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凋落のマンシティ。自信喪失とパフォーマンス低下

Hey. 元気ですか。

昨日、『MNF』に出演したティエリ・アンリによるマルティネリ分析がアーセナル界隈で大きな話題になっていて、そちらについて書こうと思ったんだけど、その前に昨日から考えていたこちらを書くことにした。

マンチェスター・シティ。ご存知のように劇的にフォームが落ちている現在の彼らの姿には、個人的にかなり興味深いテーマがはらんでいるように観えている。それは、精神的・心理的なこと、もっといえば自信がパフォーマンスに与える影響、またはその逆について。シティのようなチームですらもがき苦しんでいる、戦術とかマネジメントではなかなか解決しにくいこと。やっぱりフットボール語りでは、興味深いテーマじゃないか。

今回はそのことについて少し。



驚くべきマンシティの凋落

あらためてマンシティの現状を振り返る。

まずは、こちらをご覧いただきたい。彼らの今シーズンここまでの結果(すべてのコンペティション)。10月24日のPLサウサンプトン(H)まで例年どおり敗けなく、3試合でポインツを落としているというだけで、今シーズンはちょっと不振かなあくらいに思えた彼らが。

OMG.

10月30日のリーグカップToT(A)を皮切りに、ここまでの11試合で勝ちがひとつ。大半で敗けているという(L8)。突如として大不調に陥った。緑からオレンジへのアイコンの色の変化たるや。シーズン前にこんなことになるなんて誰も予想しなかった。今シーズン最大のサプライズ。

彼らのようなPLとCLを勝って現在世界一強いと云われていたビッグクラブで、さすがにシーズン中にここまで劇的に結果が変わった例は過去にないんじゃないか。突然レギュラー選手全員が不治の病を患ったとか、後世にはそういうことが疑われるレベル。

なにが起きた?

この直接の原因が、ちまたで何と云われているのか、ぼくは知らないんだが。

この間の彼らにとっての大きなできごとといえば、まずペップ・グアルディオラの新契約(1年延長+OP)があった。

しかし、それが正式に公表されたのが11月21日らしいので、このバッドフォームはすでに始まっている最中だった。だから、それは直接の原因というわけではないだろう。というか、むしろ、彼のクラブへのコミットメントはチームにはポジティヴな影響を与えこそすれ、悪影響になるとも思えず。だからこそ深刻ということもある。ペップの新契約のようなポジティヴニュースですら、チームのフォームを変えられなかった。

あるいは、選手のケガの影響もあるのか?

シーズン絶望と云われる大怪我をしたRodriの不在が、チームのパフォーマンスに影響を及ぼしているのは事実だろう。彼は、2024年のバロンドールである。が、そのケガは9月で、その後彼が不在でもチームはしばらく試合には勝ちつづけていたから、それが直接の原因というふうにも観えない。

攻撃の核であるKDBの不在も2ヶ月ほどと長くかったが、彼も11月には復帰していて、それでもチームのフォームに大きな変化はない。

そのほか考えられるのは、クラブが現在直面している、例の115件のFFP訴訟。たしか今月クラブからの聴取が終わったとか。

ふつうに考えると、来シーズン以降クラブに明るい未来があるとは思えないので、選手とチームに心理的な悪影響を与える原因にはなりうるだろうが、それでもここまで劇的に、そしてなぜそのタイミングから突然にフォームが落ちたかの理由にはならないように思う。この件自体、しばらく前から明るみになっているのだから、いまさら選手がパフォーマンスが落ちるほどショックを受けるのもおかしい。

それとも、Haalandがミケルに“Stay humble”って云ったから??

というように、彼らのこのような突然の劇的な変化の理由はよくわからない部分も多いのだが、現実としてこうなっている。

そして、ぼくが注目したいと思っているのは、いまシティが陥っている悪循環のこと。

彼らが直近11試合でたった1勝しかしていないあいだ、1試合づつ取り出せば、内容的に彼らが勝てた試合もあったんだろうと思う。この前アーセナルのゴールレス試合のことを書いたが、この間でもシティのゴールレス試合は3つしかない。ゴールはしている。だが、相手にそれ以上のゴールを許し、結果としてこうなっている。それはなぜか。

自信喪失がパフォーマンスに与える悪影響

ぼくは、彼らがこうなってからしばらくして、アンフィールドでのPLリヴァプールで初めて今シーズン彼らのプレイをフルマッチで観て(※アーセナル戦以外)、正直あまりのオーラのなさにびっくりした。あの世界最強チャンピオンのマンシティが、リヴァプール相手とはいえあんなふうに自信なさげにプレイするなんて、ほんとうに驚いた。

あの日はリヴァプールの独走を阻むためにも、なんなら多少シティに肩入れして試合を観ていたのに、最初から最後までシティが勝つようには観えなかった。

自信のない様子というのは数字には現れないから、いまその試合のスタッツを確認してもすごく悪かった部分は見つからないし、スコアでそこまで大差がついたというわけでもない。しかし、とにかく彼らには強敵に挑む覇気やエナジーみたいなものがまったく感じられなかった。過去数シーズン、ほとんどリーグの2強だったチームの一騎打ちにはふさわしくないほどに。

彼らのあのような姿は初めて観た気がする。少なくともペップのチームでは間違いなく一度もなかった。

そして、同時に恐ろしくなった。いくら世界最強などと云われても、なんのきっかけか、いざ試合に勝てなくなると途端に自信を失って、ここまで気弱で哀れな姿になってしまうのかと。PLではボトムチームですらもっと勇敢にプレイするから、メンタリティとしてはそれ以下だった。

あの試合で、彼らが多くの試合に勝てていない理由がわかった気がした。勝者のメンタリティどころか、自信を失っている。あのチャンピオンチームが。

アルテタは、勝ちが勝ちを呼ぶから勝ちグセをつけたいと以前に述べたが、シティが陥っているのはまさにその逆の悪循環で、悪いパフォーマンスが悪いパフォーマンスを呼び、敗けが敗けを呼ぶような状況に見える。

それを百戦錬磨のマネジャーも最高級の選手たちも解決できない。どうやってリセットすればいいのかわからない。だからつぎの結果が出ない。これはふつうのチームだとそのマネジャーの末期症状であるはずで、シティはペップとどうするんだろうね? 最近はペップのコメントも気弱なものが多いようだ。ぼくがさっき見かけた彼のコメントは、“’I am not good enough”。気持ちが弱っている。

と、シティの凋落を観て、そんなふうに自信を失うことが、選手やチームのパフォーマンスにとっていかに大きなことかをあらためて思い知ったのだった。

自信喪失によるパフォーマンス低下という点では、以前このブログで意思決定(decision making)がとくに影響を受けやすいんじゃないかと書いたことがある。

フットボールというスポーツは、プレイのどの場面でも意思決定を要求されることの連続で、優秀なフットボーラーはもれなく全員そこが優れているが、たとえばいまのジェズースのように、本来の能力が高くとも、自分の能力を疑い始めるとことごとく瞬時の判断を間違えるようになるみたいな。結果フィニッシュのアクションが思うようにいかず、ゴールできない。

自信のない選手には、周囲にいいプレイを示さなきゃならない気負いがあり、視野が狭くなり、複数のオプションのなかでつい悪いほうの選択をしてしまう。あるいは最善の選択ができない。基本的にWGやCFのような選手のプレイエリアには、つねに時間も空間もないので、瞬間的な判断力つまり意思決定こそが問われる。だから悪い部分があるとすごく目立ってしまう。

ダブルエラーをやった去年のラムズデイルも、自信喪失の典型的な例だった。ラヤにポジションを奪われたことですっかり選手としての自信とプライドを失い、それがあのようにはっきりとパフォーマンスに反映された。それはもう残酷なほどに。レギュラーを奪われたとはいえ、トップGKが本番で突然にあそこまでやらかすなんてさすがに想像もしなかったので、想像以上に選手が繊細であること、それに精神的・心理的な影響の大きさを実感した。

そういえば、この前のPLフラムのときにベルント・レノがインタビューで、彼はアーセナルでラムズデイルにレギュラーを奪われたときのことについて、自分にはまったく非がなかったと主張していた。自分がアーセナルのNo.1でなくなったのは不当であり、それをフラムで証明するのだと。そういうのは彼の精神的な強靭さで、フットボーラーに必要なものだと思ったものだ。アスリートの神経の図太さは長所。

重要なダービーでも

おとといの日曜のマンチェスターダービーはハイライトだけ観た。シティは、ホームでマンUに敗けた。

そのハイライトを観ていたら、80分あたりまで1-0でホームのシティが勝っていて、いっぽうマンUはその直前まで残念パフォーマンスだった(※ハイライトの感じでは)。ぼくは、2-1でマンUが勝つ試合結果を知っていたので、このあと10分でいったいどんなことが起きるのかと楽しみに観ていたが、きっかけはペナルティだった。

シティのバックのなんでもない不注意パスから、突然GKが1 v 1状況になり、慌てて戻ったシティのなんとかという選手が、あろうことかボックス内でマンUのアタッカーの足を蹴飛ばしてしまうという。やらかした選手の直後の反応を見るに、やっちまった感がすごかった。微妙でもなんでもない明らかなファウル。

あそこは冷静になれば、GKを助けるより、1 v 1状況をGKに任せて、ゴールそのものを守ったほうがよかったかもしれないし、あるいはあんなふうに足を出さずにもっとうまくボールに対処できたかもしれない。または、強引にボールを奪いに行かずともGKと共同で相手のプレイを遅らせればよかった。シティの某は、考えうる選択肢のなかで最悪のことをやったのだよね。わざわざ。そりゃペップも卒倒するわ。

そして、ふだんならやらないであろうその瞬時の判断を彼に間違わせたのは、やっぱりいまの彼らが置かれた特殊な状況だなと。1-0をキープできる自信がない。不安といってもいいかもしれない。心の影響。

選手とチームが、自分たちのほうが強い、優秀、絶対に勝つと信じてない。この超絶バッドフォームでどんどんそう心に刷り込まれている。だから、余計な力が入ってああいう決定的な場面で正しい判断ができない。あれは完全にパニック状態だった。

その前のパスミスも、平常運転のシティのDFがやらかすプレイには観えない。残り10分で、また3ポインツを逃すプレッシャーを彼は感じていたのかもしれない。選手たちにしてみれば、ホームでそれは絶対にできないことだった。それが強いプレッシャーになり、ふだんのあるべき自然なリズムを狂わせる。目隠しして畳のヘリのうえを歩くやつみたいな。心の持ちよう。

ホームで1-0で勝っていて残り10分。もっと冷静にプレイすべきだったし、少なくともこれまでの自信満々なシティならそうしただろう。

さらにそのあとの短い時間のなかでマンUにウィナーまでぶっこまれるおまけつき。これはもうドツボである。あんなふうにDFからのパス1本、GKまでかわされるというのは不運の要素もあるだろうが、悪いときは、なぜかああいうことも起きてしまう。不思議なものだ。

自信低下がパフォーマンス低下を呼び、パフォーマンス低下が自信低下を呼ぶ。その繰り返し。幸運まで手からこぼれ落ちていく。悪循環の悪夢。

現場での壮大な実験

今シーズンのこのシティの突然の凋落は、稀有な事例として、今後のよい研究材料になるんじゃないだろうか。こんなことは頻繁には起きないのだろうから、めったに採取できないデータが取れる。

なにを研究するかって、いろいろありそうだが、ぼくなら自信とパフォーマンスの関係を探りたい。あとで選手たちの気持ちの変化についてインタビューしてもいいかもしれない。

この世界にポジティヴなそれは、いくらでもある。

ヨーロッパのトップリーグでも毎年のように同じチームが勝ちつづけているし、この数年間のシティなんてまさにそうだった。世界最高リーグのタイトルをほとんど独占して試合にも勝ちつづけていたのだから。勝ちが勝ちを呼ぶ状況。そんなときは、もうなかなか敗けないし、実力以上の結果だって出す。強いチームが自信をつけてパフォーマンスが向上し、さらに強くなる好循環。各リーグの独占の傾向を見れば、それによってワールドフットボールは成り立っているといってもいいかもしれない。まあ、そこまで単純化はできないけど。強いチームには、勝つことで得られる勢いの強力な後押しがあるのは確か。

いまだと、リヴァプールにそれを感じる。彼らの選手やチームとしてのクオリティは、クロップのベストシーズンと同等とまでは思わないが、結果は間違いなく同等かそれ以上だろう。CLでもここまで唯一の全勝チームである。いまは、ややオーヴァーパフォーミングといってもいいくらい。それが成功するチームの勢いというものだ。そして、それがいつまで継続できるかが彼らの挑戦。

ネガティヴなそれも珍しくはない。単に悪いシーズンを送っているチームがそれ。アルテタのアーセナルだって、これまで何度もそういった大小の悪循環を経験してきた。

だが、今回のシティのように、突如ポジティヴがネガティヴに反転するような状況はなかなかない。

試合に勝てなくなり自信を失ったチーム。自信を失ってパフォーマンスが低下したチーム。選手の精神・心理がどのようにパフォーマンスに影響したか。悪い感情がどうチームに伝播したか。どう対処しようとして、何が成功し、何が失敗したか。彼らのようなトップチームの突然の崩壊であればこそ、それ以前とのはっきりとした差異が見えるんじゃないかね。

そうしたことを観察して得られるものがあれば、それはいい教訓になるはず。

わたしたちがいま目の当たりにしているのは、PLの歴史教科書にも残りそうな事態。こういうときこそ、舞台裏でドキュメンタリを撮っていてほしかった。撮ってるかも?

こうした悪循環を解決する多くのケイスは、マネジャー交代や選手の補強があるだろうが、いまのシティの場合はペップを解任する道はないだろうし(先日も本人は契約延長を後悔してないとコメント)、そもそも来シーズンにクラブがどういう処分を受けるかもまだわからない状況で、1月にまともなリクルートができるかが不透明ではないか。いま彼らにアプローチされている選手の気持ちを考えれば、簡単じゃないように思える。降格したら移籍できる条項を加える? そもそも半年しか信じられないようなクラブをわざわざ選ぶか。

冗談ぬきで、彼らの下部リーグ降格というのは、どれほど現実味があるんだろう。それが実現したら、彼らの将来的なプランもなにもかも台無しになりそうである。

 

アーセナルブログとして最後に無理やりアーセナルのことを書くと、われらはさっさとたくさんゴールして自信回復に努めてもらいたいね。

PLでミッドテーブルチーム相手にこの2試合勝てなかったことで、チームの自信レベルは低下中だろう。それに意識的ではなくても。ゴール不足は、CLで気持ちよく勝っても解決できなかった。チームのパフォーマンスにも悪影響はあるように思う。

こうした状態が長引けば長引くほど、悪い影響は大きくなる。だからシティを教訓や反面教師として、今週のパレス2連戦で悪循環を断ち切ってもらいたいものだ。こういうときはなんでもいいから、きっかけが必要。気分が上がればまぐれでも何でもいい。とにかく、いまはゴールして、勝って、自信をつけないと。クリック。

ゴール不足についてはいろいろ問題点も指摘されているが、ポテンシャルはもう持ってると自分たちを信じて、ケチャップのふたを開けてほしいものです。

 

おわり



※コメントくださるかたにお願い
プレヴューエントリでは、試合の結果がわかるようなコメントはお控えください
お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

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