おれたちの永遠のボス、アーセン・ヴェンゲル監督が、17/18プレミアリーグ最終戦ハダースフィールド・タウン戦(A)を前に、プレスカンファレンスに臨んだ。
ボスのみことばファイナル
(アーセン、これ最後のプレスカンファレンスです……)
ヴェンゲル:オーウ!(会場笑い)
(いまどんな気持ちかことばにできますか?)
ちょっと変な感じだよ。ゆっくり理解していっているところかな。いまはもう折り合いをつけているよ。できるだけのことをやってフィニッシュしようとしているし、願わくば、わたしの最後のプレス会見であなたがたをがっかりさせないようにもしたいね(ニヤリ)。
(エミレーツでのエモーショナルグッバイからこの4日間はどんな感じだったんすか……)
とても変な気分だったね。あれにはもちろん感謝しているよ、悲しい気分だったからね。客観的にみれば、22年に渡ってクラブの成長を手助けする特権があったということは、とてもとても嬉しかったし感謝しきれない。すごい特権だったよ。そんなふうに考えていた。
(選手たちにレスター戦とこのハダースフィールド戦でモチベーションを上げさせるのに苦労した……)
昨夜(※レスター戦)の選手たちの姿勢はグレイトだったよ。素晴らしかった。チームには特別な絆があるし、このチームが表現しようとしているものは特別なものだ。わたしの好きなものだね。できれば、来シーズン、彼らにはそれを表現してもらいたい。非常に客観的にみれば、われわれは73ゴールして、そしてもっとすることになる。しかし失点をしすぎた。どこを改善すればいいのかは、非常にシンプルだよ。
(このハダースフィールド戦の前と終わった後、この数日についてどうしたらうまくいったことになるか説明できますか?)
そうだな、いつもいっているように、最後までここで自分の仕事をするつもりだ。その後に将来について考える。いまのところは何も考えていない。わたしはあなたがたの前に座ってこれが最後のプレス会見だという感じがしていない。頭のなかでは単にハダースフィールド戦があるというだけで、それに最後までできるだけ集中したいと思ってここにいる。
(あなたは感情的になりやすいタイプですか?)
イエス。わたしはとても情熱的だ。若かったときは、この世界で生き残っていきたいなら感情をコントロールしないといけないと考えていた。あなたたちがわたしが33才でフランスのトップチームの責任を任されていたなんて想像できるかわからないけど。いまわたしは68才で、止まるつもりもない。自分が本当は何者であるのかコントロールする、己のなかのいるアニマルをコントロールする、それを学ぶ長いプロセスがある。そういったことにわたしは助けられたよ。いいときもあったし、悪いときもあった。感情やリアクションをコントロールできるようになったという事実、これが助けてくれた。いま、わたしは仕事をここで終えたあと、少しだけまたそんなことができるし、少しだけより本当の自分らしくなっている。
(わたしたちは本当のアーセン・ヴェンゲルを見てなかったんでしょうか?)
あなたたちはリアル・アーセン・ヴェンゲルを見ていたよ。一面に過ぎない? フットボールで勝ちたくて勝ちたくて震えている男だよ(ニヤリ)。それだけがわたしにとって問題だったんだ。それがわたしのパーソナリティの大部分を占めているよ。
(辞任を決めたのはどれだけキツかったですか?)
難しかった。なぜならわたしの人生だったから。20,000本の木があった。わたしはそれを1本づつこんなふうに見ていた(※ジェスチャーで)。いまではとても大きくなった。わたしは去る前にそのひとりひとりに別れの挨拶をする。ありがとうというよ。それがわたしの人生だし、それ以外のものはわからない。だから難しい。一方でわたしはクラブを去ることができるし、わたしがつくったものを誇りに思ってもいる。素晴らしい組織、素晴らしいコンディションを次のマネージャーに与えられる。わたしはクラブの発展の一部を担ってきたと思うし、それは歴史的なことで、巨大なファンベイスを持つにいたった。わたしはクラブの将来に向けていいときに去る。
(あなたの後継者に問うとしたら?)
わたしが与えられるアドヴァイスは、全力を尽くすことと、クラブの価値をリスペクトすること。このクラブは全世界でリスペクトされている。自分のアイディアを持ってほしい。それは(わたしとは)異なったスピーチになるだろうし、試合の見方も異なるはずだ。選手たちは別の何かに触れるチャンスでもある。そしてまた一方でわたしはこういいたい。ここで築き上げられてきたもの、人々が大事にしているもの、それをリスペクトしてほしい。日曜にはファンからのお別れを見ることになるだろう。ファンのなかにはわたしの決定にいつもは賛成しない人たちもいたよ。そんな彼らでもわたしが正直だったこと、忠実でクラブの価値にコミットしていたこと、そしてわたしがクラブにすべてを捧げていたことをリスペクトしてくれた。それが彼らがわたしに伝えたかったことで、わたしに同意してくれたことだ。わたしの後任には同様にしてもらいたい。
(大切な思い出とかありますか?)
わたしがここに無名の存在としてやってきて獲った最初のタイトル、それとリーグを初めて1年通して戦えたことかな。個人的には、2006から2015はわたしの試練の期間で、ベストの仕事ができた。スタジアム建設のときわたしは5年契約を受け入れて、クラブが借金を返せるようなポジションをキープするために限られたリソースでもやりくりをした。わたしは個人的にはこの期間がわたしのアーセナルのキャリアのなかでベストの仕事だったと思っているよ。派手な仕事とはいえなかったし、一番難しい仕事だった。
(もし1試合だけ変えることができる試合があったら、それはどの試合で何をしますか?)
いつも最後の試合だね。レスターじゃないよ!(笑い)あれはべつに危機でも何でもなかったし。アトレチコ・マドリッドかな。3-0で勝ち抜けをほとんど決めて折り返すべきファーストゲームを1-1で終えた。それが変えたいところだね。あの試合中、わたしの経験ですら、1-0で後半に入り1-1で終わるなんてまったく予想できなかった。2点目は取れないかもしれないくらいは考えたかもしれないが、ハーフウェイラインにボールが超えることすらなかったのに失点するなんて……。いつも一番新しい苦い記憶が一番大きい。
(チャンピオンズリーグの決勝よりもですか?)
2006のCLファイナルはもう11年前のことだ(※実際は12年前)。苦しく思い出すのは、いつも最近の敗戦だよ。
(ウイニングノートってなんですか?)
最後の試合結果は問題じゃない。それよりも選手には、未来に向かって準備すべきだという。勝つことがベストのやり方で、ポジティブマインドで次のシーズンに向かう。われわれは浮き沈みのあるシーズンを過ごした。しかし彼らは特別な何かをつくってきたし、わたしはそれを最後の試合で出してもらいたい。自分たちのやり方でね。公正な立場でいうならば、それはゆうべ(レスター戦で)彼らがやったことだよ。来シーズンに向けての準備なら、最高のやり方は次の試合に勝つことだ。
(あなたの遺産はトロフィとスタジアム、どっちですか?)
全部かな。それと、選手たちとどのように振る舞ったか。それも遺産だよ。選手たちからはたくさんのメッセージをもらった。一緒に勝ち取ったトロフィというよりはむしろ選手たちが守ろうとした人間性や、クラブの価値についてだ。彼らはときにはこうした別れもあるということがわかっている。それが望まれるものだ。そうしたことの次にプレイのスタイルがくる。マネージャーはフットボールのプレイの仕方に影響力を持っているし、試合から与えられるアイディアも。クラブの成り立ちと選手たちの個人的な人生への影響。すべて一緒だ。それらすべてを記憶していてもらいたい。
(あなたは繰り返しわたしたちからのどうでもいい質問にも答えてくれました。たぶんわたしからのが大部分だったでしょうが。しかし概ねわたしたちはあなたの賢いことばを聞きに毎週通っていました。わたしたちと話せないのは寂しくなるんじゃないですか?)
そうだね。もうわたしに何か尋ねる人はいないだろうから。それにわたしはいつも何度もいっていたように、フットボールを愛している。試合を愛している。あなたたちに何度もいかにわたしがフットボールを愛しているか話すことができるのは喜びだったよ。楽しめないプレス会見も多かったけどね。いつもじゃないよ。たまにさ。ときには感情的な反応をしたりした。しかし試合についてや試合のなかで愛していることについて語るときはいつも、とにかく楽しかった。プレスカンファレンスを恋しく思うだろうね。
(あなたは最期の長期監督になりますか? これはユニークなプレス会見になりますか? なぜならわたしたちは最後のお別れをいっています)
とてもユニークなプレスカンファレンスだろうね。でもファーガソンが最期だったよ。わたしはこの機会に彼の健勝を祈りたい。彼は大丈夫だと聞いてるけどね。たしか26年だったと思う。わたしは22年。もう5年も6年もやっている若いマネージャーがいるだろ。22年やるかどうかはわからないが。わたしが最期だなんていうことはできないよ。また起こりうる。
(昇格組がすぐに降格してしまうことがあります。今季はみんなPLに生き残りました。今でもプレミアリーグとチャンピオンシップの間の隔たりがあるという意見についてどう思いますか?)
プレミアリーグがインターナショナルレベルの選手を買ってしまうし、アカデミーはいい選手を輩出する。だからチャンピオンシップに落ちてしまうクラブがある。しかし、彼らは昇格するときに向けて準備しているよ。チャンピオンシップの経済力も上がってきている。外国の優秀な選手も買える。数年前はチャンピオンシップの選手たちはフィジカルが準備できていなかった。でもそんな時代は過ぎ去ったよ。下部リーグでも同じインテンシティ、プレミアリーグと同等のフィジカルがある。ときにはもっとだ。フィジカルの差は完全になくなっているね。またいまはいいマネージャーもいる。よく学んでいて準備万端だ。だから彼ら昇格組も生き残れたんだ。そして、とくに最初の1年は戦う準備ができているともいえる。シーズン最初の試合でリーグに残るためにはファイトが必要だと学ぶんだ。それが最後の1秒まで戦う絆や渇望を生み出す。あなたはハダースフィールドについて話しているんだろうが、彼はシティと戦い、チェルシーと戦い、そしてアーセナルと戦う。現時点でこのなかの1試合は負けていない。これは完全にすごいことだ。最初の2試合で0ポイント、そして2ポイント取っている。
(プレミアリーグに何か変化はありますか? それについてどう思いますか。そしてその変化への責任についてどう感じていますか?)
ふたつの側面がある。プレミアリーグはたくさんの仕事をつくっている。わたしがここクラブへ来たときアーセナルのスタッフは80人だった。いまでは700人だ。スタッフの誰とも顔見知りみたいな個人商店から、人事部門があるみたいなふつうの会社になってしまったんだ。だれか個人が主導してそれを行うということはもうなくて、どんな決定も社内の承認が必要になっている。それはときに人間的な側面からは若干の心苦しさはある。一方でクラブの経済力というものはそれは巨大になっている。また一方でこの20年でオーナーシップといったものも完全に変わってしまった。わたしがイングランドへ来たときのオーナーシップをいまと比べれば、完全にワールドワイドになっている。イングランドはもうクラブのどの部分も所有していない。国際的になったよ。世界はグローバル化してオープになった。選手にとっても競争はワールドワイドだ。オーナーたちは世界中から選手を買う。プレミアリーグは世界選手権になったんだ。次の進化? この数年のうちに、週末にはヨーロピアン・リーグ、火曜か水曜には国内リーグが行われるそんなことになるかもしれない。
(あなたは最初のプレス会見で「クラブの基盤はイングリッシュスピリットだ。わたしにとってこの仕事は挑戦でアーセナルには大きな可能性がある」といいました。最初のプレス会見のことは覚えていますか? そしてどんな気持ちでしたか?)
自分の拙かった英語と突然のように現れたわたしに対するみんなの興味しんしんな様子を覚えているよ。そのときいったことばはいまでも完全に守っているよ。わたしの仕事のひとつは信じることとここで見つけたクオリティを信頼すること。世界は変わった。選手たちもよりリッチになった。もちろんわたしもいつも伝統を守ろうとしていたし、クラブの価値もまた同じように。全体的になかなかうまくやれたんじゃないかと思っているよ。
(あなたのキャリアのなかでまだほしいものはありますか?)
わたしがほしいもの? わたしは自分の人生を賭けて可能な限りよくあろうと自分自身と戦ってきた。それを続けるだけだね。
(アーセナルでの時間を振り返って、どのチームがベストでしたか? 98あるいはインヴィンシブルズ?)
2004(インヴィンシブルズ)だね。彼らの功績はプレミアリーグでは誰にも破られていないね。1998のチームは好きだったよ。なぜなら何人かの選手のクオリティを見つけることができたし、わたしが想像していたよりだいぶよかった。彼らはとてもインテリジェントでもあり、経験のあるチームだった。その後、2002と2004には強力な戦力も加えた。全体的にいえば、まあインヴィンシブル・チームかな。うん。
(レスターではグレイトなレセプションを受けました……)
いまでは彼らはわたしを愛しているんだよ!(会場笑い)
(あなたはずっと新聞のトップを飾っているし、BBCレディオ5では金曜の夜に特番をやりました。驚きましたか? それとも想定内でしたか?)
イエス。嬉しい驚きだったよ。わたしは思うんだ、みんながリスペクトしてくれたのは、わたしが正しいやり方でフットボールをプレイしようとしたということとみんなにそれを楽しんでもらえたということ。一番重要なこと……あなたは出かける前に朝目が覚めてこういうんだ「わあ、今日はアーセナルを観に行くんだ。いい試合が観られるかもしれない」。基本的にそれがわたしがしてきたことだよ。毎日とはいわない、人生のなかのひとつの経験を与えられること。日常がいつも楽しいわけじゃない。わたしはフットボールには彼らの人生に特別な瞬間を提供する責任があるんじゃないかと思うんだ。いつもうまくやれるわけでもないが、少なくとも希望と何か特別なものが観られることを提供せねばならない。そして普段の生活のなかではいつも体験できないところに彼らを連れて行く。
(一度にふたつの質問をします。なぜいつも8:45にプレス会見を行うのですか? (会場笑い)そしていつかイングランド代表でも指揮を執ることがありますか?)
まず、わたしは早起きが好きだ(笑い)。わたしはプレスの人たちが早起きが好きじゃないことは知っているよ。10時か11時に仕事開始だろう。だからちょっとやっかいだっただろうね。わたしは早くに始めれば来ない人もいるんじゃないかと思ってね、それを狙ってたんだ(笑い)。いつかイングランドのマネージャーをやるかって? さあね。正直わからない。過去にチャンスはあったよ。現時点ではわたしはイングランドにいないし、ギャレス・サウスゲイトでもない。そして願わくば彼に22年勤めてほしいね(ニヤリ)。
(マンチェスター・シティが今季数々の記録をつくりました。彼らがこのまま(インヴィンシブルズと)同じレベルに到達すると思いますか? また彼らに追いつくのは難しくなってますか?)
彼らは来シーズンには倒すべきチームだろうね。彼らの稼いだポイント、彼らと他のチームの差を見ればね。彼らはファイナンシャルフェアプレイルールをうまいことかわしている。グレイトなマネージャーがいるクラブで、グレイトなチームがあり、とても賢いチームだ。問題を引き起こせるし一歩先をいっていると思う。あなたに賛成するよ、彼らは来シーズン倒さねばならないチームだ。
(あなたはプレミアリーグのファンであり続けますか? 夏にはワールドカップを観に行きますか?)
ワールドカップは観るつもりだよ。ロシアとサウディ・アレイビアのオープニングゲームには訪れるはずだ。もちろんプレミアリーグも観るよ。朝起きたときに夜どんな試合があるかまずチェックする。それは変わらないだろうね。
(イヴァン・ガジディスがこういったそうですね。あなたがクラブを去るアナウンスをするタイミングはあなたが決めていいと。その機会をもらったことはよかったですか?)
ある側面では楽しんだといえるよ。うん。でもすべてじゃない。毎日やっていたことをゆっくりやめていかなきゃならないのは簡単なことじゃない。できる限りやりたいし、みんなに感謝を伝えることを忘れたくはない。20年前にはすでにここにいた人たちもいる。彼らはわたしのために毎日毎日戦ってくれた。さよならをいうのは簡単じゃない。
(あなたがサインした最後のふたつの契約はシーズン終了後のものでした。今回もシーズンの終わりまで発表を待ちたかったんじゃないですか?)
イエス。もちろんだよ。疑問もあった。発表後は同じ気持ちではいられないし、自分のことについて……こんなに長い間ここにいたんだ。質問はいま行くべきだったかそうじゃなかったかってこと? あなたの立場でそれが大したことじゃないというなら、自分の目と耳で確かめるべきだ。わたしたちは物事が急速に変わっていく社会に住んでいるんだ。ここ数年でも変わってしまったよ。
(まだ休暇の予定は立ててませんか?)
まだだね。正直。わたしはわたしが何をするかわからないんだ。ロシアには行くかもね(笑い)。
(このあと数週間はどうして過ごしますか? ここに残るか、それともフランスに帰りますか?)
月曜と火曜にはフランスでいくつかやらなくちゃならないことがある。その後戻ってオフィスを片付けるよ。それがやることだ。その後はわからない。サンキュー。
以上。長かった。。読んでくれた人もお疲れさま。
感想
とくに目新しいコメントはなかったと思うけど、ボスが自分のベストジョブは2006から2015であると答えたのはへえと思った。それはスタジアム建設の負債を抱えながら戦った9年間で、一般的にはヴェンゲル監督の一番苦しかったと思われる時期である。少ない予算をやりくりし、スター選手を奪われ、それでも毎年トップ4を死守してきたことはいうまでもない。
素晴らしいチームで獲得した輝かしいトロフィよりも、散々非難されまくりながらもクラブの苦しいときを助けたことのほうが、自分にとって誇らしいんだというのが非常にアーセン・ヴェンゲル監督らしい。
この会見のなかでは、いくつかのメディアも取り上げていた「ヨーロピアン・リーグ構想」というのもおもしろかった。いつかどこかで誰かが同じようなことをいっていたような気がするけど、イングランド・ドイツ・イタリア・フランス・スペインを横断したスーパーリーグなんて考えただけでワクワクする。5大リーグは地理的に距離も近いわけだし、将来的に絶対ありえないとはいえない。そういうのって、UEFAなんかが議論をしてたりするのかな。
さて。これでボスのアーセナルのボスとしてのプリマッチ・プレスカンファレンスはおしまい。
これ最後にはプレスの人たちと記念撮影でもしたんだろうね。ボスと記者たちとはいつもいい関係ではなかったろうけど、最後は穏やかな雰囲気でプレスカンファレンスを終えた。
あとは、今日ハダースフィールドの試合後に会見してそれでほんとにほんとの終わりになる。