試合の論点
アーセナル vs アトレチコ・マドリッドのトーキングポインツ。
アトレチコの消極性でアーセナルのモダンなつよさが際立つ
アウェイチームにもうちょっとだけ運があれば、実際とは違うスコアになっていたかもしれない。しかし、やはり10回対戦したら8-9回はアーセナルが勝ちそうなクオリティ差はあったように感じた。
うーん、想像していた試合とだいぶ違ったなあ。
いや、というかアトレチコ・マドリッドというチームはアレはいつもどおりなのか? それともアウェイだから?
ぼくはそれこそ前回のELでの対戦から8年ぶりくらいに彼らを観るから、ほぼ彼らの現在の姿は知らないのだけど、想像していた彼らとだいぶ違ったなと。試合巧者とかそういうイメージしかなかった。そういう意味では去年のCLレアル・マドリッドを想起する部分もある。実際試合を終わってみれば、あれ?という。肩すかし。
あれじゃあレアルとてPLでトップ4もあやしいと思ったが、今回のアトレチコはトップ4どころか、トップハーフも難しいんじゃないかと思えた。
もっとも面食らったのは、彼らのボールがないときのアプローチ。
PLだと、基本的にボールがないときにもアグレッシヴなプレッシングやブロック守備で、まず相手が嫌がることをしようとするだろう。
ところがアトレチコは、いきなり4-4-2のままオウンハーフに引くだけで、とくにアーセナルのバックラインにプレスをかけるでもなく、ボールが侵入してくるのを待っているだけという。フィジカルな部分やアグレッシブな部分がまったくない。
しばらく時間がたってから、両者の力関係が見えてきてそういう構図になっていくというのならまだわかるが、この試合の彼らは試合が始まってすぐにもういきなりそうなった。PLにはもうこういうチームはほぼないのでは。
アーセナルのスタートからのプッシュがけっこうインテンスで自信満々なようにも見えたのは、彼らの受け身なアプローチが助長した部分もあるんじゃないか。あれでは相手がアーセナルでなくとも自信を得てしまう。
先に書いたPPDA 16.7という緩慢なプレスのスタットが示すように、彼らに守備のアグレッシブさがほとんどなかった。ぼくはむしろ、彼らはニューカッスルのようなむしろ守備でアグレッシブなチーム像を勝手に思い浮かべていたので、あまりの消極性に逆に驚いてしまった。
いっぽうのアーセナルは、いつものようにピッチのどの部分でも激しく相手を追い回し積極的にボールを奪いに行ったので、その落差がすごくて、まるで違う時代のチーム同士が戦っているみたいに感じたほど。
アルテタのアーセナルがいまのような堅守のチームになってから、彼と守備フィロソフィが似たコーチとしてシメオネの名前はしばしば言及されるが、さすがにこれは全然違っていたと思う。似ても似つかない。これが彼らのふだんからの姿なら。
そういう試合だったから、アーセナルのモダンなアプローチがより浮き彫りになったように思う。ハイプレスとハイライン、フロントの選手を含めて全員がインテンスに守備をするし、誰も自分のタスクをサボらない。守備だけでなく攻撃も。19ショッツでSoTが8。ゴール以外にもいくつかのいいチャンスを思い出せる。これは保守的とか現実主義的なプレイスタイルのチームの攻撃スタッツじゃない。守備と攻撃を高いレベルで両立させている。
ちまたではセットピースばかり騒がれているが、今回も示したようにセットピース以外にもチャンスをつくっているし、今回はそれでゴールを決めることもできている。アルテタが、「いろいろなやりかたでゴールできる」と自画自賛したくなるのもわかる。
アーセナルファンとしてこういうのはやや口はばったいが、これはフットボールの2025年版最新モデルではないか。セットピースを重視した戦術の是非はともかく、トレンドの先端にいるのは違いないし、それも含めてこの試合でも極めてレベルの高い攻守のパフォーマンスがあった。そして、それを今シーズンは厚いスクワッドデプスでもってチームのクオリティを落とさずにつづけている。
冒頭にも書いたように、この試合のあと、少なくないライバルクラブのファンたちが、悔しさをにじませながらもいまのアーセナルの総合的な強さを認めていたのが印象的だった。
アトレチコの予想外の消極的な姿勢のおかげで、そのコントラストもあり、アーセナルの完成度がよりはっきりと見えた。そんな試合であった。
「ヨクレスのゴールはいずれ来る」来た
しばらくゴールレスがつづいていたヨクレスについて、アルテタをはじめ何人ものチームメイトが「彼のゴールはいずれ来る」と云っていた。まったく悲観的ではなかった。
そして、それが現実になった。2ゴール。9月なかばにPLフォレストで決めてから7試合ぶり。もう一ヶ月以上たっていた。
まあ、こういうことだよなと思う。アーセナルのようなトップチームでFWとしてプレイしていれば、ゴール前でチャンスがないわけがなく、ポルトガルとはいえ彼のような超絶ゴール記録を持つストライカーが、チャンスを外しつづけるはずもない。だから、今回のゴールは必然だった。
とはいえ、ゴールが決まったあとの彼の表情を見れば、あきらかに安堵があり、いかにゴールへのプレッシャーがあったかが察せられた。そして、チームメイトたちの喜びようも、とてもよかった。みんなが自分のことのように喜ぶ。あれは、観ていて心があたたまったなあ。
Viktor Gyökeres ❤️#UCL pic.twitter.com/NOiHcxa0gg
— UEFA Champions League (@ChampionsLeague) October 21, 2025
今回の彼のストライカーとしてのスタッツは、ショッツ3(SoT3)なので、じつはそのあたりは最近のゴールできていなかった試合とそう変わらない。しかし、今回は全体的に目立っていいパフォーマンスだったように感じた。
ハイプレッシングはつねにインテンスで、相手DFを背負ってのホールドアッププレイ、裏抜けのラン、パスもよかった(8/9)。ズビメンディの技ありクリエイションからのOblakにストップされて決まらなかったショットもよかったと思う。83分でタッチは26あり、チームプレイにもけっこう関与したほうだろう。
アルテタも「彼がチームをよくしている」と大満足の様子。彼はどんどんよくなっている。
このゴールで彼の自信と勢いをつけてくれることを願ってやまない。
ところで、彼がすこしいいプレイをするとエミレーツのスタンドから拍手が湧き起こるのもすごいよかったな。正直、褒めのハードルが若干低いような気がしないでもないけど(笑い)それだけ、ファンがみんなで彼を励まそうとしている。それもまたハートウォーミング。
でも超わかるよね。彼みたいな選手はどうしたって応援したくなる。
その他よかった選手。ガブリエル、ズビメンディ、マルティネリ、MLS……
MOTMはヨクレスで納得。しかし、もし彼がMOTMでなくとも、この試合で輝いた選手は複数いる。
まずはG1 A1のビッグガビを称賛すべきか。13分間で4ゴールの口火を切ったのも彼。
ここぞという場所にボールを落としたライスのフリーキックの軌道もとんでもなかったが、なによりあの走り込んでのヘッダー。そしてリプレイを観るに、なぜに彼はフリーだったのか…… ヨクレスにもサリバにもがっちりマンマークがついているのに。もっともフリーにしちゃいけない漢を自由にしてしまった罰。無慈悲。
そしてヨクレスの2点めのゴールのアシスト。Conor Gallagherが彼のマンマークについていたようだが、ファーポストでライスからのコーナーを内側に折り返すときにはこれまたドフリーに。マークはひとりじゃダメってことを学ばないとな。
あとこれはビッグガビのハイライトではないのだけど、28分にアトレチコのカウンターで彼とサリバのふたりで危機を防いだ場面。典型的なCBペアの補完関係があったなと。もう長らくパートナーシップがあるからできる守備のようで印象に残っている。
No centre-back in Europe’s top five leagues has scored more goals than Gabriel (22) since 2020.
More than just a defender 😮💨 pic.twitter.com/f8fMrm9L3o
— Football on TNT Sports (@footballontnt) October 21, 2025
それとズビメンディ。いつものCMとしての仕事だけでなく、この試合では何度もファイナルサードへの攻撃的なパスを出していた。
そのなかのひとつがこれ。これは純粋にスキルだった。後方からのパスをふつうに受けると見せかけて、ハーフターンでやや前に出ながら絶妙なタッチでボールを浮かし、そのままヨクレスへラストパス。残念ながら彼のショットはOblakに阻まれてしまったものの、あれはアシスト未遂だったろう。
Crazy crazy guy https://t.co/ckDfnd9SVx pic.twitter.com/EMS55YFEIk
— George (@George_Zur) October 21, 2025
彼はこの試合でカードをもらってしまい、つぎの試合(スラヴィア・プラハA)はサスペンションになるのは、この試合のアーセナルの唯一の残念だったかもしれない。しかしながら、そのつぎがバイエルン(H)ということを考えると、ここでカードをもらってカードを精算できたことはむしろよかったかもしれない。バイエルンで彼がいないと困ったから。彼は基本的に出ずっぱりなので、休ませるためにも悪くない。
マルティネリもこの試合はかなりよかった。左サイドの1 v 1では毎度相手DFを悩ませていただろう。オフサイドになってしまったものの、幻ゴールもあった。
この日のネリのハイライトはもちろん、64分のゴール。
あれはMLSのランの貢献もかなりあるものの、彼のティエリ・アンリの魂が乗り移ったかのようなショット&ゴールもクオリティが高かった。
彼はMLSからボールが来るときには身体を開いていて、ダイレクトでシュートを打つ気まんまん。あの足の振り幅の小ささといい、ファーポストを狙った正確さといい、素晴らしいゴールだった。イメージどおり。いつも彼が批判されがちな意思決定が100%適切だったことがなによりうれしいじゃないか。
ひきつづきトロサールとのLWでのポジション争いはつづくだろうが、この試合のパフォーマンスが彼の自信になればいいと思うし、そう思って当然のようなパフォーマンスだった。
MLSもよかった。良さこそ違うものの、LBとしてカラフィオーリにも引けを取らない。前半はやや守備に苦しむ場面もあったものの(カード未遂も)、結局彼も高いスタンダードでこの試合を終えることができた。
あの中央をぶちぬくドリブルはなかなかできない。
MYLES LEWIS SKELLY YOU ARE A LEGEND
MARTINELLI WHAT A FINISH pic.twitter.com/cWhbxBDSJG
— George (@George_Zur) October 21, 2025
このプレイで彼をMFでプレイさせるべきという声もあるけれど、たぶんこれ彼がDFだから効果的なんでしょうな。リスクをかけているから。MFなら警戒されてこんなにイージーにドリブルで相手を抜けない。ふつうはリスクをかけちゃいけないDFだからこそ、予想外のプレイになり相手を出し抜ける。
よかったよかった。
この試合については以上!