FAカップのサードラウンド、ノッティンガム・フォレストに4-2で敗れた試合、アーセナルはボックス内で2度ファールを犯しふたつのペナルティを与えた。これでここ3試合で4つのペナルティを相手に与えたことになる。もちろんすべてのシュートが決まっているので4失点となり(チェフが2本、オスピナが2本)、それらはすべて勝敗に影響している。
ヴェンゲル監督はフォレスト戦後のプレス会見で、この試合で与えたペナルティについてコメントを求められると「話したくない」と拒否。ボス本人はこの3試合連続でペナルティで失点していることについて、もしかしたら「(不公平なジャッジの)被害者」のつもりでいるのかもしれないが、議論を呼んだマイク・ディーンによるチェンバースへのファール(WBA戦のハンドボール)を除いては、おそらくどれも正しいジャッジだったろう。
フットボールにおいて自陣ボックス内でファールを犯せば大ピンチに陥るというのは小学生でも知っている。基本的にはチャレンジすらしてはいけない場所だ。そのような特別なエリアだから攻撃側が圧倒的有利にプレイできるので、そもそも侵入されてもいけない。
なぜアーセナルはいとも簡単にボックス内に侵入されてしまうのか。そしてなぜアーセナルのディフェンダーはたびたびボックス内でファールを犯してしまうのか。
それを合理的に説明しようとすれば、「守備の規律が崩壊しているから」ということになる。ヴェンゲルは被害者でもなんでもない。マネージャーなのだから、責任ある当事者そのものである。
やられ方はだいたいいつも同じ
まず、ペナルティ以前に、守備崩壊とくにカウンターでやられすぎであることについて。
とくに格下との対戦で、悪いときのアーセナルのやられ方はいつも同じだ。ボールを持って相手陣内に押し込むが、相手守備の外側で右へ左へとボールを回すだけでなかなかチャンスをつくることができず、ひとたびボールを失えばぽっかりと空いた自陣の広大なスペースを相手のFWに効果的に使われ一気にカウンターに。逆に大きなチャンスをつくられる。
ボスは勝てなかった試合の後によく「われわれの攻撃がシャープじゃなかった」と自分たちの攻撃がうまくいかなかったことについてコメントするが、それに比べると守備についての言及は非常に少ないと思う。守備にあまり興味がないことのあらわれだろう。失敗を顧みないから同じ過ちを何度も繰り返す。
ボスが何を考えているか全然理解できないわけではない。攻撃は最大の防御なり。それも真理。相手を押し込んで攻撃し続ければ得点の機会は増えるはず(失点の機会も減るはず)。そうすることが理想とされているのは理解できる。ボールを持っている限り敵に攻められることはないというのもまた真理で、ポゼッションにこだわりたいのも理解できる。
しかし、90分間ボールを持ち続けることはできないし、アーセナルは70%ボールを持ってもあとの30%の時間で失点してしまうチームである。攻められる時間が短いというポゼッション・スタイルの利点がまったく活かされていないことに気づくべきだ。理屈のうえでは長くボールを持つチームが有利なように思えるが、実際にはそんなことはない。アーセナルが自らそれを証明している。
70%の時間で小さなチャンスをつくり続けて得点できず、たった30%の時間で大きなチャンスをつくられて失点してしまう。そういうバランスの悪さがアーセナルにはある。それを不合理だというなら、ヴェンゲル監督はなぜそのようなことがアーセナルに実際に起きているのか、原因を究明する必要がある。
ポゼッション志向のチームと同じくらいカウンター志向のチームが効果的たりえるのは、フットボールファンならば誰でも知っている。アーセナルのようにポゼッションを過信して守備をおろそかにしているチーム、あるいはポゼッション・スタイルの完成度の低いチームにとって、相手にカウンターのチャンスを与えすぎるいまのプレイスタイルはむしろ逆効果になってしまっているというのが現状ではないだろうか。
アーセナル攻略は簡単
一番深刻な問題は、アーセナルがそういうプレイスタイルであること、相手が誰であってもやり方を変えないだろうことが、戦前から相手にバレていることだ。事前に完全に対策されているから30%の時間だけでやられてしまうのだ。
攻略はシンプルである。
☆17/18型アーセナルの攻略マニュアル
- 自陣に引いてボールは持たせろ
- 自陣に全員誘い込んで敵陣にスペースを空けろ
- ゴール前はブロックをつくってスルーボールのスペースを消せ
- 横パスを出させろ
- クロスはないからサイドで持たれてもOK
- サンチェスにはできるだけ前を向かせるな
- ジャカにはシュートを打たせろ
- ボールを奪ったらカウンター
- スペースに走るFWにロングボール
- FWはCBを背負ってボールキープしろ
- CBを抜けそうならそのままひとりでシュートまで
こんなところか(こうしてみると別に今季に限らねえな)。
とにかくゴール前のスペースさえ埋めてしまえば外からの攻撃は大して怖くないのでボールは好きなだけ持たせてよく、自陣に引いてボールを奪ったら即カウンターという約束事を徹底するだけでなんとかなってしまう。実際なんとかされてしまっている。
あまりにも毎回同じやられ方なので、ちょっと笑えるくらいだ。ふつうのチームだと自分たちにとっても相手が採用してくるとわかりきっているこの攻略法への攻略法を編み出すことを考えるわけだが、そこがアーセナルが並のクラブと違うところである。まったく同じ対策をしてくるとわかっている相手に真っ向から勝負を挑む。これを愚直といわずなんといおうか。
今季、とくにここしばらくこのポゼッション・スタイルの脆弱性を突かれる傾向が顕著に感じられるのは、このアーセナルのプレイスタイルの理想と現実のミスマッチが次第に大きくなってきているからではないだろうか。ボールをキープし続けて相手を自陣に釘付けにしていることが攻撃力のアップに貢献していないということだ。自陣に引かれるのはある種ポゼッション・スタイルの宿命でもあるので「だから」というべきかもしれない。
しかし、アーセナルはバルセロナでもバイエルンでもなかった。
アーセナルの理想は圧倒的にポゼッションして相手を自陣に押し込み、自らの失点の機会を減らしその結果得点することだが、まずこの得点が思うようにできていない。初めからゴール前を固めてくるとわかりきっているのにそれを打開できる攻撃力がない。目の前にいる敵を欺くアイディアや創造性がない。
それと、相手を自陣に押し込んで有利にボールを回し、最終ラインですら相手FW1人に対しCB2人と数的優位を保っているはずなのに、ひとたびボールを失えばロングボール一本でやすやすと相手FWにカウンターの起点をつくられてしまう。そして少ないチャンスで失点する。
つまりポゼッション・スタイルで相手を圧倒できるだけの技術や戦術がない。ポゼッション・スタイルの利点を全然活かせていない。そういうことになる。
その方法が通用しないと誰もが気が付きつつあるなかで、いつまでも理想にしがみついてそこから離れようとしない。昨シーズンのマンシティもそのようにも見えたが、結局シティはグアルディオラのリクエストに応え、質の高い選手への莫大な投資という力技で理想を現実に変えつつある。かたやアーセナルは理想のスタイルを持ちながらそこへたどり着こうという工夫もビジョンも野心もない。
守備のディシプリン
なぜ最終ラインに残っているふたりのCBは数的優位にも関わらず、ひとりのFWもまともに捕まえることができないのか。シティやユナイテッド、チェルシーといったトップクラブが試合の流れ的に相手を押し込んだ状態でボールを失ったとして、あそこまで容易にカウンターの起点をつくられるだろうか。
先日のノッティンガム・フォレストは攻撃の4人はすべて若く経験のない選手たちだったという。なかでもたびたびカウンターの起点をつくったCFのBen Breretonは、プロとしての試合経験がおよそ23試合分くらいしかない未熟な選手だったらしい。プロ経験半年といったところか。ロブ・ホールディングは彼にだいぶ手を焼いていたのは明らかだが、ホールディングはそこまで優秀な選手を相手にしていたのだろうか。
この試合のホールディングに限らず、アーセナルではディフェンスの選手が誰であっても似たような光景が繰り返される。これまでにもわれわれは幾度となく目撃している。フォレストのCF氏はアーセナル戦でうまくやったという事実はあるにせよ、そこまで特別な選手だったとは思わない。つまり、アーセナルはどの選手が最終ラインを守っても、ポゼッションキラーであるカウンター攻撃の起点になるFWのポストプレイをうまく防ぐことができない(ことが多い)。それがあらためて露呈したフォレスト戦だったと思う。
ボックス内でのファール
ボックス内でのファールも守備のディシプリンが崩壊していることの証拠だ。以下は今季EPLでのペナルティを取られたランキング。アーセナルは今季リーグで6度ペナルティを取られている。6回のペナルティはリーグワースト4位(タイ)。それによる6失点はリーグトップ(タイ)。シティも6回ペナルティを取られているのが意外だが、彼らは6つのうち2つを防いでいる。基本的には守備の弱い、失点の多いクラブが上位にいるものでアーセナルがこのランキング上位にいるのは不思議ではない。優勝はもちろんトップ4などちゃんちゃらおかしいという話しである。
ボックス内で注意深い守備ができないのはなぜか。それも規律(ディシプリン)が乱れているからで説明できるだろう。彼らは体系だった守備のトレーニングをしていないし、ボックス内での守備の振る舞いについても教えられていないに違いない。選手たちは守備に対する自信のなさと己の技術への過信が混在したおかしな心理状態にあるんではないだろうか。ボックス内での無謀なチャレンジを観ていてそう思った。
以前にユヴェントスに移籍したヴォイチェフ・チェズニーがアーセナルのGKトレーニングの問題について指摘したことがあるが、同様なことがディフェンス・コーチングにも起きていることは容易に想像できる。
アーセナルでは、個人の守備のエラーはもちろん、集中力の欠如からくるマーキングの失敗や、今回のようなペナルティを与えてしまう軽率なプレイがいつまでたっても改善されない。選手が誰であってもだ。これは抜本的な改革が必要な深刻に構造的な問題である。
ヴェンゲル監督はアーセナルで守備戦術の構築ができていないのは明らかで、そのために多数のポイントを落としている。それはレフェリーのせいではない。その結果、せっかく大好きな攻撃でうまくいっても失点が足を引っ張るし、そもそも攻撃自体が活性化しないのは守備の不安定によるところも大きいはずだ。
失点後にサンチェスらが呆れている様子がメディアからたびたび注目されるように、たしかに攻撃の選手にしてみれば自分たちがいくら苦労して得点したとしても、失点のせいで負けていては報われないと感じられるだろう。
一方でディフェンスの選手自身にも、このアーセナルのチームにいても自分がこれ以上ここでは成長できないと思われてしまえば、また移籍志願をされる可能性もある(昨夏にムスタフィがそう考えてトランスファーリクエストを出した可能性を指摘している人もいる)。
ヴェンゲルはアーセナルFCでほとんどチームの全権を担っている人物だといわれている。当然テクニカルコーチングも含まれるし、そのなかには攻撃だけでなく守備も含まれている。ゆえにヴェンゲルの責任は一番重い。どの選手を使っても守備で同じような悪いプレイをするのだから、問題は選手というよりは監督にあると思われる。
このままではいくらミズリンタットやサンレヒがタレントを連れてこようと同じことの繰り返しだ。
まとめ
とりとめのないエントリになってしまった。いいたいことはひとつ。
#WENGEROUT
もううんざりである。