前半を1-0で折り返し、一矢報いるのかと思われた矢先にコシエルニのペナルティ内でのレッドカードが54分。後半はじまって10分を待たずアーセナルの挑戦は終わった。前半好調だったから、負けるにしてもいい試合をしてくれるもんだとちょっとでも期待してしまった自分が恥ずかしい。そんな期待は幾度となく裏切られてきたというのに。
残った結果としては、16/17シーズンのUCLベスト16は、バイエルン・ミュニック相手にホームアンドアウェイでともに5-1の0勝2敗。アグリゲートスコア10-2という記録的な大敗となった。
なおこの記録は、BBC SPORTSによると、
- イングランドのチームではもちろん最多失点でのCL敗退
- CL史上2番めの敗退失点(1番は2009年のスポルティング・ヒホンVSバイエルンで12-1)
- アーセナルのホームで5点の大量失点は1998年以来19年ぶり
- CLで単一チームに大量得点したチームはバルセロナ(セルティックに対し27得点)に次ぐ2位がバイエルン(アーセナルに対し26得点)
だそう。完膚なきまでに徹底的にやられて逆に清々しい。
後半途中からはもうここまで来たら5点取られて負けねえかなと自虐的に思っていたら、ほんとうに5失点して笑ってしまった。笑ってしまった。
ヴィダルあたりは同郷のサンチェスもいるし、得点してももう喜ばないんじゃないかと思っていたけれど、ふつうに喜びを露わにしていて逆に救われた気がした。実際、相手が気の毒に思うレベルの惨敗だったと思うし、戦前のアンチェロッティのようにバイエルンの選手たちが、もはや戦意を完全に喪失したアーセナルの選手たちに武士の情けをかけてもおかしくなかったくらいには憐れだった。
しかしバイエルンのツイッター担当者はまじで容赦ないね。こいつグーナーがどれほど腸が煮えくり返っているかなんて鼻くそほどにも気にしていないんだろう。地獄に落ちればいいのに。
さて試合を観ながら個人的に思っていたことと、試合後の報道などをざっくりまとめてみたい。
CLバイエルン戦セカンドレグのトーキング・ポイント
ベレリンはヘディングを狙われつつある
初っ端から右サイドの深いところに何度かロングボールを送られたことに気付いた人もいると思うけど、ベレリンのヘッダーが弱いというのはすでに周知なんだな。チェルシー戦でもゴール前で見事なプロレス技から得点を決められたり、この試合でもヴィダルとゴール前でしっかり競り負けている。どちらも上背があってヘディングに秀でた選手ならやらかさないプレイである。
ゴール前で相手FWと競り合う機会の多いフルバックの選手がヘッダーが弱いというのは結構な弱点で、今後もそこを重点的に狙われていくだろう。
3バックにしてベレリンを中盤のウイングバックで使うというアイディアがあるが、運動量はあってヘディングが弱いというベレリンのような選手にはとくに合っていると思われる。
アーセナルもやればできる子
ファーストレグを観たときに、パスやパスアンドムーブ、ボールのトラップなど、バイエルンとアーセナルでこんなにもプレイの技術に差があるものかと改めて感心した。ボールを持ったときはつねに局面で苦しく、ボールを持っていないときはプレスも掛からずまったくボールを奪い返せない。
アーセナルはポゼッション志向といわれることが多いチームだが、そのせいかポゼッション志向の相手にはめっぽう弱い。スウォンジーのようなクラブですらアーセナル相手ではいつもいい試合をする。要するにポゼッション争いで勝てないのである。おそらくボールをキープすることのほうばかりにかまけて、ボールを奪うということについての戦術が拙いからであろう。
ところが、セカンドレグ、ホームでの前半は控えめにいってもかなりうまくいっていた。ボールを奪っては自信をもって素早いパスまわしでプレスをかいくぐり、何度か決定的な得点チャンスも作り実際に得点もした。ウォルコットへのペナルティがちゃんと取られていたら、試合の結果もここまでひどいものにはなっていなかったかもしれない。
ファーストレグの結果から、最低でもバイエルン相手に無失点で4得点が必要という状況で精神的に開き直った結果ともいえるが、逆にいえばこころの持ちようが違うだけで、これまで何度も示してきたように、世界最強のクラブが相手だとしても十分渡り合える実力は持っているということを証明したともいえる(すでに勝利を確信しているバイエルンが手を抜いたという意見も一面の真理ではあるが、少なくともそこまでには見えなかった)。
心理的に劣勢であるときはバイエルンの選手ですらパスミスを犯す。
ぼくは以前からアーセナルの選手たちには試合前に催眠術をかけるべきだと考えているが、さらにその思いを強くした。まあ催眠術かけないでも将来性のある監督に変わるだけでも心理的な効果は絶大だろうね。
4-3-3でチェンボ、ラムジーのMFは効いていた
これも前半に限るが、ジャカをアンカーに、その両隣にOxとラムジーのボックストゥボックス2人を置くという作戦はうまくいっていた。
とくに前半のラムジーは出色だった。サンチェスがサイドの守備を疎かにしてモンレアルをたびたび孤立させていたのに比べ、守備時にはゴール前のスペース消すことに参加し、攻撃時には頻繁に最前線に現れるという彼の運動量をいかんなく発揮した前半で、ここ最近では珍しく躍動していた。
Oxも中盤の狭いスペースをかいくぐるドリブルとプレスをかわすリンクパスで前半の攻撃に貢献していた。
この2人がこの調子で1シーズン続けられるようならEPLで優勝できるというくらいの活躍ではなかっただろうか。
ジルー考
ジルーは病気のウェルベックの代わりに急遽スターティングに選ばれたそうだ。結果的に得点を取ることもできず、CFとしては貢献できたとはいいがたい。あの試合展開ならやはりウェルベックのほうがハマっただろう。
ジルーは完全にフリーのヘッダーを外してしまった。あれはCFは決めなければならない1点だったと思う。絶好のチャンスをいつもふいにしてしまうのがジルー。こういう試合で決められないのを見るにつけ、ジルーは持ってないなあと思ってしまう。
今季は短い出場時間で得点を決めていて、効率のよいワークレートが話題になったりもしたけれど、結局ジルー問題は依然としてなんの解決もしていない。
サンチェスのことがきらいになってきた
この試合での彼のプレイはもうほとんど印象に残っていない。ベンチで苦笑している様や途中交替時の観客へのあいさつ(※手を振った)だけが人々の記憶に残るだろう。個人的にはこれで今シーズン限りで退団の確信99%が100%になったと思っている。
彼はしかしチームにおける自分の責任というものについてはどのように考えているのだろうか。28才という年齢はリーダーとしてチームを牽引していておかしくない年齢だし、また自他ともに認める攻撃のキーマンがまるでチームを他人事のように考えているとしたら、ファンとしてそれには強い違和感を覚える。
英語がうまく話せないとか入団して年月が浅いという理由はあるにせよ、彼はリーダーのひとりとして、アーセナルというチームに落胆している場合じゃなくて、窮状から救わなければならなかったはずだ。もちろんその努力をしなかったとは決していわないが、チームの面前で不貞腐れたり試合中に観客にあからさまに別れのあいさつをするといった行為は、いくらなんでもクラブや選手、ファンに失礼すぎないだろうか。かつてないほど無様に負けているときにベンチでまるで部外者のように笑顔を見せるというのはチームメイトはもちろん、クラブに対する侮辱ではないのか。負けているのはキミのせいでもあるんだが? 彼はArsenal FCが弱っちくて自分が属するに値しないちっぽけなクラブだとでも思っているんだろうか??????
これまで不甲斐ないチームメイトに怒るサンチェスのほうに同情を感じていたけれど、今回のバイエルン戦の態度は、これはこれでガナーズの一員として許せない背信行為だとぼくは思うようになった。
ヴェンゲル・アウト!について
試合の結果と同等かそれ以上に、この試合の前にファンがスタジアムの外に集結して「ヴェンゲルアウト」のシュプレヒコールを挙げたことにフォーカスしたメディアもいくつかあった。もはや多くのファンがヴェンゲルの続投を望んでいないという事実のほうが、決まりきった試合の結果などよりもニュースバリューが高いというわけだ。
イアン・ライトはこの敗戦を受けて「アーセナル史上で最悪の日」と評した。
ぼくは、ボスが試合後にウォルコットのペナルティについてコメントしているのを見たときに、これはもうほんとうにダメかもしれんと思った。それはホームで1-5という結果からするとものすごく瑣末なことで、たぶんまともな監督ならそこに触れることすらなかっただろうと思う。ヴェンゲルは敗戦後とくにレフェリングにクレームをつけたがる監督であるが、こんな状況でそんなことをいってみても自分たちが余計にみじめになるだけだ。
ヴェンゲル監督はこの敗戦後も去就について明言を避けたが、彼はいったい何を待っているのだろうか。このあとチームが少し調子を戻せば、またここで楽しい監督稼業が続けられるとでも思っているのだろうか。それとも退任するつもりで、後任が決まるのを待っているのか。ルイス・エンリケは後任のことなどまったく気にするそぶりも見せず、自分には休養が必要だとシーズン終了後の退任を早々に発表した。そのことでバルセロナのプレイヤーはどれほど影響を被っただろうか。
ヴェンゲル監督が退任する場合、後任監督の人選は選手の契約やチームの戦意に大きく影響するだろう。うわさ通りマックス・アッレグリのような大物が来るならば、エジルやチェンボといった判断保留している選手たちは契約を更新するかもしれない。だが、エディ・ハウのような実績のない監督ならば、スター選手たちのこころをつかめるかは未知数だとしかいいようがない。それがティエリ・アンリであったとしてもだ。
今季は20年ぶりにEPLトップ4を逃しそうな雲行きで、クラブにとっては区切りをつけるチャンスではある。いずれにせよ、イアン・ライトがアーセナル最悪の日と評した、この試合がヴェンゲルの去就に与える影響は小さくないだろう。
以上