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選手のローンに付く「買取オプション」の実態

こんにちは。

チェルシーにはびっくり。

さて、今回はアーセナルの話題からちょっとだけ離れて、フットボールの一般的なトピックについて書きたい。

移籍ウィンドウの期間に、われわれがひんぱんに目にすることになる、選手のローン取り引きにくっついている「買取オプション(option to buy/purchase option)」。それは、いったいなんなのか。

ぼくらも、移籍ニュースでは、自分たちの選手をローンに出すときに、買取オプションがついているかいないかで一喜一憂したりしつつも(将来有望な選手なら当然付いてないほうがうれしい)、よく考えると、それについてわかっているようで、わかっていないような。

今回は、ローン契約につく「買取オプション」の謎に迫りたい。



ローンの「買取オプション」とは?

数日前に、今シーズンはOMでプレイしているヌーノ・タヴァーレスが、「OMへのローンには買取オプションをつけてほしいとお願いしたのにアーセナルに拒否された」と親クラブに批判的なコメントをしていたことがニュースになっていた。

Nuno Tavares slams Arsenal and claims he was refused option to leave permanently

アーセナルのファンとして、そしてヌーノのファンとしてはかなりのがっかり発言。つまり、彼は最初からOMにパーマネント移籍したかったと云っているのだから。アーセナルでバックアップ選手でいたくないと。随分早いな!

彼は今シーズンは、フランスで別人のようにのびのびプレイしていて、WBながらゴールまで決めまくっているので、ちょっと天狗になっちゃったかな?という気がしないでもない。だが、そもそもアーセナルでも、あんまり楽しそうにしている姿を観ていなかったので(グローヴ投げ捨て事件もあった)、まあこういうこともありえるか。いまのアーセナルで、彼がLBのファーストチョイスというのも想像できない。

であれば、彼にはなおいっそうフランスで活躍して評価を高めてもらって、来年の夏にたっぷりの移籍金を残してもらえればよいと思う。来年、彼が€30-40mみたいなレンジの選手になっていたら、ボロ儲けである。サリーバの成長といい、OMには世話になっているなあ。

で、この件についてぼくがtweetしたところ「買取オプションなんてただのオプションにすぎない」みたいに云っていたひとがいて(引用RTされてたまたま目に入った)、なるほどと思いつつ、選手のローンについてる「買取オプション」というのは、なんなのか?という以前から抱いている疑問をふたたび思い出した。ぼくは、けっこうモヤモヤしていたのだ。

買取オプション(option to buy)て、けっこう謎じゃないかい?

買取義務(obligation to buy)は、ローン期間が終われば選手を買い取る義務が発生するということで、そっちは非常にシンプルに思える。

積極的に選手を手放したいローン元クラブには、売却の目処もついて都合がいいし、ローン先クラブにも、移籍金後払いでほしい選手が必ず手に入るなど、双方に明確なメリットがある。これは、ほとんどローンという名のパーマネント移籍だろう。

いっぽうの買取オプションは、「オプション」なのだから、ローン期間が終わったときにローン先クラブは彼を買ってもいいし、買わなくてもいい。ローン元クラブも売ってもいいし、売らなくてもいい。買取義務と違って、このような強制力のない取り引き条項だと思っていた。だから、たしかに、ほとんどあってもなくてもいいような無意味な約束のように思えて、不思議だった。

「買取オプションは実質無意味」論は、つまりそれがこういう内容の契約だと理解されているからでしょう。ぼくも、なんとなくそう思ってたし、そうだと思ってるひとも多いんじゃないか。

今回このエントリを書くにあたっては、インターネットでけっこうがんばって調べたつもりなのだが、“loan with option to buy in football”のように検索しても、公的な機関による説明のような、この疑問にドンピシャで答えてくれるコンテンツは残念ながら見つけられなかった。

いくつか近いものでは、いまから7年前のr/Soccerのこのサブがあった。「通常のローンと買取オプション付きのローンとの違いはなにか?」という問いからして、この疑問に答えてくれるものであってほしかったが、あまり盛り上がってないサブのなかでスレ違いの話題が伸びていたりで、ぼくが知りたいことはあまり知ることはできなかった。あるは、説明されてもそれでも疑問が残るものだった。

※アメリカンスポーツでは、選手が合意せずともクラブ間の移籍契約が成立するケイスがままあるという知見を得ることはできた。

ここから、ふたつほどサブ主への回答を紹介してみよう。

(ローン先のクラブは、(ローン終了後に)選手を買うか買わないかを選べる?)

イエス。もしそれが、買取義務ではなく買取オプションなら。買取義務というのは、つまり選手を買って後払いするのと同じ。

(ローン元のクラブは、(ローン終了後に)オファーを受け入れても受け入れなくてもいい?)

ここもだが、それはどんな条項(terms)がついているかによる。だが、ふつうはノーだ。事前に買取の発生するローンを受け入れていて、それが有効なら。

(選手には選択権はない?)

選手には、つねに選択権がある。

(ふつうのローンと買取オプション付きローンの違いは?)

結局、買取オプション付きのローンというのは、買い取るオプションがあるということさ!

選手の権利については、このテーマを検索していたときに何度か見かけたように思うが、そもそも基本的に、(米国と違って)ローン契約には選手サイドの合意も含まれているはずだから、あまり問題にならないように思える。買取条項のあるローン契約を選手サイドが受け入れないなら、そもそもその取り引きは成立しないんじゃないか。

もうひとつ。

(ローン)

選手は、決められた期間(ふつうは一年間)ほかのクラブに送られる。選手はその期間はそのクラブでプレイする。

給与は、ローン先クラブが担うことが多いが、ローン元のクラブが一部を負担することもある。

ローン終了後には、選手は所属元のクラブに戻っていく。

(買取オプション付きローン)

ローンのなかには、条項が含まれることがある。たとえばパフォーマンスに応じたボーナスなど(ゴール、プレイした試合、トロフィ)。

買取オプション付きのローンとは、ローン終了後にローン先クラブが決められた金額で選手を買うオプションがあるということ。

最終的に、その条項を入れるかどうかは選手の所属クラブに委ねられるが、一度それが契約に含まれれば、ローン元クラブはオファーを受け入れなければならない。

(ほかのタイプの「買取ローン」)

これと似たようなシステムの例では、買い戻し条項(buy-back clause)/先行不許可(first refusal)がある。

もしクラブAが、クラブBに選手を売却したとする。そのときに、しばしば彼らは、一定の金額で選手を買い戻す条項を加えることがある(例:Carvajal for Real Madrid)。

もうひとつの例は、ローン先クラブは、その条項が発動したときに選手を必ず選手を買う必要があるというもの。SunderlandとRicky Alvarezのケイスがこれにあたる。条項にしたがい、Sunderlandは降格を免れたときには選手を買わねばならなかった。

これらのポスツへのUpvoteがそれぞれ、6と1。このサブ全体の注目度もかなり低いので、Upvoteの数では判断できないが、この説明をどれほど信用してよいかもよくわからない。

ただ、「買取オプションが無意味」ということは、さすがにないと思うのだ。意味のない約束をする意味がないから。だから、なんらかの意味はあるはず。

だとすると、このふたりが同じように回答している「ローン元クラブは、ローン終了後に、ローン先クラブと事前に決めた金額でのオファーを受け入れねばならない」が正しい気がする。「オプション」であってもローン元クラブには売却の「義務」が発生するという。

通常、ローン取り引きの契約に買取オプションの条項が付いていれば、ローン先クラブは、あらかじめ決められた金額で選手を買える権利を持つのだ。それなら、買取オプションという条項の存在理由が理解できる。買取オプションには大きな意味がある。

さきのNTの例でいえば、OMへのローンに買取オプションがついていれば、NTは自分をOMに買ってもらうことができた。来年夏にローン期間が終わったときに彼の価値がどれだけ上がっていようが、アーセナルは決めた金額でのオファーを拒否できなかったと。

これが、「買取義務付きのローン」となにが違うのかといえば、買取オプションでは、ローン先クラブが選手を「買わなくてもいい」ということになるのだろう。義務ではないので、買わない選択もできる。それが、オブリゲイションではない、オプションの意味。

それでも残る「買取オプション」のモヤモヤ?

そういうことだと理解しても、ぼくはなんだかまだモヤモヤが晴れない。

というのは、買取オプションが仮にそういう仕組みだとして、それだと今度はあまりにもローン先クラブにメリットが大きいように感じるから。このような条件はさすがに、両者にとって受ける恩恵のバランスを欠いていないか。

ローン先のクラブがそれを積極的にほしがる理由はわかる。買っても買わなくてもいいとすれば、リスクもない。それが付いていたほうがお得に決まってる。かなり有利な条件に見える。

いっぽうでローン元クラブには、あまり大きなメリットがあるように見えない。

事前に十分な金額設定ができるのならまだしも、相手と合意しなければならないのだから、それもなかなか難しいだろう。

むしろ、そのローン中に選手の市場価値が上がったときに、事前に決めた割安な金額で手放せばならないのは機会損失のリスクだろう。そこで売却する義務がなければ、市場で適正価格で売ることができた。また買取義務と違って、選手価値が下がったときには買ってもらえなくても文句も云えない。

したがって、疑問として残るのは、ローン元クラブがその条項をつける動機。どういうときなら、あまりメリットのなさそうなその条項をつけることを受け入れられるのか。たいした見返りもなく、それを受け入れるのは気前がよすぎる気がする。それをつけないほうがよほどマシという。

選手に人気がなくて、たくさんのオファーがなく、それを甘んじて受け入れる以外道がない状況とか? それはあるかもしれない。自分たちが売りたい選手を、必ず誰かがほしがるとは限らない。近年はとくに、アーセナルも選手の整理には毎回かなり苦労している。あるいは、たとえばローン期間中の給与負担やローンフィのような、相手からのバーターの条件提示があるとか?

交渉ごとだから、お互いの置かれた状況によって、さまざまな内容の取り引きがあるのは当然ではある。

もしかしたら、われわれがシンプルに「買取オプション」と呼んでいるものは、じつはおもった以上に幅の広い条件や条項が含まれる取り引きなのかもしれない。

いろいろ調べても、満足な、あるいは公的な解答が得られなかった理由はこのあたりにあったのかも。

まとめ

このエントリのまとめとしては、

「いわゆる<買取オプション付きのローン>では、ローン期間終了後に、ローン先クラブには事前に決められた金額で選手を買う権利があり、その権利が行使されるなら、ローン元クラブには売る義務がある」

ということにしておこう。しらんけどね。でも、そういうなんらかの強制力が発動すると考えないと、それが無意味になってしまう。

そもそも「買取義務」みたいな条項がべつに存在するから、買取オプションには義務が発生しないと誤解することになる。今後は「買取義務オプション」と呼ぼう。ややこしい。

 

ということで、このタイプの取り引きにはいろんなケイスがあるとしても、一般的には(ふつうは)こういうものだと、ぼくは理解した。

買うか買わないかについて相手が主導権を握るという意味では、買取オプションというのはこれまで考えていた以上に重みがあると思う。

ヌーノのような選手に、買取オプションをわざわざつけなきゃいけない理由は微塵もない。

 

おわり



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7 Comments on “選手のローンに付く「買取オプション」の実態

  1. レンタルフィーや、借り手クラブの賃金負担の対価として貸し手側が提供できるほとんど唯一の切り札、交渉手段として買い取りオプション付帯の意義があると思います。

    例えば借り手の主張する賃金負担が50/50の時、貸出元クラブはこれを0/100にして目先の出費を抑えるかわりに、割安価格の買い取りオプションを付けるという交渉が成り立ちます。

    貸し手のメリットは目先のコストカットです。将来選手が期待以上の成長を見せ、割安価格で買い取られるリスクを引き受ける代わりに、現在の収支を改善できます。

    借り手のメリットは付け加える必要はないでしょう。

  2. 恐らく本エントリ内で取り上げてくださった、引用RTをした者です。
    いつも楽しく拝見しているので光栄です。

    文字数を抑える為にだいぶ端折りましたが、引用RTの内容としては「買取オプションなんてただのオプションなんだから今後移籍できないと決まったわけでも無いし、行きたいんだったら活躍して価値を証明して、マルセイユにアーセナルの評価額で買い取ってもらえばいいよ。」ということでした。

    そこで、思い出されるのが今夏のトレイラを巡る件です。
    フィオレンティーナには買取オプションがあると言われておりましたが、それを行使せずに敢えて一旦白紙にした後、買取オプション金額よりも低い額でのオファーだった為に、なんやかんやあったのでしょうが最終的に移籍が実現しなかったと認識しております。

    買取オプションが付いているにも関わらず行使しないということは要らない…のかと思いきや、まさかの値切る為だったという初めて聞くパターンにとても驚いたのと、本当にお金が無さそうなセリエのクラブとの取引は厄介だなと思いました。

    また、フィオレンティーナ移籍が破断と報道された際の「移籍したかったのに誰かがそれを望まなかった」(意訳)というトレイラの、恐らく積極的に放出したがっていたアーセナルへ向いているであろう恨み節にも買取オプション付きローン移籍の奇妙さが詰まっている気がします。

    ベティスに買ってもらえなかったベジェリンも、実はそんなに評価されていなかった(かは分かりませんが)トレイラも、所属元クラブのファンとしてはちょっぴり哀しい現実だなぁと思います。

    ゲンドゥージと同じくなんだか憎めないタヴァレスにはマルセイユで伸び伸び活躍して、しっかり移籍金出してもらって幸せになって欲しいです。
    頑張れヌーノ!!

  3. 残価設定ローンみたいな考え方だと思ってました。
    貸元が考えている1年後のその選手の市場価値より少し高い値段を払ってもらう代わりに、借り手はその選手を試運転する期間があり、それで良ければ買うことも出来ると。ローン元のリスクとしては思った以上に選手の市場価値が上がって機会損失をすること(ex.マヴロパノス)ですかね。いい具合に活躍出来ればより高値でセル出来るし、買取がなければそれはそれで市場価値通りの選手がマーケットに出るだけです。
    ヌーノやバログンは買取OPがついていないので「市場価値が上がる選手」と見做されているということになるんだと思います。

  4. 残価設定ローンみたいな考え方なのだと思います。
    つまりローン元は選手の市場価値が下がることを見込んでいると(ローンに出すということはチーム内で出場機会が無いんでしょうから当然ですよね)。であれば今の価格に近い値段売ってしまいたい。一方でローン先は選手の価値を1年通して見極めることができるので多少利子を払うことになっても大きな損を出さずに済むというわけですね。
    ローン元が損失するパターンは選手が大活躍して見込んでいた金額以上の価値が出た時だけだと思います(マヴロパノスみたいに)。ローン先で買取してもらえなかったとしても、それは適正な市場価値の選手が手元に残るだけなので。

    翻ってヌーノは買取OPがつけられてないのでアーセナルのボードから「これから市場価値が上がる選手」と見なされているのだと思います。80億くらいの選手になって帰ってきてほしい。

    1. ローン元には飼い殺しによる選手の価値下落のリスクがあるかな?と思います。
      だからこそ出場時間(不足)を条件とした呼び戻し条項あったりなかったり。
      逆に出場時間を条件とした買い取り義務があったり(契約内容は普通は表に出ないし)、サラリーキャップやFFPを理由としたローン放出があったりと複雑ですよね。
      若手 or ベテランの違いや育成クラブ or 目先の勝ちが欲しいクラブの違い、スタメン or バックアッパーとしての獲得方針の違い、残り契約期間等など……を考えると結局ケース・バイ・ケースじゃね?と思ってしまいます。
      整理してパターン分け?をするのは賢い人にやって欲しいですね!!!

  5. いつも読み応えのある記事をありがとうございます!楽しく拝読させていただいております。
    買取の主体は借り手側なわけなので、義務=(借り手側は)買い取らなくてはならない、オプション=(借り手側は)買い取りを選択できる(貸し手側は売らなければならない)ってことですよね。オプションをつける理由はそうでもしないと借りてもらえないから、という認識ですが、hytさんおっしゃるとおり、オプションなんてなくても適正価格で移籍すればいいわけで、ヌーノが文句をいうことでもない気がしますね。

  6. 語句ってホント大事だなと。買い取ってもいいです。って意味あるの?ってなるのは分かる。
    ある意味では売却義務オプションって事なんだなぁ。と。
    ローン元からして義務って、とにかく売りたいんだから値はそこそこでOKという案件という事で、
    メリットはグーナーならここ最近は良く分かる。笑
    とにかくレンタルばかりで。。マルちゃんとウィロックぐらいですよ。
    来夏で清算して、いいサイクルが造られることを祈ります!

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