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Arsenal, Arteta

アーセナルのシーズン終盤のガス欠とローテイション

バイエルンに敗けたあと、傷心で一日アーセナルからちょっと離れていた。試合のレビューエントリだけはちゃちゃっと書いたものの、その後のちまたの議論みたいなものはあまり目を通していなかった。

そして、今朝後追いでいろいろ観ていたら、これは想像どおりというか、やっぱりというか、アルテタのロテイション不足の弊害が各所で話題になっていた。最近のチームの試合中のガス欠っぷりを見れば、それも当然と思える。こういう記事とか。アルテタがロテイトしない代償。

Mikel Arteta does not rotate and exhausted Arsenal are paying price

彼がつねにプレイさせてきたコアチームは、シーズンのこの時期ですっかり疲弊してしまって、それが3試合勝ちなしの大きな原因にもなっているという。試合を観ていても、いかにもエナジーが足りないという感じで、肉体的疲労とそれに伴う精神的疲労は、敗戦の大きな要因のひとつだと感じた。



少数精鋭ではシーズンを通して競えない現実

昨日デイヴィッド・オーンステインが、バイエルン戦について、去年のシティのヴィラ戦を例に「リードされたら、(彼らのように)獣のように戦う必要があった」と述べていた。まさにそのとおり。なのに、アーセナルときたら、それどころかリードされた直後は、さらに相手に押し込まれていたのだから、あの段階では、すでに気持ちで負けていた。

試合のなかのああいう重要な時間帯で、連戦の疲労からか気持ちもアガらなくなっていたのは致命的。アルテタがいくらサイドラインで腕を振り回そうが、キャプテンが必死に大声で味方を鼓舞しようが、チームのファイティングスピリットの減退を止めることはできなかった。それじゃあ試合に勝てない。

スポーツにおいて、疲労はすべてを台無しにする。

アルテタが中心選手たちだけでレギュラーを固定して、サブの選手たちになかなかチャンスを与えないことは、もう長らく指摘されていることだ。この件については、このブログでもしつこいほど同じようなことを繰り返してきた。頼むから、ミケルはベンチ選手をもっと使ってほしいと。だが、そうしてくれない。

こういう結果になって、ようやく世間的にもかなり大きな課題としてフォーカスされるようになったように感じる。

いまのスクワッド全体のクオリティを見れば、アルテタのセレクション方針を全面的に批判することなんてできないのはわかる。ネルソンやESRが、サカやオーデガードと同等のインパクトを出せるなんてことは、さすがに期待できないから。

だが、だからといっていまのように同じチームがずっとプレイをつづければ、いずれ消耗し、こうして試合で敗けたりするのも必然だった。それが、今回はシーズンを決めるほど重要な試合だったという。

ベストチームがつねに万全な状態でプレイすれば、最良の結果を期待できる。だが、それをやるにはシーズンは長すぎるしタフすぎる。もしかしたらやれるかもしれない。やれないかもしれない。だから、それはリスキーな賭けなのだ。

悔しいのは、いまの状況は事前に予想できたかもしれなかったこと。

ぼくは云われるまで気づかなかったが、うえの『The Telegraph』の記事でも指摘されているように、アーセナルのチームがシーズン終盤のこの時期に「ガス欠」を起こすのは、これで3シーズン連続という。以下が今年を含めた3シーズンの4月の結果。

4月に不調に陥るアーセナル

2021/22:
❌ Palace 3-0 Arsenal
❌ Arsenal 1-2 Brighton
❌ Southampton 1-0 Arsenal

2022/23:
🤝 Liverpool 2-2 Arsenal
🤝 West Ham 2-2 Arsenal
🤝 Arsenal 3-3 Southampton
❌ Man City 4-1 Arsenal

2023/24:
🤝 Arsenal 2-2 Bayern
❌ Arsenal 0-2 Aston Villa
❌ Bayern 1-0 Arsenal

なんと4月の直近10試合でアーセナルは一度たりとも勝ててない。もちろん相手の名前を見れば云うほど簡単な試合ばかりではないが。

この調子では土曜のPLウォルヴズも、かなり不安にならざるを得ない。それは、またまたシーズンを決めかねないほど重要な試合になってしまった。そこで敗ければ、事実上PLタイトル争いからの脱落。去年の悪夢の再現となる。あれだけの失望をもう一度味わうことになるのは嫌だ。

もちろん、4月の不調がすべて、アルテタのレギュラー固定化が原因というわけではないだろう。しかし、彼の一貫したこだわりのチームセレクションと4月というタイミングを考えれば、それも理由のひとつには違いない。シーズンも佳境でどんなチームもフレッシュではいられない時期。いつも同じ選手がプレイするアルテタのチームゆえに、このタイミングで勝てなくなっているのは、偶然とは思えない。

もしかすると、クラブはこのことを考慮してウィンターブレイクを活用しようとしたのかもしれない。これまでのように、シーズン終盤にヘタレないように途中でしっかり再充電しましょうと。だが、こうしていまレギュラー選手たちが疲れ切ってしまっている姿を観るに、結果的にはそれだけでは足りなかったということ。

とくに今年は7シーズンぶりというCLのタフさもそこに加わった。頭も身体も、つぎつぎとやってくるビッグゲイムの緊張にまだ慣れていなかった。(※ちなみに、来シーズンのPLはウィンターブレイクの期間がないらしい。ぎゃぼん)

クラブとしてローテイション戦略が必要

アルテタに、というかクラブとして求められるのは、スクワッドをつねに健全にしておくための<戦略>だ。PLはどの試合もタフだからレギュラーを休ませてる暇なんてないなどと云っていると、これまでと同じことの繰り返しになる。選手が疲労して終盤に失速するという同じ過ちを繰り返さないためには、無理してでもアルテタのこだわりはある程度は軌道修正されるべきと思う。

サブの活用も。アルテタは、ローテイションだけでなくサブにもわりと消極的だが、そこも見直してもよさそう。サブの余裕があっても、どんな試合でもサカを最後まで使いつづけていたとき、さすがにどうにかしてほしいと思っていた。まるで、アルテタは彼にエリートになるための厳しい苦行を課していたみたいだった。最近は一時期ほどでもないか?

ここしばらくのあいだで大幅なスターティング11の変更を行ったのは、3月のPLルートン(H)。この時期に、かならず必要だったことをあそこで実施した。しかし、それ以降はほぼレギュラー固定に戻った。ルートンで活躍したESRやパーティもその後はほぼ出番なし。アルテタが意識的にやったローテイションはあの試合だけ。非レギュラーに託しても大丈夫と感じた試合が、ホームのルートンだけ。

もしかしたら、いまの3試合勝ちなしというチーム状況を観て、つぎのウォルヴズやそのつぎのチェルシーあたりは、多少変更をやるかもしれない。だが、それらもPLの超重要試合であることには変わりない。もしここでそれをやるなら、場当たり的というか後手後手というかリアクティヴな印象は拭えない。もっと長期的な視野でチームの健全性を考慮すれば、そういった変更はもっと早くからより分散してやっていくことが理想的だった。

ベンチもつねにチャンスがあると感じるなら、チーム全体の士気も保てる。

今年は、重要なレギュラー選手がケガをして、強制的に非レギュラー選手を使わねばならなくなるみたいな状況でないだけまだマシだが、そういう未来のリスクも考慮して、つねにベンチの選手にも時間を与えることで、マッチフィットネスや試合勘といったものをできるだけ広くチームで維持させ、万が一に備えておくべきなのだろう。それが健全な本来あるべきチームとしての姿じゃないか。リスクが低い。普段からそうしておけば、ヴィラやバイエルンなどのタフな試合でも、疲れ切ったレギュラー選手を変えてもいいと思えたかもしれない。

これは、クラブの戦略・方針として決めるべきことだと思う。チームとクラブの利益を目指すべき。マネジャーの意向はあきらかだが、結局どちらを取るかだ。そしてアルテタが取るやりかたは、持続可能性があやしく、目先の結果で安心できても長期的にはリスクが高い。近年のシーズンがそれを証明している。

アルテタも変わらないといけない。

いっぽうで、来シーズン以降もっとスクワッド全体のクオリティが上がることで、アルテタももっと柔軟にチームセレクションをやるようになるのかもしれないし、もっと頻繁に積極的&戦術的サブをやるようになるかもしれない。アルテタにも変わってもらって、チームにも変わってもらって、というのが理想。

 

ところで、今朝みた興味深いデータがある。おなじみのBBQ氏ことBilly Carpenter氏のtwより。

今年のアーセナルのPL、CL、FAカップの試合で、試合までに96時間以上の休息があったときとなかったときのチームの「決定力」を比較したもの。90分ごとのxGDにはそれほど大きな差はないが、「実際のゴール(マイナス)xG」には、かなり大きな差がある。

96時間というのは4日間なので、実質ミドウィークの試合があるとき(2-3日間のブランク)と、それがない週末だけの試合のときとの比較である。

チームが十分に休むことで、シュートの質にくらべて実際のゴールが多く(難しいショットも決まる)、逆に十分な休息がないときは、シュートの質に実際のゴールが及ばないという。これは興味深い。

決定力が向上しているというのは、具体的にどういう状態かといえば、やっぱり集中力が増しているということだろうか。GKの手が届かないギリギリの場所を狙ってボールを蹴ることができるとか。あるいは、ボックスで瞬時の判断を間違わないとか。

図の注釈にもあるように、試合相手のクオリティあるいはそのときのチームのケガ状況などほかの要素もあるので、この数字をそのまま鵜呑みすると危険かもしれないが、それでもここまでの顕著な差があるなら、休息時間とパフォーマンス向上はかなり関係していると観てよさそうに思う。

肉体的に余裕があれば、集中力も増す。そういったとき、おそらくシュートだけでなく、パス成功率などのほかの面でも向上しているものがありそう。

もっと大きなサンプルサイズで観てみたいデータではある。

 

疲労とパフォーマンスについては、チームのなかではサカがもっともわかりやすくその影響を受けていると感じる。彼は、今年ウィンターブレイク以降から水を得た魚のように活躍した。1月からPLで7試合連続でのゴール貢献があり(G8 A2)。満タンの充電がスパークしていた。

しかし、それ以降3月のPLブレントフォードからのCLを含む8試合では、PLブライトンとCLバイエルンでそれぞれゴールを決めたのみ。2連敗したヴィラでもバイエルンでも、試合中に時間とともにエナジーがしぼんでいったように観えた。疲れているし、つねに足を蹴られて痛みもある。

それとは逆にオーデガードは、どんなに長時間プレイしても、最後までエナジーを維持するみたいなところはほんとうにすごい。驚異的スタミナ。しかし、そんな彼にしても、身体が疲れていないほうがいいプレイができるに違いなく。そんなの当たり前だ。

この件でアルテタに望みたいことは、賢いスクワッドマネジメント。それに尽きる。理想と現実のすり合わせ。長期的視野でチームを選び、ベンチから明日のレギュラーをつくること。

ここに関しては、アルテタには進歩の余地がある。

 

Nina Simone “Tomorrow Is My Turn”でお別れしましょう。

 

さようなら。



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