わし英国のフットボールカレンダーがわかっていなかったんだが、今回のIBが終わってこの週末の土日はFAカップだったんだね。だから、どのチームもPLが再開される試合は来週のミッドウィーク。アーセナルだけなんでこんなにへんてこなスケジュールなんだろうと思ってたら、べつに特別じゃなかったのだった。
いずれにしてもIBが終わったのに試合がない退屈な週末という。
さて、昨日のブログエントリでレアル・ソシエダのMartin Zubimendiについて、アーセナルファンにあんまり人気がないみたいなことを少し書いて、そのあともなんとなく彼のことを考えていたのだが、そんなときに、ちょうどr/Gunnersで彼とアーセナルに関する興味深いスレッドがあった。
議論のネタ元はこのブログ。
Finding the right fit for Martín Zubimendi
これも読んでみたらとてもおもしろく、夏のアーセナル移籍が決まっているとも云われるZubimendiとアーセナルについて、いろいろ思うところがあったので今回はそれについて書きたい。おれは彼についてほとんど何も知らなかったことに気付かされた。
まずは、ネタ元のブログから。
「ズビメンディにぴったりフィットするものをみつける」by José C. Pérez
この『The Transfer Flow』というwebサイトは今回初めて知った。どうも、わたしのtw公開リスト(stats and analysis)にも含まれているStatsBombの創業者、Ted Knutson(@mixedknuts)氏がやっている移籍ニュースのサイトらしい。ほかの記事の見出しをざっと観ても、これはわりとよいサイトかもしれない。
この記事をざっくり要約しよう。詳細はオリジナル記事を参照されたい。
レアル・ソシエダ うまくいかないシーズン
- Imanol Alguacilの下、レアル・ソシエダはポゼッション、プレッシング、コントロールでアイデンティティを築いてきた。しばしば攻撃的で「魅力的」と云われることさえある。だが、彼らの成功は、複雑なパスやゴールよりも、デュエルの勝利やよいタイミングのファウルに頼っていた
- ソシエダは、リーグを5年連続でトップ6フィニッシュし、今シーズンは現在12位にいる
- 彼らは失点もxGAも昨シーズン並みで守備では安定している。だが、問題は攻撃
- ここまでたった25ゴールは、ラ・リーガのワースト2位。xGからは5ゴールも下回っている
- だが、最大の懸念はxGが去年より10%も低下していること。その去年も前年から15%も下回っていた
- この攻撃力低下は、攻撃タレントの欠如に基づいている。ソシエダは、この6シーズンでメリーノ、オーデガード、Alexander Isak、Alexander Sørlothらが来ては去った。David Silvaは引退し、Mikel Oyarzabalはケガでかつての輝きを失った。彼らの後継者たちは安定しないか、あるいはまだ前任者のレヴェルに到達していない
- Takefusa Kuboは、彼らのもっとも安定したアタッカーではあるものの、彼一人でチームをヨーロッパに戻せるほどではない
暗闇のなかで輝くZubimendi
- こうした混乱のなかでZubimendiはステップアップ。彼のパフォーマンスは変わらずシャープであり、むしろ以前よりもよくなっているかもしれない
- ミドフィールドの構造がますますバラバラになっていても、彼はタックル、インターセプション、ブロックで前年よりもいい数字を残しているし、デュエル勝率(地上66%、空中67%)も上がっている
- メリーノの移籍以降、ボールを持ったときの彼の役割はわずかに拡がっていて、タッチ、パス、縦へのアクションがやや増えている
- しかしながら、攻撃の不発により、彼のショットクリエイションは低下している。そして、これはチーム全体の問題でもあるし、彼自身のクリエイション不足のせいでもある
- ソシエダのポゼッションスタイルも、彼の役には立っていない。彼らのそれ(54.3%)はラ・リーガでは4位だが、パス成功(78.5%)は、11位に過ぎない。彼らのよりリスキーなアプローチが、より多くのボールロストを引き起こしていると考えられる
この“ミドフィールドオーガナイザー”のいいところと悪いところ
- Zubimendiは、アナリティクスで派手に目立つことはない選手だ。たとえば、守備で働きまくりの選手やボールプログレッションの鬼みたいな選手ほどには緑のバーは伸びていない
- わたしは、彼のことをエリートMFデストロイヤーだとか、エリートプレイメイカーとは観ていない。彼はミドフィールドオーガナイザーだ。その点について議論しよう
- 彼が長けているのは、ポゼッションを素早く回すこと、効果的かつ頻繁にやる素晴らしいラインブレイキングのパス、スウィッチングプレイ。しかし、彼はトップTierのディーププレイメイカーではない
- 彼は、パーク・ザ・バスのディフェンスを引き裂くパスを通すことはないし、ビルドアップの問題を単独で解決することもない。あるいは試合ごとに15の縦パスを成功させたりもしない
- 彼はボール保持にはたいして執着がないのだ。これは彼が自分でも述べているとおり
- Zubimendi「ときどき、あまりボールに触れていないとき、自分はうまくやれていないんじゃないかと思うこともあるが、ぼくは気にしていないんだ。だって、自分がマークされているかもしれないし、そうなればギャップを開けるには、自分の前にいる選手のためにパスレインを開けなきゃいけないから」
- 彼のテクニックは、彼を圧力弁のようにさせる。チームが動きつづけるために、プレッシャー下でもとても早くシンプルなパスができる。彼は、自分が正しいときに正しい場所にいることで、周囲の選手たちをよくするし、ほかの選手がクリエイティヴなリスクを負うときにも、その流れを維持させることができる
- これは、まるきり地味な、接着剤のような見た目であり、ボールプログレッションのメトリクスには決して現れない
- しかしながら、彼の最大の影響力は非ポゼッション時にある。それはタックルやインターセプションだけではなく、それが起きる前に危険を未然に防ぐ数え切れないほどの小さな調整
- 彼は、いつ出るべきか、プレスすべきかを知っているし、いつ後ろに戻るべきか、背後のスペイスを埋めるべきか知っている。彼の規律、タイミング、ポジショニングが、守備ストラクチャの組織に貢献している
- データモデルは、守備アクションを積み重ねる選手をハイライトしがちだが、Zubimendiは量よりも質だ
- 彼はバトルを賢く選ぶし、それに勝てるのも、彼のペイスや粗削りな強みに頼るというよりは、申し分ないポジショニングやタイミングのおかげ。それが、彼の地上デュエルの勝率が彼のポジションではベストに近い理由である
- 彼はフィジカル強者というわけではない。だが、デュエルに勝つことに執着する文化のあるクラブ出身で、試合の流れをよく読む。彼が相手の影を追うようなことはめったにない
- ソシエダでプレイしたキーラン・ティアニーも述べていたように、彼が英国フットボールに苦しむことは想像しにくい
- KT「誰も遠慮しないし、全員が挑戦に身を投げる。85%ということはありえない。スペインというとみんなTiki-takaを思い出すけど、このグループはハードワークで勝とうとする。彼らの競いかたは信じられない。それはマネジャーから来ているもので、すべてはデュエルに勝つことのためにある。そうでないなら、そのことを思い知ることになる」
Zubimendiをもっとも必要としているクラブは?
- とても多くのトップチームが彼をほしがっているが、問題は誰が彼をほしがっているかではなく、誰がもっとも彼を必要としているか
- アーセナルは当然フィットしそうであり、いま選手とはもっとも強くリンクされている
- アルテタのシステムの原則は、ソシエダのポゼッション、プレッシング、コントロール、ストラクチャと鏡合わせ
- Zubimendiはアルテタがほしがっているものを持っている。とくに非ポゼッションで
- 問題は、彼がほんとうにアーセナルに変化をもたらすか?
- 彼はミドフィールドオーガナイザーであるいっぽうで、アーセナルはポゼッションのチームであり、ほとんど欠点と云えるほど守備ストラクチャがオーガナイズされている。Zubimendiは、マシーンのなかのさらなる歯車になるだけかもしれない
- リヴァプール、バイエルン、バルセロナはどうか? こっちのほうがおもしろそうだ。彼らは、より前に出て、リスクを取り、ギャップがあるチームだ。Zubimendiのオフボールの組織力は、彼らにとってセイフティネットになれる。カウンターを無効化し、セカンドボールを拾い、それをすぐによりクリエイティヴな選手に供給する
- レアル・マドリッド行きは説得力に欠ける気がする。Ancelottiのチームは、ケイオスのなかで生き生きするし、あのチームのむらのある戦術ストラクチャのなかで輝く選手を好む。Zubimendiは消防士ではないし、彼はそもそも火事を起こさないようにする漢だ
- もしマドリッドの新コーチがAncelottiよりもストラクチャを優先するなら、状況は変わるかもしれないが。それがもし彼のアイドルでありメンターであれば
- マンチェスターの2クラブも噂に含まれるが、これはありそうにない。シティには彼より優先されるホールディングMFがもういるし、資金難のユナイテッドには彼を引き付けるプロジェクトがない
移籍は決断のとき
- Zubimendiの契約は2027年まで。この夏はソシエダにとっても決断のときだ。売却や契約更新を説得するか
- 選手にはバスクの地元と家族に強い愛着があるため、そこに近いスペインに残りたがるかもしれない
- だから、スペインの巨人たちがシリアスなオファーをしたら。それがアーセナルが早くから彼に動いていた理由だ
- どのクラブが彼とサインしても、それほど大きな話題にはならないだろう。しかし、そのクラブはそんなことよりももっと価値あるものを得ることになる。安定と組織
- そして、このスーパークラブフットボールではほんのわずかの差しかないということは、それがトロフィと2位の違いをつくることになるかもしれないのだ
以上
Zubimendiはアーセナルの問題を解決するのか?
この夏のアーセナルは、おそらくパーティとジョルジーニョが退団で、Zubimendiが来るとすれば、ライス(8)、Zubi(6)、オーデガード(8)の3MFが来シーズンのレギュラーとなる。今シーズンからは、パーティがZubimendiになるだけの違い。
このブログ記事やredditでのファンの議論なんかを読んでいて、ほんとうにアーセナルの6のレギュラーはZubimendiでいいのか、ぼくはなんだかちょっと心配になってきてしまった。果たして、この3人でアーセナルの問題は解決できるのかな?
現在のアーセナルの最大の問題は、もちろん攻撃だ。守備はほぼリーグベスト。攻撃はリーグ平均。とくに、ゴール前に守備を固めたチームに対する攻撃が課題であり、チャンスクリエイションが課題。
もちろん今シーズンは、複数のFWに問題が発生したことが大きいが、MFでもオーデガードのケガや不調もあり、攻撃面でMFからもたらされるものが乏しいことで、アーセナルはだいぶ苦しむことになった。セットピースが武器のひとつというよりは、頼みの綱みたいになってしまった。
したがって、FWだけでなくMFからのゴール貢献も必要だと多くのファンが訴えている。それがファンベイスで共有されている現在のわがクラブの問題意識だろう。
だが、Zubimendiはその点では大きな変化はもたらしそうにないという。このブログでも指摘されているように、彼がもたらすだろう「安定」や「組織」は、いまのアーセナルのチームにはもうすでにかなりあるものだ。だから、彼が来たところで今シーズン苦しんでいるような状況は今後改善されるのかという疑問は残る。これではまるで弱点はそのままにして、すでに強い部分をさらに強化しようとしているようにも感じられる。
プレイスタイルからしても、アルテタが彼を好む理由はとてもよくわかる気はする。MFのメトロノーム、パスが上手、プレス耐性、高い危険察知の能力があり、ボールをリサイクルしてくれる。アーセナルのコントロール志向のアプローチにぴったりの選手。
だが、今シーズンはコントロールすることでますます相手のディープブロックを招いて、それでゴールが難しくなるみたいな奇妙な状況が頻発していた。そのことをアルテタはどう考えているのだろう。試合のコントロールという意味では、Zubimendiがいないいまでもすでにほとんどリーグベストなのだ。いくらボールを持って試合を支配しても、ゴールできないことにわれわれは悩んでいる。
それとMFからのクリエイションをオーデガードに過度に頼っていて、攻撃が彼がいる右サイドに偏り、左サイドが停滞していることも解決されない。クリエイターではないライスが左8のママなら。まあ、ここはもし新しく超優秀なLWが来たら、それだけで劇的に変わる可能性もあるけど。
彼が、今シーズンレギュラーとしてプレイしていたパーティよりも、攻撃の貢献度が少ないのだとしたら、来シーズンはよけいに攻撃が停滞しないだろうか。われらがボールを持って試合をコントールするなら、ミッドテーブル以下の対戦相手のほとんどがディープブロックをやることも、今後変わらないだろうし。年間38試合のPLの半分以上が、そんな試合だ。
それとも、彼が来ることでシステムを変更したり、アルテタはなにか新しいやり方を始めるんだろうか。
Zubimendiは、そうとう優秀なMFなのだとは思う。ビッグクラブが軒並み彼を欲しがっているのがその証拠。だが、ことアーセナルの現在のMFニーズに合っているのかどうかは、正直わからないなあ。結局、アルテタはぼくらファンが思ってる問題を問題だと思ってないってことか。もっともっとコントロールすることで問題解決しようとしているみたいな。
もちろん、彼が来ることに反対ではないし、優秀な選手はいつだって歓迎したい。
個人的に多少懸念する部分があるとすると、それはアルテタのチームがさらにアルテタ濃度が高まること。もっと彼の思い通りになること。支配的になること。マネジャーが優秀で、チームが彼の理想に近づいているなら、それが悪いことなんてあるはずはないのだけど、なんだかそれがいまのアーセナルにとってあまりいいことのように思えない。このチームは、むしろ攻撃されたり、ポゼッションを相手に譲ったときのほうがずっといい試合をやっていたりして、必ずしも思い通りじゃないときのほうがいい結果を出すような印象すらある。
だから、ぼかあ、やっぱりこのチームはもっと予想できないことが起きてほしいんだよね。もちろんいい意味で。もっと予測ができないコントロールできないケイオスがあって、これから何が起きるかわからないワクワク感があって。アルテタが来てからは、ずっと似たようなことを考えているが、チームにほしいのはセンスオブワンダー。それはフルコントロールから外れるもの。ここまでストラクチャがあるチームだからこそ、そういう要素が必要と思う。
こうしてZubimendiという選手の評判を聞けば聞くほど、そのコンセプト(ケイオス)と正反対の最たるものという気がする。アルテタのチームに非常に似合う。
などと考えながら、彼が来ることで、MFに思いもよらなかったケミストリが生まれたらいいけどね。それこそ予想外にうまくいくことだってある。その場合は、さすがおれたちのミケルと云えばよい。
ケミストリといえば、もしZubimendiが来て、Isakが来たら、メリーノ、オーデガードと元ソシエダが4人もいることに。これ4人いっしょにプレイしてた時期もあるんじゃないの。なんなら元ソシエダは、アルテタを含めると5人。たいへんにゆかりあるチームになってしまう。いっそ、タケクボも来ないか?
おわり
今のアーセナルの左サイドの攻撃停滞の問題は、あくまで個人的にですが、燻り気味のLW、クリエイティブ不足の左IHの2点が重なった結果だと思ってます。
IHにライスというBtoB型でスペシャルな選手がいる、かつ彼をアンカーとして起用しない以上、解決すべきはLWであり、アンカー型の新加入選手に攻撃性能を求めて解決しようとするのは根本解決にならない気がしています。。。
という、サンチェス時代を観てきたグーナーの勝手な妄想でした。