※写真はESPNより
今夏の移籍市場でウエストハムが熱烈なラブコールを送るジルー。アーセナルが獲得を熱望するラカゼッテの入団が実現するようなら、ますますスターティングが遠のくジルーが退団へと近づくだろうというのが大方のメディアの観方である。
また、リヨンのプレジデントであるジャン・ミシェル・オラスがジルーの獲得にも興味をいただいているということで、「どうせアトレチコ(※現在移籍市場からバン中)が1月にラカゼを獲るんだから急ぐことはない」と語っているオラス会長に、ジルーを含めたビッグオファーを出すことも大いにありそうな雲行きになっている。
ちなみにOLがアトレチコから受けていたラカゼへのオファーは45M+アドオン12Mとのことで、アーセナルにも同等の移籍金(57Mポンド)を要求するという。
ウエストハムがジルー獲得に出そうとしている金額が20Mポンドといわれているので、ラカゼの獲得にはジルーに加えておよそ37Mポンドという巨額が必要になりそうだ。サンチェス安かったんだな。
ジルーがフランスで絶好調(17戦17得点)なだけにジルーを惜しがる声もグーナーの間からは聞こえているが、そんななかで、ジルーとラカゼのスタッツ比較をしてみたというESPNの記事『フランスではジルーが優先されているが、それでもアーセナルにとってはラカゼのほうがいい』が目についた。
タイトル通り、彼らのスタッツを比較していかにラカゼのほうが優れているかを説明した記事。ESPNらしくコメントで罵倒されているが、そのコメント含めてなかなか面白いので簡単に紹介したい。
ラカゼットのジルーよりも高い得点率
ジルーはこの5シーズンでリーグ69得点。
ラカゼは3年でリーグ76得点。1シーズンに少なくとも21点は取っている。今季リヨンでは30試合で28得点、1試合で0.93得点。
ヨーロッパのトップ5リーグで彼より得点率が高いのは、メッシ(1.1)、カヴァーニ(0.97)、オバメヤン(0.97)、ハリケーン(0.97)のみ。
ジルーにないラカゼットのポジション柔軟性
ジルーはボックスでフィジカル勝負したりクロスのターゲットになるような古いタイプのCFである。ゴール前でないとその能力は非常に限定される。
一方ラカゼはリヨンではウインガー、攻撃的MF、ストライカーとしてもプレイしており、ヴェンゲルの3-4-2-1の前の3枚のうちどのポジションでも務まるだろう。もしサンチェスとエジルが残ってラカゼと組むなら、ジルーがいたときよりもポジションチェンジを繰り返しチャンスをお互いにつくりあうようなダイナミックで流動的な攻撃ができるだろう。
ラカゼットはプレイメイカー
この3年でラカゼは毎年35以上の得点チャンスをつくっている。3年間毎年20得点以上+35のチャンスをつくったのはラカゼ以外ではメッシだけだ。
ファイナルサードでのラカゼのパス正確性(passing accuracy)はこの3シーズンで71.3%(パス1517本)。ジルーは60.3%(パス919本)。
ラカゼのパス正確性はサンチェスの68.1%よりも高い。サンチェスはパスを倍くらい(パス2888本)出しているが。
ラカゼットはビッグチャンスを決められる
ボックスの外でのラカゼはジルーよりももっと危険だ。それに「ビッグチャンス」から得点することに関しては彼はボックス内でももっと脅威な存在になる。
チャンスを決めることではラカゼはジルーと似たようなレートを持っている。この3シーズンで、ラカゼは73のビッグチャンスでシュートを打っていて40得点している(PKを除く)。コンバージョンレートは75.5%。
ジルーは少し高くて76.9%だが、シュートが33本少ない。
サンチェスのコンバージョンレートは58%だ。
ラカゼットは優れたPKキッカー
ラカゼに対するいくつかの批判のひとつはたくさんのゴール記録はPKからのものであるということだ。しかしアーセナルにおいてはそれこそが必要だ。アーセナルは直近の15回のPKのうち4回をミスしている。ラカゼは14/15シーズン以来24回PKを蹴って4回のミスである。
彼はまたこの3シーズンで5回PKを獲得している。サンチェスよりも2回多い。
以上。
一読して、CFとはいえプレイスタイルもだいぶ違うふたりをこうやって比べる意味はあるんだろうかと思った人も多いかもしれない。
この世界にはいろんなタイプのCFがいて彼らはどちらかといえば両極端のタイプだし、いうほどふたりのスタッツに差がない部分もあってこの程度でジルーよりもラカゼが優れいていると結論するには少々無理があるようには感じた。若干モヤッとさせる記事ではある。
この記事に寄せられたコメントも批判的なものがほとんど。
以下コメントより。
こんなスタッツ比較なんて意味ないよ。ESPNは最悪だな。試合ごとのゴール率を示せば十分なんだよ。違うリーグの違うチームのふたりなんだから。ジルーがモンペリエにいたときは彼がフランスリーグを席巻していたしモンペリエはいまのリヨンよりもずっと弱いチームだった。ラカゼはいい契約になるだろうけど、メディアがラカゼを持ち上げようとしてジルーを貶めるのはまじ腹立つわ。
ジルーのPK成功率は14本中13本だぞ。それに彼の出場時間ごとのゴール数は信じられないほどだ。もっと完成されたストライカーが必要だってことはわかるけど、アーセナルのファンみんながジルーを歓迎していないなんて思い込みだよ。彼はちゃんと特定の役割を担っているし、正直にいって彼はポストプレイヤーとして最高のCFのうちのひとりだよ。もしアーセナルがフランスのように彼を使うならとても成功するはず。
こんなスタッツでの比較なんて下らないし、イングランドとフランスでもだいぶ違うんだから比べられるわけがない。リンゴとミカンを比べるようなもの。
などなど。
この記事はどちらがベターかなんて云わずに「適材適所」という結論にすべきだったんだろう。ラカゼのスタッツが優れているのは間違いないし、いい選手だということも間違いない。そしてジルーもまた個性的な特長を持ったいい選手(とりわけ今)。ラカゼはジルーにできないことができるし、ジルーにはラカゼやサンチェスにすらできない身体を張ったプレイができる。ラカゼが優れていることをジルーが劣っていることで証明する必要はない。
選手はプレイスタイルに合わせるのか、プレイスタイルに選手が合わせるのか問題
話がやや脱線するが、ぼくはアーセナルにおける見過ごせない問題のひとつは、ヴェンゲル監督の理想(やりたいプレイスタイルやフォーメーション)に手持ちの選手を当てはめようとしすぎてきたことだと思っている。もちろんどんな監督でも独自のプレイ哲学を持っているはずであるが、ヴェンゲルはその傾向が強すぎると思う。理想にこだわりすぎてどんどん現実から離れていく。EPLのライバル監督たちはもっとリアリストだ。
ヴェンゲル監督が頑固なのは周知の事実であるが、20年ぶりの3バックが成功しているということ自体が、皮肉にも頑固であることのネガティブさをそのまま表している。何度でもいうが、今季3バックをもっと早い段階で採用していたらリーグの最終順位はまったく違った結果になった可能性がある。そのせいで20年ぶりにCLを逃していたとしたらこれほどヴェンゲル監督の頑固さが仇になった例はほかにあるだろうか?
3バックは手持ちのコマにフォーメーションがバッチリ噛み合ったという一つの例である。だからアーセナルは3バックに限らず、選手に合わせた戦術というものをもっと模索するべきなのだ。
そういう意味ではジルーOUT、ラカゼINはヴェンゲル監督が相変わらずこれまで通り理想を追求した結果ということになるのかもしれず、それはそれでモヤッとするものがある。ジルーはジルーとして彼の個性をうまく使うべきだったのだ。フランスでデシャンがグリーズマンの相棒にジルーを使って大きな結果を出しているのとは対照的である。
ESPNの記事に戻ると、こういう比較は個人的には面白いと思うけれど、今回はラカゼ推しのためのジルー下げだったばかりに非難ごうごうというコメント欄であった。ESPNはこういう脇の甘さもきらいじゃないけど。
なんだかんだジルーさん愛されているな。