グラニト・ジャカのインタヴューが話題だ。
ジャカは、昨シーズンいっぱいでアーセナルを退団、今年レヴァークーゼンに移籍するとチャビ・アロンゾ率いるクラブともども絶好調ということで、いまもフットボール世界の話題でありつづけている。現在あのバイエルンをおさえて単独トップなのだからヤバい。
彼がアーセナルで過ごしたそのほとんどがひどい低迷期だったにもかかわらず、本人的にもベストシーズンを最後に、しかも6年ぶりのCLを置き土産にしてクラブを去ったジャカ。ああいう印象的な去りかたもあったため、とくに、アーセナル界隈ではいまだに彼をリスペクトする声が多い。
今回のインタヴューの聞き手は、ジャーマンフットボールにおける情報信頼度ではTier 1評価のジャーナリストRaphael Honigstein。
Xhaka exclusive: Staying at Arsenal then leaving and a ‘calmer’ him at high-flying Leverkusen
グラニト・ジャカのロングインタヴュー 2023年冬@The Athletic
インタヴューの部分だけ。
レヴァークーゼンへの移籍
ジャカ:(レヴァークーゼンに移籍して)ぼくは変わったね。メンタリティは完全に違う。もっと落ち着くようになった。すごくすごく、落ち着いている。ぼくのゲイムも、もっとはっきりするようになって、よく考えるようになった。いつプッシュするか、いつ戻るか、いつ試合のスピードを上げるか、スロウダウンさせるか、わかるようになった。
ぼくも若いころは、多くのイエローカードやレッドカードがあったし、イングランドでもはじめは同じだった。経験によって、いつもリスキーなタックルをやる必要はないと学んだんだ。相手について走っているときに、つねに相手を止める必要はない。試合へのアプローチは、かなり前進した。
(レヴァークーゼンでの信頼)クラブからはとても歓迎されていると感じる。自分が正しいステップを踏んでいることへのサポートや評価は、ぼくにはとても重要なんだ。Xabi(Alonso:マネジャー)とSimon(Rolfes:スポーティングディレクター)と話したときにはすぐにでもここに来たいと思った。
(移籍の理由のひとつと思われていたドイツ出身の妻Leonita)じつは、彼女は反対してたんだよ。レヴァークーゼン行きじゃなくて、ロンドンを離れることに。一度でもロンドンに住んだら、そこにいたいものさ。とくに家族といっしょに。
ぼくらはかなり考えた。「学校はどうする?」とか、子どもたちはそこで生まれたし、たくさんの友だちもつくっていた。でも結局は、簡単な決断だった。妻と子どもたちのためでもあるし、その計画の裏にあるものも観ていたから。
ぼくは、ボスとかマネジャーになろうとしてここに来たわけじゃないんだ。全然だよ。ぼくがここに来たのは、若いチームをひっぱるためであり、ぼくの海外でのトップレヴェルでの経験でちょっとばかり貢献するためだった。
ドレッシングルームでの存在感
(ドレッシングルームを重要視するXabi Alonso)彼は、選手に責任を担ってほしがっている。もしトレイニングでひとりかふたり気持ちの入ってない選手がいたら、チームとして声を上げてもらいたがっている。できるだけレヴェルを高く保つために。
ぼくらがドレッシングルームにいる。ぼくらがそこで観ている。彼はずっとそこにいるわけではない。だから、そういうことを解決するのは自分たち次第なんだ。
幸運にも、チームにはビッグパーソナリティをもつ選手たちがいる。若い選手のなかにだっている。メンタリティはスーパーブさ。選手たちは聞く耳があるし、学ぶことにも熱心で、それをピッチですぐにやる。
もしかしたら以前は違っていたのかもね。昨シーズンのDFB Pokal(※ドイツ版FAカップ)のファーストラウンドで敗けたとき、問題はアビリティじゃなくて、アティチュードだった。それはマネジャーに根ざすものだったし、選手もそうだった。
鉄人ジャカ
(キミのアヴェイラビリティの秘訣は?)ぼくはすごくハードワークするけど、そのほとんどはメンタル側のことなんだよ。そこが最重要。疲れているときがあっても、ぼくは自分に疲労なんてないといい聞かせる。つぎの90分に集中する。それを継続。それが、20試合とか30試合を連続でプレイするやりかた。
いつだって痛みや疲労はある。自分の身体は自分がよく知っているし、どういう世話をすればいいのかもわかってる。メディカル部門ともよく話すね。彼らはぼくのニーズにもとてもオープンで、ぼくの周囲の人たちもとても前向きな考えを持っている。ぼくもそう。
ものごとがあんまりうまくいかないとき、そういうポジティヴシンキングが必要なのさ。それが、強さを与えてくれる。
アーセナルでの事件を振り返る
(2019のパレスで起きた事件)いまになっても、あのときに起きたことをなんて云ったらいいのかわからない。
あの一週間くらい前にも、シェフィールド・ユナイテッドとの試合中、ぼくは変な感じがしていたんだ。でもアウェイでプレイしているとき、誰がホイッスリングしているかなんてわからない。単純に、それが自分たちのサポーターからだったなんて、想像もできなかった。
パレスは、トップゲイムというわけでもなかったけど、ぼくには悪い試合じゃなかった。だから、自分のナンバーが掲げられているのを観て驚いたんだよ。ぼくはキャプテンで、まだ60分だ。
ぼくは、あれは誤解があったのかもと思った。彼らはぼくがサブに腹を立てていると思ったとか? 彼らは、ほとんどその直後にブーを浴びせてきた。そして考えた。「Okay、ぼく対6万人か。どうすればいい?」。
振り返って後悔することはある。でも、自分がやったことについて満足することもある。ぼくはいまだによくわからないんだ…… でも、これだけは確か。あの日はキツかったよ。
(自分以外にも家族や友人が標的に)正直、それもスポーツだと思う。上がるときがあれば、落ちることもある。だが、スタンドにいる家族を観たときは、顔面をひっぱたかれたみたいだった。そっちのほうが痛い。だって、彼らが傷つくのだから。両親や妻がどんなふうに感じたか、ぼくは絶対に忘れないだろう。
ぼくはそれを乗り越えるよう説得されたが、両親と妻には地獄だった。ぼくのエイジェントもそこにはいた。その2日後に新契約についてクラブと話をするはずだったんだ。もちろん、それはなくなった。
(キャプテンシー剥奪)たくさん悪い日があったね。アウェイのホテルの部屋で座りながら、起きたことを反芻していた。家族にはもう不快な思いはさせたくない。彼らはぼくよりもぼくのことを心配していたから。なんとか気をそらそうとして、ぼくのことを守ろうとしてくれていたのかもしれない。しかし、ぼくは完璧に打ちのめされていた。
ミケル・アルテタ登場
キャプテンだったにも関わらず、ぼくはクラブにあまりリスペクトされていなかった。彼らが、できるだけ早くぼくを排除したがってたのは明らか。でもそれは、ひとりを除いてだ。ミケル・アルテタ。
初めて彼と会ったとき、ぼくはもう荷物をまとめていて、飛行機に乗ろうとするところだった。こころも魂も、すでにクラブから離れていた。彼に云ったんだ。「解決策はぼくが去ること」。ミケルからは残って欲しいと云われた。でも、ぼくはわからなかった。
そのとき父さんに相談したのをおぼえてる。彼は「もう行こう」と云っていた。あとにも先にも初めてだ。彼はぼくによく逃げるなと云っていたから。ぼくにはもうアーセナルでの未来はないんだと云われた。
ぼくも、もう一度アーセナルでプレイする自分は想像できなかった。「ぼくはファンからブーされないところへ行きたいだけです」と彼に云った。でも、彼にはすごく説得力があったんだ。
ぼくの人生で初めて、家族に相談せずに決心した。「わかりました。残りましょう」と。ぼくらは抱擁して、その日から、ぼくはトレイニングに復帰した。まるで何も起きなかったみたいにね。
(復帰戦のELフランクファート。エメリ最後の試合)あれは、アーセナルで初めてプレイするみたいに緊張した。チームメイツのひとりがキックオフの前にぼくのところに来て、云ってくれたことが忘れられない。「何が起きたって関係ないさ。ぼくはキミといっしょにいる」。それが新しいチャプター、新しい始まりになった。
(アーセナルのルネッサンス)ミケルは、ぼくができるとわかっていたレヴェルのプレイにまで連れて行ってくれた。彼はぼくのクオリティをよくわかっていたし、他の誰がなにを云おうがお構いなしだった。
4年後、それはほとんどハットトリックみたいな試合(※5月のPLウォルヴズ)で終わりを告げた。そして、アーセナルファンはぼくに残ってくれと叫んでいた。
あれには鳥肌がたった。ことばでは説明できない。家族があれを聞いてどれだけうれしかったか。すべてのことはもう過去になった。
(2021年12月に受けたイエローカードでかけられた賭博詐欺の疑いが、このとき無罪に)あれで安心したかって? それはない。クラブもぼくも、あんなのありえないってずっとわかってたんだから。
バスク人、ミケルとXabi Alonso
(残り契約1年でレヴァークーゼンからの接触をエドゥに相談。AFCには1年延長OPも)アーセナルが契約延長しなかったことはちょっと悲しくもあったけど、いっぽうではうれしくもあった。なぜなら、ぼくははっきりしないのは好きじゃないから。
レヴァークーゼンのプランは明解だった。7年もいたアーセナルを去るのは感情的には簡単じゃなかったけど、それは完全に正しい決断だった。うまくいってよかったと思う。
(ミケルとXabi Alonso)ミケルは、ぼくにフットボールのまったく新しい見方を示してくれた。基礎に集中することで。子どものころにおぼえたことは忘れちゃうから。
プレッシング。ボディシェイプ。ポジショニング。動き。誰かのカヴァーシャドウ。ピッチでのコミュニケイション。Xabiはすごく似てる。このスペイン人たちは、ほかとくらべて違うフットボールの見方をすると思う。Xabiが初めて彼のアイディアを話すのを聞いたとき、「これはミケルの下でもやったな」と思った。違うコーチだが、同じフィロソフィがある。
レヴァークーゼンのタイトル争いとアーセナルでの経験
地に足をつけていないとね。去年は(アーセナルでは)超惜しかったけど、結局ついていけなかった。ちょっとした幸運も必要だし。
ぼくは、もしウィリアム・サリバやトマス・パーティを失わなかったら、リーグを勝っていたと思うよ。
ここでも同じことだ。もしぼくらが全員フィットして健康であれば、そして何か愚かしいことが起きなければ、もうしばらくのあいだそこにとどまれるはず。
アーセナルとの絆
(いまだにカルロス・クエスタやパーティ、ジンチェンコらの友人とはよく話す)(12月28日のPLウェスト・ハム)そこが選手やスタッフ、サポーターのみんなにちゃんとお別れを云うチャンスかな。
(No.8の後継者ハヴァーツ)カイにとって、どんな感じかわかるよ。外野の人たちがナーヴァスになったり、ファンが忙しなかったり。彼に必要なのは落ち着くことだ。新しいポジションで、ミケルのフィロソフィを完璧に理解するには時間がかかる。
だが、彼もよくなっているし、自信も戻ってきた。みんなが彼のポテンシャルをわかっているが、自分のクラブから、自分のマネジャーやチームメイツからの自信がすべてだ。そういう支援が必要なんだ。
アーセナルのサポーターは、説得するのにちょっと時間がかかることがある。でも最後には、ぼくは彼らの信頼を勝ち取った。
カイも同じことをやれると期待してる。評論家にギャフンと云わせるのさ。
以上
ジャカの発言部分だけを訳したが、この記事は、地の文にもジャカの考えや発言が含まれていて、それを伝えられないのはちょっともったいないなと思う部分もちらほら。まあ、閲覧は基本的に有料の記事なので、それくらいがちょうどいいか。ジャカっ子の皆さんはThe Athleticにサブスクして読んでください。
さて、ジャカのインタヴュー。これまでの彼のインタヴューで語られたことと重なる部分もあるし、初めて聞く話もけっこうある。それと、カイ・ハヴァーツのことなど最新のコメントが興味深い。まださほど時間がたっていないので当前のことながら、彼はいまもアーセナルをチェックしている。
アーセナルでのブーイング事案については、彼もほんとは思い出したくない類の話なんだろうが、なんだかんだでこれを語ってくれるのは、それがもう完全に過去のものになっているからなんだろう。アーセナルにいたときにもそれを乗り越えたし、いまはドイツリーグでトップをひた走るレヴァークーゼンの中心選手ということで、とても充実した時間を過ごしている。
現在のレヴァークーゼンがすごいと思えるのは、ブンデスリーガのようなほとんど1強か2強という寡占リーグで、あきらかなボスたちを上回っているということ。今シーズンはすべてのコンペティションで敗けなし。そして、それを成し遂げたのが22/23からヘッドコーチのXabi Alonsoであり。23/24から加わったジャカもヴェテランとして大きく貢献。
Granit Xhaka has made more successful passes into the final third than any other player in Europe’s top seven leagues this season (129).
Xabi Alonso has given him the keys. ???? pic.twitter.com/t1axPibXky
— Squawka (@Squawka) November 13, 2023
このインタヴューのなかでも語られているが、やっぱりミケルとXabi Alonsoでやりかたが似ていて、彼としてもやりやすいというのもあるんでしょうな。
幼馴染ですし。
ジャカはレヴァークーゼンに行った理由は、コーチになるためじゃないと述べているが、彼がコーチングライセンスを取っているのは事実であり、現在31才ということはリタイヤもそう遠い未来ではない。いずれドイツかスイスでコーチを始めて、いつかマネジャーとしてアーセナルに戻ってくるなんてことはあるんだろうか。
アルテタがアーセナルのヘッドコーチになったのが37才のときだから、まだ時間はあるか。それにジャカは長くプレイしそうだしな。
12月28日のPLウェスト・ハム(H)で、彼はエミレーツ訪問を予定しているようで、これはなかなか楽しみ。セレモニー的なものもあったりして。
おわり