試合の論点
スポルティング vs アーセナルのトーキングポインツ。
アウェイで完璧なパフォーマンス。ビッグテストに合格
相手は、ホームでは1年半も敗けておらず、今シーズン全勝と国内でもヨーロッパでも絶好調。いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのストライカーがいるチームで、さすがにアウェイではわれらも苦戦を強いられる時間もあるだろうと予想していた。
それがなんと。もちろん期待はしていたものの、5ゴールで圧勝という結果に。アーセナルがCLのアウェイ試合で5つゴールを決めるのは2008年以来という。もう出来過ぎである。
そして、今回は5-1という結果だけでなく内容も素晴らしかった。とくにあの圧巻の前半。
3-0で迎えたHT、ぼくのTLにはジャーナリストやファンたちの「近年のベストパフォーマンスのひとつ」という感想が並んでいた。まったく同感。あんなにボールを持って相手を圧倒するとは。
右サイドを中心にアーセナルの攻撃はボールとひとがよく動いて、どんどん危険なエリアに侵入していく。オーデガード、サカ、ティンバー、パーティの連携はほんとうに観ていて楽しかった。チームがひとつの生き物のようで、思考と実行のスピードがつねに相手を上回っていたみたいな感じ。ファイナルサードのあんな密集地帯ですら、簡単にボールを失わず。アーセナルがぐいぐい攻めているあいだ、相手選手が止まってしまっているようにすら見えた。
そしてアルテタが試合後に語っているように、このレベルで勝てた大きな要員は、やはり効率的に決めたゴールだろう。いくらチャンスをつくってもゴールが決まらなければ、試合の勢いがシフトすることはよくあること。前述したように、ゴールの時間帯も理想的だった。コンスタントにゴールすることで、相手のエナジーをよけいに使わせたということ。
7分(マルティネリ)、22分(ハヴァーツ)、46分(ガブリエル)、65分(サカ※pen)、82分(トロサール)。すべて15-20分以内の間隔。フロントでプレイした全員が1点づつ決めているのもなんだかすごい。ワンマンチームとは違う、それもアーセナルらしさ。
この日は効率的にチャンスをゴールに変換したとも云えるし、またゴールに必要なだけの量のチャンスをつくったとも云えるだろう。
アーセナルは、攻撃だけでなく守備も素晴らしかった。基本的にハイプレスをずっとつづけて、ハイターンオーヴァから何度かチャンスにもつなげた。アレは効いた。
47分の失点だけは残念だったが、あんなのはまぐれだろう。そして1点を返して、その後やや勢いを取り戻したスポルティングのプッシュにもよく対処した。
この日最大のチャレンジだった、Viktor Gyökeresへの対応もほぼ完璧だったのではないか。サリバとガブリエルが1 v 1状況にも落ち着いて対応。それでも彼はそれなりにシュートはあったので(5)そこはやはり優秀には違いないが、アーセナルのDFたちはきっちり求めらた自分たちの仕事をこなした。あっちがワールドクラスならこっちもワールドクラス。Gyökeres本人がタフさを実感したに違いない。
今シーズンもここまでほとんどの試合でゴールを決めている彼にゴールさせなかったことは、この試合の大きな勝因だろう。
ところで、スポルティングについてすこしだけ触れておくと、試合を観ていて、やはりポルトガルリーグのチームということなのか、リーグなりのスタンダードは感じた。とくに守備の局面。
アーセナルがあれだけハイプレスをやるいっぽうで、彼らはプレッシング自体にあまり積極的に見えなかったのと、より決定的と思えたのはボールを持っていないときのチーム全体としての守備意識の低さ。対戦相手がアーセナルだから、よけいに対照的だった。
ぼくはアーセナルのボールがないときの低い守備ブロック(4-4-2)を見慣れているので、Gyökeresなんかがチームが押し込まれていても下がって守備に参加せず、味方がボールを奪うのを高い位置で待っている姿はあまりモダンな印象は受けなかった。
それはそれでトランジションでの脅威にはなるので(実際ミドルレンジのパスを一度彼に当ててからのセカンドボール攻撃は効果的だった)、そういう戦術アプローチのチームというだけなのだろうが、このご時世にあの守備ではトップチームには好きなようにやられてしまいそうである。単純に守る人数が少ないのだもの。今回アーセナルが攻撃であれだけやれた理由のひとつはそこにあるように思う。
ということで、アーセナルは心配をよそに、アウェイで強敵相手に素晴らしいパフォーマンスで、これ以上ない結果も出した。フォレストの勝利からのリスタートに、チームはさらに自信がついただろう。ライバルクラブには、宣言となる勝利ともなった。
そして、今シーズンここまでのアーセナルのアウェイフォームが劣悪であったのは、やはりアウェイ(場所)理由ではなく、べつの理由があったからだった。そして、それがなんだったかといえば、もう云うまでもなく、キャプテン・オーデガードの存在であろう。ファン投票では彼がMOTM。それも納得のパフォーマンス。
ケガから復帰した彼がチームに加わってからのアーセナルのパフォーマンスはちょっとすごい。これまでとのギャップ。見違えるとはこのことだ。水を得た魚。彼個人のすごさもさることながら、周囲の選手たちの活性化具合がすごい。こういうとき潤滑油と云いたくなるが、彼の場合はエンジンそのものでもある。
彼への依存度が高いため、攻撃が右サイドに極度に偏っているのは今後の課題だが、うまくいっているうちは問題ない。
彼がいなかったときの悪い時期を振り返るに、攻撃はサカやネリのワイドプレイヤーに依存しクリエイティヴィティの欠如が叫ばれ、彼なしのMFの組み合わせは守備的すぎると云われ、ゴールはセットピース頼みでオープンプレイからゴールできず、ダークアーツだなんだと騒がれ、挙句の果てにミケルはモウリーニョ呼ばわりまでされて(笑)。
しかし、オーデガードが戻ったこの2試合で8ゴールを決めたチームは生まれ変わったようだ。もうクリエイティヴィティがない、フロウがないなんて誰にも云わせない。今回の5ゴールのうち、ビッグガビのコーナーからのゴール、サカのペナルティはあるにせよ、3ゴールは純粋にオープンプレイからのもので、ゴールのほかにも何度もゴール前で状況をつくっている。もはやセットピースだけが頼りではない。
アーセナルにたっぷり自信をつけさせてくれた今回のスポルティングには、ほんとうに感謝したい。
Viktor Gyökeresはどうだった?
ぼくは初めてちゃんと彼のプレイを観て、さすがにオーラあるとは思った。長身でスピードもあって、ちょっとHaalandをほうふつとさせるところもある。あれだけたくさんのゴールを決めているだけあって、自分に自信もかなりありそうだったな。毎回、あんなにフルパワーでシュートしなくてもいいと思うんだが、それが彼のやりかたなんだろう。
あとは、可能性が低そうな場面でもかなり強引にシュートを試みるところもワンマンチームのエースという感じ。
彼がもっともゴールに近づいたのは、終盤のポストにヒットしたショットか。キヴィオールと1 v 1で競い合いながら並走し、それでも強引にいった。あんな体制でもゴールにねじ込んでしまいそうな力強さがあるのはさすが。
ただ、サリバとビッグガビのディフェンスは彼のいつも相手とは多少違っていたかもしれない。予想どおりしばしば訪れた1 v 1の機会も、彼はかなりてこずっていただろう。この試合の彼は、ドルブルはゼロ成功で、デュエルも1/10しか勝てていない(※SofaScoreのサイトでは地上デュエル3/10とあるが)。
🔎 | FOCUS
Viktor Gyökeres in all competitions this season before tonight:
👕 25 apps
⚽️ 33 goals
🅰️ 8 assists
📈 8.25 avg Sofascore RatingViktor Gyökeres against Arsenal:
🎯 5 shots/2 on target (0.37 xG)
💨 0/4 successful dribbles
⚔️ 1/10 duels wonGabriel Magalhães and… pic.twitter.com/Ku07P1QG0r
— Sofascore Football (@SofascoreINT) November 26, 2024
彼は今回自分の仕事はできなかったとはいえ、優秀な部分は十分示したというところだろうか。
ぼくは、彼がアーセナルのターゲットのひとりとも云われているため、アーセナルの彼をなんとなく想像しながら観ていた。彼のような強くて素早いストライカーがいるのは悪くない。ボールもおさまる。
が、この試合の彼を観れば観るほど、アーセナルが本気で行くようには思えなくなった。
もともと彼のキャラクタリスティクスとして守備貢献の低さが挙げられていたように、守備意識がたいへんに低い。非ポゼッション時に9がブロック守備に参加しないのはチーム戦術でいいとしても、アーセナルがバックからビルドアップを始めているとき、ボールのすぐ近くにいるのにボールを奪うにいこうともしないのは、さすがにモダンなチームの9としてはワークエシックが問われるのではないか。メッシやクリスチャーノじゃないんだから。最近ポルトガルから鳴り物入りでPLに来たストライカーとして、なんとなくDarwin Núñezを思い出すが、ああいった献身性もない。
チームプレイに関与するよりゴールすることだけに特化した、昔ながらのストライカーに近いのかもと思ったり。それでうまくいってるチームならいい。ただ、アルテタのチームとの相性はどうか。
もちろん、チームが変われば個人の動きも変わるだろうし、彼もハードワークを求められればやるのかもしれないので、この試合だけで判断してはいけないが、もしあれがいつもどおりの彼ならアルテタはあまり心を動かされないような気がする。アルテタは、ストライカーにもかならずプラスαの部分を求めるから。ハヴァーツが大絶賛されるのは、彼がいろんなことができるだけでなく、彼がチームプレイヤーだからでしょう。
守備はしなくてもゴールを量産してくれるタイプを選ぶマネジャーもいれば、ゴールの数より周囲を活かすタイプのほうを重宝するマネジャーもいる。アルテタはあきらかに後者。Isakのほうがミケルの選択っぽい。
Gabriel celebrates scoring as Arsenal beat Sporting 5-1 pic.twitter.com/UjKN1MoWz3
— Poorly Drawn Arsenal (@cantdrawarsenal) November 26, 2024
この試合については以上