今季限りで退団が発表されているアーセン・ヴェンゲル監督のホーム最終ゲームは、アーセナルらしい「スタイル」のあるパフォーマンスで、3ポイント差で迫るバーンリー相手に5得点&クリンシートとこれ以上ない快勝で終えた。これでアーセナルの6位はほぼ確定し、不本意ながら来シーズンもヨーロッパリーグを戦うことが決まっている。
ELというプレッシャーから解放されたからか、選手たちは終始肩の力の抜けた様子を見せ、バーンリーの選手たちはまるでアーセナルのトレーニンググラウンドに迷い込んでしまったような錯覚をおぼえたかもしれない。
Arsenal 5-0 Burnley: Gunners stroll as Arsene Wenger bids farewell to the Emirates
そして、もちろん試合後にはボスのお別れセレモニーが催された。スタジアムを埋め尽くしたサポーターは万雷の拍手でボスのこれまでの功績に尊敬の念と謝意を伝え、伝説的なマネージャーとの別れを惜しんだ。(※セレモニー関連は別エントリでまとめます)
アーセナルのスターティングラインナップ
事前に予想されたように、前日トレーニングを回避したエジルが背中を痛めたということでベンチ外。今回ばかりはキーオンの指摘が的中していたということで、今季の残りアウェイ2試合ももうプレイしないという予想もあながち妄言ともいえなくなってきた。週350k稼ぐ男が仮病。ありそうで怖い。ちなみにセレモニーにはふつうに参加していた。もちろんキーオンもその場にいたのでどきどきしてしまったな。
(※追記:ヴェンゲルがエジルは背中の故障で残り2試合も欠場するかもとすでにコメントしていた。エジルの今シーズンも終了である)
今季限りで引退のメルテザッカーが残り10分ちょっとのところで登場。トリビュート起用でスタジアムは大いに盛り上がっていた。「ピッチに立つのが怖い」と心情を吐露し物議を醸したインタビューもあったが、弱さは強さだっていうことをぜひユースの子どもたちにも伝えていってほしいと願ってやまない。
ボスの試合後のみことば
ヴェンゲル:とてもエモーショナルだった。これが最後、こんなに長い時間を過ごした。こんなにビッグなラヴ・ストーリーで、もちろん終わりを見たくないようなものだ。でもすべてのことには終わりがある。
浮き沈みのあるシーズンだったと思う。19のホームゲームで15勝ってたくさんのゴールを取った。もしかしたらこの22年間でベストだったかもしれない。でも結局望んだとおりには終われなかった。
諸行無常の響あり。
論点
アーセン流の「スタイル」
この試合では、いいときのアーセナルのいい部分をよく観察することができた。つまるところ、ボスがやりたいフットボールというのはこれだったのだろう。
選手たちが自分たちのセンスでポジションを流動的に変え、献身的に走り回ってつねに三角形でパスコースをつくり続け、ショートパスでビルドアップ。パスはもちろんワンタッチかツータッチで球離れが非常に速くプレスを無効化する。
相手が守備陣形を片方に狭めてきたら正確な中距離パスでサイドを変え、守備の薄いエリアからまたショートパスでの崩しを最初から辛抱強くやり直し。
前方にスペースがあればドリブル、ときにはロングボールでアクセントをつける。
相手をファイナルサードに押し込みゴール前を固められたら、右へ左へボールを廻し守備が薄いサイドを探す。穴を見つければ即座にDFの裏を抜けるスルーボールからフルバックが深くえぐって速いボールをゴール前に。あるいはフルバックは、さらにボックス際に高く上がったMFとワンツーで密集エリアを抜け出しそのままシュートかFWにラストパス。
みたいな。
相手にボールを持たせてカウンターなんてプレイスタイルとはまったくの正反対、とにかく自分たちがプレイの主導権を握るところからすべては始まる。ネガティブ・トランジション? 守備バランス? そんなの知ったことか。攻撃していれば攻撃されないのだから、攻撃あるのみ。
ボールを持たれているときのアーセナルのプレイスタイルなんてよくわかんない。誰も説明できないでしょ?
いいときのアーセナルはこの攻撃の企てがほとんど成功したアーセナルだ。このバーンリー戦はまさにそんな感じだった。
しかし、モダンな守備戦術のなかでは、とくにトップレベル相手ではこのやり方では問題のほうが大きかったから、近年のアーセナルは次第に勝てなくなっていったのだと思う。
よくいわれるヴェンゲル監督の選手たちの自主性に任せた動きや戦術があったとして、そのクオリティは、当たり前だけれど、選手個々人やその組み合わせ(相性)に大きく依存する。
べつにどんなチームだって自由をまったく許さないなんてことはないので、それは程度の問題になるが、どの程度選手たちの自主的な判断に任せるかということは、目指すプレイスタイル次第でもあるし、監督がチーム内の規律をどれだけ重んじるかでもある。
アーセナルにとっては、ヴェンゲル監督の「寛容」が仇になったのか、皮肉にも獲得したビッグネームたちによって著しくバランスを欠くようになってしまったことはとても残念だった。創造性と規律のバランスはまさにフットボールの永遠のテーマだろう。
しかしこの20年で良くも悪くもこの「アーセン・スタイル」はアーセナルの哲学の一部となった。新しい監督には、このヴェンゲル流フルーイド・フッボールのヴェクトルを踏襲しそれをモダンに発展させたプレイスタイルを模索することを求めたい。
強く美しいフットボール。それがおれたちが望むものだ。
オバメヤン、ラカゼット、両ストライカーの明るい未来
オバメヤンはさすがに入団以来、ほとんどずっと期待どおりの仕事をしてくれているのはうれしい限り。そして、もっとうれしいのはラカゼットが、怪我から復帰してからフォームを取り戻していることだ。
ふたりの特長があまりにも近いため、ぼくはオバメヤンがあまり活躍するとラカゼットの居場所がなくなってしまうと心配だったのだけど、オバメヤンのワイドポジションが機能しているのを見てうれしくなってしまった。
もちろんチャンスがあればゴール前で仕事ができるし、ピンチのときにはきっちり最終ラインまで戻って守備のカバーをするという真面目さ。勝手な先入観でそんなタイプの選手だとはまったく思っていなかった。
彼は決してわれわれファンが渇望しているタイプのウインガー(足が速くドリブルで単独突破できる)ではないけれど、この試合のようなプレイをしてもらえるなら十分だろう。クラシックなCFも、ワイドプレイヤーもできるというオプションがあるということの有用性は計り知れない。
彼らが来シーズン、もちろんミキタリアンやエジルのサポートでそれぞれシーズン20点以上取るようなことがあれば(シーズンを通して同時にレギュラー出場すれば十分想像できる)、アーセナルはかなり進歩するのではないだろうか。すごく期待している。
ヤングガナーズの明るい未来
このバーンリー戦でもヤングCB、マヴロパノスが驚きのスタート。契約を更新したばかりのホールディングがベンチ外ということで、このペッキングオーダーには少々驚いた。マンU戦に比べるとさほど見せ場もなく、パスの出しどころに窮したりパスミスなどもいくつか見られたが、やはり大器を感じさせた。メルテザッカーと変えられたのはチェンバースだったからね。どゆこと?
イアン・ライトは、このバーンリー戦のあとユース選手たちの重要性についてMOTD2でこんなふうに語っていた。
ライト:50Mポンドの予算(今夏の補強予算)とか信じられないね。だけど、メイトランド・ナイルズ、イウォビ、マヴロパノス、リース・ネルソン、ジョー・ウィロック……彼らがこのまま成長すれば、ネクストレベルに行ける素材だと思う。彼らが正しい方向に導かれればね。
(やっぱり次は若いコーチがいい?)いや、それはどうでもいい。若かろうが若くなかろうが、いまいる若い有望な選手たちをプロモートできる監督であるべきだ。
まじそう思う。
アーセナルはもちろんユースシステムに定評があるクラブではあるが、ここ数シーズン、アーセナルでファーストチームで実際にものになっているアカデミーあがりは実質ベレリンとイウォビくらいだ。
ところが、ここへ来てアカデミーの黄金時代ともいえそうな選手たちが何人も同時に台頭してきた。ライト氏がいうように夏の補強予算が低すぎるというのは大きな問題ながら、アーセナルFCは若手の有望株を今後もより積極的に使っていくクラブであり続ける必要があると思う。それもまたフィロソフィ。
彼らこそ、将来ヴェンゲル監督の置き土産だったと呼ばれるのかもしれない。
以上。久しぶりにちゃんと勝ててうれしいね。