試合の論点
アーセナル vs ディナモ・ザグレブのトーキングポインツ。
ホームでほぼ完璧なコントロール。お仕事完了でラスト16
今回の試合は、ディナモ・ザグレブのレベルが想像以上に低かったので、アーセナルのよいパフォーマンスはその理由が大きいように思われる。彼らは残念ながら普段アーセナルが競っているレベルには遠く及ばなかっただろう。CLでアーセナルのここまでの試合のなかでも、かなりイージーな部類だったんじゃないか。
おかげで、あのようにアーセナルが一方的にボールを持って支配する試合になった。
この支配的な試合になった理由は、LBにジンチェンコが起用されたことも大きかったと感じた。彼は守備でさらされなければ、あそこでゲイムメイキングできるInvertedロールは当然すばらしい。2-3-5シェイプの3で、ジンチェンコ、ジョルジーニョ、ティンバーというボールを持って司令的にプレイできる3人があのポジションにいるのは、さすがに豪華だった。とても安心して観ていることができた。
ぼくはなんだか、かつて「まるでハンドボールのよう」と云われたゼロ年代のティキタカなバルセロナを思い出してしまったな。ディナモのプレッシャーのゆるさもあった。
アーセナルの最初のゴールが2分に決まったことや、その後もボールを持ってチャンスをつくりつづけたことも合わせて、楽勝ムードが終始ただよっていて、逆に前半の終わりごろには、キヴィオールやティンバーが危ないエリアでボールを持ちすぎて奪われそうになるなど、集中力の欠如すら観られたほど。緊張感を維持できずにいる試合では、ああいうことはたまにある。
ただ、問題はあれだけの試合展開なのに、長く1-0で進んでいたことで、両チームで攻守の役割が固定されるなかで攻撃の停滞感があったこと。いつもの悪いときと同じ、攻撃に意外性が見いだせない。だから66分にネリのクロスからハヴァーツがゴールを決めた時間帯が非常によかった。あそこで、試合はほとんど終わっただろう。
そのあとは、サブで入ったワニエリがシャープなところを見せたり、そのワニエリからの絶好のクロスをゴール前でどフリーのライスが外したり(0.37xG。あれは入れないとなあ)と、もろもろありつつ、最後はトロサールのクロスからオーデガードが押し込んで3-0で試合終了。トロサールはまたアシストを決めたと思ったら、記録されていないようだ。ディフレクションがあったから?
この試合は、アーセナルが一方的にボールを支配してチャンスを量産するという意味では、あまり珍しくない試合なのだが、いつもとはっきり違った部分が左右の攻撃バランス。なんと、右より左サイドからの攻撃のほうが多かったという。これは珍しい。
これは、あいかわらずのスターリングがRWでスタートしたことなど、いくつかの原因があると思われるが、やはり大きかったのはLBジンチェンコかもしれない。彼は74分間のプレイでタッチが86あり、アーセナルの選手のなかではともにフルタイムまでプレイしたジョルジーニョ(101)、ビッグガビ(91)についで3番めにタッチが多かった。
LWでスタートしたマルティネリも高評価される試合になったが(BBC SportのMOTM)、それもジンチェンコ効果がけっこうありそう。
やはり左サイドにもクリエイターがいるのは違うなと思ったものだ。しかし、アルテタはすでにジンチェンコのLBをあきらめているのが現実であり、今回のような(彼が守備でさらされない)試合は、今後はあまりないかもしれない。
もちろんライスの活躍もある。
いっぽうで、オーデガードがひきつづき元気がないのが、少し気になりはした。元気がないというと語弊があるかもだが、やはり全盛期の主役感がない。あれは戦術なのか、右のタッチラインでパスを待ってることが多いことも。彼は最後の最後でゴールを決めたので、それはよかったと思うが、彼のフォームはこれからも注目したいところだ。
最近ライスがフィットネスのためにプレイ時間をマネジされていたという件が、試合後会見でもあらためて話題になっていたが、オーデガードもちょっとプレイ時間を減らすことを検討したほうがいいのかもしれない。身体がフレッシュになって動きが見違えるというのはある。
ということで、今回の勝利でわれらはCLのラスト16を決めた。やっふー。お仕事完了。そして、なにかとんでもない事件でも起きないかぎりはトップ8もまあ、ほとんど大丈夫といった状況。
今回は、ちゃんとやるべきことをやって、ふさわしい結果が得られてほんとによかった。
ハヴァーツの真骨頂を観た。だがしかし……
ハヴァーツは、G1 A1でCL公式(UEFA)のMOTM。
アーセナルでゴール/フィニッシュ不足が叫ばれる昨今、9の責任を負う彼に対してはファンのあいだでもさまざまな批判もありながら、今回のゴールで昨シーズンのゴールに並んでしまったという(14)。そして、まだ21試合もある。
Kai Havertz in his last two seasons across all comps for Arsenal:
◎ 2023/24: 51 games, 14 goals
◉ 2024/25: 30 games, 14 goalsI’s taken him 21 fewer games to match his tally from last season. 💪 pic.twitter.com/RX1QLqZcEF
— Squawka (@Squawka) January 22, 2025
理想(というか最低限?)のストライカー像として、よく「シーズン20ゴール決める」みたいなことが云われるわけだが、基本的にはずっと9でプレイしている今シーズンはそれに十分届くペイスでゴールを決めていることになる。PLに限定するとまだ8しかないけど。
先日、やはり昨シーズンと同じゴール数に達したマルティネリといい、いまファンに物足りないと批判されている選手がこうしてじつは結果を出しているという事実は、なんだかおかしな気がする。みんな印象で語りがちというか。これは自戒を込めて。
ファン公式のMOTM投票では、もっとも結果を出したみたいなハヴァーツの得票がこんなに少ないなんて。人気ねえな(笑)。
Who’s your Player of the Match, Gooners? 🤔
— Arsenal (@Arsenal) January 22, 2025
それはいいとして。今回のハヴァーツを観ていて、ぼくがすごく感じたことは、これぞまさにミケルが彼に望むプレイだったんじゃないかと。
アーセナルの最初のゴールでは、マルティネリの単独突破からのカットバックに、ボックスにいたハヴァーツがレイオフして、ライスが直接ズドンでゴール。アシスト。美しかった。
とくに前半、ハヴァーツのレイオフからのショットというのは、この試合で何度かやっていて、かなり効果的だった。27分にはネリ(カットバック)→ハヴァーツ(レイオフ)→ジンチェンコと、2分のゴールとまったく同じかたちもあったのが印象に残っている。
ハヴァーツは云うまでもなく、かなりスキルフルな選手で(毎試合で何度かは「こいつほんとうまいなあ」と思う)、直接のゴールだけでなく、ああしたゴールのお膳立ても彼にかなり期待されている部分だろう。
あとは、彼自身の66分のゴール。あれはネリのクロスが抜群によかったこともあったし、ハヴァーツも長身を活かしたヘッダーで外さなかった。ゴール。あれこそ、9としての彼にもっとも期待されているプレイであり、アルテタはほんとうはもっと彼にああいうクロスに反応したヘッダーを決めてもらいたがっていると思う。
ハイプレスなど守備のハードワーク、高長身とフィジカリティを活かしたボックス内での脅威、それと周囲の選手の活性化。ハヴァーツには、アルテタからのこういった期待感があるなかで、今回の彼はどれもやっていたなと。みごとに期待に応えていた。
ただ、彼のおそらくこれからも変わらないであろう9としての最大の問題は、自分でゴールを奪おうという執着心みたいなものがあまりないことで、簡単に見えるショットも外してしまうあたり、ゴールスコアラーとしての天性にも疑問がある。彼がCFのポジションでプレイしているかぎりは、チームはこれからもゴール不足に悩まされるでしょう、という。
ハヴァーツは、もともとドイツではセカンドストライカーとしてブレイクした選手であり、純正のストライカーではない。昨日だか、ルーカス・ポドルスキも「カイはストライカーじゃない」と云ってた。アルテタも最初はMF(8)でプレイすることを想定して彼を取ったので、現在の状況は必ずしも想定されていなかったかもしれない。
そんなときに、アーセナルはストライカー(ピュア9)を探している。この冬ではなく夏かもしれないが。ちゃんとゴールを外さず決めてくれる選手。
もし彼が9でプレイしない場合、果たして彼はどこでプレイするだろうか。いまのアルテタのシステムには、彼にもっとも合うであろうセカンドストライカーも10も存在しないし、8ではあまりうまくいかないことがある意味で証明されている。となると、これからのチームで彼の居場所がなくなってしまうのでは? バックアップになる? 最高給選手がバックアップとは、ジェズースみたいである。
こんなに気持ちのいい勝利で、ハヴァーツもよかったのに、そんなことをつらつら考えてしまった。
この試合については以上