試合の論点
マンU vs アーセナルのトーキングポインツ。
Kickstarting our campaign with three points ✨
Watch all of the key moments from our 1-0 win over Manchester United 🎞️ pic.twitter.com/oMzNB8WaSU
— Arsenal (@Arsenal) August 17, 2025
劣悪パフォーマンスのアーセナル。速いプレイを目指したから?
この日のアーセナルは、なんだかフィットネスも万全には見えず、全体的になんだか疲れているようだったが、単純なパスのミスが多かったことも、よけいにそれに悪い影響を及ぼしたように思える。ミスが多く流れるようにプレイがつづかないので、ボールを持って自分たちが攻撃している感覚がないし、つねにボールを持った相手を追いかけては、うまいことかわされる。その繰り返し。ハマらない徒労感。エナジーもそがれるというもの。
逆にマンUは、マンUにしてはけっこうよかったと思う。マンUなのに。彼らのボスも称賛しているようにビルドアップは悪くなかったし、CunhaとMbeumoを使った攻撃も効果的だった。
とくに、彼らはクロスフィールドのパスをかなり意識していただろう。あれをやられると、アーセナルの守備は逆サイドで1 v 1状況で起点をつくられ、毎度対応に苦慮していた。Mbeumoはアーセナルの補強ターゲットだっただけあり、単独でもやはりかなり脅威だった。
彼らはチーム全体の完成度はまだ低いように感じるも、CunhaとMbeumoで、攻撃はリーグでも屈指のチームになるかもしれない。いや、彼らのことはどうでもいんだが。
とにかくアーセナルは、試合が始まって以降すぐに噛み合わない感じがあり、時間がたつにつれてそれが解消されていくのかと思いきや、結局最後まで噛み合わないまま終わってしまったという気がする。
なぜだろう。
それはシーズン初戦の難しさもあったろうし(これはお互い様である)、マンUがホームの地の利を活かしていいプレイをしていたこともある。しかいし、いっぽうでアーセナルの問題もかなりあったように思える。
なかでも気になったのはライスで、彼はこの日はあまり冴えなかったし、オーデガードやズビメンディにくらべてタッチも少なく、試合にあまり関与できていなかった(83分でタッチ32)。彼はフィットネスに問題があったんじゃないかとも云われるがどうだろう。チームのキープレイヤーであるライスがあの場所で存在感を示してくれなければ、アーセナルのMFは当然苦しくなる。
アルテタは、プリシーズンのビルバオでやったような、ライスとズビメンディのダブルピヴォットをなぜやらなかったんだろう。あの試合ではライスがMFの最後尾にいて、ズビメンディをやや前に出すというやりかたでアルテタもかなり手応えを得たのだと思ったが、この試合ではそのような関係性はほとんど観えなかった。アルテタは、てっきりあれを本番で再現するつもりなのかと思っていた。ズビメンディは悪くなかったので彼の6は問題はないが、ライスがあまりプレイに関与しないのはあまりいいことではなかった。
マンUのMFは未完成で、アーセナルのMFはそこに付け入るすきがあったはずなのに、こちらがMFを制圧したという感じはまるでない。ライス本人の問題か、アルテタの戦術的問題か。
それと、個人的にはあまり同意しないが、この試合がああいう見た目だったのは、アーセナルがコントロールよりも、速いプレイやダイレクトプレイをしようとした結果なんじゃないかという説もある。つまりわれらがプレイのアプローチを変えた影響。
After a summer of planning for it, Arsenal played fast, incredibly fast. In fact their direct speed was 55% higher than the average since 2022-23.
Were the seven seconds or less Gunners entirely by design, a function of a chaotic game or just a mess? https://t.co/nIfAqkoH7D
— James Benge (@jamesbenge) August 17, 2025
ジェイムズ・ベンジの記事によると、「この日のアーセナルがゴールに向かって進んだ秒速2.02メートルというスピードは、2022-23、2023-24、2024-25の平均より55%速い」ということ。アーセナルのパスの成功率の低さ(74.5%)もそれにより説明できると。
たしかにヨクレスが来てからのアーセナルでは、縦に速いプレイへの変化はテーマのひとつと考えられているし、この試合でもカウンターアタックの機会はアーセナルの試合にしてはかなり多かったと感じた。
もっとも、それはアーセナルが意図したというよりは、単純にマンUのストラクチャのおかげでMFがかなりオープンで、トランジション/カウンターアタックの機会が多かっただけのような気もするが。
しかし、いずれにせよその機会が多くあったのは確かで、われわれがあまりそういったプレイに慣れていないことが露呈してしまったのも事実。
このトランジション状況のまとめ動画をあらためて見ると、悪い意味でため息の出るようなシーンの連続がある。
We are one of the worst team on transitions. Season is long and we might not be as lucky as we were today.
Arsenal – All Transitions from today’s game 👇pic.twitter.com/LtqrqzbiwB
— AFC_Adi (@AFC_Adi06) August 17, 2025
相手からボールを奪ったとき、ひとまずボールはいいかたちで前へ運べるものの、肝心のラストパスの精度が低い。どこに展開しようか、いろいろ考えているうちに時間切れで選択肢がなくってしまうみたいな。なんというフラストレイション。
試合後は、何度かわかりやすい判断ミスをやらかしたオーデガードが批判の的になっているが、彼だけでなくほかの選手たちもトランジション状況でまったくいいプレイができていなかった。マンUのDFたちが慌てて背走するケイオスをつくっているのに、そこをまったく利用できない。
カウンターアタックは、アルテタのアーセナルがこれまで戦術として積極的に取り組んでこなかったもののひとつだろう。むしろ、速い攻撃よりも遅い攻撃を好んでいたとすら思える。
だから、カウンターアタック、ファストアタック、ダイレクトアタックはアーセナルにとり新しい方法であり変化。そして、ギョクレスの強みを活かすと決めた以上はそこから目を背けられない。この試合では、その適応にはまだかなり時間がかかりそうに思えてきた。
この日は、シーズン初戦、アウェイ、宿敵マンUと、アーセナルが完璧に自分たちの良さを出すことが難しい環境が揃っていたため、こうしたパフォーマンスになってしまったのもある程度はしかたないのかもしれない。
しかし、仮にあまり得意でない速いプレイを目指したというだけで、こんなふうに精度の低いプレイに終始してしまうようでは、とてもまずいと思う。もっとうまくできただろう瞬間も何度もあったから。
今回のような劣悪パフォーマンスがほかの場所でもつづくとは思わない。しかし、トランジション時の劣悪パフォーマンスはどうにかしないと死活問題である。
もっともこのプレイに慣れてほしいのはやっぱりオーデガードですかねえ。彼がトランジションで前を走るランナーに最高のパスを出してくれれば(もちろん彼ならできるしこれまでもやってきた)、問題の多くは解決できそうな気もする。
キャプテンがんばれ。
After Arsenal’s 1-0 win against Man Utd, only Tony Adams (130) has won more Premier League matches as the Gunners’ captain ©️ pic.twitter.com/Z3w0mWSuhd
— Premier League (@premierleague) August 17, 2025
PLデビューのヴィクター・ヨクレス、ほろ苦デビュー
60分のプレイでシュート、アシストがともにゼロ。タッチが22、ドリブルが0/1、パスが4/9(44%)、デュエル勝ちが地上2/7、空中1/6。
ほぼ何もやらせてもらえなかったのと同じ。なにもできずにピッチを去る彼に、マンUのファンたちはやんやと囃し立てていたな。本人もさぞかし悔しかったろう。
ただ、これはぼくもアルテタと同意見だが、この日はアーセナルのチーム全体(とくに攻撃)が悪すぎて、彼がそのようなアウトプットでも逆にがっかりしていないというか。
これが、仮にポゼッションで圧倒して、完璧に試合をコントロールしチャンスもそれなりにあって、それでも……というのなら悲観的になるに十分だが、今回はそれとまったく違っていた。
このような試合で彼のようなタイプのCFに結果を出せというのは、ちょっと無理があるだろう。
むしろ、9としては彼のフィジカリティを存分に活かしたプレイをしていたし、DFの裏へのランのような得意なプレイもあった。そういった彼の強みの片鱗は、見せていたほうだと思う。
Gyokeres physicality is translating to the PL (at least for a match) pic.twitter.com/JKPBWkpCH2
— Scott Willis (@scottjwillis) August 17, 2025
彼が多少不器用なのは最初からわかっていることで、今回彼がいくつかやったドジっ子プレイもとくに気にならない。そんなのはすでに織り込み済みである。
だから、めげずに今後も粛々とやっていくだけだ。今回のようにチャンスもないんじゃ批判もできない。
今年もセットピースFC
プリシーズンでも、コーナーキックでヨクレスとビッグガビがふたり左右に分かれてボックスにはいっていくみたいなルーティーンをやっていたので、今回もなにか新しいことをやるか期待していた。
やりましたな。新しいの。ボックスの際に5人が並んでいっせいにボックスに入っていくみたいなやつ。いつも必ず、新しいことを加えていくニコ。
そして今回は最初のコーナーが決まったという。最終的には、あれが3ポインツをもたらしたのだから、今年もやはりセットピースはキングである。
アーセナルはセットプレイで優秀なばかりに、オープンプレイからの物足りなさが際立ってしまうという側面はあるものの、それとこれは別問題。あっちはあっちで進歩させるべきで、こっちはこっちで同じように進歩させればよい。
それと、今回はロングスローも何度かやっていて、今シーズンはロングスローは戦術的に組み込んでいくのかもしれない。
いいんじゃないか。
ポジション争いからベンチ争いへ。スクワッドデプスとチームセレクション
さて、これは試合内容とはひとまず関係はないのだが、この試合で気になったので。
この日のアーセナルのチームセレクション。驚きは、ベンチにも入れなかった選手たち。
明らかな売却対象の選手たちはいいとして、今回キヴィオールすらベンチに入れなかったことはちょっとした衝撃だった。ジンチェンコだって、ほぼ戦力外のようなものでも去年はほとんどの試合でベンチにはいた。それが不在。
この日のベンチ9人を観ても、外せそうな戦選手がいない。
そして、このなかで今後いなくなる可能性があるのはトロサールくらいということは、ベンチの席は実質的に残りひとつしかない。今後誰かにケガでもない限り、キヴィオールすらPLのベンチに入ることも難しくなってくるという。ジェズースが復帰してもベンチに入れないかも。
これはチームセレクションで当落線上の選手には、かなりタフな状況になった。スクワッドデプスが充実してくるというのは、つまりこういうこと。それがよくわかるこの日のアーセナルのスクワッドだった。
キヴィオールにはこの夏もチームに残ってほしいとは思うが、ベンチにも入れない状況では、さすがにレギュラーでプレイできるチームに行きたいだろう。
期待していたダウマンのPLベンチ入りも、こうした現実を観るに、云うほど簡単じゃなかったようだ。
ノーガードは今回病気だったようだが、フィットしていれば彼はこの試合でも逃げ切り用に使われたかもしれない。
このトロサールの席を、アルテタがノーガードとダウマンどちらに与えるかと考えれば、それは考えるまでもないという気がする。それに、もしトロサールが移籍するなら新しいLWが来るはずで、彼がチームに入るなら、今度はノーガードすら危なくなる? あるいはモスケラ? あるいはワネーリ? うそ。
チームが充実することは基本的には歓迎すべきことだが、こういうことが起きるという現実。なんという厳しい世界。チェルシーとかどうやりくりしてたんだろ。
この試合については以上