サンレヒ辞任の勝者と敗者
本題。
ラウル・サンレヒがいなくなって得をするのは誰か。しないのは誰か。まずは勝者から。
ヴィナイ・ヴェンカテシャン
ひとまず彼のマネイジング・ダイレクターというタイトルは変わらないようだ。
表向きの態度がどうあれ(彼らはずっと「二頭体制」でクラブを率いるメリットを強調していた)、彼がサンレヒのこれまでの仕事ぶりについてどう評価していたのかはわからない。だからここで勝者の筆頭に挙げるにふさわしいかどうかは微妙かもしれない。
しかし、情報が集まってくるところがふたりに分散されるよりは、ひとりに集約されるほうがストラクチャとしてはよほどシンプルなはずで、仕事はやりやすくなるのではないだろうか。もちろん彼の仕事内容が今後どうなるかによってもだいぶ違うだろうが。
ただ、ここでVVが困ってしまうような役割をクラブから任されるとは思えないので(たとえばサンレヒのようにリクルーティングに積極的に口を出すとか)、やはりサンレヒが担っていた役割の多くの部分はエドゥなどスポーツ部門のエグゼクティヴが引き継ぐことになるのだろうと思う。
このことはすでにいくつか指摘されているのを見かけたが、サンレヒ辞任からクラブの新しい運営ストラクチャを考えるに、もしかすると、ヴェンゲルさんがいた時代に少し近くなるのかもしれない。ガジディスとアーセン、あるいはディック・ロウデイヴィッド・ディーンとアーセンのように、スポーツ面はより現場(マネージャー)に近いところに任せ、それ以外のすべてを番頭役(VV)が取り仕切る。
そういった役割を担うとき、人物像も能力もVVの評価はかなり高いようなので、やっぱりVVは勝者だろうと思われる。現時点では。
ヴェンゲルさん時代からこれまでのポストヴェンゲルのストラクチャで試行錯誤してきた経緯を見るに、アーセナルがそういう組織になろう(戻ろう)としているならば、少し皮肉なことではあるけれど。
VVのプロファイルはこちらの記事に詳しい。2012年からアーセナル。スポンサー取引などビジネスでクラブに大変に貢献してきた漢。
エドゥ&アルテタ
エドゥがサンレヒをどう見ていたのかもよくわからない。
彼がペペの案件を調査するという報道はついおとといのもので、そこから急転直下のサンレヒ辞任。むしろぼくはエドゥとサンレヒ(とKJ)は、それまでの関係性を見れば大いに仲良くやっているものだとばかり思っていた。
サンレヒの辞任によってエドゥが受ける恩恵は、スポーツ部門のてっぺんに空いたポストに自動的にステップアップすることで権限がより高まることだろう。VVもそこに入ってくるに違いないが、彼はビジネスマンである。エドゥによりふさわしい仕事が多く残っているはずだ。
実際のところエドゥがAFCに来たのは、ペペを取る直前だったということで、エイミー・ロウレンスが「エドゥは以来、サンレヒの影に隠れていた」と書いていたように、その後もアーセナルのリクルートメントのなかでどれほどの影響力を発揮しているかは、よくわかっていなかった。少なくともサンレヒとジューラブシアンほどには表には見えていなかったと思う。
リクルーティングについてのエドゥの意向は、カジガオを始めとするスカウトメンたちを軒並みファイアしたことからもわかるとおり、「コンタクト&データドリヴン」の折衷で推進していくことだというので、コンタクト(コネクション)にあまりにも偏りすぎたサンレヒとは次第に考え方に隔たりが出てきたのかもしれない。
しかしいずれにせよ、スカウトメンたちを大胆かつ無慈悲に解雇したことからも、エドゥには今後の方針に確固としたヴィジョンがあるようだ。明確なヴィジョンはプロセスに一貫性をもたらす。素晴らしいことだ。
アルテタについては、このような指摘がある。
Arsenal spent so long creating a Post-Wenger setup, but are they now back to that?
Arteta feels so much in charge. Helped sort pay cuts, helping Auba talks and vision for how club’s style of play is.
Power greater now Raul gone.
Not a bad thing necessarily.
— Simon Collings (@sr_collings) August 15, 2020
The Times: Arteta has won a power battle at Arsenal after Raul left his post as the club’s head of football. Arteta will be given the final say on transfers alongside Edu, the technical director, after the club streamlined a structure that was introduced https://t.co/0flpcWZr2a
— Osman (@OsmanZtheGooner) August 15, 2020
アルテタはこれまでにも、選手たちのペイカットやオーバとの交渉(これは成功してから褒めたほうがいいと思うが……)、チームのプレイスタイルの決定について大いに貢献していて、サンレヒがいなくなることでさらにその力が増していくだろうと。
また、サンレヒが去ったことで、エドゥとともに移籍案件について最終的な意見(final say)を云うことができるようになるのではないかと。これはアルテタにとっては大きな利益だろうと思う。
ウーナイ・エムリはあとになって「わたしはペペじゃなくてザハがよかった」なんてことを云っていたが、やはりヘッドコーチが望まない選手を取るようなことはできれば避けるべきで(まあエムリの場合は彼の云うことを聞かなくよかったが)、アルテタ自身がスクワッドビルディングにより深く、人選から関与できることはとてもポジティヴなことと思う。
エドゥとアルテタは、今後より自分たちの思い通りにできそうという意味で勝者。カジガオを呼び戻しちゃう?
あわせて読みたい。
Arsenal transfer plans: Mikel Arteta can boost his project with smart additions, says Alan Smith
解雇される予定の55人
撤回されるなら勝者。が、残念ながらいまのところそういう報道は見ていない。
メスト・エジル
ガジディス、エムリ、そしてサンレヒとバトルしことごとく生き残った漢。生き証人。紛うことなき勝者。
He’s survived Gazidis, Emery and now Sanllehi. Can’t argue with that hit rate tbf. https://t.co/VglyoMDW0m
— Tim Stillman (@Stillberto) August 15, 2020
まあもっとも、これでアルテタのプランにそのままカムバックできるほど甘くはないだろうが。
フォームが著しく落ちてるのは明らかだし、試合で使ってインセンティヴボーナスのようなものが発生するなら、今後もチームセレクションでは躊躇することになるだろう。金を使いたくないのはサンレヒだけの意向ではもちろんない。
移籍ウィンドウが閉じる10月までに何が起きるか。緊張感をもって注視しよう。
アーセナルのファン
ぼくらファンはクラブの運営に対しても透明性を求めている。
なぜならクラブの成功と輝かしい未来を切望しているから。週末勝って気持ちよく月曜日を迎えたいから。だから非合理なことはやってほしくないし、クラブの利益になること以外はやってほしくない。
先日、55人解雇についてクラブが決めたことをファンに説明する必要もないとかそんなふうな意見をどこかで見かけた気がするのだけど(※日本の話)、そんなクラブを応援するのはいやじゃないすかね。おれはいやですね。いやいやえんですね。
別に私企業なんだから、法を犯す以外何をやったって勝手だ。でも一方で彼らはファンに求められたいと、ファンあってのクラブだと主張している。ファンとのつながりが重要だと云っている。
だから、つまりアーセナルFCはぼくらファンのものでもあるのだ。
55人解雇についてイアン・ライトが「クラブは誰をレペゼンしてるのか思い出せ!」と怒っていたけれど、そりゃファンであるぼくらのことだ。云うまでもない。これを読んでるあなたでありわたし。当然説明は求めたい。ぼくはシーズンチケットホルダーなんかに比べたら、クラブの財政には微塵も貢献していないけど、それでも一ファンとしては説明してほしいと思っているし、それは正当な要求だとも思ってる。
クラブ運営のトップが、ひとりのスーパーエイジェントにクラブへの深すぎる関与を許すとか、エジルを干すとか、55人解雇するとか、ファンであるわれらに対して合理的な説明ができないような振る舞いは本来すべきじゃない。やむを得ない場合だってあるだろうから、それをするなと云ってるんじゃない。できるかぎり誠実に説明してくださいと云っている。それができないのは何かやましい、クラブのためにならない後ろ暗いことがあるのではないかと勘ぐられる。ファンとクラブの関係としては、非常に好ましくないでしょう。
ASTの声明で、VVはオープンでアカウンタブルな(説明責任を果たせる)人物だとあったように、そういう意味でもサンレヒの退任&VVのリプレイスメントは歓迎されている。
もちろん、サンレヒが来てからいいこともたくさんあったし、さすがドン・ラウルと呼びたくなるようなときも何度もあったので、そこまではさかのぼって否定はできない。
彼が去ったことでアーセナルのファンがハッピーになれるかどうかはこれから次第だが、ここまでに至った経緯と現状を俯瞰すれば、やはりぼくらにとってはサンレヒの退任はポジティヴな出来事だったのだろう。
勝者だ。やったー。
つづいて敗者へ。
僕は大体においてよかったと思ってるけども。
エジルは。。。生き残ったとは言えるだろうけど、勝者かどうか?
ほんの2年半前に莫大なコストをかけてチームの中心に据えたのに、結局エジルのためのチームは作られなかった。今のチームも決してエジル向きのチームではないと思う。
試合に出れる可能性があるとしたら、ラカが放出されてCFオーバ・左サカ・右ウィリアンになるケース?。あり得ない話ではないけど、1stチョイスではないだろなあ。