ニュースとしてはやや出遅れたが、今年からアーセナルの”Head of Football”に就任している元バルサのFDラウル・サンレヒと、”Managing Director”のヴィナイ・ヴェンカテシャン(Vinai Venkatesham)がBBC Sportsのインタヴューに応えたこの件。
Arsenal confident that ‘self-sustaining business model’ will bring major trophies
以前にこのブログでも伝えたことがあるが、オーナー、チェアマン以下でアーセナルの運営を実質統括しているふたりのインタヴューということで注目を集めていた。
アイヴァン・ガジディス以降の、アーセナルのフットボールクラブとしての運営の方向性を知るよい機会ということで、詳細を伝えたい。
上記の記事は取材の抜粋のようで、やりとりのフルスクリプトをご存知BBC Sportsの名物記者デイヴィッド・オーンステインがツイッターで公表しているので、こちらが引用元になる。(※正確にはこれをテキスト起こししていたArseblog。リスペクト)
Full transcript of interview with Raul Sanllehi & Vinai Venkatesham #AFC pic.twitter.com/mW0T0iZvE3
— David Ornstein (@bbcsport_david) 19 October 2018
しかしグーナーはほんとにこのオーンステインが大好きだね。たまにアーセナルがらみのツイートがあるともう大騒ぎ。
ではアーセナルFCを率いるふたりが話したこと。ご覧あれ。
「アーセナルには自律したビジネスモデルがある」
アーセナルの新しい体制について
サンレヒ:モダンな組織になった。ひとつにまとまった組織だ。われわれにはふたりのリーダーがいる。ふたつのとても異なった、しかしコンパチブルなエリアがあり、それは不可分である。彼(※ヴェンカテシャン)はわたしの決断のほとんどに関与するし、わたしのほうも同じように彼のそれに関与していく。われわれはそれぞれコルニーとハイベリー・ハウスにオフィスを構えていて、いつでもご近所さんだ。われわれはともに働く。それぞれの領域に熟練している。
最終決定責任者について
サンレヒ:それは適切なタイミングで行われる。コンフリクトした領域で多くは先読みできない。このクラブが(これまでと)とてもとても同じようなやり方で運営されるべき道がある。わたしたちはクラブに関して、わたしたちが望む方向性などすべての戦略について話し合ってきた。いまはとても整理された。わたしは対話を信じている。もちろんいつも合意に至るわけではないが、そこにはいつもアーセナルにとってベストなソリューションにたどり着けるような健全なディベイトがある。最終的な基準は、なにがクラブにとってベストかということ。
アイヴァン・ガジーディスの退社について
ヴェンカテシャン:組織がうまくいってなかったわけでもないのに、チーフ・エグゼクティブが組織を去るとなれば少なからず驚きはあるものだ。われわれは明らかにそうではなかった。サプライズはたしかにあった。しかしラウールとわたしのダブルアクトは必ず組織に安定性をもたらすと強く思っているんだ。革命のときだなんて思っちゃいないよ。ものごとがこれだけ大騒ぎになればそれもしょうがないが。いくつかの変化があり、進化があり、もちろんわれわれは進歩をもくろんでいるし、クラブを前進させるつもりだ。しかし、このさきにドラマティックな変化が訪れることになるとは思わないな。
ガジーディスについて
サンレヒ:わたしがここにいるのは彼のおかげだ。彼がこのプロジェクトについてわたしを説得したんだよ。彼はクラブを正しい道に載せた、いまそれはわたしたちの番というわけだ。これは進化(エヴォリューション)であって革命(レヴォリューション)ではない。わたしたちは正しい方向に進んでいるということを強く信じている。
スタン・クロンキのプランについて
ヴェンカテシャン:わたしはスタンのこともジョッシュのことも長い間知っている。5、6年てとこかな。ラウールとわたしは何週間か前にLAにいて、スタンとジョッシュに会ったのはそれが最後だった。電話ではいつも話している。彼らはクラブに対し100%コミットしている。それはヴェリヴェリヴェリ~明らかだ。クラブをチャンピオンズリーグに戻したがっているし、プレミアリーグで戦えるようにしたい、そしてチャンピオンズリーグで勝てるチームにしたがっている。
彼らはそのヴィジョンに100%コミットしている。ふたりとも個人的にもスポーツに対してとてつもなく情熱があり、われわれの将来の可能性についてとてもワクワクしている。そしてファンはフットボールクラブの意義そのものであり、このクラブの動力源だ。わたしは、クラブが前進していくことについてエンゲイジメントが欠けているとファンが心配することはないと思うね。
この数週間わたしたちがずっと話している議題のひとつは、どうやってわれわれがファンとのつながりをステップアップさせ続けられるかということだ。ファングループとより建設的な関係を築いていけるか。単にそういっているだけではない。われわれにとって、それはとてもとても重要なことなんだ。
クロンキについて
サンレヒ:ファンというのはクラブの魂だ。彼らが示す心強いメッセージからは、彼らの総合的なコミットメントを感じることができる。そしてオーナーのプロジェクトへの関与は、わたしたちが望むやり方を進化させるための安定性に寄与する。安定性は昨今のフットボールクラブにとってはとても貴重なもので、現状でわれわれにはそれがある。
報道されたアーセナルの損失について
ヴェンカテシャン:ひとびとが話しているのは2019年5月31日に判明する財政状況の見込みについてだと思うが、そういった憶測には首を突っ込むつもりはない。わたしがいうべきことは、わたしたちにはこのクラブで自律的なビジネスモデルがあるということだ。つまり、われわれがピッチに(スポーツに)対して行っているすべての投資は、ピッチ外で生み出されたレヴェニューによるものだ。そしてわれわれはこのモデルで成功できるととても自信を持っている。わたしたちのこのクラブに対する野心は、このビジネスモデルで完全に実現可能だ。
冬の移籍市場について
サンレヒ:わたしは冬のウインドウに強く期待しているものではない。たいていは夏のウインドウで計画どおりにいかなかったときの緊急性のある場合に使われるものだ。われわれがそれを使わないという意味ではないが、まだわからないんだ。まだその時期じゃない。もしものごとが計画どおりにいくのなら、冬のウインドウは夏のウインドウのように使うべきではない。われわれは何が必要なのか、まずそれを知る必要があるし、マーケットでどんなチャンスがあるのかも。わたしたちがそこに入れ込むようには思えない。
もちろんいつもマーケットはチェックしている。われわれにはいつもマーケットを分析しているプロフェッショナルなチームがいるし、どんなチャンスがあるのか、またヘッドコーチだって将来を見据えて分析しているよ。冬のウインドウで選手を獲得すべきかそうでないか、そこの共通理解にも至っていない。しかし、その決断はいつだってわたしたちの未来のニーズによるものだ。
クロンキが私財を投資するかについて
ヴェンカテシャン:わたしたちには明快な野心があり、それはPLとCLで一番大きなトロフィを勝ち取るというものだ。わたしたちはそれを自分たちなりのやり方で目指したい。クラブの価値、歴史、そして伝統。130年以上培ってきたものだ。
アーセナルの昨シーズンと今シーズンの違いについて
サンレヒ:なにか具体的にいえることはないな。少しづつだ。旅を楽しもうじゃないか。われわれはいまとてもいい勝利の道にいる。シーズン中には浮き沈みもあるだろう。わたしたちの関心事はすべて、正しい方向に向かっているかにあり、それが自分たちを納得させる。
アーセナルはチャレンジャーなのか、あるいは発展途上なのか
サンレヒ:両方だ。おそらく。これは進化プロジェクトなんだ。わたしたちが前進するために決断していく必要があるだろう。この長い旅路のなかではできるだけ効率的であろうとするだろう。もっとも効率のよい選手を獲得したいし、可能なかぎりコンセンサスのあるやり方でチームをデザインしていきたい。同じフットボール・フィロソフィを共有できるひとたちとともに。ヘッドコーチから組織の全員に至るまで。
ヴェンカテシャン:シーズンを見通せる水晶玉なんて誰も持っていない。浮き沈みはあるだろうし、ファンにはそのライドを楽しんでほしいとお願いするだけだ。
なにかしらのトロフィとCL出場は可能か
サンレヒ:わたしたちには自分たちの目標と予想がある。ほかの誰にも負けないほど野心的だし、自分たちに過度なプレッシャーをかけるつもりはないが、何を成し遂げたいのか知ること、ファンが抱き合って喜べるような何かを知ること。
ラムジーについて
サンレヒ:わたしは今日個人のことについて話すつもりでここにいるわけではない。もっとわたしたちがもたらすフィロソフィのことについて話をしたい。わたしたちの決定はとてもオープンでひとつの共通の目的を共有できる何人かのプロフェッショナルな人間のあいだで話し合われている。それはクラブにとってベストなことじゃないか? だからわたしたちがもたらすどんな決断も、いつでもアーセナルにとっていいか悪いかに基づいている。それが責任をともなう決断だったり、アーセナルに有害なものでもありえたとしてもだ。それは意思決定のどのステップにもある、基本的なわたしたちの主たる基準だ。
「we’ve got our Arsenal backチャント」について
ヴェンカテシャン:いまのわたしたちはグレイトな成績だ。しかし調子に乗るべきなかれ。少しづつ上にいく。ともに楽しもうじゃないか。自分たちの望みを知れば、まだそこにたどり着くにハードワークが必要だとわかる。まだまだ道半ばだと知るべきだ。このクラブを望まれているところに戻すことに集中している。
ファンとのつながりが戻ってきていることについて
ヴェンカテシャン:いまクラブでは以前と違う雰囲気がある。わたしたちがファンについて語るとき、いつも浮き沈みがあるし、わたしたちがこのスポーツが大好きな理由でもある。週末に何が起こるかなんて誰にもわからないし、とくにPLは何でも起きる。フラムでファンとのつながりが見られたことはすばらしかった。誇らしかったし、前に進むためにもファンとのコネクションは保ちたい。このクラブはファンなしでは成り立たないし、近いつながり、ファンにクラブで起きていることを楽しんでもらうこと。それがまさにわたしたちがもたらしたいものだ。
以上。読みながら急いで訳したので間違えていたらゴメンね。
コメントまとめ
字ばっかりで目が受け付けないというかたのために、発言の要旨をまとめると、
- サンレヒとヴェンカテシャンでアーセナルを率いています
- クラブを前進させるため健全で透明な組織を目指します
- 以前のAFCのやり方を大幅に変えるつもりはありません
- ファンが重要です
そんなところか。
コメントの端々からも対話や議論を重視していることが伺えるので、誰かひとり最高責任者がなんでも独断で決めるみたいな組織にはしたくなかったということがよくわかる。
ヴェンゲル=ガジディス体制よりもずっと「モダン」な体制ということです。
損失の件
さて、このインタヴューのなかにアーセナルの損失の話題が出てくるのだけど、AST(アーセナル・サポーターズ・トラスト)が少し前にチェアマンに告発していた件だろうか。
すでに周知のように、30%程度の大株主であるウスマノフ氏がすべての持ち株を売却した(する?)ことで、クロンキ(KSE)がほぼ100%に近いAFC株を持つことになった。
どうもその株式の移譲取り引きのなかで、大きな手続き上の損失が出るらしい。詳しくはこちらで。
Arsenal Supporters’ Trust will voice concerns to chairman over expected financial losses
AFCがクロンキのオーナークラブになることについては、さまざまな悪影響があると考えられており、最大の不安はクラブの財政の透明性だという指摘がある。
AFCでは毎年株主向けに開催されてきたAGM(annual general meeting )が開催されなくなるということで、クロンキが別のビジネスの損失をAFCの利益で補填するといった悪事を行っても、気づきにくくなると。最悪だね。
ということで、ASTはもちろん、ファンの大部分がクロンキのオーナーシップに反対しているという状況がある。
こういうのは毎回のことですが、当たり障りの無いことしか言いませんね。とりあえず受け答えをする姿勢を見せて、クラブの哲学的なことや理念を語ることに終着する。
こうやって言葉を発信する機会をもつことそのものが大切なのでしょうが、何も話してないのに等しい内容という感じです。
どもども。
まあ彼らの立場からすれば、こんなところではないでしょうか。たとえば企業の雇われ社長がいたとして、公式な場でサプライズ発言や当たり障りのあることをいうはずもなく。
むしろこれまでのやり方を劇的に変えるつもりはないとか、わりと興味深い発言もあるように思いますけどね。
ガジディスのひとりCEO体制から、フットボール方面とビジネス方面でトップのマネージャーをふたりに分けたということで、より環境が整理されてクラブにいい影響があるならよかったなと。