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「クラシックNo.10」とエジルの戦い

redditで、メスト・エジルと古典的No.10ロール(※日本語ではトップ下)を論じたThe Timesの記事が話題になっていた。

このブログでも何度もエジルの使い勝手の難しさや、古典的No.10ロールについては書いてきたので、なかなか興味深く読んだ。

またまたエジルについてのエントリで恐縮ながら、共有したい。※見出しは訳者によるもの。



「古典的No.10が絶滅したなかで、メスト・エジルが生き残るためには適応が必要だ」

メスト・エジルと彼のドイツにおけるナショナル・アイデンティティに関する議論で、見失われていたあるいは見落とされていたのは、まさに先週ヨアヒム・ロウが語っていたことだ。

先週の木曜ミュンヘンでのプレスカンファレンスで、ロウが別のNo.10あるいはトルゥー・プレイメイカーを見つける必要があるのか、エジルを誰かで置き換える必要があるのか訊かれたとき、ロウはその質問自体が的外れであると示唆した。

ヨアヒム・ロウ「No.10はもはや存在しない」

ロウ「いわゆるプレイメイカーやNo.10というのはもう存在しないのだよ。もう長らくそういう状況だ。ネッツァー、プラティニ、ジダンみたいな選手たちはしばらくいない。プレイメイカーや試合をつくる選手というのは、最近はもっと深くディフェンシブなポジションを取っている。それらはとても重要なポジションであって、試合をコントロールしたりボールを触ることは前にいる選手よりも多いんだ。クラシックNo.10みたいなものはほんとうにもういないんだよ」

ロウがこの結論にたどり着いたことは興味深いかもしれない。彼が指揮した今年の夏のワールドカップで3試合のうち2試合で、ロウはエジルを選んでいる。何年にも渡りそうしてきたのと同じように、純正な、想像しうる限りもっとも「古典的」なNo.10として。

彼はエジルをワイドで使うときも多かったが、それまではロウは前目でのプレイメイカーの重要性を信じる、数少なくなりつつあるトップレヴェルコーチのひとりだと思われていた。エジルのことを「No.10をやらせたら世界でベストだ」と褒めそやしていたのはつい昨年のことで、彼の「パスとボールタッチのユニークさ」についても語っていたくらいだ。

おそらく、部分的には、ここ数年のエジルが苦戦していることがロウをこの結論に導いたのだろう。あるいは、単にエジルがナショナルチームを批判しつつ去ったことに対する実際的な反応だっただけかもしれないが。

モダンフットボールのなかで進化するNo.10

たとえロウのコメントに対して修正主義的な反応があったとしても、彼がコメントしたことは正しい。

プレミアリーグで現在どれだけの選手がエジルのような古典的No.10ロールでプレイしているだろうか? KDBとダヴィド・シルヴァはかつてそうしていたが、マンシティでペップ・グアルディオラによってここ1年か2年はCMに置かれ、彼らのキャリアで間違いなくベストのフットボールをやっている。

クリスティアン・エリクセンはアヤックスでNo.10でスタートしたが、彼もまた完成されたMFに進化していった。かつてはToTでプレイしたディト・ルカ・モドリッチはいまはレアル・マドリッドにいて、デレ・アリはToTでいつも「切り札」としてプレイしているが、クリエイターというよりは主に得点を決める役割だ。

エデン・アザールは、彼はNo.10、ウインガー、あるいはインサイドFWとどの位置でスタートしようとも、チェルシーにとってはよりモダンなドリブラーロールをやる。

ヘセ・リンガードとマルワン・フェライニの役割のコントラストは、マンUにとってフアン・マタのようにフラフラしているというよりは、どちらがNo.10の位置でスタートするかにある。

フェリペ・コウチーニョ、彼は1月にはリヴァプールからバルセロナに移籍したが、今年のワールドカップではブラジルでNo.10としてプレイした。だが、クラブレヴェルでの彼の素晴らしい貢献は、フロントラインにいるかあるいは3人のMFのうちのひとりとしてプレイしたときのものだ。

この世界を牽引する優秀なマネージャーたちの多くは、4-3-3フォーメーションか3-4-3のバリエイションに移行しつつある。どちらもエジル的な意味でのNo.10が存在しないフォーメーションである。

それでもエジルは輝いていた。が……

いくつかエジルの素晴らしさを測るものを挙げよう。クラシックな前目のプレイメイカーが流行遅れの時代にあって、それでも彼はマジックを見せ続けている。これが彼の実績である。

2014年ワールドカップ優勝。

2011から2016のあいだで5回、ジャーマン・ナショナルチーム・プレイヤー・オブ・ザ・イヤー受賞。

ウェルダー・ブレーメンでDFBポカール優勝。

レアルでラ・リーガとコパ・デル・レイ。

アーセナルで3つのFAカップ。

彼のプレミアリーグにおける50アシストは、彼が2013年にレアルからアーセナルへやってきて以来の期間でどの選手よりも多い。そして同じ期間で彼よりチャンスをつくった選手もいない。ドイツの最悪なワールドカップのあいだ、冷笑と敵意を向けられていたときですら、彼は90分間で大会中もっとも多くのチャンスをつくった(5.5)。

リターンの減少について語ることは不当というわけではない。今年の3月にはプレミアリーグでのアシストが50のマイルストンに達し、まあマイルストンというよりは結果というべきか、プレミアリーグの時代において誰よりも早くそれを成し遂げた。しかしその内訳は、2013/14で9つ、2014/15で5つ、2015/16で19、2016/17で9つ、2017/18で8つ。2015/16シーズンのアシスト数は突出しているが、19アシストのうち16コをシーズン前半に取っていたことを考慮するとより驚異的なものになる。エジルがトップフォームのとき、アーセナルは一時的に真剣にタイトル争いの本命みたいに見えたものだが、2月には崩壊していった。

そのコンテキストにおいては、シーズンの半分まで、エジルは彼が試合に出場するたびにほとんど毎回直接ゴールに絡んでいたことになる。一方で彼のアーセナルでのほかのときでは、だいたい4試合ごとに1アシストとなる。4試合で1アシストでもスタンダードからすればかなりすごいが、ワールドクラスのプレイメイカーとしてはそれほどでもない。アーセナルがセットアップしていたやり方では、とくにどんなほかの選手よりももっともっとクリエイティブな責任を負っていたのだから。

昨シーズンの8アシストで、8/22から1/30のあいだにたった1アシストしかできなかったことは、彼もチームも大きな声ではいえないようだった。1/31に恐ろしいほど魅力的な契約にサインをしたあと、エジルのフォームが著しく落ちてしまったことはいい兆候には見えないといわざるを得ない。

エジルは適応して進化する必要がある

エジルが持っているようなものすごいクリエイティブの才能について、語るだけであればそれはみごとにうまくいく。しかし、それは現実ではあまりにもしょっちゅう、うまくいかないことが多い。

彼のここ数シーズンのパフォーマンスは、前目のプレイメイカーが時代遅れだとする説を覆すには足りないものだ。あるいは彼のケイスをもっと適切にいうなら、彼は改革を喜んで受け入れる必要がある。

リオネル・メッシのような比類なき選手はクラシックなNo.10というには程遠く、しかしだからまた、メッシとは違うが、エリクセン、アザール、コウチーニョもまたクラシックなNo.10とはいえない。レアルにはクロース、モドリッチとイスコがいるが、ジョゼ・モウリーニョが好まないいい方をすれば、彼らはみな「マルチ・ファンクショナル(多機能)」ということになる。

エジルはアーセン・ヴェンゲルのアーセナルで珍しくマルチ・ファンクションを求められなかった選手だ。そして彼はウナイ・エメリの下でイージーにプレイできるとは思えない。エメリはすでにそれまでとは違うフォーメーションを採用し、どの選手にも要求しようとしている。とくにエジルは守備貢献の努力を求められている。仮にヴェンゲルの最後の数年でアーセナルが心地よい場所になっていたと自覚していないのであれば、エメリがあとを継いだことでこれまでと同じようにはならないと知るだろう。

昨シーズンにヴェンゲルは何度かエジルを深いポジションで使ったことがあった。去年の11月にチェルシーと2-2で引き分けた試合などいくつかの成功で、3-5-2フォーメーションにスイッチしたあとは、その傾向が強くなった。

2016年のイタリアでのフレンドリーマッチで、ロウは3-4-3フォーメーションのなかでエジルとクロースを実験的に2CMで使った。その試合のエジルとクロースのコンビネイションは誰から見てもスーパーでドイツが4-1で勝利した。エジルは試合後には「素晴らしかった」とそれがいかにうまくいったか語った。そして「前にいるよりも時間の余裕があり、まわりにいつもふたりか3人の選手がいるからやりやすい」とも。しかしそれでも「自分は完全にNo.10だ」とも語っていた。

おそらく、シルヴァ、デ・ブルイネ、エリクセンやほかの彼らのような選手たちも最初はみな同じように感じただろう。だが、違う役割を受け入れて成果を得続けている。

エジルももう29才になり、素晴らしく魅力的な3年半の契約の8ヶ月を経過したところで、エメリの下で同じようにハングリーでモチベーションを持ってそれに取り組めるだろうか? それも時間がたてばわかることだが、いずれにせよいくつかのレヴェルでの適応はキモになるだろう。

ヴェンゲルはつねに、古典的No.10が古典的No.10足り得るには時間と空間が必要だという甘やかした考えを持っているようだったが、ほかの場所ではどこでも、またいまはアーセナルでだって、試合は変わってきている。それでももしエジルが例外であるというのなら、彼のパフォーマンスはもっとこう…… まあ、例外的か。彼は自分のキャリアを自分で高めていかなければならない。

以上。

アーセナルが3-5-2なんてやったことあったっけ?と思いつつ。No.10(の廃れ具合)を引き合いに出してエジルを論じるやり方は、ぼくも随分やってきたので馴染みがある。

エジルが古典的No.10から脱するには?

ここであらためて「No.10」という役割について考えると、このテキストではNo.10を「前目のプレイメイカー(advanced playmaker)」などと表現しているのだけど、古典的No.10を表すには、それよりも「守備タスクを免除されたクリエイター」というほうが核心を突いているような気がする。

たぶん、エジルが現状ママのNo.10的ポジション(センター&ストライカーの後ろ)にいたとしても、その位置から守備やプレッシングに積極的に参加するなら、それは決してクラシックではなくモダンなんじゃないかな。

守備やプレスに消極的だからクラシック(=古典的)なんて半分揶揄された表現をされるわけで。

あとは、ゴールに対する意識。

ゲームメイカーとかプレイメイカーといわれる選手は、試合の流れを司令したり、ストライカーのお膳立て(アシスト)をするのが仕事だと一般的には思われている。しかし、かつてのNo.10的選手はいまはもっと自分でゴールを狙っていると。

ヴェンゲル監督ですら「(エジルのポジションなら)シーズン二桁ゴールはほしい」と語っていたくらいなので、これはエジルが絶対的に改善しなければならないところだ。

ということで、エジルのポジション云々というよりは、まず守備・プレスをしっかりやって得点のチャンスがあれば逃さない。それがエメリの要求に応えることにもつながるはず。

それで、エジルはNEWエジルたんになれる。

……なれるか?

※ちなみにこのNo.10が廃れた論は、重心が下がっている(ゲームメイカーはもっと後ろにいる)という話しと、モダンゲームではどんどん「中盤」を経由しなくなっている(縦に速い)という話しの両面があると思う。エメリがポゼッション志向といわれる一方、彼は中盤でこねくり回すよりももっと縦に速い展開を求めていると主張するひともいて、ほんとはどっちなんだと混乱する。

エジルにフェネルバフチェ移籍の噂

ところで、先日エジルにトルコクラブが食指を伸ばすというゴシップがあった。

Football transfer rumours: Mesut Özil to leave Arsenal for Fenerbahce?

『ガーディアン』の記事によると、トルコ国内でエジルとエメリの衝突が信じられており、フェネルバフチェへの移籍話が盛り上がっているらしい。また同時にマンUもエジルの状況をモニタリングしているとか。

エジルはアーセナルの新しいシステムに適応の真っ只中で、エメリの下で明るい兆しがいまだ見えていないのは確かだ。

アーセナルとエジルは2021年まで契約があり、トルコクラブがアーセナルが要求する移籍金(約40Mポンド)を払うとは思えないが、仮にエジルを放出するとなると週給350kポンド分のサラリーが浮くことにはなり、財政的な面ではアーセナルにとって都合はいい。

もし今シーズン中にもエメリがエジルの適応を諦めるような事態になれば、どのタイミングで放出するかが議論になりそうだ。早ければ早いほうが高く売れることはいうまでもない。

エジルがアーセナルを退団するときはほとんどキャリアの終盤ということもあり、トルコでキャリアを終えることも十分考えられる。

以上

 

PS
先日、日本代表のコスタリカ戦をTVで観ていて、中島翔哉があまりにも素晴らしかったので、ついエジルの後釜が中島だったらアーセナルはどうなるかと考えてしまった。ちまたの反応を見るに、エジルというよりはアザールみたいに感じているひとが多かったようだが、いまのアーセナルのスクワッドに当てはめようとすると、これはもう完全にエジルしかいない。もちろん彼の背格好でプレミアリーグで通用するかはわからないが、守備のハードワークとクリエイティブがちゃんと同居しているということは、エジルが目指すべきの理想形でもある。ヘンな話。ドルトムントが興味を示しているという噂もあって、彼はちょっと目が離せないですね。



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5 Comments on “「クラシックNo.10」とエジルの戦い

  1. もしエジルが移籍したら、10番のシャツが空く。
    7番をもらっていたサンチェスも早々に移籍したこともあったし、
    「良い番号あげるから、うちにいてね。」みたいな繋ぎ止めはもうできないのかな。
    それにしても、フェネルバフチェにはまだいかないだろう。

    1. 10番シャツでもレギュラーから外れたら意味ないしなあ。

      いまのところ、みんなエジルに期待してるし、エジルも自分ならできるって自分に期待していると思うんすよね。

      みんなが温かく見守ってもらってるあいだにはなんとか結果を出してほしいんすけどね。

  2. エジルを招き入れたときから我がチームが陥っているエジルスパイラル。
    当然、さすが、グレイトなんてこともあるけど、チーンなこともある。
    イニエスタが来たからって(ポルディしかり)神戸が劇的に勝つわけでもないとゆう、時代なのはわかるけど、上位以外のゲームでも輝けないことがあるのを見るのはつらいですね。
    自分的にはあのポジションは切り裂くタイプを使ってもらいたいけど。
    ネルソンいませんけどね。
    こんなこと言っても次のゲームでエジル祭りになったらまた好きになるとゆう。

    COYG

  3. 突出した個より替えのきく高いレベル選手複数+組織の決まりごとをしっかりのほうが、怪我はどうしても避けられないので確実性は増しますよね。なんか大企業的。確かに論理的かつ確率論的にはその通りかもしれませんが強いけどなんかむかつく、という少数精鋭的ロマン派(地方中小企業的)には辛い時代ですね。エジルのような一瞬輝く選手を用いるとなると心中覚悟で中心にした戦術を取るしかないですよね。時々有休とりますけど

  4. 有給をためらわずとれるということはホワイトな職場ってことですね?

    まあしかしこのレベルの選手になると費用対効果も度外視される。ポグバとかマンUで絶対150億円分働いてないもんなあ。

    サンチェスとか週給550k分は絶対働いてない。

    でもロマンはある。

     エジルには 金では買えぬ 価値がある だからゆくんだ キミとどこまでも (字余り)

    COYG

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