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ミズリンタット退社の影にデニス・スアレス?

今年始めにアーセナルFCを辞めたチーフスカウトのスヴェン・ミズリンタット。

大きな期待でAFCに迎えられてからわずか1年あまり。カリスマ・スカウトの突然の退社にはずいぶんと驚かされたもので、その決断の影にあったものについてはさまざまな憶測が囁かれていたが、今回またあらたにクラブ内部のメッシーな事情が示唆されている。



デニス・スアレス獲得に反対だったミズリンタット

今日アップされたArseblog経由、Metro経由、The Timesの記事よれば(※要メンバーシップ)、ミズリンタットはクラブ在籍中のエメリのある決断に「うろたえた(dismayed)」という。

It’s starting to look ugly at Arsenal

Sven Mislintat ‘dismayed’ by Unai Emery transfer decision at Arsenal

それは18-19シーズン冬の移籍ウィンドウにおけるデニス・スアレスの獲得。

選手の補強が必要な状況はたしかにあったが、果たしてエメリの気に入りだというデニス・スアレスがその回答なのかとファンベイスでもだいぶ議論になった。多くのファンが彼の能力に疑問を持ったが、結局条件をしぶるバルセロナをなんとか説得し、ローンで獲得された。

そもそもミズリンタットはこの補強が必要だった右フランクについては、ジョー・ウィロックとバカヨ・サカにチャンスを与えたい考えで、エメリにもそう進言していたのだという。

しかし、エメリはその意見を聞き入れず、かつて率いたチームの選手だったデニス・スアレスの獲得を主張。

結果的にアーセナルはエメリの主張を受け入れ、自分の意見をないがしろにされたミズリンタットは大いに落胆したようだ。

大失敗となったスアレスの獲得

アーセナルがデニス・スアレスの半年ローンにかけたコストは、£3Mとか£5Mとか云われている(※ソース失念)。

結局スアレスはバルセロナに戻るまで半年アーセナルにいて、プレイタイムは95分しかなかったという。ベンチに座っていたという以外でチームへの貢献はほとんどなかった。

もちろんローン契約終了後に買い取ることもなく、彼の獲得がローンでしかも買取義務がなかったことが救いとなるような、アーセナルにとっては歴史に残る大失敗リクルート案件のひとつとなった。まさに黒歴史だ。

それと、退団後のインタヴューで彼がアーセナルにいた期間、プレイするフィットネスができていなかったと白状しており、そのこともアーセナルのマネジメントの失態を強く印象づけた。

だってたった半年間しかいないのに、プレイする準備ができていない即戦力ではない選手を連れてきてどうする。

しかもエメリは、フィットネスの問題はあったのだろうが、ベンチに座らせても試合で起用しようともせず。なんのための獲得だったのかいまだに疑問は残る。バックアップならスアレスに固執する必要はなかった。それともウィロックではバックアップも務まらないと考えたのだろうか。

ミズリンタットがスアレス獲得に反対していて、エメリが強行したというこのエピソードは初めて聞いた話ではないが、その噂を裏付ける記事なのかもしれない。

いずれにせよいまあらためて聞きたくなかった話ではある。

このスアレスのローン案件が物語ること

さてこの話は、いくつかの意味でアーセナルを見守るファンにとっても、非常にクラブの未来を憂える内容をはらんでいて興味深いと思う。

職務の混乱。誰がどういう責任を持って仕事を遂行するのか?

ひとつは、選手リクルートに関する問題で、クラブがミズリンタットよりエメリの意見を受け入れたこと。

厳密にはクラブ内部の事情やそれぞれの立場の重要度はわからないが、アーセナルFCの現在のクラブストラクチャを考えれば、ウナイ・エメリ(ヘッドコーチ)とスヴェン・ミズリンタット(チーフスカウト)はラウル・サンレヒ(ヘッド・オブ・フットボール)の下に並列にいた。そこにはおそらく上下関係はなかったはず。

にも関わらず、こと選手選考やリクルートに関する問題においてチーフスカウトよりヘッドコーチの意向が優先されたのだから、ミズリンタットが戸惑ってもおかしくはない。とくにミズリンタットには、もっと大きな役職(テクニカル・ダイレクター)に就くという野心もあったというのだからなおさらだ。

一説によるとミズリンタットはBVBでも人間関係で問題を抱えていたと云われるように、AFCでもそのような問題があったのではないかという指摘もあるので、そういう意味ではAFC社内にはミズリンタットよりエメリの意向が採用されやすい状況はあったのかもしれない。以前にエメリがサンレヒにだいぶ肩入れしているというオーンステインの指摘もあったのもたしかだ。

しかし、重要な決断において職務や専門性よりも、感情や人間関係を優先するようなことは、組織としてあるべき姿ではない。少なくともそのようなアマチュアリズムがはびこっている組織は成長しないだろう。

ミズリンタットの退社はサンレヒとのリクルート方針における意見の対立が原因になったという説もあるが、だとすれば、だいたいサンレヒはなぜミズリンタットにリクルートを任せていなかったのか?

サンレヒはジェネラル・マネージャーやスポーティング・ダイレクター的な立場から、リクルートに口を出したってなんの問題もない。が、マネージャー選考などクラブの意思決定に大きく関わっているような重職にあるミズリンタットの職分を侵してまでやることだろうか? 理解に苦しむところだ。

このように、いまアーセナルの意思決定プロセスには理路整然とされていない、なにか特殊な力学が働いているような気がしてならない。

これからエドゥがどうなるか心配だよ。

若い選手を使うというフィロソフィ?

もうひとつは、この件に関しては、ウィロックやサカを使うべきというミズリンタットの意向のほうが、クラブが主張するフィロソフィをずっと体現していたということ。

アカデミーの若い選手を積極的に使っていく。それがアーセナルの新たに強調したいほどのコンセプトでもあるのだという。

それなのに、クラブは逆行してデニス・スアレスを信じ大失敗。結果的にはミズリンタットの意見を聞くほうが正解だった。どうせ95分しかプレイしなかったのだから、金のないアーセナルがそこに虎の子の予算をかけたことは誤った判断だった。

サカはともかく、ウィロックについては少なくともデニス・スアレスよりはだいぶ期待の持てるパフォーマンスを見せていたのだから、逆にスアレスを連れてきたことで彼らに経験を与える機会を逃したことについてアーセナルはもっと悔やむべきだ。

アーセナルFCをこれからもっと若い選手を積極的に起用するチームにしたいと、クラブの将来についてサンレヒとヴェンカテシャンは、自信満々に語っていた。

それはほんとうに彼らの本心なのだろうか?

思うに、このスアレスの件で深刻なのは、アーセナルがそのような口当たりの良いことを表では云いながら、実際クラブの若い選手を信じていないことだ。

なぜ、エンケティアを使わない? なぜ、オセイ・チュチュを使わない? なぜ、ウィロックやサカを信じずにフィットネスの怪しいデニス・スアレスにこだわった? なぜプリシーズンで直接見る機会があるのに早々にビエリクにプラン外を伝える必要が???

ぼくにはこの若手を使うというフィロソフィについて、クラブやエメリのやり方がちぐはぐに思えてしかたがない。

アーセナルのこのフィロソフィは財政的な状況からの要請でもあるはずなのだから、いろんな意味で従うべき原則のはずだ。それを宣言してそれに逆行するとは、なおさら意味がわからない。



このエントリのネタになっているThe Timesの記事は冒頭しか読めないので全体はわからないのだけど、タイトル「It’s starting to look ugly at Arsenal」とリードによれば、この記事は、アーセナルはキャプテン問題で揺れているだけでなく移籍ウィンドウで危機的な状況に陥りつつあり、ミズリンタットの件は、近年のアーセナルが描いている下降トレンドを象徴するものである、という主旨のようだ。想像だけど。

近年の結果や移籍ウィンドウでの停滞といった表面に見えていることだけなく、アーセナルには運営や計画の実施プロセスになにか根本的な問題があって、それがちらちらと見え隠れしているような気がする。

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8 Comments on “ミズリンタット退社の影にデニス・スアレス?

  1. ビエリクも試しもせず戦力外扱いなのですか?
    アデレートみたいにならないといいですけど
    彼の放出は全く理解できませんでしたよ

  2. サンレヒは移籍市場において自らの意見を反映させたがる一方それが失敗に終われば監督やTDに責任をなすりつける、そんなポジションにいるんだなぁ

    サンレヒがいる限り効率的なリクルートメントは期待できないと思ってしまうね

  3. サンレヒの公式インタビュー記事を読んで感じた
    この人には長期ビジョンもプランを実行する誠実さも無いのではないかという疑惑が強まるプレシーズンです。

  4. そもそもなんでアーセナルはサンレヒを迎えたのでしょうか。
    バルセロナではネイマールの獲得など選手獲得において信頼のおける存在だったようですが、予算の限られたアーセナルに適した人材ではないように思えます。彼の在任中に下部からトップチームに定着した選手もほとんどいませんし。
    そもそもこの時点から理念がブレブレで、リクルートをミスしていたように思えます。

  5. 聖人ベンゲルの強力な支配が終わって
    小悪党共がアーセナルを食い物にしてますね
    そもそもオーナーが悪党ですから
    コシェルニー選手はそういう嫌な流れを感じてたんだと思います
    ラムジーへの不誠実な対応もなにもかも
    アーセナルは確実に悪い方向に行ってます
    そう強く感じますね

  6. 失礼します
    そもそも世界中のクラブが若い選手を育てています
    あえてインタビューで印象付けたり、フレディを昇格させてみたり(ボールドの心中よ、、)
    そんなこと素人でも出来ますよ

    アーセナルはこの20年、アヤックスやバルセロナのやり方を目指して若手を積極的に起用してきました
    ただし、競争力を維持することが大前提です
    優先順位をつけてやってきたんです

    若手に限らず、選手が能力を発揮しやすい土壌を作ることは目指すフットボールと深く関わります
    また、選手が活躍する本質は、活躍するまで使い続けることです

    たぶん小細工を擁するネゴシエーションのノウハウしかないのでしょう
    とにかく成果、短期的なビジョンしか持てないのかもしれません

  7. エヴェルトンの噂が出てきましたが、ザハの件もそうですし、今年の冬辺りからどうもスカウティングの行き当たりばったり感が拭えないですね。
    クロエンケへ投資を直談判する、という噂が出ていましたが、そもそも以前からザハを獲るつもりでいたのであれば、今夏に資金が足りないことくらいもっと早い段階でわかっていたでしょう。CLに出場で来ていた時のプラン、できなかった時のプランをそれぞれ立てていないのでしょうか。そういう計画性のなさがクロエンケに投資を躊躇させる、ということもあるのではないかと。
    デニススアレスも、ローン期間にたまたまフィットネスが上がりきらなかったという本人の話が本当であれば、買取してプレシーズンから慣れさせていく、ということもできたはずなのに、全く買取の噂がでないことに疑問を感じました。長い期間スカウティングした選手ならそういう選択肢が検討されてもよさそうなものですが・・・

  8. スアレスもボールへの寄せの速さ・パス回しの判断なんかはよかった思うけどね。まあ実害がなくてよかった。
    しかし冷遇されながらもウィロックが着実に序列を上げきてるから今後に期待かな。

    ただエメリはテクニシャンを複数並べて使わない傾向があるから、出番というかポジション自体が少なくなってるとは思う。
    スアレスは守備のバランスを取れる選手として期待されたみたいだけど、今のウィロックに同じ役割を期待するのはちょっと酷か。
    そうするとやっぱエジル・ムヒタリャンとの競争になるのか。。。キツイな。

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