先週末、ロンドン証券取引所(London Stock Exchange)から、アーセナルの負債の償還に関するお知らせがあった。
Notice to Redeem Two Series of Outstanding Bonds
これは、KSE(Kronke Sports & Entertainment)UKが、アーセナルの負債の一部を引き受けた(貸し手が銀行からオーナー企業に変わった)ということらしい。
AST(Arsenal Supporters Trust)のリポート。
Arsenal Supporters Trust | Sharing in the Future of Arsenal Football Club
このニュースに界隈はざわついていて、ついにクロンキがアーセナルにオーナー投資をしただとか夏の補強資金が増えるだとか、アーセナルにどのようなメリットがあるのか、いろいろな憶測が飛び交っていたが、取引の詳細については不明で、専門家の解説が待たれていた。
そして、昨日フットボールファイナンスでおなじみのSwiss Ramble先生が、この件について解説をしてくれていた。
ありがたく紹介しよう。Respect.
※この手の話題ではいつもはじめに断っているが、ぼくは経済・会計・商学その他の知識において素人以下であるので、訳も理解も間違えている可能性がある。あしからず。
「アーセナルの負債借り換えの件と今後の損失予想」Swiss Ramble先生による解説
Last week Arsenal announced that they will redeem their outstanding bonds, which had been part of the debt taken on to fund the construction of the Emirates Stadium. This will be financed by owner Stan Kroenke’s company KSE. The following thread explains what this means #AFC
— Swiss Ramble (@SwissRamble) July 13, 2020
このtweetはスレッド以下につづく。※小見出しは訳者による
SR:先週アーセナルがアナウンスした、彼らが社債(outstanding bonds)を返済するという件。それはエミレーツステイディアム建設のための借金の一部だったものである。それは、オーナーであるスタン・クロンキの会社KSEによる資金提供によってなされるものになる。以下は、これにどのような意味があるかを説明するものだ。
「KSEローン」について
まず正しく理解しておかねばならないことは、この取引が意味しないことである。これは、このことでアーセナルの負債がなくなるわけではないこと、またクロンキがとうとうクラブに投資を始めたということでもない。そうではなく、単純に貸し手が変わることで、クラブの現状の負債を再構築したにすぎない。
これはひとつの銀行で一定の金利で住宅ローンを組む場合と似ている。そして数年後には、新しいローンのほうが低金利になっていることに気づいたりする。そこで別の銀行で新たな住宅ローンを組むことにすると。それで仮に早期返済のペナルティがあったとしても(そうする価値があればやる)。
2006年、アーセナルは£260Mを借り(£210Mが固定金利で£50Mが変動金利、それぞれ2029年と2031年までに返済される予定だった)それ以降、毎年年間の支払いが発生していた。2019年3月31日時点では£170Mの残債があり、わたしの計算では現在およそ£160Mがまだ残っている。
この£160Mは、いまも銀行の債権になっているが、一方でクラブはこれと別に£40Mの負債がある(£15Mが社債で£24Mがデリヴァティヴズ)。したがって、負債の総額は2019年3月31日時点で£209Mだったのが、いまは£200Mあたりに下がっている。
これは住宅ローンでは効果的であるが、アーセナルの負債は増えていきそうだ。KSEのローンは早期返済のペナルティも含まれるはずで(それは将来の支払いの現在価値であり、現在の金利の分はディスカウントされる)、AST(Arsenal Supporters Trust)はこれを£40Mと見積もっている。
今日の記録的低金利から比べると、アーセナルの負債の金利は非常に高い。それには債権者への保証料も含まれ、金利は平均5.8%に固定されているし、変動金利は7%。これにより、年間の支払いに£11Mが加わることに。
この£11Mの年間の支払いは、ライヴァルクラブのそれに比べても、アーセナルにとってとても大きな負担になっている。2018/19にはPLで3番めに高額で、マンUの£26M(グレイザーのレバレッジド・バイアウト)とトッナムの£19M(新ステディアムのための借金)に次ぐものだ。
事実、この5年でアーセナルは£61Mもの大きな金利を支払わなければならなかった。これはマンUの£120Mのつぎに多く、トッナムの£57Mより少し多い。ビッグ6のほかの3クラブは、もっと少ない(マンシティが£15M、リヴァプールが£11M、チェルシーが£7M)ので、これが競争力における彼らのアドヴァンテッジになっていた。
アーセナルではこの£11Mの支払いに加えて、£9Mのローンを減らすために毎年の返済を行っていて、負債のための現金支出の総額は、£20Mもの多額になっている。
理想は、KSEのローンが無利子であることだ。そうすれば金利分の£11Mを毎年節約できる。だが、わたしの予想では、おそらくそれは市場の金利に応じたものになるだろう。だから節約できるのは、およそ£6M程度。もしかしたら、クロンキはそれよりも高い金利を要求するかもしれない。そうなれば驚きだが。。
またKSEは支払いスケジュールを2029と2031の後ろにずらすかもしれない(クロンキはLAラムズのローンでそれをやった)。そうなれば毎年の支払いは少なくなる。つまり現状の£9Mを削減できる。あるいはもしかしたら、このあと何年かのチャレンジングな年には支払いを免除する可能性もあるかもしれない。
2019年に、トッナムは彼らのステディアムの負債を23年支払いで借り換えた。もしKSEがアーセナルのローンで似たようなことをしたなら、支払いスケジュールが倍になったようなものだ。なので、年間の支払いはおよそ£5M程度になる(£4Mの節約)。
このような仮定に基づくと、アーセナルの負債の返済にかかる年間コストは£20M(金利£11M+支払い£9M)から、£10M(金利£5M+支払い£5M)に半減する。
借金の条件のひとつとして、アーセナルは将来の支払いを担保するために債務整理をしなければならなかった。それは、2019年のキャッシュバランス£167Mのうち£37Mを占める。これはもう必要がなくなることになり、その分は手元のキャッシュとして使えるようになる。
KSEは以前、アリシェル・ウスマノフから株式を買取ったときに、ドイツ銀行(Deutsche Bank)から£500Mの融資を受けた。つまりこれにより彼らの負債全体は£700Mまで増えることになる。これまで、アーセナルは£500Mの負債のコストは負担していない。だから、今後においてもアーセナルが負うのは新しい負債の義務だけということに期待している。
興味深いのは、クロンキのドイツ銀行のローンは短期のもので、2020年8月に満期となる。だからアーセナルへの新しいローンは、彼の既存のローンの再構築とリンクしているのだ。
アーセナルのマネジメントの話題が出るたびに落胆するのはフロントの無能無策ぶりです。
コスパの悪いちぐはぐな選手補強、選手との契約延長や放出が下手すぎ、入場料収入への依存体質等々。
フロントの能力が改善しない限り、第2第3のエジルが登場する可能性が高いでしょう。
エジルをスケープゴートにして済む問題じゃないと思います。