つぎに対戦するBATEボリソフはベラルーシのクラブということで、ベラルーシといえばおれたちにとってはアレックス・フレブで、BATEボリソフは彼が育ったふるさとクラブだった。なんか名前聞いたことがあるようなないようなと思っていたらアーセナル退団後にも一度復帰していたようだ。
Wikipediaによるとフレブは現在36才。いまもロシアのクリリヤ・ソヴェトフ・サマーラというクラブで現役でプレイしているという……。BATEボリソフ戦ではきっとスタジアムに姿を見せるだろうね。
懐かしいなあと思ってYouTubeを観ていたら、すっかりフレブの思い出が蘇ってきた。といってもぼくはアーセナル時代(2005-2008)しか知らない。バルセロナに移籍して不遇の時代を過ごしたフレブが「アーセナルを離れたのは間違いだった」と語ったなんてこともあった。そうだろうそうだろうとひとりうなずいたものである。
ちょうどこの前、2012年ごろのアーセナルをYouTubeで観ていて、アルシャビンとかジェルビーニョ、アンドレ・サントスにポルディといった個性的すぎる面々が揃っていてそれに比べていまのスコッドのアクの薄さはなんだと思っていたところだったが、この当時の選手たちも負けず劣らず個性的だったなあとしみじみ。フレブはそのなかでもとびきり変な選手だった(※個人の感想です)。たった3年しか在籍しなかったとは思えない強い印象を残したと思う。
この映像を観ると、ドリブルやパスセンスはいまのプレミアリーグでも十分に通用しそうだ。ハイライトでいいとこ取りとはいえ、技術の面でいまのスターリングやマレズがこのレベルに達しているだろうか。とくにひとりで前にボールを運ぶ推進力はただごとではない。
しかし、フレブといえばぼくはよいプレイと同じくらい悪いプレイを思い出す。
ぼくの思い出のなかのフレブはとにかくシュートを打たない選手だった。ペナルティエリアのなかに侵入してすらパスの出しどころを探しているような選手だった。どちらかといえばファブレガスもロシツキーもそういう傾向があったので、なかなかシュートを打たないのはあの頃のアーセナルらしさともいえるが、チャンスがあってもなかなかシュートをせずそのたびにイライラさせられたものだった。なかでももっともそういう傾向が強かったのがぼくのなかのフレブである。ドリブルもパスもめちゃくちゃうまいが、そこで打て!というところで切り返してしまう。
サンチェスのような独善的というのとはちょっと違う、もっと純粋にボールで遊んでいる感じというのか。
彼がベラルーシで最高というだけでなく、イングランドやワールドワイドで最高の選手になれなかったのは、得点力がなかったからだろう。得点力さえあればいうことなしという中盤の選手は多いが、フレブこそ得点力が必要な選手だったろう。得点力というより得点への意欲というべきか。
でもなんだかんだ、ぼくはそんなフレブがプレイしていた時代のアーセナルが大好きだった。だってそんな観ていて楽しい、偏屈でおかしなクラブはほかにはなかったから。こんな才能豊かな面々を擁しながら決して勝負強さはなかったが、ロングボールを封じてあくまでグラウンダーのパスにこだわり相手を崩すことに執着する姿には「美学」すら感じた。
一昔前はイングランドといえばロングボールと認識されていた時代もあったが、この時期のアーセナルは頑ななまでにロングボールを使わなかった。個人的にはこの時期の印象が強いからか、いまだにアーセナルがセットピースでゴールから離れた位置でクロスボールを選択すると、ちょっとした違和感をおぼえてしまう。今だってロングボールをあまり使うチームではないが、今よりもっと全然まったく使ってなかったんだから。どんだけ。
そう考えるといまのアーセナルはふつうになったと思う。というより単にこの世界がフラット化したということかもしれない。プレミアリーグではトップとボトムの実力の差がどんどん縮まっているといわれているし、いまでは下位クラブだってアーセナルのようにプレイする。そしてアーセナルはといえば、かつて優位を誇ったパスとポゼッションというプレイスタイルで上位クラブほどうまくやれなくなっている。アーセナルは実力もプレイスタイルもどんどんふつうのクラブになっているのだ。さびしいものだ。
そんな近頃だから、余計に個性的なプレイヤーが懐かしく感じる。
アーセナルはもう13年だか14年も優勝できずにいる。だからこの際美しいプレイスタイルなどというものは犬にでも喰わせて泥臭く勝ってほしいと思っている。だがその一方で、勝てないならせめて弱いなら弱いなりにおもしろいフットボールをしてほしいとも思っている。どっちもないなんて、救いがなさすぎる。
全盛期のフレブがいまのアーセナルにいたらさぞかしおもしろかっただろうね。だいぶ叩かれそうだが……。
※追記(2017.9.28)
ボスがBATEとのアウェイマッチを前にしてフレブの思い出を語っている。
‘Hleb was a great player… but he was with Messi’
彼(フレブ)がバルセロナに移籍したとき、バルセロナは世界一のクラブだったんだ。彼がそこへ行きたがったのも理解できる。
でも彼にとっては正しい選択とはならなかったね。だってそれは彼のその後のキャリアにネガティブなインパクトを与えてしまったから。
彼はほんとうにグレイトなプレイヤーだったよ。でも彼はメッシとポジションを争わねばならなかった。そんなミッション・インポッシブルったらないよね。アッハッハ。
彼はきっとここを訪ねてきてくれるだろう。いま幸せに暮らしているか、いま何をやっているのか訊くつもりだよ。こんなに長いキャリアで波乱万丈な選手生活だったんだから、そりゃあ彼がいま何をしているのか訊きたくもなるさ。