5月末に書いた来シーズンのフォーメーションを予想したエントリにいまだにアクセスがある。その後に急速に状況が変わったとはいえ、自分の先見のなさが若干恥ずかしくなりアップデートするつもりでこのエントリを書こうと思う。
アーセナルの来季の新フォーメーションを占うには、エメリがこれまでどういうフォーメーションを好んで使ってきたかについても確認しておかねばなるまい。
まずはエメリのPSG時代の戦術について、それからアーセナルの18/19シーズンのラインナップについて。ちと長くなりますがお付き合いください。
PSG(2016-2018)におけるウナイ・エメリの戦術
今回のエントリの元ネタはこちらである。
アップが2016年11月ということで、PSGの監督に就任したシーズンの秋頃の記事となる。第して「ウナイ・エメリのPSG革命」。オーサーはCameron Campbellさんというコーチング・サイエンス博士。まだ若そう。Respect.
彼いわく、ヨーロッパでもっとも過小評価されているマネージャーのひとりだというエメリのフィロソフィとスタイルを、キャンベル氏が3つの大きな特徴から検証している。
ちなみに、PSG以前のスペイン時代(ヴァレンシア、セヴィーリャ)でも、ほぼ似たようなコンセプトで戦っていたようだ。それについてはこちらの記事が詳しい。
Tactical Philosophy: Unai Emery * Outside of the Boot
エメリがキャリアの主要な部分でこれらの戦術を使ってきたということは、この基本戦術がアーセナルでも踏襲される可能性も高いと考えられる。
ではエメリの戦術とは、具体的にどういったものか。PSGの例で確認してまいろう。
(※以下、キャンベル氏の説明とぼくのコメントが混ざっているのでご注意)
エメリの戦術の特徴1:臨機応変なフォーメーションと構造(Flexible Team Shape and Structure)
4-2-3-1から3-4-3へ、試合の状況に応じてフォーメーションは変化する。
これがエメリがコーチングキャリアを通して使ってきたフォーメーションであると。両者の変化についてはビデオで解説されている。
ビデオが埋め込めないので、キャプチャして使わせていただく。元記事のビデオを見ながらそちらのフォローにお使いいただければ。
ボールを持っているかどうか(ポゼッションの有無)、ピッチ上のエリア、デッドボール状況(ゴールキックなど)、試合の時間帯、得点の状況などに応じて、フォーメーションを柔軟に変化させる。
目的はポゼッションと得点機会をつくるためである。
<利点と欠点>
これによって、攻撃時に相手を惑わすことができ、いつでも相手にプレッシャーをかけることが可能になる。
それと、エメリの戦術で特徴的なのはいつもボールを失ったときをケアしていること。バックラインにつねに2CBとDMがいるので、チームは後ろを気にせず大人数でプレッシングに参加できる。
欠点は、つねにふたりの選手が共同して動こうとするので、一方の選手が正しいポジショニングをしないと敵にそのスペースを使われる危険性がある。
たとえば、ワイドストライカーがインサイドに移動したときにそこにフルバックが上がってこないと、ボールを奪われたら広大なワイドスペースを攻撃トランジションで使われたりする。
エメリの戦術の特徴2:試合を特徴づけるバックラインからのビルドアップ(Dictate the Game: Building from the back)
こちらもビデオのキャプチャを。
エメリに限らず、モダンゲームではこのような最後方からパスをつなぐビルドアップが好まれるが、それはプレッシングを嫌ってロングボールを蹴っても相手とボールを競り合う五分五分の状況が生まれるだけで、進んで自分たちのポゼッションを放棄するようなものだからだろう。
逆にいえば、自陣でのプレッシャーをかいくぐって着実につなぐことができれば、そのプレスが厳しければ厳しいほど、中盤より先のエリアでは数的バランスで大きなチャンスが待っていることになる。
エメリのビルドアップでは、中盤の3人(ふたりのDMとCAM)がボールを運ぶ中心になるため、彼らがスペースを使えるようにアタッカーたちは高い位置そしてワイドに、フルバックもできるだけワイドに開き、センターバックのふたりはボックスの際あたり(ハーフスペース)にポジションを取る。
このビルドアップのキモはスピードで、相手が組織だった陣形を取る前に仕掛けるため、選手にも判断の早さやプレイの素早さが求められる。
エメリの戦術の特徴3:選手の技術能力と戦術理解(Players Technical Ability & Tactical Understanding)
最後は、選手がエメリのプレイに対応する必要性について。
これもまたビデオ解説がある。
要するに誰かがいくら高尚な戦術を唱えたところで、選手にそれを遂行する技術的な能力が備わっていなければ話にならないということである。そのあたりは、グアルディオラのPL1年めから2年めの変化にわかりやすく見ることができた。
エメリの目指すポゼッション・フットボールを成功裏に導くには、選手たちには以下を含むハイレベルな技術や戦術理解が要求される。
- プレイ・スピード:最初のパス、ドリブルでなければ2-3タッチ
- 嗅覚(気づき):ボールを受ける前に準備ができている
- ボディ・シェイプ:プレッシャーのなかでのボールキープ/敵を混乱させるフェイクをいれたパス
- ファースト・タッチ:プレッシャーをかわす/動いているとき(ボールを完全に殺すことで時間をかせぐ)
- ポジション理解:ハーフターンで受けられるよう、ボールを受ける場所の理解(ライン間)
これらのうちいくつかは、フットボールのコーチングでは特別なことではないが、いくつかはエリートレベルにおいてプレッシャーのなかで自信をもってプレイさせることができる。あるいはまた、チャンスがあれば自由や自分たちを表現する助けにもなる。
エメリの戦術解説については以上。
アーセナルとの相性
アーセナルにおける選手個人のスキルや能力・戦術理解は、一部苦労する選手が出てくる可能性はあるものの、概ねエメリの戦術への対応に問題ないと思われる(信じている)。基本的には超エリート集団だし。
もしなにか問題があってもエメリが改善してくれればいいだけである。
この解説では守備やビルドアップ、プレッシングについてはおおよそ理解できたが、個人的には攻撃の方法、とくに前線のクリエイティブな選手にどこまでディシプリンを求めるのかも気になった。
彼らのフリーダムな動きは敵を欺くという意味でも攻撃においては非常に効果的だが、一方でボールを奪われたときにはそのフリーダムさがそのままリスクになる。これまでのアーセナルではそれがいつも大きな課題だった。
エメリがエジルやラムジーにどのような動きを求めるのか注意して見ていきたい。
さて、ここまでくると、エメリの戦術についてグアルディオラやクロップといったほかの戦術家たちとの特徴の違いについても知りたいが、それについては調査してまたいずれ。
あ、ヴェンゲル監督との違いはさすがにぼくでもわかる。CBふたりに加えて安全策でMFをひとり残すというのは、ヴェンゲルが全然やらなかったことである。つねにボールを失ったときのリスクについて考えているというのは、われわれにとっては非常に新鮮ではないだろうか??
こうしてみると、エメリが自分が率いるNEWアーセナルにどのような選手を欲しがっているかがわかろうというもので、ここまでアーセナルが補強してきた選手たちについても、腑に落ちるものがある。
レノはビルドアップにも参加できるGKであるというし、DMのトレイラはいわずもがな、パス能力に竹、単独でもプレスをかいくぐることができるスキルの持ち主である。
とくにトレイラは一部では「NEXTヴェラッティ」といわれているくらいで、PSGでマルコ・ヴェラッティを重用したようにエメリの中盤における彼の役割は小さくない。
2018/19シーズン、アーセナルのラインナップ
やっとここまで来た。長いねこのエントリ。
ひとまず、前回の反省をいかしてあらためて予想したフォーメーションがこちらである。
4-2-3-1(4-3-3)
GK:レノ
DF:モンレアル、ソユンチュ、ソクラティス、ベレリン
MF:トレイラ、ラムジー、ジャカ
FW:オバメヤン、ラカゼット、エジル
これが、ビルドアップ時に変化するとこうなる。
3-4-3
トレイラとジャカのどちらかをより後方に置くかという議論があるが、ひとまずここはプレス耐性の高いトレイラを低い位置に置くことにしてみた。
ちなみにトレイラは昨日のワールドカップ・ロシア戦でのパフォーマンスが素晴らしかった。
このヴィデオはFIFA的にすぐ消えそう。
10.9 km covered、56 passes、95% pass accuracy、3 interceptions、2 clearances、5/9 duels wonという見事なスタッツ。キミがほしい。もう取ってた。
このラインナップのなかでは、CBのソユンチュだけが獲得の決まっていない選手だが、先日本人が「アーセナルへ行きたい」とコメントしたということなので入れてみた。もし彼が来ないなら、ムスタフィで置き換えよう。
レギュラーとがらりと変えたカップ戦スクワッドも。
う~んミキタリアン。悩ますぃ。
以上