続・エゼ移籍の舞台裏。ToTとの契約が確実と思われた当日になにが起きていたか?
ここにたどり着くまでには、ほんとうにいろんなことがあったと思う。
このブログでも伝えたように、アーセナルとエゼは長らくリンクされるなかで、一時はアーセナルで彼への興味が冷めたという報道があり、“One horse race”と云われたToTとの契約成立直前までいき、しかしそこからハヴァーツのケガによるアーセナルの驚きのカムバックがあり。そこからのこの契約が成立するまでのスピード感はなかなか観られないものだったろう。
獲得直前で強奪されたも同様のトッテンハムの皆様におかれましては、まさにご愁傷さまである。このみごとなスティールには、あまりに不憫すぎて笑いものにするのも憚られる。あっはっは。
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すでに、この劇的な移籍ストーリーの裏側についてはいくつかのリポートがあったなかで、いつものThe Athletic(ジェイムズ・マクニコラス)のリポートがあらためて、より具体的だったのでそれについて。「これはハイジャックではありません。ラブストーリーだったのです」。
- エベレチ・エゼは、水曜日にはトトナムと契約すると思われていた
- それは疑いなくいい移籍だったから。ロンドンクラブ。CLクラブ。彼のキャリアでもステップアップだった
- しかし契約の直前になり、彼は最後に電話をかけておきたい相手がいた。アルテタである
- 彼らが話すのはそれが初めてではなかった
- アーセナルが最初に獲得の可能性を探っていた6月の末、アルテタとエゼは直接話をしていた
- しかしそれ以降、アーセナルの彼への興味は薄れていき、トトナムがさらに彼に近づいた
- プロの観点から、エゼはトトナムと喜んで契約するつもりだった。だが、彼は子どものころからのアーセナルファン。13才のときにアカデミーから放出されている
- だから契約前、エゼはほんとうにアーセナルと契約できないか最終確認をしなければならなかった
- このタイミングがすべてであり、エゼにとってはこれ以上なかった
- そのときアーセナルはちょうどハヴァーツのヒザのケガのニュースに動揺していたところで、攻撃の補強を探していた
- その電話で、今日の午後にボードMTGがあるとアルテタはエゼに伝えた
- そのMTGが終了したとき、すでに取り引きはほぼ完了したとエゼは伝えられ、彼は有頂天になった
- 水曜の夜には、アーセナルはパレスと£60mとアドオン7.5mの移籍金で合意。彼の代理人も4年と1年延長オプションの個人条件に合意した
- 実際アーセナルとトトナムで綱引きがあったわけではなかった。ありえなかった。アーセナルがテーブルにつけば、選手にとり行き先はひとつしかなかったのだから
- エゼはアルテタと交渉しただけでなく、アーセナルのイングランド代表チームメイトにも働きかけ、自身の加入をクラブに強く訴えた
- ヴィクター・ヨクレスがそうであったように、アーセナルは望む移籍を実現するためにエゼがどんなことでもする選手であることに衝撃を受けた
- エゼにしてみれば、アーセナル移籍は夢の実現だった。アーセナルには野心の宣言
- ハヴァーツが故障したとき、アーセナルはこのシーズンはケガで決めるものにはしないとかたく決心したのだった
エゼは、サカやライスに「ミケルを説得してくれ」とお願いしていたのか。それもウケる。
しかし、この舞台裏を知れば知るほど、エゼや家族がこれまで以上に神の御業を信じるようになるのも頷ける。
あのタイミングでのハヴァーツのケガがなかったら、この移籍は実現していなかったかもしれないし、仮に彼がプロとしてToTに移籍してそのキャリアを終えたとしても、アーセナルファンの彼ならば、CLでプレイできたという事実が残るだけで、アーセナルでプレイするというもっとも重要な希望はかなわず、やはり後悔の残るキャリアだっただろう。
だから、これは彼にとって起きるべきことが起きたということ。神の思し召し。
そしてアーセナルファンにとっても神がかっていたと思う。
あらためて、これほどファンに喜ばれた選手の獲得は最近あっただろうか。エジル? オーデガード? いや、否定的な意見がほとんど観られないという意味では、もしかしたらそれ以上かも。それも少しタイミングがズレただけで実現はしなかった可能性がある。
いわゆる「顧客がほんとうに求めるもの」を、クラブとして獲得することができた。おお、神よ。いのりを捧げよう(無神論者として)。
このThe Athleticの記事では、このほかにも関係者が匿名を条件に明かした情報として以下のことが報じられている。それも興味深いので紹介しよう。
- エゼの問題は金額で、アーセナルは当初£40m程度しか支払うつもりはなかった
- アーセナルはエゼを中央の選手とみていて、ウィング(マドゥエケ)を優先させた
- パレスはToTとの交渉でエゼのUECLでのプレイの許可を求めるも、ToTからは返答なし。そのあいだにアーセナルとの取り引きが完了した
- エゼのアーセナル行きは本人だけでなくパレスの希望もあった。ParishはLevyとの交渉にずっと苦労していたが、ティム・ルイスとはいい関係があった
- ジョッシュ・クロンキはヨーロッパに滞在しておりすぐにこれを承認。ToTが数週間交渉していたのと対照的にアーセナルは24時間以内に手続きを完了させた
- アーセナルはMykhailo Mudrykの件でToTの痛みがよくわかった
- 今回のアーセナルの散財は、UEFAのコストコントロールルール(squad cost ratio legislation)で危機にひんしているが、それでもこの夏に必要な投資だったと考えている
以上。
The IndependentのMiguel Deleanyが報じていたのと同じ内容もあるし、新しく知った情報もある。
Mudrykの件(笑い)。たしかにあのときは呆然としたけど、チェルシーでの彼を考えれば結果的には最善だった。そして、今回はノースロンドンのライバルなのだから、よりインパクトは大きい。がっかりさせられるほうじゃなくて、心底良かったと思う。
エゼにまつわる10のことがら
AFC公式コンテンツをざっくりと。No.10にちなんで、彼の決して順風満帆とは云えなかったここまでの旅。10コのストーリーズ。
Jumpers for goalposts
Greenwich生まれのエベレは、自宅の近くにあった金網に囲まれたピッチでスキルを磨いた。一方では駐車場を避け、一方では犬を避け。それが新No.10が育った場所。
それが彼の愛するはじまりの場所だった。彼は自身のブーツに故郷の名前を刻んでいる。彼は『GQ』に語っている。
「そこがホームだった。ぼくが育った場所であり、漢になった場所。そこでたくさんのことを観て、学んだ。今日のぼくにしてくれた場所にとても感謝している」
Never giving up
2006年。エベレは、グーナー家族のなかでアーセナルファンの子どもとして、アーセナルのアカデミーに入り、13才まで在籍した。
そのあと、彼はフラムとミルウォールへ行き、またブリストル・シティとサンダランドのトライアルも受けた。しかし、そのどこでも認められることはなく。それでも彼は信じつづけた。『VERSUS』に語っている。
「ぼくの神への信頼と信仰、それに自分に与えられたギフト。それが自分の糧になっているし、満たされる。それが重要なのだ。困難がないという意味ではない。それでもそうした困難を乗り越えることは難しい。そこでぼくはこう考える。“なぜこれほどキツいのか? でもフットボールへの愛は絶対に絶対に変わらない”」。
Football League breakthrough
彼が大学へ入学するために、Tescoでのアルバイトを始めようとしていたとき。エベレは、QPRに加入するチャンスが与えられる。2016年8月。それが結果的にプロへの第一歩となる。
20試合で5ゴールを決めたWycombe Wanderersでの素晴らしいローン期間のあと、彼はQPRでレギュラーとなり、2018年3月のサンダランド戦で初ゴールを決める。
彼はその後も活躍をつづけ、19/20シーズンには14ゴールと8アシストを記録。クラブのPOTYに輝く。
Palace prominence
2部での活躍をつづけていると、エベレはPLのクリスタル・パレスでプレイできるチャンスを得る。£17mでの移籍。彼は、その後22/23シーズンにはクラブに復帰したRoy Hodgsonの下で活躍し、シーズン10ゴールを決めてチームのトップスコアラーになる。
その後もパレスでは2シーズンつづけてゴール数を増やし、クラブのオールタイム最多得点者の4位となった。
Ebere x England
エベレのトップフライトでのパフォーマンスは、当時のNTのマネジャーであるGareth Southgateの目にも止まった。彼は、Euro2020のためのスクワッドに初招集された。
しかしながら、その後にはトレイニング中のアキレス腱の断裂で招集を辞退することになる。
そして、彼がふたたびシニアスクワッドに招集されるまでには2年を要した。ついにEuro2024予選のマルタ戦でデビューとなる。その後彼は3試合出場し、現在は11キャプス。3月にはウェンブリーのラトヴィア戦で代表選手として初ゴールも記録した。
Wembley hero
しかし、ナショナルステディアムでは、彼はその後よりハッピーな出来事を体験することになる。24/25。エベレはクリスタル・パレスのFAカップの快進撃で重要な役割を果たす。ラウンド3ではStockport Countyを破るチーム唯一のゴールを決め、QFではフラム相手にまたしてもゴールを決めた。
アストン・ヴィラがSFの相手で、またゴールを決め3-0勝利に貢献。マンシティが待つファイナルへ進出。
有名なアーチをくぐると、エベレはこの試合で唯一のゴールを決めてパレスに初めてのメジャートロフィをもたらし、イーグルスの歴史に名を刻んだ。
King to N5
アーセナルのこの夏のもうひとりの新加入であるマーティン・ズビメンディと同様、エベレもチェスに熱心。
元チームメイトのMichael Oliseに手ほどきを受け、エベレはYouTubeを観てスキルを学んだ。彼はオンラインのアマチュアトーナメントPogChamps 6でも勝利している。
この夏の彼は、英国の実業家Richard Bransonとチェスをプレイしている姿もとらえられている。
Giving Back
フットボール以外では、エベレは2023年に兄弟であるKechiとChimaとともにエゼ財団(the Eze Foundation)を始め、ローカルコミュニティに恩返しをしようとしている。
エベレは、兄弟たちといっしょにプレイしていた南ロンドンのJohn Roan SchoolでEze Invitational Grassroots Football Tournamentを2023から毎年開催している。
この財団について、クリスタル・パレスのWEBサイトで語っている。
「恩返しはつねにぼくらのハートのなかにある。ぼくらは若い選手たちがプレイする場を与えたい。そしてお金を使わずにプロのクラブへ行けるように。そのための障害を取り除きたい。そうしたことが若いときや困難のある場所の出身者にはよくあるから」。
The Wright Path
エベレは、クリスタル・パレスからアーセナルに移籍する最初の選手ではない。93/94にはEddie McGoldrick、1991にはクラブレジェンドのイアン・ライトがいる。
ライトは当時27才で、いまのエベレと同じ。その移籍は当時の移籍金の記録だった。それ以来、彼は185ゴールを決めて、当時のオールタイム最多得点者に。それは2005年にティエリ・アンリにより更新された。
ライティとエベレはいい友人だ。パレスがFAカップ優勝を祝ったとき、エベレは友人がSelhurst Park にいた頃に着ていたパレスのレトロなシャツを着て、彼をトリビュートした。
Celebrity Connection
エベレは、彼の家族のなかでもっとも有名人というわけではない。2023には、2018から放送しているアメリカのコメディ番組Saturday Night LiveのメンバーのひとりであるEgo Nwodimが、彼のいとこだと明かされた。
FAカップファイナルの成功のあと、Nwodimは番組のなかでEzeの名前入りのパレスジャージーを着た。
Tescoでバイト。TescoはKTで思い出すアレだな。英国のジャスコ(イオン)みたいなやつ?
エゼのプロファイル
以下、基本プロファイル。TMより。
- Name in home country: Eberechi Oluchi Eze
- Date of birth/Age: June 29, 1998 (27)
- Place of birth: London England
- Height: 1.78 m
- Citizenship: England Nigeria
- Position: Midfield – Attacking Midfield
- Foot: right
- Player agent: CAA Base Ltd
1998年生まれは、いまのアーセナルだとベニー、ビッグガビ、ヨクレス、オーデガードと同じ。
身長178cmは以外に小さいな。ピッチでの彼はもっと大きく見える。
国籍のイングランド/ナイジェリア。これは、サカ、マドゥエケ、ワネーリらと同じ。イングランドNTだけでなく、ルーツでも仲間が多い。
彼のエイジェンシー、CAA Base Ltdはめちゃくちゃ顧客が多いな。有名選手も多数。アーセナルではユース選手にふたりここのお世話になっている選手がいる。
現在のMVは€55m。もっと高くていい。
名前はエベレ?
ところで、彼の名前。
彼の名前はずっと「エベレチ・エゼ」だと思っていたら、本人は「エベレ・エゼ」と云うのだよね。彼のソーシャルIDも。TWは、@EbereEze10。
上に書いた10コのストーリーみたいに、“Ebere”と書かれることもしばしばある。本人がエベレチと云っている映像もあるので、どっちでもいいということなのかもしれないが、ふだんはエベレなのかもしれない。どうカタカナ表記しようか迷うところだ。
まあ、聞いてみてください。
幻の「チ」がおれには聞こえるとか云われたらどうしよう。エベレチとエベレと発音するとき、すごいブリティッシュ発音を感じる。
ちなみに愛称はEbz。
ここではエベレチと云うとりますね。
❤️ What it means to be back
🏟 First Gunners game
💭 Arsenal heroIt’s time for Ebere Eze to take on Quickfire Questions 🎙 pic.twitter.com/gPJ0AYLycX
— Arsenal (@Arsenal) August 24, 2025
エゼのもたらすもの
これはここに書ききれない。
PL公式の個人ハイライトリール。ナイス。
Two minutes of Ebere Eze’s most skilful moments in the Premier League.
A joy to watch. pic.twitter.com/DGPiL8VzY0
— Premier League (@premierleague) August 24, 2025
ひとまずこれを貼っておこう。ナイスなスレッド。
Arsenal released him at 13 & Fulham at 16. He stacked shelves at Tesco just to survive
Now he’s become Arsenal’s 3rd most expensive signing EVER
Ebereche Eze is coming home
I analyzed his data to see if he’s worth the hype. Here’s what I found out
🧵MEGATHREAD pic.twitter.com/oTDUcgtRDj
— Wasi (@Wanalyst007) August 23, 2025
プレイスタイルその他は、シーズン中もいろいろ語る機会があると思うので、またそのときに。
さて、エベレ・エゼ。もう期待しかない。
ただでさえアーセナルでは彼の加入でシーズンが楽観的になっているし、もし週末のアンフィールドで結果を出すようなら、もう今シーズンの本命認定されてもいんじゃないか。
この夏のほかの新加入たちと違い、英国フットボールの経験が豊富で疑いのない超即戦力というのがありがたいところ。
もちろん、実際はチームに慣れるためにある程度の時間は必要だとは思うけれど、それでもそれは最小限で済むはず。本人が熱烈なアーセナルファンで試合もずっと観てただろうから、アルテタのチームでのプレイのしかたもすでに熟知しているだろう。
素晴らしい。
もういちど云おう。エベレよ! Welcome back to The Arsenal!