こんにちは。
今日は台風が近づいているということで、東京も朝からすごく風が強くて不穏だ。
さて、IBまっさかりで、アーセナル界隈もめぼしいニュースが全然なかったりするここ数日ながら、この件はちょっと触れておきたかった。
Arsenal built the Emirates Stadium for a future that never materialised. Just as they committed to the new arena, football’s financial landscape mutated. It left them lagging behind. Now the game is changing again — and they need a better Emirates. #AFChttps://t.co/Zdo1iCYFki
— Sam Dean (@SamJDean) October 7, 2025
おとといのThe Telegraph(Sam Dean)が報じていた、エミレーツスタジアムの改修の件。
06/07シーズンからアーセナルがホームスタジアムとして使い始めたエミレーツは、なんと来年が20周年。現在基準のスタジアムとしては、すでに設備の陳腐化や老朽化からも改修の要請があることは以前から指摘されていた。
その計画が、クラブのなかでいま進んでいるようなのですな。
今回はそれについてすこし。
「アーセナルはよりよいエミレーツを必要としている」by The Telegraph
Sam Deanによる記事を要約しよう。小見出しはわしによる。
エミレーツ建設当初からのフットボール界の変化
- 2006年7月エミレーツをオープンした当初、アーセナルには楽観的な空気があった
- 2007年のクラブ決算でマッチデイ収入は、ハイベリー最終シーズンの£44mから£91mと2倍以上増加
- 予算内で完成させた新スタジアムからの経済的利益に「移転は大成功」と当時のチェアマンPeter Hill-Wood
- しかしながら、そのあとクラブの将来像は期待どおりとはいかなかった。スポーツ面ではPLもCLも勝てず、クラブ財政面ではフットボール界の急速な変化があった
- とくにマッチデイ収入の重要性。7シーズン後には、マッチデイ収入は放映権収入に完全に追い抜かれた
- 現在エミレーツのマッチデイ収入はアーセナルの総収入のおよそ20%に過ぎない。放映権料収入はその倍
- この20年でフットボール界のあらゆる要素(放送契約、選手給与、移籍金、コマーシャル収入)の成長のなか、エミレーツの相対的な財政力は低下した
- 06/07~23/24では、マッチデイ収入が45%の増加に対し、放映権料収入の増加は495%。コマーシャル収入は627%
フットボール界の財政構造がふたたび変化
- ではなぜアーセナルはあらためて大規模かつ高額なスタジアム改修を計画しているのか?
- それはフットボール界の財政構造がふたたび変化を始めたため。以前とは異なる理由と規模でマッチデイ収入がふたたび基盤となっている
- もっとも基本的なレベルではPSR(財政健全性規制ルール)がある。そのなかでインフラ投資はコスト計算から除外される。つまりスタジアムの拡張はゼロコストで多大な利益を生む
放映権料収入バブルの終焉
- またもうひとつの財政的要因に、放映権料収入の伸びの鈍化がある。ブームは事実上終焉を迎えた
- インフレを考慮すると、PLの放映権料収入は2016-19年の放送サイクルより31%減少している
- 1試合あたりのライブ中継の価値は2016年以降、£10.2mから£6mに下落した
- そのため、いまやマッチデイ収入がふたたび極めて重要になりつつある
スタンドの急勾配でエミレーツを敵対的雰囲気で満たす聖域へ
- アンフィールド、トトナムホットスパステディアム、オールドトラフォード。アーセナルはそれらの計画を目の当たりにし、必ず追いつく必要があると認識している
- 試合の雰囲気においてエミレーツは時代遅れに感じられる。観戦には快適な場所だが、多くのサポーターが渇望する敵対的雰囲気とは程遠い
- とくにスタンドの急勾配。トトナムステディアムやエヴァトンのHill Dickinsonステディアムとくらべれば、エミレーツの低い座席はフットボールステディアムというよりは劇場のよう
ファンのスタジアム改修への懸念とクラブの決意
- サポーターのあいだでの懸念は、改修工事(※£500mが見込まれる)とウェンブリーへの一時移転のコスト。多くのファンはエミレーツ建設後の緊縮財政時代にトラウマを抱えている
- アーセナルが「世界のどのクラブとも対等に戦える」と宣言したのは2013年で、そのときすでにライバルに遅れをとっていた
- しかし時代も変わった。エミレーツのオープンから20年、アーセナルはノースロンドンのホームを再構築する強い動機がある
以上
「エミレーツ建設後の緊縮財政時代」。もう忘れかけてたけど、わたしたちはずっとそれに文句を云ってきましたね。いまは昔。
そう考えると、いまのアーセナルがあるのはやっぱりオーナー投資が大きいと思う。あの時代、アーセナルはずっと(なぜか)オーナー投資のないクラブで、ファンは毎度の移籍市場で#KronkeOutを叫んでいたが、オーナー投資がふつうになった現在はすっかりチームも競争力をつけ、もう誰もオーナーに文句を云わなくなったみたいである。スタンからジョッシュへの世代交代もあった。感慨深いなあ。
放映権料のことは知らんかったな。もう成長が止まっていたのか。まあ新興国でも人口には限りがあるので、いつか成長が止まるのも必然だったわけだが。もう頭打ちとは。
計画は初期段階で実施時期は未定。ウェンブリーの一時利用が検討
BBC Sportほかによると、アーセナルがエミレーツの改修工事をする期間、一時的にウェンブリースタジアムをホームとして利用する案があるという。
16/17には、トトナムが自前のスタジアム建設のためにそれをやっていたことが記憶に新しい。
BBCの記事では、いまのところ「協議は初期段階」ということで、まだ具体的な計画が進んでいるというわけでもないようだ。
Sky Sportsの記事では、「アーセナルがスタジアム改修を話し合い始めてからもう一年以上がたっている」という。そして、地元イズリントン議会も、現時点ではそれについてアーセナルと正式な話し合いはしていないということ。
たしかに一年以上前、オーナーのジョッシュ・クロンキがエミレーツのアップグレイドについての議論があると認めている。
24/25プリシーズン、ジョッシュ・クロンキが語る「これからもサポーターを誇らしくさせつづける」 | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
レアル・マドリッドに触発?
アーセナルがエミレーツ改修を目論む動機には、トトナムやマンUなどさまざまなライバルクラブの新スタジアムなどの存在があるが、なかでもレアル・マドリッドの成功が重要なようだ。
Had a look at why expanding/redeveloping the Emirates makes sense for Arsenal.
This point felt key:
Last year, matchday income was the fastest-growing revenue stream among the top 20 clubs in Deloitte’s Money League.
Piece:https://t.co/DzEQrTyPlt
— Simon Collings (@sr_collings) October 8, 2025
デロイトの今年度の分析によると、レアル・マドリッドはクラブ史上初めて年間収益€1bnを突破し、そのおもな要因はマッチデイ収入であった。
スペインの巨人は、改修されたベルナベウの恩恵を受け、マッチデイ収入だけで£210mを計上。これは前年度の2倍に相当する。
実際、デロイトのマネーリーグ上位20クラブの中で、マッチデイ収入はもっとも急成長を遂げた収入源だった。これは、フットボール界の今後の方向性を明確に示すものである。
スタンドの急勾配で収容人数増加。SoFiスタジアムのような最新設備
現在のエミレーツの収容人数が60,704。改修計画は、これを70,000以上にする。これはロンドンクラブでは最大規模になる(※トトナムのそれは62,850)。当初は80,000にもおよぶ客席も検討されたが、のちにそれは現実的ではないとされたようだ。
アーセナルにはシーズンチケットのウェイティングリストに10万人以上が登録しているので、増えれば増えるだけ席は埋まる。
そして、そのためにはスタンドの観客席の配置を急勾配にする必要があり、またそれによってフットボールスタジアムの独特の雰囲気が醸成されるという。
この話題でファンにとってもっとも関心が高いのは、やはりその部分ではないだろうか。こんなイメージらしい。客としてはけっこう怖いやつ。アウェイチームの選手がピッチから見上げると、もっと圧迫感があるということか。ホームチームにはそれが一体感になる。
それと、改修にあたっては観客席を増やすだけでなく、設備の最新化も図り、そこにはKSEが所有するロサンゼルスのSoFiスタジアムの建設ノウハウが持ち込まれる見込みという。
SoFiスタジアムは、NFLのファンのひとにはおなじみだろうし、アーセナルのUSツアーでも何度か使用していて、天井の360°のモニタなどけっこう未来的でかっこよかった記憶がある。

これはアメフトはよくても、エミレーツにはそぐわないかも。
いつやるか。アーセナルのタイトルとのタイミングが重要?
このエミレーツの改修計画自体は、クラブの収益も増えて、スタンドの観戦体験も向上して、ファンとしても素晴らしいものと思われるが、工事期間中(ワンシーズン?)にホームスタジアムを離れることになれば、そのタイミングによってはいまのアーセナルの勢いを削ぐ懸念もあるっちゃある。せっかくのファインフォームがそれで途切れるのだとすれば、残念だ。
20年というこの長い時期のアーセナルを俯瞰すれば、いまがまさに栄光をつかまんとしている真っ最中だろう。
エミレーツスタジアムを建てたおかげでクラブには金がなくなり、極貧ぐらしで毎年のように中心選手が移籍、成績も低迷。そうした期間がながらくつづいた。マネジャーがヴェンゲルさんからエメリ氏になり、アルテタが来てからだって何度も絶望的な気分になった。
それがいまや3シーズン連続で2位フィニッシュ、去年はCLでもセミファイナル(ラスト4)までたどり着いた。なにより、フットボールのクオリティが間違いなくトップレベルになったと実感できる。シティにもリヴァプールにも全然劣っていないのだから。
だから、ウェンブリーで一年過ごす前に、アーセナルには栄光を勝ち取ってほしい。できれば今年PLとCLを。いや、もし今年PLを取るならCLは来年でもいい。
めちゃくちゃ強いアーセナルになり、そこで新スタジアムをお披露目。そうなれば最高。
おわり