を攻略」しようというような発想自体がないように見える。まあそのあたりの領域はもはや選手のインスピレイションに任せるみたいになってくるかもだが。

相手の裏(物理的にも意識的にも)を突けないから、いつも相手の面前でプレイしているような感覚がある。

こういったプレイは相手にとっては恐ろしく予測可能だ。スーパープレディクタボーだ。だって毎度同じプレイしかしてこないのだから。アーセナルがロウブロックをやるチーム(たとえばシェフUとか)にどういうプレイをしてきたか、苦しんでいたか、事前に研究していれば、どういう対処をすればよいのかある程度察しが付いてしまう。

「ストラクチャ VS フリーダム」

ぼくはこの試合を観ていて、ブレンダン・ロジャースが試合前に云っていたことがどうにも気にかかっていて。

彼はエジルを排除したアルテタを擁護するという文脈で、ストラクチャとフリーダムについて言及していた。ストラクチャに従わないフリーダムに動く選手がひとりでもいれば、チームは苦しむ。だから(エジルを外した)ミケルの決断を支持すると。

何を云っているのかというと、つまり、フットボールにおける組織構造(規律)と自由みたいなことだ。

この試合後に、redditやtwitterで、アルテタのチームがどうもコーチされすぎているのではないかという意見をいくつか見かけて、ぼくもちょうど似たようなことを考えていたので、興味深かった。あと、システムに囚われすぎて試合(game)を見失っているというような意見も見た。

アルテタが来てから、チームがよりオーガナイズされて、守備の面でかなりうまくいっている(失点が少ないとか、カウンターにさらされる機会が少ないとか)のに、逆に攻撃面の進歩ではかなり苦しんでいる。というか、むしろ悪化している。

このことがなにを示唆しているのかといえば、守備は組織で大いに改善するが、攻撃は組織では改善できない(あるいは改善できない部分がある/限界がある)ということではなかろうか。わりとフットボールの本質的な議論に思える。

いまちまたでしきりに云われていることは、アルテタのチームの攻撃がかなり予測可能(predictable)だということ。

アルテタのチームの攻撃がよくコーチングされていて、それを選手が忠実に実行しているのだとしたら、それも当然かもしれない。たとえば、フロント5が彼らのインスピレイションでポジションを頻繁に変えるようなことはよく見られるだろうか? むしろ忠実にポジションを守っている印象がある。たとえばCMがボールを持ったときに、フロントの選手がボールを受ける動きが少ないとも云われるが、それは彼らがボスから云われたこと(位置)を守っているからではないか。

今シーズンが始まってから、何度かの印象的な攻撃について「パターンがある」ということも注目され、そのことは称賛されてもいた。たしかに決まったときの快感はこのうえない。

だが、一方で、であれば、それは相手チームにとっても予測が可能なものになってもおかしくはない。何をやってくるかわからない相手よりも、パターンがある相手のほうがよほど対応はしやすい。

ヴェンゲルさんの時代にアーセナルのファンになったひとは(日本人ならほとんどかもしれない)、あのチームのインスピレイションのかたまりのようなフットボールに魅了されたわけで、あれはまさしく選手たちのinterplay(Jazz的な意味で)だったといまでは思う。リズムとハーモニーとインプロヴィゼイションが最高にバランスしていた。創造性にあふれ美く、かつ危険だった。いまはスコアどおりに演奏するウェストコーストジャズのようだ……

このテーマは非常におもしろそうなので、また別の機会にちゃんと書いてみよう。アルテタはミンガスになりたかったとか。ぺぺはドルフィーっぽいとか。

エジルとか、ラムジーでもいいが、いまアーセナルのファンがいまのチームに欠けたピースだと思っている選手って、以前のチームではことごとくストラクチャに対する不安定要素だったというのが象徴的だ。彼らはひどいポジショニングだったり、守備参加の意識が乏しくはあったが、ファイナルサードでケイオスをつくりだせ、それが相手の脅威になっていた。彼らがそのことでどれだけ批判されてきたか思い出すと感慨深いものがある。

ヴェンゲルさんの時代のフリーダムなチームに、守備のオーガナイズがないと嘆き、守備からチームをつくろうとしたエメリ氏が平凡だと嘆き、今度はオーガナイズしたチームをつくったアルテタに「もうちょっとケイオスを……」と嘆いている。

自分に苦笑せざるを得ませんな。

※コメントくださるかたにお願い
プレヴューエントリでは、試合の結果がわかるようなコメントはお控えください
お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

16 Comments on “【マッチレビュー】20/21EPL アーセナル vs レスター(25/Oct/2020)ミケルのドーナツ化現象

  1. 5レーンを意識した攻撃って大事だとは思うけど
    あんな律儀に選手を並べることに意味はない気がします。
    アーセナルの前線が5人揃う頃にはレスターは守備を7人揃えて守備ブロックが完成して手詰まりになるんじゃ
    創造性のある選手がいても崩すのは難しいと思います。
    オーバメヤンの華麗な裏抜けからのゴールからの笑顔が見たい。

    1. おれたちのチームはこれからのチーム。
      今は、決まりをつくってる最中。
      守りの決まりは半年でかなり浸透。
      ムスタフィはいつだってムスタフィ。
      でもCBからのパスだけでは勝てない。
      攻撃はこれから。きっとよくなる。
      でも、誰をどこで使うかは決断のとき。
      3トップを誰にするか。
      あたしの理想はサカ、オーバ、ペペ。
      彼らにラストパスを出すのはウィリアン、セバジョス、パーティ。あとスミスローも。
      もう一人のガビの復帰もカギになる。
      あとサリバも。
      勝つ試合がみたいですね。

  2. ご指摘の通り、オレもアルテタは奇をてらったのだと思ってます。

    色々言われてますが、VARは大いに賛成派で、誤審は本当に興醒めです。
    あの一点が認められていれば試合も違ったものになっててルイスの怪我も、、、と考えると腹も立ちます。

    (ゲーム後に呑みながら、あの誤審がどーだっただのと盛り上がるのもフットボールの一部だと言う人もいますがとんでもねー)

    なんか久々に、負け試合なのにたくさんウジウジ言いたくなる試合でしたね。
    乱文すません。

  3. 攻撃時3バックの左右がジャカ・ルイスである時点で、中盤を飛ばしてゲームを作るつもりだったんだと思う。
    3バックの左右がルイスとジャカではトランジションが危険すぎるから。

    ライン間でボールを受けることはリスクでもあり(奪われるとトランジションでボールの後ろが1人少なくなる)、僕は必ずしもマストではないと思う。

    まして右CBがムスタフィになってしまった今、トランジションで右ムスタフィ左ジャカなのが分かっていて、IHがボールを失うリスクを冒せるだろうか?
    僕なら絶対やらない。

    ただFBが高い位置を取れてるだけに、IHがライン間で受けた時の威力は増してると思う。
    またムスタフィは黙っていても自分でボールを失ってしまうので、安全策を取るのは逆効果かもしれない。

    なので個人的には、①ジャカではなくパーティを右サイドに下げる。②右CBにサリバを使う。のどっちかじゃないかと思う。
    とにかく後方を安定させて、IHがリスクを冒せる状況をまず作るために。

  4. ヴェンゲルがやったような選手のコンディションと偶然に左右される即興性を取り入れるよりは、パターンを増やすか、わかってても止められないパターン(相手に同時に数個の選択肢を迫るような)をつくるべきだと思います。とはいえ、それらを昨シーズンまで持っていたシティやリヴァプールが苦しんでいるのをみると、そもそもの前提となる5レーン理論が廃れてきてるのかなとも。そこはアルテタの真価が試されますね。
     アルテタのことは全面的に支持したいですけど、リードされてからの交代策が当たらないのが気になります。セバージョスが消えてたとの指摘ですけど、彼ってプレス回避が持ち味なわけで、ひかれたときに置いても、パスずれること多いし、そんな意味ないですよね。だから幅とるティアニーとライン間に置けるサカ(怪我ぽかったけど)じゃなくて、セバージョス変えて5+1ができる選手入れたほうがよかったと思います。

  5. アルテタは発言の節々からラカゼットをいまいち信頼してないと思うさいますが、その割にはオーバを真ん中で使わないんで混乱してます
    彼を中心にチーム作りをすると言ってたのは何だったのか
    中盤でプレスでボール取れてもすぐ横パスになるのは何故なのか
    アルテタになってまだ攻撃の形が出来てないのは不安ですね、その点ではエメリと同じかなと

  6. 長文お疲れ様です。
    ジャズの事は詳しくは分かりませんが素敵な喩えで面白く読ませていただきました。
    コメント失礼します。
    そもそも前半開始早々からハイペースで攻め立てるアーセナルの攻撃に対してレスターのみならず主審やラインズマンも全然追いつけていないように見えました。
    その結果脳への酸素の配給が追いつかず判断を誤り誤審に至ったのだと思います。
    なので仕方ないと思いますw
    アルテタの経験も攻撃のchemistryも場数を踏まない事には進歩も反省もしようが無いと思います。
    なのでエジルが退団する頃までwはじっくりとアルテタの試行錯誤に付き合って行くしかありませんね。
    COYG!

  7. 試合そっちのけですが、サリバについてはもう少し理解を示してあげほしいなぁと思います
    ご家族に不幸があったという話も、私が読んだ記事では母君という話でした 本人のコメントまでは未確認ですが、20歳前後で言語や文化の異なる国に来たばかりの若者にとって身内の不幸が影響しないワケがない 今年の夏に、せめて家族の近くのフランスでもう一年という希望も叶わずとなれば、すぐにファンの期待に応えろというのも酷な話かと思います
    安くない移籍金や噂されてきたポテンシャルにNO.4という背番号に対する期待値、アーセナルとの契約下にある選手という面も去年のレンタルが失敗だったという考え方も尊重しますが、一人の人間としても見てあげて欲しい 不幸なことなんて皆が耐えて乗り越えるのが当たり前なのだとしても、彼は俺たちのサリバなんだから

  8. さすがにもうジャカを諦めてほしい。ジャカは相手にとってブロック再構築ポイント。少なくとも5回は縦に出せば数的有利でチャンスになりそうな場面がありましたが前への意識は体勢からして皆無で横パスとバックパスばかり。カソルラならって何回も思ってしまいました。

  9. ゲーム感覚もない状態で、
    途中出場の難しさとアップもろくに出来てないのがある中で
    このレベルの相手に緊急出場することになったムスタフィ。お気の毒です。

  10. 素人目にもアルテタは攻撃面で再現性を求めすぎてるように見えます
    ただチーム構築のプロジェクトの第一段階としてはこれで良いのかも(正常性バイアス)
    いきなり即興性を求めても仕方ありませんからね

    ティアニーは毎試合素晴らしいけどシーズン途中で壊れてしまわないか心配です

  11. ムスタフィがえらい攻められてるけど、この画像でいうとMFが前にプレス掛けてるからDFはラインあげないとMFとDFのあいだにスペースが生まれてしまうし、負けてる状況で相手が3トップでこっち5バックじゃ前からプレス掛けたら人が足りないのでムスタフィが正解だと思う

  12. 一番嬉しくないヴァーディーの蟻の一刺し。前半、2~3点は決めていなければならない流れだったので、嫌な予感はしていましたが果たして・・・。勝つためには、前半もっと相手に持たせて、後半60~70分に怒涛のように2~3点取るやり方とかもあったのかもしれないけれども、パーテイにもっと持たせるとか、ティアニーやベレリンにもっとチャレンジさせるとか、色々策はあったでしょうに。マディソンのほうが堂々としていて、ほんとに憎たらしかったです。彼はジャックが順調に成長していたら、左右ちがえどこんなになっていただろうな・・・ということを想像させますよね。あー、本当に悔しい。

  13. いつも楽しく拝見させて頂いてます!ありがとうございます!

    この敗戦は期待していただけにショックが大きいですね。

    もう落ちるとこまで落ちた方がいいかもですね。中途半端なやりくりより若手をしっかり育成して07/08の様なサッカーが見たいです。今の時代は難しいのかもしれませんが

    1. 横からで申し訳ないですが、僕はガナーズ歴がちょうど07-08からです。
      あれでアーセナルにハマりました。

      あの頃はギャラス・トゥレ・フラミニが非常に広いスペースをカバーしてましたし、FBも堅実なタイプが揃ってたと思います。
      その上に、あの攻撃陣でした(以下略)
      CLのACミラン戦などはスーパーソリッドな上にスーパーテクニカル、とんでもない試合でした。

      僕は個人的には、あれだったら時代を越えて今でも通用するような気がします。
      残念ながら今のチームは、単純なフィジカル・スピード面ですらあのレベルではないように思いますが。

  14. パーティを入れてジャカやセバージョスを外す選択が出来るのか?とか色々懸念してたことがそのまま出てしまったというか。。。
    相手ブロックの中(間)にMFが入らないって。。。

    個人的には交代選手については入った選手に問題を感じるより、サカとティアニーを外す選択が気になりました。
    サカはまぁ痛めてたのもあるんでしょうけど。

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