試合の論点
消えない公式ハイライト。
Our penultimate pre-season test ⚔️
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— Arsenal (@Arsenal) August 6, 2025
ギョクレスとアーセナルの適応。アーセナルは<変化>が求められる
この試合の論点もいくつかはっきりしたものがある。
まずはヴィクター・ギョクレスとアーセナルの適応。
もちろん、加入から一週間程度しかたっていない選手について議論すべき問題ではないが、試合後会見でも多くの質問が出ているように、「アーセナルのスタイルに合っていない」彼の獲得が決まって以降、それが多くの関心を集めていることは確かであり。この試合を観たアルテタがそれをどう捉えているかは、とても興味深い。
今回ファンサービスのような彼のスタートはみんなうれしかったと思うが、今後に向けては少し心配になるようなパフォーマンスだったのは確か。いや、個人のパフォーマンスというより、チームと彼の関係が。
スタッツ的には、63分間での彼のゴール/アシストはゼロ。タッチは14で、ショッツが2(GK正面とブロックされたのがひとつづつ)。ボックス内でボールを持ったところで何度かスタンドが湧く場面もあるにはあったが、あれではさすがに物足りないか。実際ゴール前での彼に巡ってきたチャンスはひとつかふたつくらいしかなかった。ことゴールを決めることに関しては、NLDで彼が短時間プレイしたときと印象はさほど変わらない。
この試合で明らかになった大きな課題のひとつは、ギョクレスの適応というよりは、チームのギョクレスに対する適応だろう。試合開始当初チームがかなりアグレッシヴにプレイしていた時間帯はとくに、彼自身もかなり積極的にハイプレスをしていたし、おそらくアルテタの守備インストラクションに忠実にプレイしようとしていたフシはある。彼は彼でこのチームへの適応に取り組んでいる。正しいメンタリティが見えた。
いっぽう攻撃では、彼が得意とするDF裏へのランに合わせるボールがなかなか来てくれない。中継カメラではあまり見えなかったが、彼はそれを試合中に何度もトライしていたようだ。そういった彼が得意とするプレイにチームがまだ慣れていないという。彼が好む左サイドに流れての裏抜けを試みるもボールが出てこないというシーンは、確かにあった。
また、それにも関連することだが、基本的につねにゴールの一番近くにいる彼がボールに関与できるタイミングが遅く、ボックスにいてもつねに複数のDFに囲まれているため、彼がいくらフィジカル強者といっても、ほとんどクロスに点で合わせるしかなく、ああいう密集したエリアのなかでゴールを量産するのはかなり難しいだろう。
彼のゴールをまとめたスポルティングのハイライトリールを観ても、もっともよくあるパターンはトランジションで相手DFがまだブロックをつくっていない状況。彼にゴールを量産してもらうには、チームとしてもっともっと縦に速い攻撃を意識する必要がある。
これまでのように、相手ブロックが整うのを待ってから正々堂々と攻撃しましょうみたいな武士道プレイをつづけると、プロジェクトギョクレスは失敗の危険性が高まるように思える。
彼は、深く落ちてリンクアッププレイをやって……のようなアルテタらしい9ではないのは獲得する前わかっていたこと。年齢的にももうプレイスタイルが確立された選手だ。もちろん彼がここから新しいことにチャレンジして、それを身につける未来だって想像できなくもないが、そのための時間も限られているしあまり現実的ではない。
つまり、彼にチームへの適応を期待するというより、チームが彼のスタイルに適応しなければならない。
おそらくは、そこが彼がアルテタのファーストチョイスでなかった理由であり、それでも彼に9を託すと決めた以上は、彼の強みを最大限に引き出すために、チームが戦術的に彼に歩み寄る必要がある。2シーズンで100ゴール決めるCFなら、それをやる価値があるという判断だろう。そういったことをアルテタも納得して彼に決めたのだから、それをやるよりない。
その点においては、この試合ではチームとして彼の強みを活かす意識はあまり感じなかった。わかりやすい変化はなく、チームは基本的にこれまでどおりでプレイしているかのようだった。
オープンプレイからチャンスがつくれない。ワンチャンスでやられる。カウンターでやられる。のような、結局最後は見慣れた展開で終わったことで、試合後とあるインフルエンサーが「プリシーズンでわかったことは、新しい選手が何人か入っても、アーセナルはこれまでのシーズンと全然変わってない」と云っていて、そこはちょっと同意せざるを得なかった。
考えてみれば、ギョクレスへの適応はチームのこれまでのスタイルからの逸脱も意味するはず。彼のDF裏へのランに合わせるということは、いまよりもっと早いタイミングでファイナルサードにボールを入れるということであり、ポゼッションを失うリスクをかけてチャレンジするということ。これまでのアルテタのスタイルである丁寧なビルドアップではなくなる。
そういったことを意識的にやるようになるかどうか。そこは今後もアーセナルの最大の注目ポインツのひとつになるだろう。
これのいいことは、相手のDFたちが裏抜けに警戒して背後スペイスを気にしだすと、DFラインが後ろに下がり始め、天地が間延びしてミッドフィールドにスペイスができること。そういったポケットにオーデガードやライスのようなMFが入り使うような好循環が生まれれば云うことなし。
ラヤのロングボール/ロングスロー、あるいはズビメンディのラインブレイキングパスなどは、ギョクレスのランとは相性が良さそうではある。
新シーズンに入って、アーセナルのスタイルがこれまでとあまり変わらず、ギョクレスのチームへの適応を待つみたいな展開になったら、正直かなりまずいと思う。彼をチームに迎え入れた時点で、チーム自身の変化をアルテタがどれほど重要に考えているか。残念ながら、それはこの試合ではあまり見えなかった。
が、もちろん始まったばかり。彼はこの試合が初めてまともにこのチームといっしょにプレイした試合なのだから、アルテタのインストラクションはともかく、本人もチームも手探りなのは当たり前。土曜の試合でどれほど進歩(変化)が観られるかを楽しみにしておこう。
ダウマン、ワネーリ。アルテタのジレンマ
今年のプリシーズンのスマッシュヒットは、云うまでもなくマックス・ダウマン。15才。
この試合も彼は30分プレイしたに過ぎないものの、強烈なインパクトを残した。スタンドが湧いた回数は、彼の倍の時間プレイしたギョクレスより多かったんじゃないか。
彼は先日のシンガポールでのニューカッスルにつづいて、今回もペナルティを獲得した。観た感じラッキーのようにも見えたが、相手選手は抗議すらしなかったので、妥当な判定だったのだろう。
先日読んだジェイムズ・マクニコラスの記事によると、ダウマンはもうコーチたちにもファーストチームの選手たちとフィジカル的に遜色ないという評価をされているらしい。トップレベルであれだけの堂々としたプレイができるのだから、当然かもしれない。云われなければ15才だと気づかない。
それとダウマンのインパクトで、試合後はあまり話題にもなっていないが、オーデガードのポジションでスタートしたイーサン・ワネーリ(18)は、前半のベストプレイヤーのひとりだっただろう。ドリブル(5/9)やボールキャリーといった、ボールを持ったときの縦に行くか横へ行くか予測できない彼のプレイには、オーデガードにはない魅力がある。テンポの速い試合にしたいなら、RCMは彼のほうが合っているかもしれない。もちろん、ゴールに貪欲なところも。
このふたりは「右サイドの左足クリエイター」として、今回のプリシーズンでもかなり起用されていて、とくにオーデガードと同じくらいプレイしているワネーリについては、新シーズンに向けてアルテタもかなり期待をしているようにも感じる。とはいえ、そこはプリシーズン。実際どの程度、彼らがPLやCLの本気試合で起用されるかは、まだわからない。
今回のプリシーズンにおけるこのふたりの活躍で、巷ではアルテタもダウマンやワネーリにはかなりジレンマがあるんじゃないかと最近よく云われている。
右8は、これまでオーデガードが絶対のエースで、この若くして急速に台頭しているふたりはそこがメインポジション。このふたりはRWのオプションもあるとはいえ、十分なプレイ機会を与えられないとしたら、それはそれで大きな損失に思える。
とくにダウマン。現時点では、アルテタが彼をワネーリより優先するとは思えないが、このプリシーズンだけを観れば、ダウマンのほうがより派手なインパクトを残しているとも云える。
ここにさらに8/10でプレイできるEzeが来ると、彼らの機会はより制限されるかもしれないのが、頭の痛いところ。
ふたりとも若いので焦る必要もないが、彼らがすでにこのレベルで十分プレイできるとわかればわかるほど、マネジャーとして悩ましくなるだろう。選手の成長にもっとも効果的なのは、やはり実戦での機会だから。ワネーリはもちろん、ダウマンももうU-21のレベルを超えている。
ここから8月末のウィンドウクローズに向けて、やっぱりEzeはやめてLWに行くなんてことになったりして。まあEzeはEzeでチームに必要な選手だと思うので、そんなことはないとは思うが、しかし、このふたりにそれくらいのインパクトはある。
その他
ギョクレスがオーデガードとの交代で下がったあと、誰が9でプレイするのかと思ったらふつうにメリーノでウケる。ハヴァーツもトロサールもいなかったし、ほかに選択肢もなかったとはいえ、もうアルテタのなかでは、メリさんが9の頭数に入ってるようだ。
ノーガードがよかった。彼の初エミレーツ。£10mはバーゲン。彼がコーナーから決めたゴールはまさに伏兵という感じで、新シーズンはああいったシーンがまた観られるかもしれない。ボックス内にはギョクレス、メリーノ、サリバなどの巨漢にマークを集めて、ファーサイドで誰かがフリー。みたいな。
キヴィオールがロングスローに何度かトライしていた。彼はちょっと腕力が足りないのか、やや飛距離が足りないように思えたが、アーセナルがロングスローを今年も武器にする可能性があると思うと、それは悪くないと思った。
ところで、先日The Athleticに25/26シーズンの戦術トレンドに関する記事があって、ラグビースタイルのゴールキック(相手ハーフの深い位置でラインアウトを狙うみたいなやつ)やアウトフィールド選手のゴールキックなどのトレンドのなかに、ロングスローも含まれていた。アーセナルでは去年のCLで突然やり始めたように見えたロングスローは、リヴァプールなど取り組み始めたPLチームも多いらしい。去年のPLでペナルティエリアにスローインをぶっこんだチームはブレントフォードが最多(63%)という。Thomas FrankはToTでもやる気マンマン。
マドゥエケのLWは、もうちょっと長い時間観たかった。約20分のプレイで、1 v 1の機会が訪れたのは一回だけ? この日のマルティネリはかなりシャープだったこともあり、どちらがLWのポジションを確保すべきかは判断しかねた。
週末の試合では、彼がLWでスタートしても驚かない。アルテタも彼をあえて弱足のポジションで使う有効性を認めている。
この試合については以上
さて、アーセナルのつぎの試合は土曜のアスレティック・クラブ(ビルバオ)。奇遇にもあいつがいるクラブか。この前はミランのRafa Leaoと対戦したし、今度はNico Williamsと対戦?
さすがにつぎは快勝の試合が観たいなあ。オープンプレイからどしどしゴールを決めてほしいよ。
COYG