試合の論点
フラム vs アーセナルのトーキングポインツ。
「セットピース頼み」に反論できない? アーセナルの攻撃の何が問題なのか。左サイド??
この試合はどうでしたかね。
あのまぐれみたいな、事故みたいな最初の失点がなければ、たしかにアーセナルが順当に試合に勝っていたかもしれない。1-0でこちらの勝ち。ふつう90分でショッツ2しかできないようなチームはゴールできないのだから、試合の流れ的にもフラムがゴールを奪う可能性は低かった。それに、アーセナルも全然チャンスをつくらなかったわけでもない。そのうちのいくつかが決まっていれば、結果はもっと差がついていてもおかしくないような、そんな試合だった。
ただ、問題はアーセナルが序盤に1失点して、勝つためにはどうしても2ゴールが必要な試合で、最後までそれができなかったこと。
そして、それができなかった大きな理由には攻撃の停滞があるだろう。フラムはかなりアーセナル対策をやっていて、とくにMFからサカへのパスはかなり妨害していた。人数をかけてあの右サイドエリアのスペイスも消していた。だからアーセナルはいくらボールを持っても、決定的な場所に侵入できない。サカ対策はともかく、この攻めあぐねはマンUでも観た光景に思えた。
こういう対策は、ビッグチームならつねに想定しておかねばならないことで、それでもその対策を上回って勝つのが強いチーム。リーグタイトルを取るようなチームはみんなそうして試合に勝っている。
いまアーセナルが苦しんでいるのは、チャンスクリエイションだ。とくにオープンプレイからのそれ。毎度コーナーからゴールできるなら苦労はないので、当然それ以外でチャンスをつくってゴールする必要がある。アーセナルは、ヨーロッパでもセットピースゴールが最多のチームらしいが、それが決まらないと、こうして勝つべき試合に勝てなかったりする。それは大きな問題だ。マンUでは、2-0という結果によって試合後うやむやになったことでもある。
スタッツとしては、アーセナルのこの試合のビッグチャンスは4あるが、すべてコーナーからのチャンスである。先に述べたように、アーセナルはこの試合、コーナー以外からのチャンスはたったの0.30しかない。あれだけボールを持って、圧倒的に優勢に進めているチームのチャンスとしては、いくらなんでも低すぎる。※88分のサカのゴールがもし認められていれば、いちおうオープンプレイからのゴールではあった
前回のマンUと今回のフラムで、われわれのオープンプレイからのゴールはゼロである。3ゴールはどれもコーナーキックから。ちなみにマンUでも、アーセナルはオープンプレイよりもセットプレイから放ったショッツのほうが多かったという。
22/23シーズンのオープンプレイゴールはアーセナルがリーグベストだった。それがなぜ、アーセナルはオープンプレイからゴールができなくなったのか。
その件においては、試合後のファン反応では、まずCFとLWについての不満を訴える声が多かった。今回だとハヴァーツに、トロサール/マルティネリ。
どうでしょうね。
ところでぼくは、今回のような試合で、とくにハヴァーツへの批判はちょっと違うんじゃないかと思っている。彼はフォルス9としてアルテタからゴールを決める以外のタスクがかなり与えられているし、彼の動き自体がNo.10のようだとは、これまでの試合の対戦相手のボスが何度か言及していることで、それもチームにとってはちゃんと効果がある。
こういうほとんど一方的な試合でNo.9のショッツがたった3(SoTゼロ)となれば、ファンの不満も理解できなくはないが、そこは彼の特殊な役割も理解する必要があると思う。ぼくは、彼の疲れ知らずで献身的なプレッシングや神出鬼没なプレイ範囲など、相変わらずチームにとって重要な選手のように観えている。チャンスがあれば、以前のような外し方もしないし。
もし、彼にチャンスが十分に供給されてそれを決められなかったというのなら、彼を批判する正当な理由になるとは思う。だが、この試合の彼にショッツが少ないと不満を述べるのはちょっと違うように感じる。まあ、それこそGyokeresみたいなCFがいたらとつい思いたくなる気持ちもわかるけど。
それとLW。ここもなあ。
ネリは今回の試合を決めることになったオフサイドが、ポール・マーソンに「ほとんど罪」とさえ云われていて、さすがに気の毒に思う。もちろん、彼のポジション的にはDFラインを一望できたわけだから、それでオフサイドになれば失望は免れないわけだが、ああいうのはどんな選手だってやるときはやるだろう。わずかなタイミングだった。アルテタが、いつもスモールディーテイルとかスモールマージンで競っていると云いたくなる気持ちがよくわかる。あの動きがほんのコンマ数秒ずれてオンサイドなら、試合に勝っていたし、ネリに文句を云うものなど誰もいなかった。それどころか彼はチームを救ったと大絶賛されていたはず。天国と地獄はこんなにも隣り合わせ。
それよりももっと大局的に見るべきは、彼の最近のフォームと、どこまで彼の素質や才能を信じるべきかという問題じゃないか。AFC初年度の彼の想定外のブレイクから、いまはわれわれが期待したほどには成長していないから。少なくとも数字は。
トロサールも、こういうときだけ責めるのは、ちょっとフェアじゃないという気がする。彼は、一時期調子を落としていたように観えたが、基本的には頼れるシニアのひとりで、コンスタントにゴール貢献してきた。
マルティネリやトロサールの個人よりも、より注目すべき問題は左サイドの構造だろうと思う。相変わらず左サイドがあまり機能していないおかげで、攻撃が右に偏りすぎで、右を封じられると攻め手がなくなる。あるいは弱体化する。今回は、フラムに右サイドを封じられた感はある。
アーセナルの左サイド問題、とくに左8の問題は、ジャカ以降、もうしばらく指摘されていることである。アーセナルは、ハヴァーツ、ライス、メリーノで£200m近く左8に費やしているが、いまだに正解を見つけられないでいるというのが実際だろう。メリーノはAFCに来てまだ日が浅いが、いまのところ左でオーデガードのような存在感を出すような選手には観えない。
右サイドにくらべて、左サイドはあきらかに効いていない。アーセナルにジャカがいた最後の22/23シーズンよりも左サイドが効果的だったときは、ここまで一度もないんじゃないか。
あのサカですら、オーデガード不在では最高のサカでいられなかった。ましてや、ネリやトロサールが、周囲との連携なしに独力でそこまで効果的になれるかといえば、まあ難しくなるのも自明というか。
CFやWGにゲイムチェンジャーな選手を買えというのはさすがに短絡的だと思う。アーセナルだって、実際それで解決してる問題もたくさんあるのは認めるが。しかし、まともなクラブとしては、もっと構造的に解決されるべき問題だろう。それが持続可能というもの。
今シーズン、たとえば1月に左8を買うなんてことはさすがにやらないと思うので、チームの調整で解決するのだとしたら、オーデガードを右のNo.8でなく、もう純粋に中央のNo.10として左右に固定せず使ってはどうだろう。トップの下で、彼のうしろにはダブルピヴォットで守備をカヴァ。
そのアイディアは以前、Edu’s BBQ(あらためBilly’s BBQ)のBilly氏が、彼のブログで左サイドの活性化案のひとつとして主張していたことで、そうすることで左サイドにも血が通い始めるかもしれない。その分右サイドの脅威が多少薄れるかもしれないが、全体的には恩恵があるんじゃないか。相手だって、そのほうが予測できないし守りづらくなる。
彼はいまもピッチを自由に動いているようでいて、毎試合でタッチマップ/パスマップを観ても右サイドにいることが多い。
ぜひ、彼には前後だけでなく左右の行動の自由を与えて、意識的に左サイドも使うようにしてもらいたい。彼には、もっともっと試合に影響力を発揮できるキャパシティがあるはずだから。
オープンプレイの攻撃力低下に話を戻すと、これは誰も指摘していないと思うし、同意してくれるひとはあんまりいないと思うけど、ぼくはじつはガブリエルの不在がけっこう影響しているんじゃないかとも感じている。
マンUとフラムでは、ガブリエルがいなかったのが共通点で、どちらの試合も似たような攻撃力の低下を感じた。CBの彼がいないことが攻撃力に影響するというのはちょっとおかしな話だが、ビルドアップでは左サイド後方からのガブリエルの貢献も馬鹿にできないと思っていて、意外とそれが地味に効いているみたいな。
まあ、ビルドアップでキヴィオールがはっきり見劣りしているというわけでもないし、それはぼくがなんとなくそう感じたってだけで明確な根拠はないのだけど。このチームにとってサリバとビッグガビのCBコンビの時期があまりに長いので、ふだんと違うことが知らぬ間にチームに影響を与えることはあるとは思うのだよね。ほんのちょっとづつリズムが狂ったり。
だから、彼が戻ってきたらチームは復調するといまから予言しておこう。
アルテタは、シーズン序盤の不可抗力的状況を、結果が出ないいい訳にすることができたのはよかったと思う。以前にも書いたように、そうすることでチームも含めて自信を維持することができたから。あれは本来の自分たちではなかったと。
しかし、いまキツいのはオーデガードが復帰して不死鳥のように大復活を遂げたかに観えたチームが、大した時間もおかずにこうして調子を落としているという事実。自分たちのやりたいことがやれず、消化不良になっている。ガブリエル不在やLB危機みたいなことはあるが、まああまり状況はよくない。
冒頭に書いたように、アーセナルはここまでPLの15試合でおよそ半分の7試合でポインツを落としている。年内はアーセナルがリーグでももっともイージーなフィクスチャらしいから(ちなみにフラムも含まれていた)、このあと連勝もあるかもしれないが、まあ今年のPLタイトルがかなり難しいことはもう認めよう。今回のような試合で3ポインツを逃した失敗はそれくらいのインパクトはある。
もちろん、シティがあんなことになって、リヴァプールやチェルシーの今後に依っては、ゾンビのようにまた楽観を取り戻すかもしれないけど。シーズンがまだ半分も消化していないのに、もう他力本願になるとは思わなかった。
CLをがんばろう。
この試合については以上
おれたちがアーセナルを好きになったのは、痺れるようなパスワーク、ダイナミズム溢れるパス&ムーブ。それが見られないのは寂しいですな。もちろんアーセナル愛は揺らがない、とはいえ。
あとは挑戦的な選手起用も。それこそMLSを左8起用とかね。
ビルドアップってポジショニングが1ステップ違うだけで上手く行かなかったりするので、選手の能力ももちろんですけど、やり慣れてるメンツやポジションであることも大事ですし、そういう意味ではガブリエル不在のご指摘はごもっともだなと思いました。
ティンバーも器用とはいえ右と左で固定できていなくて、コロコロ並びが変わってるせいで後ろのパス合わしが滞る→前に行くほどボールホルダーに時間がない、がかなり影響してそうです。
復帰待ちもそうですけど、おっしゃるようなMLS起用とかで極力選手の位置を変えないというのも検討してほしいところです。