試合の雑感
1-1という結果は残念だけど、まあいいか。もうPLではリヴァプールには届かないだろうし、腐ってもマンUだし、腐ってもOT。簡単に勝てる場所ではない。やつらに5連勝できなかったことはツラいし、OTで43年ぶり?連勝できなかったことがツラいけれど。
それよりも内容ですよな。
マンUのスターティング11を観たとき、「なんとMFにCasemiroとEriksenの高齢コンビ? ベンチも知らない名前ばかり。なんという酷さ」なんてニヤニヤしていたのが、それが逆に仇になった。彼らがホームであんなふうに恥も外聞もなく後ろに下がって、ゴール前を固めるとは。スタンドの無反応からしても、ファンすらいまのチームならあれもしょうがないとあきらめていたんじゃないか。
マンUの守備が最近われらが苦しめられていたPLのどのミッドテーブルチームよりもしょぼくても、あんなふうにボールの後ろに11人がいるみたいにドン引きされたら、さすがに彼らでなくともゴールを奪うのはキツい。
アーセナルは、とくに前半は小気味よいチームプレイで、ほんとうに相手を圧倒した。観ていても気持ちよかったし、そのうちゴールが決まりそうな楽観的な気分もまだあった。
だが、それがまずかった。あんなふうに気持ちよく流れるようにプレイしてしまった結果、相手をゴール前に押し込むことになり、恐れていた攻守の固定化が起きてしまった。いまのアーセナルがもっとも避けたいやつ。試合が、いつの間にか攻撃力・創造力が試されるテストになってるやつ。
いや、もちろんマンUはカウンターの機会はけっこうあったので、片方が80%以上ポゼッションするような試合ではなかったけれど、それでも。アタッキングモメンタムのチャートを観ても、前半はほぼ一方的である。後半も多くの時間がそう。
そんな試合だったので、試合後は今回もまたロウブロック対策について議論になっている。けっこう工夫しようとしていたようには感じたものだが。
ぼくが気づいたのは、ライン間やボックス正面のいわゆるZone 14をいつもより積極的に使おうとしたこと。ボールをブロックの外側で左右に動かすだけでなく、極小のライン間ですでに複数人に囲まれた状態のオーデガードにボールを入れようとするみたいな場面は何度かあった。あれは効果的だったかはともかく意図を感じた。
あとはオーデガードやパーティからのOTTのラストパス。分厚いブロックの裏側に侵入するにはもうそれしかないので、相手もかなり警戒しているふうだったし、意外性はあまり感じなかったものの、やらないよりはマシ。しかし残念ながら、そのパスがきれいに決まることはなかった。
この手の試合で陥りがちな、ワイドエリアからの単純なクロスボール一辺倒でもなかったと思うし。数字を比較したら、クロスは今回ちょっと少ないくらいじゃないかと思う。苦手なロウブロックをいつもと違うやりかたでなんとか攻略しようというチームの意図は感じた。
しかし、それでもならず。うまくいったのは、アーセナルがゴールを決めた74分のシーンだけ。
ライスのゴールはティンバーの単独でのボックス侵入から始まった。彼のボールを持ってのペネトレイションに相手は一瞬パニック、全員がボールウォッチャーになり、そこでフリーのライスへパス&ズドン。ライスのダイレクトのショットもすばらしかった。あの瞬間だけは、ティンバーが秩序の内側から混沌をつくって、make things happenした。
本来、決定的なチャンスをつくるにはチームとしてあれをもっともっとやらなきゃいけない。しかし、攻守の役割が固定化すればするほど、ゴール前のブロックが強固になり、利用できるスペイスが狭くなり、ああした状況をつくるのが難しくなる。それがいまアーセナルが直面している現実だろう。ジュリティンはえらいよ。
この試合のワネーリには、(サカのように)単独でことを起こしてもらうことを期待したものの、残念ながらこの試合の彼は最高のパフォーマンスではなかった。地上デュエルは1/8と低調だった。
アーセナルが攻撃するときは、つねに相手が準備万端で整っていて待ってましたと待ち構えている。アーセナルが攻撃されるときは、つねにトランジションでDFは背走を強いられ混沌状態。少ないチャンスから失点しやすい脆さがある。これは、まったくいつもどおりの見飽きた展開。アーセナルが優勢に見える試合で毎回がこれだから、ほんとうに皮肉だ。
この試合結果に、オーデガードがどうとかまたまた個人攻撃でうっぷんを晴らそうとしているバカチンどもがわいているらしいのだが、正直ぼくはいまのこのチームのクリエイション不足は、選手がどうこうというよりも、やはりチームプレイのやりかたのほうがよほど影響が大きいと思う。これなら、メリーノがHaalandでも、ワネーリがSalahでも大して変わらないでしょ(いやそれだけ違えば変わるか)。
ぼくは、基本的にはずっとアルテタ支持派で彼のやることを信じているが、こういう試合ばかりがつづくと、そもそも「コントロール志向」自体をもっと疑ったほうがいいとあらためて思う。ほんとうにずっと同じことをやっている。
最近の対戦相手でいうと、PSVなんてファイナルサードまでボールを運んだら、シュートにためらわないし、クロスにもためらわない。ワイド深くに侵入してから「一度うしろに戻して……」なんて考えない。成功率が低かろうが、相手の守備が整う前にとにかく早くゴールに向かう。それで彼らは昨シーズンに、国内リーグで111ゴールぶっこんだ。
もしいまのアーセナルが、そのやりかたを少しでも採用したとすると、当然ポゼッションは下がるし、試合のフルコントロールもない。いまよりもっと攻撃もされる。だが、間違いなく自分たちのゴールはいまよりももっと決まるようになるはず。
簡単なことだ。相手がロウブロックになったとしても、少しでもブロックの薄いところがあれば、そこで無理めでもシュートを打ってしまう。DFに当たって跳ね返るか、素通りしてゴールキックになるか、コーナーキックになるか、GKがキャッチするか。ディフレクションなどでまぐれでゴールが決まるかもしれない。いずれにせよ、そこでロウブロックとの対面は終わる。相手がボールを持つターンになって、一度うしろに下がることになっても、またボールを奪って攻撃すればよい。相手がブロックを築くより早く攻撃できれば、もっとチャンスは生まれる。
これじゃダメなんすかねえ。全体的にもうすこしゴールにチャレンジングになる。
べつにビエルサみたいになれと云うのではなく、もうちょっと「フルコントロール」をゆるめたらというだけ。あんなふうに相手を押し込んで、その外側でボールを回しつづける、そしてゴールに悩む、みたいなことが常態化している現状はどうみても健全じゃない。ポゼッションのためのポゼッションならぬ、コントロールのためのコントロール。ゴールという本質がむしろ遠ざかっている。
アルテタは、そういうアプローチを採用しないコーチである。という結論にしかならない不毛な議論かもしれないが、このままアーセナルでいつまでも結果が出ないなら、もちろんアルテタも安泰じゃない。今年のトロフィが無理なら、来シーズンはほんとうに彼にはプレッシャーだ。毎年惜しいところまで行きますでは、クラブもファンも納得しない。
心配なのは、来シーズン、選手が変わってもこれまでと大してアウトプットが変わらないこと。
Isakのクラスの9なら、アンリが来るみたいなものなので劇的な変化が期待できるとして、たとえばSeskoはPLでどれだけやれるかは未知数。ハヴァーツがSeskoになって、どこまで変化を期待できるか? わからんね。相変わらずの遅攻からロウブロックを前にして、9になかなかチャンスが供給できないみたいになれば、誰が9でも同じ。
サカがいれば解決? それでもいいけど、ワールドクラスがいなきゃワークしないシステムやアプローチは持続可能と云えるんだろうか。またケガしない保証もない。
いまのようなアルテタのコントロール志向なチームプレイのアプローチで、選手をアップグレイドすることでチームのもろもろを完成させていくのが目論見としても、それでこれからほんとうにうまくいくのか、確信は持てないなあ。
などと思う。
以下、試合後に共有されているグラフィックもろもろ。
アーセナルは、オープンプレイからのxGがリーグ10位。OMG. これでタイトル取ったら逆に申し訳なかった。
Bruno Fのフリーキック。本来は10ヤーズ?のところ、マリーシアで10%増しの11.2ヤーズに。あれはきれいに決まったなあと思った。ズルい。Anthony Taylor。こういうのは、あとでレヴューされるんだろうか。
メリーノに喉輪もノーファウル。Anthony Taylorまたおまえか。

デヴィッド・ラヤがチームを救う。あの試合で敗けそうになってるとか信じられない。
この試合については以上。
批判が多いようですが、私は面白かったです。
マンUが、驚くほど集中してた。
プライドを捨てて(いや。プライドを持ってか?)泥臭く守った。一昨年頃のアーセナルのように。
最後の笛がなったあと、悔しさは思ったほどありませんでした。
マンU。お前らも早く帰ってこい!
ヒールがいないとつまらない。