デクラン・ライスがダイレクトフリーキック2連発でCLの歴史に名を刻む
おっと、話が前後してしまったか。どう考えてもこれがこの試合の圧倒的ハイライト。
デクラン・ライスのダイレクトフリーキック。しかも2連発。試合を決定づけた2ゴールになった。
右足からのあの軌道は、ベッカムの魂が乗り移ってた。このとき、スタンドで観戦していたかつてのフリーキックの名手、ロベカルの姿がカメラに抜かれたのもナイスだった。
あのふたつのスーパーゴールを振り返ると。
まず、最初のフリーキックが決まったのが58分。
そこまで0-0で試合が進んでいるあいだは、まだどちらに試合が転ぶかはわからないところはあっただろう。お互い慎重になっていたのかボールの奪いどころを高くできず、ややオープンな展開で、どちらもボールを持てばかならずファイナルサードまで行くみたいな試合になっていたこともある。
だが、彼らがセットピース守備に難ありという事前情報はあったため、アーセナルのコーナーやフリーキックがどれも大きなチャンスに観えたものだった。
右ワイドからボールを持って中央にカットインサイドしてきたサカがマークしていたAlabaに倒されると、アーセナルがいい位置でフリーキックを獲得。オーデガード、ライス、サカ、キヴィオールがボールを囲み相談している。それをタッチラインから見守るニコラス・ヨヴァー。キヴィオールは、いつもはビッグガビがやっているゴール前に殺到する大男たちにプランを伝える伝達係だろう。
ライスが蹴ることが決まると、準備に入る。レアルのGKのCourtoisはこの日はかなり当たっていたし(5 saves)、アーセナルのフリーキックならどうせこれまでのように壁に当たって終わりだろうと、蹴る前からあまり期待はしていなかった。これまでアーセナルがダイレクトフリーキックを決めたのは2021年9月が最後というのだから、もうぼくらは3年半くらいそれを観ていないのだ。そしてライスが蹴ったボールは……
目の前の壁の真横を大きく曲げて通り抜け、横っ飛びしたCourtoisが伸ばした手に届かず、きれいにネットへ。ズドン。ゴール。コース、球威ともに完璧な美しいショットだった。これぞCLのゴール。
喜びを爆発させるチームに、スタンドぐるりからはこの日いちばんの大歓声。エミレーツが揺れた(※想像)。まさかレアル・マドリッドを相手にリードするとは。1-0。BellinghamやMbappeの放心した表情も印象的だった。
ライスは、ウェストハムとアーセナルでのこれまでのプロキャリア338試合で、これが初めて決めたダイレクトフリーキックという。それがこの超がつく大舞台。彼は、なんという持ってる漢なんだろう。
つづいてその12分後。70分。
今度もサカから始まった。直前までアーセナルの攻撃ターンで、Courtoisの好守もあり、レアルがネリやメリーノ、ライスのショッツをなんとか防いでいた時間帯。サカが単独突破からファウルを誘い、ボックスのやや外側ゴールのほぼ正面少し左という位置でファウルを受けフリーキックを得る。
ところで、ライスのこの2ゴールにはアシストは記録されていないが、松木安太郎でなくともサカに2アシストあげたくなる。間違いなく、ライスの2ゴールは彼個人のつくったケイオスが貢献していた。
今度は迷わなかったというライス。今度も似たようなボールの軌道だが、ボールは右トップコーナーへ吸い込まれる。もう完全にここしかないという場所。これだけギリギリでクロスバーにもポストにも触れていない。
これにはほんとうに驚いたなあ。わしは観ていて喜んだというより、まず絶句だった。信じられないものを観た。
喜びを爆発させるチームに、スタンドぐるりからはこの日いちばんの大歓声。エミレーツが揺れた(※想像)。まさかレアル・マドリッドを相手に2点リードするとは。2-0。
この時間をおかず2連続でダイレクトフリーキックを決められたことは、レアル・マドリッドの皆さんがいちばん信じられなかったかもしれない。その表情が物語っていた。

Even Kylian Mbappé couldn’t deny Declan Rice’s second free kick 😮💨 pic.twitter.com/BEPWUwFi1M
— CBS Sports Golazo ⚽️ (@CBSSportsGolazo) April 8, 2025
これでライスは、CL史上、同一試合でふたつフリーキックゴールを決めた5人めの選手になった。それをレアル・マドリッド相手にやったのは初めて。
Declan Rice is the fifth player to score two direct free-kick goals in the same Champions League match, after Rivaldo, Cristiano Ronaldo, Neymar Jr, and Hakim Ziyech, and the first to do so against Real Madrid.
#ARSRMA pic.twitter.com/qvDMYR8UOf
— Opta Analyst (@OptaAnalyst) April 8, 2025
そして、CLのノックアウトステイジでそれをやったのも、ライスが初めてという。歴史に名を刻む記録的偉業を達成。
2 – Declan Rice is the first player to score two direct free kick goals in a knockout stage match in the UEFA Champions League. Precision. pic.twitter.com/loLhfmZ7sX
— OptaJoe (@OptaJoe) April 8, 2025
あらためて、このふたつのフリーキックを観ると、レアル・マドリッドの壁がやや薄いというか、スキがそれなりにあるようにも観える。淡白な壁。近年のPLだと、ほとんどのチームは壁のうしろにひとり涅槃仏を置くし、そもそも壁ももっと人数をかけるだろう。そういう雑守備のラッキーは多少あったかもしれない。だが、それがなんだというのだ。そうだとしても、今回のゴールの価値をいささかも減じない。
Declan Rice putting whip on the ball? We’ve seen that before. pic.twitter.com/hwE0MWHSh9
— Premier League (@premierleague) April 9, 2025
メリーノも云っていたように、ぼくもライスはもともとシュートは上手だと思っていた。彼がアーセナルに来てからこれまでに決めたいくつかのゴールのなかには、ベッカムみたいな美しい軌道のショットだってあった。だから、彼がこれまでフリーキックを決めたことがないほうが意外だった。今後は彼が直接狙う機会が増えそうに思える。
最近このブログでもフリーキックの重要性については何度か書いてきた。今後ライスがその解決策になるのなら、じつに素晴らしいことだ。
セットピースFCは、あらたな武器を手に入れたんだろうか。
メリーノがまたまたゴール
レアル・マドリッドの皆さんをお通夜にする3点めを決めたメリさんは、彼のキャリアのなかでもレアルがもっともゴールを決めている相手らしい(4)。こんなところに、キラーがいたとは。彼らの目線だと、またメリーノに決められたと思ったかもしれない。
そして彼自身は今回アーセナルで7ゴールめ。そして、ここまでCFとしてプレイしたPLとCLの9試合で6ゴールめ。9試合で6ゴールは、38試合だと24ゴールする計算である。
この調子で彼がゴールを決めつづけると、クラブが夏にストライカーを取るのを躊躇するんじゃないかと心配になってしまう。
この日、両チームでもっとも走行距離が長かったのがメリーノだったそうで、ハヴァーツといい、そういうハードワーカーっぷりもアルテタが好むものである。
その他よかった選手
まずはやっぱりMLS(18)。タッチやパス、チャンスクリエイションなど、MFとしてのスタッツでもModric(39)を圧倒していたとかなんとか。今回の試合はMFの主導権争いもテーマのひとつだったが、MLSのプレイはつい最近までユースチームにいたとは思えないほど堂々としたものだった。メリーノのゴールでは、アシストも記録。
この試合は、フットボールでは世界最高のコンペティションのトップオブトップの試合だったことを考えると、それだけで18才の彼が平常心かそれ以上の落ち着きでプレイしていたのがあらためて驚異的。しかも、あのInverted FBという戦術的要求のとくに多いポジションで。
MFのバトルという意味では、パーティも。試合プレビューでは触れなかったけど、彼は元アトレチコでマドリッドでは彼らとはローカルライバルだったのだよね。だから、レアルは彼にとっても特別な相手だった。MLSとパーティのパス成功率が、それぞれ95%と94%。両チームでそれより高いパス成功率のMFはいない。彼らはタッチ自体も多いので、それだけ試合に影響があった。
この試合のパーティはとてもよかった。
ジュリティンも、Vini Jrにまったく仕事をさせないなど、かなりの活躍だった。44分、メリーノへのピンポイントなクロスは、もしあのショットがGKにセイヴされていなければ彼はアシストを記録していた。あれは、いつも左右のワイドの位置からしかクロスを上げようとしないアーセナルのなかでは、意表を突くクロスで、効果的だったと思う。
彼のポジション的にはBellinghamと対峙することが多かったが、地上デュエルはBellinghamが3/10に対し、ジュリティンは6/11。同じエリアで優勢にプレイした。
キヴィオール。序盤に短くなった横パスを奪われるという、致命傷になりかねないエラーをやってしまったものの、概ね問題なし。試合中も、ビッグガビの不在を強く感じたことはなかった。相手FWのスピードに手こずるんじゃないかという心配もありつつ、結局彼がターゲットになるようなこともなかった。それどころか、ひょいっと足を出してMbappeからボールを奪うシーンもあった。ガブリエルがシーズン絶望で、CLは最後まで彼がCBでプレイすることになるとすれば、この試合で彼が得ただろう自信は金で買えないほどの価値がある。
ここでキャプテンに言及できないのがさびしいのだが、オーデガードは引き続きフォームを模索中である。ビルドアップでは、彼がいないとボールを前進させるのに苦労したり、べつに今回の彼がとくに悪かったわけではないが、存在感がいまひとつなのは否めない。今回もクリエイターとして決定的な仕事はしなかった。来週のスペインでの大活躍を期待しよう。
選手ではないが、これは最後に書いておきたい。
試合後のアルテタと選手が絶賛しているエミレーツのサポーター。今回もぼくはヘッドフォンで試合をTV観戦していて、それでもかなりの音量だとわかるほどだった。いつもとは違う熱気。現場にいたひとは鳥肌だっただろうなあ。
アルテタは試合前に、ファンは観戦するんじゃなくて、選手たちといっしょにプレイしてほしいと訴えた。現場のコアなファンたちはそのメッセージにまさに応えたよね。あのノイズがチームにエナジーを与えたというのは、よくわかる。チームを奮い立たせた。
ライスの最初のゴールで着いた火が、ふたつめでさらに引火。あのときの火の勢いがメリーノのゴールにつながった。あのあとほんとうに何点でも取れそうだったのは、そういう空気をスタンドといっしょにつくったからだろう。そうやってチームとスタンドがお互いを高め合っていくのを観るのはちょっと感動的ですらある。
こういう試合をまた観たい。
試合については以上
ライスのゴールは喜ぶのを忘れて2発とも唖然としてしまいました。
そして事の大きさに気づき涙が溢れてきました。
105億ポンドの元は今日だけで取れていると感じました。むしろ安い。
仰るように確かにあのバルサ戦も同じようなカタルシスを感じましたね。
ビクトール・バルデスのニアを抜いたファン・ペルシ。
セスクのロンググラウンダー、ベントナーのデコイ(クロスに合わせようとしたのでしょうが)、アルシャビンの当てるだけのようなフィニッシュ。
昨日のことのように思い出します。
数々の軌跡を起こしてきたベルナベウなので3-0でも全く油断出来ませんが大丈夫!今シーズンのアーセナルは一度も3点取られた事はないのです。
105億ポンドはさすがに高いなぁ(笑)
もちろん冗談ですよ
COYG!!!
あ、ほんとですね(笑)
失礼しました〜すみません!
1億500万ポンドでしたね。
怪我もしなけりゃ好不調の波も少なく、6と8を高次元でこなすんですから参りました。
MLSといい、「初」をこの大舞台で出すなんてやはりスーパースターの星のもとに生まれたんですね。
歴史的なゲームになりましたね!
間違いなく数十年後も語り草になると思います。本当に素晴らしい夜でした
North London Forever!!
このチームを好きでよかった…
チェンさんもありがとう…!!