一昨日、『BBC Sport』が今シーズンのPLでケガが増えていることについての記事をアップしていた。現在、PLのケガ数は新記録を更新しているそうである。
Why are Premier League injuries at a new high?
去年のシーズン中のワールドカップや、今年から長い追加タイムで「100分試合」が当たり前になるなど、ますます増える選手の身体的負担については懸念する声も小さくなかったが、いまそれが選手のケガが急増するというかたちで現実的な危機になっているという。
PLは、これにどう対応していけるだろうか。
23-24シーズンPLのケガは新記録を更新
BBC Sportの記事をざっと紹介しよう。箇条書きスタイルで失礼。
- ボーンマスに敗れた試合後、Kieran Trippierはニューカッスルファンと衝突。「どれだけのケガ人がいると思っているんだ!?」と自分たちのファンに向かって3度も繰り返した。マグパイズは現在PLでワーストとなる11人のケガ人がいる
- そして今シーズン、PL全体ではケガ人数は新記録を更新している
- PLで23-24シーズンが始まってからわずか3ヶ月で196のケガがあり、「Premier Injuries」の創始者であるBen Dinneryによれば、直近4シーズンとくらべても15%増加しているという
スタッツ
- ニューカッスルでは現在11人、今シーズンの合計では14人がケガをしている。これはマンUと並びリーグワーストの数
- つまり、この2クラブにはハイインテンシティなヨーロピアン試合もあって試合数も多く、それが原因でケガが多いのか? そうとも限らない。ウェスト・ハムはELにいるが、現在のケガ人はゼロでシーズンを通しても5人しかいない。これはリーグ最少
- 似たスケジュールでもこの差がうまれた理由のひとつとして、Dinneryによればニューカッスルの昨シーズンからのコアスクワッドを挙げる。彼らは22-23シーズンはシーズン全体で15人しかケガ人がいなかった。Dinnery「ニューカッスルはヨーロッパのトップ5リーグで唯一、アウトフィールド選手のうち9人が国内リーグで少なくとも75%の時間をプレイしていた。このような例はない」
2022冬ワールドカップの「二日酔い」
- 選手の負荷では、去年冬のワールドカップの影響も考慮する必要があるかもしれないとDinnery
- そもそも去年11月メンズのワールドカップカタールの開催前からの懸念のひとつは、ケガと選手のウェルフェアだった。22-23PLはワールドカップ前に試合を詰め込もうと過密日程を強いられた
- またエリザベス女王の死去もあり、10月24日の前には11試合を消化。一部のチームは12試合。ゲイムウィーク11では、151人のケガが記録され、それは今シーズンよりも45少なかったが、ワールドカップ後には必要なフィクスチャを取り戻すことも求められた
- Dinnery「外部からみれば日常に戻ったように観えても、いまだにワールドカップの二日酔いに苦しんでいるというのが現実」
- ワールドカップの数字を観ていくことは、直近の3、4シーズンとの比較になる
- なぜか? はっきりしたことはわからないから。選手たちは自分たちを守ろうとして、ワールドカップ前はインテンシティを下げたという説もある
- グローバルの保険会社であるHowdenの「Men’s European Football Injury Index」が示すデータによれば、PL、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガ、それとリーグアンにおけるケガによる平均離脱期間は、2022ワールドカップ以前の11.35日から、その直後の1月には19.41日に増加した
- PLとブンデスリーガの影響がもっとも大きかった。PLクラブはワールドカップファイナルの2日後からすぐカラバオカップでプレイを再開したのに対し、ブンデスリーガは一ヶ月以上のブレイクがあったにも関わらず
- リポートによれば、それはPLとブンデスリーガでの「テンポの増加」で説明できるかもしれない。なぜ彼らがイタリー、スペイン、フランスよりもケガ率が高いのか
- ハムストリング、足首、ふくらはぎ/すねの重いケガが、かなり増加している
今シーズンはハムストリング故障がもっとも多い
- KDBとPedro Netoは、長い期間ハムストリングの故障のためプレイしていない
- Dinneryのチームは、20年以上にわたってデータを収集しており、ハムストリングスの故障は、軟部組織および筋肉損傷の故障のうち約42%を占めているという
- それが今シーズンは53件と、昨シーズンと比較してハムストリングのケガが96%も増えている(26件増)
- 直近4シーズン平均との比較では、55%の増加
- 今シーズン、遅延行為を防ぐための追加時間の増加によって100分を超える試合も珍しくなくなっていることは議論になっている。それが選手ウェルフェアに影響を与えていると
ケガのコスト
- Howdenが「Sporting Intelligence」の給与データを使ってケガのコストについてリポートしている。それによれば、ケガがPLの22-23シーズンに与えた財政的影響は、£255.4m。前年よりも£70.8m増えている
- ヨーロッパのビッグ5リーグ全体で報告されている946件のケガについては、前年より25%減少しているいっぽう、報告書では、クラブへのコスト上昇の背景には<怪我の重症度の増加>があるとしている
- これは、ケガで離脱している選手がどれほどの給与を得ているか、その経費によって算出される
- 22-23シーズン、PLチャンピオンのマンシティは40人のケガ人で、およそ£11.9m。マンUとノッティンガム・フォレストが最多で69人。12位と残念な結果に終わったチェルシーは68人で、そのコストは£40.1mだった。これは英国クラブで最高額
- 全体として、22-23シーズンのトップ5リーグのケガによるコストは、前年の£485.2mから27.3%増加した£617.8mだった
これから事態は悪化するしかないのか?
- 12月がせまっているいま、ひとつわかっていることは、これからたくさんのフットボールがあること
- 12月21日から1月2日にかけて3つのフィクスチャがあり、PLとしては「クラブは60時間以内につぎの試合をプレイしてはいけない」
- この期間の回復時間では、チェルシーが最小の143.5時間、そしてもっとも多いのがブライトンの287.5時間(※参考:「1995年以来初めてPLでクリスマスイヴに試合開催」)
- Dinnery「ケガ人はすでに未曾有である。年末年始には昨シーズンのように急激にケガ人が増えるとわたしは予想する。回復と最適なレヴェルについて考慮すれば、回復には72時間は必要だ。それより少なければ、懸念がうまれる」
- Dinneryは、ケガの原因をピンポイントで特定できないことを悔しく感じている。なぜなら、選手やチームごとに違う状況があるからだ
- しかし、はっきりしていることがある。それは、今後ますます悪化していきそうだということ
- 来シーズンのCLとELのグループステイジは、どちらも36クラブで競われ6試合が8試合に増える。また1月に入ると、テーブル全体で9位から24位にランクされたクラブは、ラスト16を目指して2レグ制のプレイオフがある
- さらに、2025年の6-7月にUSで開催される32チームが参加するクラブワールドカップには、12のヨーロピアンクラブが参加する。マンシティ、チェルシー、レアル・マドリッドがすでにその予選を通過していて、今シーズンのCLウィナーがそこに加わり、さらに8クラブの参加が係数により決められる。それぞれのリーグからは上限が決められてはいるが
以上
PLにおいては、今年9月の時点ですでに各チームからケガの深刻さは訴えられていて、そのときマンUのボスから警告にも似た切実なコメントが発せられていた。
ETH:われわれは、シーズン中のワールドカップがあった。より長いシーズンだったのだ。選手たちをより長くプレイさせなければならなかった。FAカップもネイションズリーグもあったし、ブレイクも短い。
スケジュールが拡張されるのは毎度のことだ。選手にかかる負荷が多すぎる。どえらい過負荷だ。わたしの仲間の多くもそれを指摘しているし、わたしも同じように指摘している。だが、それはいつまでもつづく。われわれは、スケジュールを広げつづけている。
選手はもうこの負荷に対処できない。それこそいま、あなたたちがこのスクワッドに観ているものだ。
今シーズンが始まるまえだが、Raphaël Varaneもまた同じく選手の過負荷について警告していた。以前このブログでも取り上げたものをもう一度。
Varane:ぼくらは先週FAとミーティングをした。彼らは、新しく決めたこととルールについて、レフェリーたちの支持を得て推薦していた。
マネジャーや選手の立場から、ぼくらはもう何年も前から試合が多すぎることについて懸念を共有してきた。スケジュールは過密すぎるし、選手のフィジカルとメンタルにとっては、もはや危険なレヴェルであると。
ぼくらの以前のフィードバックにも関わらず、彼らは来シーズンでそれを推している。より長い試合、さらなるインテンシティ、そして選手からは感情が失われる。ぼくらはただ、自分たちのクラブやファンのためにピッチで100%が出せるよう、いいコンディションでいたいだけなのだ。なぜ、ぼくらの意見は聞いてもらえないのか?
ぼくは選手としてこの仕事ができることをとても特権だと感じているし、毎日を愛している。だが、こうした変更がぼくらゲイムを傷つけているとも感じている。ぼくらは最高のレヴェルにいたい、できるかぎり最高になりたい、毎週ファンと祝えるような素晴らしいパフォーマンスをしたい。
ぼくはこれが重要なことだと信じている。ぼくら選手、マネジャーはぼくらみんなが愛すゲイムを守りたいし、ファンにベストを見せたい。そのことがこれを重要な問題にしている。
PLに限らず、いまのヨーロピアンフットボールの日程を設定するやりかたは、あきらかに選手の安全を軽視したもので、去年のさまざまな議論がありつつ強行されたカタールのワールドカップなどは、そうした姿勢の最たるものだったように思える。こうしてケガ人が激増し問題が可視化されるまで、ルールメイカーたちと演者たちが危機感を共有できなかったのは、残念なことだろう。
だが、このままこのやりかたをつづけることはできそうもない。持続可能性がない。だってにんげんだもの。
出場キャップ制度は解決策になるのか? 選手が自ら動くべき?
- Vincent Kompanyが、選手ウェルフェアの改善策として「65試合の限定」を提案した
- それに応えてPochettino「それがいいかどうか分析するのは難しい。なぜならあらゆる状況を調べなきゃいけないのだから。シーズン70試合は無理という選手がいるいっぽうで、べつの選手はそれができる。毎試合でプレイしたがる選手さえいる。それがトッププレイヤーでなきゃ簡単な話だが、彼らからプレイしたいと云われたら、どうやってノーと云えばいい?」
- Guardiolaは、選手が団結してFIFAやUEFAに圧力をかけるべきだと述べた
- Guardiola「ものごとを変えるにはひとつのやりかたしかない。選手が自分たちで決めることだ。「待ってほしい、われわれが自分たちで決めなきゃいけない」と。そうしたら、FIFAもUEFAも多少反応はするはず。このビジネスは、The show must go onさ。ペップ抜きでも? 当然つづく。だが選手抜きではショウはつづけられない。そこは間違いなく。だから、彼ら次第なのだ。彼らが受け入れられるかどうか、彼らが決める。わたしは、影響を与えたくない。なぜなら、わたしは誰にも影響を与えるつもりがないから。そこは選手でなきゃ。選手たちが変えたいのなら、彼らこそそれができる唯一の存在だ」
- PFA(※プロ選手協会)もこれに賛成している。CEOのMaheta Molango「いまがフットボールにとり、なにがもっとも価値ある資産か決めるときだ。それは選手である。フィクスチャの設定は、選手のフィットネスやウェルビーイングに決して妥協しない。このゲイムが必要としている行動を起こす責任は、選手たちにあることはますます明白になってきている。彼らこそ<もうたくさんだ>と云うべき」
これからCL/ELも拡張されるし、なるべく試合やコンペティションを増やしてビジネスを拡張したい側と、それにつきあわされる側。つきあわされる側は、もう悲鳴をあげているという現在の状況。まあ、ファンとしては多く試合があればそれだけ楽しいのだけど、それで選手がケガだらけになるみたいなところは観たくない。いまはそうなりつつある。
ポッチェティーノが、負荷に耐えられる選手と耐えられない選手がいるみたいなことを云っているが、耐えられると思っている選手だって大怪我をしたりするのだから、タフな選手のほうに合わせてはいけないでしょう。
選手が声を上げるべきというのは、わりと賛成できる。というか、FIFAなりUEFAなりPLなりが、自分たちで選手ファーストの解決策を出さないのなら、選手やコーチの当事者が団結して不満を訴えるしかない。あくまで彼らが主役なのだから、まとまりさえすれば、発言力は強いはず。PFAってのは、労組的な存在でもあるのかな?
選手の健康保全のためには、試合数そのものを削減する方向と、選手個人のプレイ時間を削減する方向と二通りあると思うが、ビジネス的に試合数そのものはキープしたいという動力は必ず働くはずなので(ファンだってたくさんの試合が観たい)、やはり個々の選手のプレイ時間を制限するのが現実的な解決策かもしれない。
試合数キャップもいいかもしれないし、プレイ時間キャップもありかもしれない。まだまだ工夫できる余地はある。
ほんとうはコンペティションを統合するのも、ぜひやってほしいけど。シーズン全体で見ると、リーグカップとかいらんよなあ。
しかし、優秀な選手が消耗され尽くすような状況があるいっぽうで、クラブでは、どのスクワッドにもプレイタイムが少なくて不満を溜める選手がいたりするので、そういうことを考慮した解決策がなにか生まれるとよいとも思う。リーグカップはU-23限定/オーヴァエイジありみたいにしたら、うまいことはまりそうとか。プレイ時間キャップをやるだけでも、プレイする試合の優先順位がつくのだから、自ずとそうなるかもしれない。
ところで、この件について、ぼくはアルテタがあんまり大きな声で選手の安全を訴えているという感じがしなくて、そこはちょっと以前から気になっていた。
彼みたいな元選手で大怪我もしていたら、こうした問題にもとくに危機感を抱きそうなものだけど。彼はどちらかというと、選手のほうがこのタフなスケジュールに対応できなければならないみたいに述べているほど。サカはトッププレイヤーになりたければ、3日づつの試合に慣れなきゃいけないとか。そういうふうな考え方だから、同じ選手を長く使いつづける(よく云えば選手にチャレンジしている)。
まあ、アーセナルはこの状況でもリーグのなかでは平均的なケガの人数で、チェルシーやニューカッスル、マンUのように、とくにそれに悩まされているほうのチームではないから、当事者意識がやや薄いというのもあるかもしれない。それでも、ケガにはだいぶ苦しまされているはずなんだけど。
正直ぼくは、アルテタのそういうところはあまり感心していない。サカなどは、あれだけ毎試合で足を引きずるまで消耗して、ほんとうに大怪我が目前にしかみえないが、それでも使いつづけることをやめないし。あれは、なんだか必要性を越えた修行を課しているみたいでさえある。それが選手にとっていいこととは思えないのだよなあ。
毎試合が重要なアーセナルのようなクラブで、サカやライスはほんとうにチームから外せないのもわかるが、連戦でプレイするとケガのリスクが高まるので今回は使いませんとヘッドコーチがいうのなら、そこに異論をはさむ余地はない。
ということで、今シーズンはともかく、来シーズンくらいからはなにかしらの解決策が施行されるのではないか。こんな状況だから、あまり悠長なことも云ってられない。
毎度同じことを書くようだけど、アーセナルのみなさんも、今後くれぐれもケガだけは気をつけてもらいたい。
おわり
PS:“Premier Injuries”というWEBサイト
今回取り上げたこの問題、いくつかのメディアが取り上げているのは、「Premier Injuries」というところのリポートが元になっているようで。ぼくは不勉強にして知らなかったのだが、このサイトはかなり使えることがわかってしまった。とくにサイトのこのコーナー。
EPL Injury Table – Premier Injuries
このブログの試合プレヴューのエントリを書くとき、チームニュースは基本的に、BBC、Sky、フースコあたりをチェックするのだけど、ここでPLクラブごとのケガ人の最新情報が閲覧できるようである。
選手ごとのケガの内容や期間、それに対するボスコメントなどもりだくさんでケガ情報がまとまっていて、これはかなり助かる。
One Commnet on “23-24プレミアリーグでケガが急増中。増え続ける負荷に選手の身体は限界か”