努力も虚しく敗戦を重ね、チームのコントロールを失いつつあるアーセナルFC。数々の批判をかわしながらここまできたヴェンゲル政権も、ついに風前の灯火なのか。アーセナルサポーターが中心になったSNSでのファン活動「#WENGEROUT」ムーブメントも、ついに「蛍の光」が流れる最終局面へ……。
前回のエントリで、チーム内がエモーショナルな空気に包まれていることを紹介したが、今度はフットボール記者のマーク・オグデンがアーセン・ヴェンゲル監督への公開手紙をESPNで発表。エモさ満点の私信となっておりファンなら涙なしには読めないものとなっている。ざっくり紹介しよう。
An open letter to Arsene Wenger
アーセン・ヴェンゲルへの公開レター
※今回急いで訳したんでいい加減な訳や誤訳が結構あると思う。気になるひとはESPNへ。
アーセン、
この手紙を書くのは簡単じゃなかったです。でももうかつてのように物事は運べなくなりました。木曜にマンチェスター・シティに3-0で敗れたあなたは、とても辛そうで傷ついているように見えました。ウェンブリーでの3-0の敗戦のことじゃありませんよ。エミレーツでの3-0の敗戦です。(もちろん昨今エミレーツでだって勝ち続けるのが難しいことくらいわかってます)。それは、生涯フットボールを愛する人たちと生きてきた人間だからこその辛さです。
だって、そこにいたアーセナルのサポーターたちだけじゃないんです。いまではみんな傷ついているんです、アーセン。
あなたはもがき苦しんでいた有名な古いフットボールクラブを、英国でもっとも素晴らしいチームに作り変えた人です。しかし気をつけなければ、最後には今度はあなたがアーセナルをあなたが見つける前のチームに戻してしまうでしょう。
あなたはイングランドでフットボールへの見方を変えましたね。サー・アレックス・ファーガソンは、1996年にアーセナルの監督に就任したすぐあとのあなたを「日本から来た」取るに足らない人物だとこき下ろしました。そんなときわたしたちはみんな笑って、密かにマンチェスター・ユナイテッドの監督に同意していたんです。
しかし、あなたは証明しましたね。彼、そしてほかの全員のほうが間違えていると。あなたはファーギーの顔から余裕の笑みを奪いました。とくに97/98シーズン、あなたのファンタスティックなチームがプレミアリーグとFAカップのダブルを獲りました。
なんというチームだったんでしょうか。デイヴィッド・シーマンがゴールに。トニー・アダムスとマーティン・キーオンがフェイマス・バック・フォーの中心に。そしてパトリック・ヴィエラとエマニュエル・プティのとてつもないパートナーシップがミッドフィールドに。デニス・ベルカンプ、マルク・オーフェルマルス、ニコラ・アネルカそしてイアン・ライトがフロントにいました。
それまでの基準を上げるようなチームでした。しかしあなたは、ソル・キャンベル、ロバート・ピレス、ティエリ・アンリらを加えてさらにそれを高く上げました。彼らは03/04シーズンの「インヴィンシブルズ」で大きな役割を果たしました。一度の敗戦もなくプレミアリーグを勝ち取った唯一のチームです。
あなたは英国フットボールのマインドセットすらも変えていきましたね。アスリートたるものは、ピッチの中でも外でも身体のケアを怠ってはならない。また美しく力強いスタイルを英国フットボールにもたらしました。それは観ることが喜びですらありました。
ハイベリーでファンが掲げたバナーがありました。「アーセンのみぞ知る(Arsene Knows)」。あなたはたしかに知っていました、アーセン。誰にも止められないような、恐ろしく素晴らしいチームの作り方を誰よりも先に知っていました。
だから、どうかわたしが無遠慮になることをお許しいただきたい。それが、どうしてこんなに悪くなってしまったんでしょうか?
ええそうです。2006年のエミレーツへの引っ越しのせいでベストプレイヤーたちを買えなくなりました。そしてライバルクラブの引き抜きから自身の選手たちを守ることもできなくなりました。しかし、ハイベリーを去ったときに何かが変わってしまい、そしてそれからあなたは変わってしまいました。
あなたは美しいプレイ、目立って魅力的なフットボールにこだわるようになりましたね。あなたはチームが何度もつまづくようなことは見なくなりました。あなたのチームの鉄の部分は才能によって置き換えられるようになったんです。でも両方必要なんですよ、アーセン。
状況が厳しくなると、アダムス、キーオン、ベルカンプ、アンリといった選手たちは去っていきました。しかしあなたはセスク・ファブレガス、サミール・ナスリ、ローラン・コシエルニといった選手たちについて、いざというときの物足りなさを感じていましたよね。信じていなかった。
そしてそれが証明するように、どういうわけか、あなたは似たような選手ばかり使うようになりました。まるであなた自身の信念に決して妥協しまいとするように。キャンベル、ヴィエラ、アンリの退団による穴は残ったままで埋められることもなく放置され、いまだに問題は未解決のままです。
あなたがある種の完璧なフットボールというものを探しているあいだにも、ペップ・グアルディオラはバルセロナやバイエルン・ミュニックでそれを求めて調整を続けていました。彼の指揮するシティは、あなたのトレードマークであるシャンペン・フットボールで、あなたとあなたのアーセナルを4日間という時間でこてんぱんにやりこめてしまいました。さぞかし傷ついたことでしょう。
このシティは、まるであなたの「インヴィンシブルズ」のようです。あなたは秘密の鍵を持っていましたが、なぜかそれをなくしてしまいました。
あなたのチームは半分しか埋まっていないスタジアムでプレイしています。そしてサポーターは選手たちにブーイングしています。あなたのポジションはサポーターや元選手たちから日々査定されている状態にあります。あなたがヒーローやレジェンドにした選手たちからです。
あなたは偉大な尊敬を持って扱われるべきだというひともいます。ご自分でもそう発言したことがありますね。しかしフットボールは冷酷なビジネスです。過去は過去の成功を求めるしかできない人のためのものです。
そしてそれこそが問題です。それがなぜあなたがご自分で、あなたの時代が終わったことを受け入れなければならないかの理由です。
あなたの現在のチームは今季プレミアリーグのタイトルは取れないでしょう。来シーズンもその後も。クオリティの足りない選手があまりにも多すぎますし、あなたの戦術、率直にいいますが、それはモダンゲームでは通用しません。
みんなが(トテナムやチェルシーのサポーターは除きますが)、あなたが英国フットボールにもたらしたものについて感謝しています。しかし敗戦のたびにその財産が色あせていくのです。
あなたは誰がアーセナルを無敵(インヴィンシブル)にしたのかを思い返すべきだと思います。誰が10年ものユナイテッドの支配からプレミアリーグを救ったのか。そういったポジティブなことも、現在のあなたへのネガティブでとげとげしい潮流によって台無しにされてきています。
あなたが長くいればいるほど、悪くなるでしょう。
わかってますよね、アーセン。あなたとアーセナルのためです。行きましょう。
まごころを込めて。
マーク・オグデン
エモい。エモいよ(いいたいだけ)。
「あなたの戦術はモダンゲームで通用しません」。こんなこといわれて冷静でいられるビッグクラブのマネージャーがこの世にいるだろうか。でもそれが真実であること、それがとてもとても悲しい。
絶対負けたくない戦いに負けてしまうというこの諸行無常。盛者必衰の理をあらわしているじゃないか。それをいまわたしたちは目の当たりにしている。
数々のコメントから察するに、いまはまだヴェンゲル監督が自分の意志で辞意を固めるというところまではいっていないようなので、今シーズン終了後にハッピーエンドの光景がくるかどうかいまいち見えないのだけれど、いずれにせよAWがアーセナルの監督を退任するときには、すべてのサポーターが起立をして拍手で送ると思う。どんなにAWを無能だなんだと憎んで罵倒したサポーターだって、彼がつくりあげた数々の栄光まで否定することはできない。われわれサポーターがクラブにプライドを持てるのは大部分ヴェンゲル監督のおかげなのだ。
嵐のように鳴り止まない拍手のなかでAWが手を振って、ご夫人とともにエミレーツ・スタジアムを一周する。このタイミングでの退団では有終の美にはほど遠いし、いろいろな感情はあれど、それはやっぱり美しい光景かもしれない。
ヴェンゲル監督に引退はしてほしくないな。ビッグクラブを率いることはなくても、プレミアリーグの中位・下位くらいのクラブなら逆に、金満相手に低予算でやりくりするヴェンゲル監督の経験や手腕が発揮されるに違いない。ナショナルチームよりはやっぱりプレミアリーグで見たい。