こんにちは。
おとつい、ティエリ・アンリがCBS Sportsの番組で“boring football”を分析していて、アーセナルファンに「さすがのパンディティ」「これぞ高いサブスクを払う価値ある分析」「ギャリー・ネヴィルには到底できない洞察」(笑)と絶賛されていた。
“I know it looks boring … but that’s how the game is right now”
Stop what you’re doing and watch Thierry Henry use Arsenal as an example to explain the modern obsession with possession 🧠 pic.twitter.com/sK5xEhf4gs
— CBS Sports Golazo ⚽️ (@CBSSportsGolazo) March 10, 2026
公式は日本からだとリージョン制限で観られないようだが、redditでこの動画がシェアされている。
そして、アーセナルが予想外の苦戦を強いられ、1-1ドロウに終わった先日のCLレヴァークーゼン。
彼らの組織だったブロック守備を前にして、アーセナルがあのように馬蹄(Horse shoe)パスまわしを強いられたのは、ちょっとひさしぶりに観るような感覚だったが、まさにこの解説どおりじゃないかと思わないでいられなかった。
アルテタのチームの基本的なプレイスタイルを考えるうえでとても重要な指摘だと思うで、アンリの分析をシェアしておこう。
ティエリ・アンリ、「退屈フットボール」について語る
(最近、とくにPLでよく聞こえてくる批判として、フットボールのエンタテインメントとしての価値が毀損されていると。あなたもそれに同意する?……)
TH:それは、わたしが進化と呼んでいるもので。
わたしがこのリーグに来た当時、チームはダイレクトプレイに直面したものだ。ロングボールをストライカーに放り込んで、ストライカーはそれをフリックしセカンドボール、あるいはウィンガーにすぐにボールを預けて彼らがボックスにクロス。
そこから今度は6をみつけましょうということになって、6がウィンガーを1 v 1状況になるよう孤立させようとしたり。
そういう進化があった。
そして、いまはもうインサイドでプレイすることは許されなくなってしまった。ウィンガーももう1 v 1になれない。ディフェンスは横に動いて守るようになっている。
チームはどうなっていったか。適応したのだ。彼らが集中したのが、カウンターを止めること。
その結果、10年前はセスク・ファブレガスやサンティ・カソルラといったMFたちがボールを持ったが、いまはVVGやLewis DunkといったDFがボールを持つようになった。
なぜか。それはもう誰も彼らに飛びついていこうとしなくなったから。ミッドフィールドのどこにもスペイスはない。ウィンガーにはふたりが張り付いている。
こちらの重要なデータも示したい。彼らが何を恐れているか。
10年前、カウンターからのゴールは38。その翌年は47。それが去年(24/25)は112に激増している。これがチームがカウンターを非常に恐れるようになっている理由。そのおかげで、彼らはボールを保持し、リスクを取らない。そういうふうにチームはつくられている。
ここからは、いくつかのクリップを観てもらおう。いまリーグを支配しているアーセナルがどうプレイしているか。
すぐにわかるのは、ズビメンディがワイドに開いたふたりのCBのあいだにいること。ヴィラは2ストライカーズなので数的不利にならないようにしている。
ここで重要なのは、ヴィラはボールに飛びつこうとせず、かなり受け身である点だ。
ここでクリップを止めよう。
こにヒンカピエがいる。ここで左足でボールをコントロールしているなら、前へ展開するのになんの問題があるだろう? トロサールが走り込んでいるし、9もいる。しかし、彼らはボールを失うことを怖がって、なんとここでうしろにボールを戻す。Boom!
この状況にいて、CBにボールを戻し、ズビメンディへ。ズビメンディはパス先を探すが、目の前のインサイドにスペイスはない。ヴィラがそれを許さない。サリバもまたズビメンディにボールを戻す。インサイドでプレイしようとしても、インサイドのスペイスは開けてもらえない。
観てわかるように、彼らはとても受動的で、守備全体が横にスライドしていく。
(サカにボールがわたり)そして、ここでやっと相手が飛びついてくる。
ここで重要なのは、ウィンガー(サカ)はドリブルができる。彼がその漢だ。だが、この瞬間を観ると、ライトバック(JT)が彼の前にいる。全員がDFラインと横並びになってここにいる。
ここを観てほしい。
これでもしボールを失ったらなにが起きるか。カウンターだ。もっとも恐れているもの。
なら、どうするか。うしろにボールを戻すんだよ! ノーリスク。ボールを失うな。すくなくともボールをコントロールできる正しいパスがみつかるまで、何度もパスを繰り返す。カウンターが恐ろしいのは、全員がわかっている。
こちらはマンU戦。
ここでも同じことが起きている。ユナイテッドはポジションをうしろの定位置に戻し、前方で何が起きようと気にしない。
これが、いまMFよりDFがボールを持つようになった説明になっている。いったい誰がこの中央エリアでプレイできるか。スペイスもないし、相手はボールに飛びかかろうとしない。ここでライトバックがサカにパスするがこれも同じ(ボールをすぐうしろに戻す)。彼らはボールを失いたくない。
ボールがCBまで戻り、彼らは好きなだけ長くボールを持てる。変化なし。まただ。このパスとタッチの量を観てほしい。彼はボールを持って休んでいる。試合全体がこのようになっている。
これが退屈に見えるのはわたしもわかる。もっと速く前にも行けるだろう。だが、これがいま実際に試合で起きていることなのだ。
ユナイテッドは飛びつきたがらない。ボールはCBに戻っていく。
これを退屈と云ってもいい。なんと呼んだっていい。でもこれは毎度同じパターンなんだ。カウンターを恐れている。
マンUはここでもまたボールに飛びつきたがらない。わたしももう同じことを三回も繰り返し云っている。
オーデガードはプレイしようとしているが、(前にスペイスがなく)横へ行くほかない。彼らはリトリートしていてインサイドにスペイスはない。
ここで一時停止すると、ふたりのCBのあいだ、ここにふたりのホールディングMFがいる。これはビルドアップを工夫しようとBruno Fをおびき出そうとしているのだが、彼は意に介さず飛びつかない。
これがその説明だ。
この解説はまだつづきがありそうだが、この動画ではここまでで、このあと、これがアーセナルに特殊な状況じゃないという説明をしているのかどうかはわからないが、基本的にはそういう流れの話だろうと思う。とくにPLでは、リーグ全体で戦術トレンドとしてそういう傾向があるという。
ところで、この解説のことをなんとなく考えつつ今朝たまたま見かけた動画を観ていたら、非常に興味深いことに気づいた。アーセナルがいかにboringじゃないか訴えるTWに添えられていたこれ。
It’s crazy for fast people forget https://t.co/15i6ubcAlC pic.twitter.com/9jL93JPMKJ
— Duloh (@AFCxDuloh) March 12, 2026
観ればわかるように、2分半近い尺のほとんどがアンリが云うところの“jump in”、つまり相手がボールを奪いにアーセナルの選手に飛びかかっている状況があるのだ。それをアーセナルの選手たちは、小憎らしいほど華麗にかわして着実にビルドアップしていく。
このクリップにはホワイト、トミヤス、パーティが何度も出てきたり、全体的にちょっと前の素材が多く感じるが、すでに懐かしさすら覚えるほどで、最近の試合ではとんと観られなくなっている光景があるように思える。
つまり、この相手がシットバックするいまの状況は、ここ数年で対戦相手がアーセナルのクオリティに適応した結果なんだよね。もちろん、それまでにも同じ状況はあったが、それがとくにPLで顕著になってきている。強くなればなるほど、相手はそういう対応をせざるを得なくなっている。
それはアーセナルに限らないことだと思う。シティもリヴァプールも似たようなものだろう。トップクオリティの選手たちに向かって下手にボールを奪いに行くとかわされて、うしろのスペイスを使われ逆効果になりかねない。だったら、最初からボールを奪いに行かずにうしろに下がってゴール前と中央を厚く守るほうがマシという。そうしないとズタズタにされる。飛び込んだら負け。
ヴェンゲルさんの全盛期、相手はラフプレイでアーセナルを止めるしかなく、VARもソーシャルメディアの監視もあってラフプレイが許されない現在は、相手はロウブロックでアーセナルを止めるしかない。みたいな。
それでアーセナルのようなトップチームは、ロウブロックを前にしてHorse shoeになりがちだし、全般的にMFよりDFがもっともボールを持つようになる。そんな状況なら、もちろんセットピースゴールの重要性が増すのも自明。
最近のアーセナル批判を観ればわかるようにセットピースの評判が悪いのは、以前はそれがおもに弱者戦略だったからだろうが、いまは強者にこそ必要な戦略になっている。
そして、アルテタもそのことについては十分認識していて、なんとかビルドアップのためのスペイスをつくろうと、GKやCBがわざと長くボールをもって相手のプレスを引きつけようとする姿もしばしば観られる。ラヤがよく足裏でボールを持ちながらとんとんとステップバックするアレ。
これは同時に、CLのアーセナルがあまりboringではない説明にもなると思う。相手がそういうやりかたをしないので、アーセナルもHorse shoeじゃないし、セットプレイゴールに助けられて辛勝みたいなことも少ない。ヨーロッパでは、相手がPLのトレンドを必ずしも踏襲しないことが大きいのだろう。
先日のレヴァークーゼンの守備への対応では、アーセナルが苦しむ典型的なパターンに見えたが、あれはアーセナル対策というよりは彼らの守備のうまさという気がする。ぼくは、ふだんの彼らを知らないからなんとも云えないが。アーセナルやPLをよく研究した成果であれをやったのなら、あっぱれとしか云えない。
だから、これは多くのアーセナルファンの主張でもあるけれど、アーセナルが退屈なのは、最初からロウブロック&カウンター狙いという相手の受け身な姿勢によるところも大きいのだ。gameをboringにしているのは果たしてどっちか?
しかしながら、それも一理あると思ういっぽうで、アーセナルはアーセナルで、アンリも述べるようにボールを失うことを恐れすぎな側面があることは否めない。
アーセナルのどの試合を観ていても、ちょっと勇気があれば成功しそうな攻撃的なパスを躊躇してしまうシーンはたびたび観られ、それがフラストレイションであることに違いはない。ファンならなおさら歯がゆい気持ちがある。ボールを失うことやカウンターを過度に恐れているとすら感じる。
それと、もちろん遅い攻撃も。守備ファーストの相手の消極的なアプローチに対しては、守備組織を整える時間を与えないファスト&ダイレクトなプレイはかなり有効だが、レヴァークーゼンのような試合を観ていると、それがやれないときも多い。
だが、なんだかんだこのロウリスクなやりかたでベストディフェンスのチームとしてここまでやってきた。今年ビッグタイトルを取るためなら、そういうプラグマティック戦術も受け入れられるよね。ファンとしては最高にうれしくはないが、トロフィのためならなりふり構わずなんだってやればいい。
そして、それを誰かに文句を云われる筋合いもない。いや、文句を云うのは自由だが、われわれにしてみれば知ったことかという。
アンリはべつの機会にはこんなことも云っている。「アーセナルのプレイを好きになる必要はない。だが、リスペクトはしなければならない」。そのとおり。
おわり




















