アーセナルOBのマーティン・キーオンが長らくエジルを批判しているのは、このブログでもたびたび伝えているとおり。
つい最近も、ELセミファイナル、アトレチコ戦でのエジルのパフォーマンスについて「アーセナルのシャツを着るにふさわしくない」と痛烈に批判。傷心のため仮病を使って今シーズンはもうプレイしないだろうとまでコメントしていた。
いやいやさすがにそんなことは……と思っていたら、そのコメントのとおりエジルは(背中の怪我のため)今シーズンはもうプレイしないとヴェンゲルも認め、一部ファンの間ではキーオンの予言が当たったともいわれていた。ただ、ヴェンゲルはエジルの欠場については怪我のためであることは間違いないと、キーオンを名指しこそしなかったが仮病の指摘については否定していた。
そんななかで、今度はエジルの代理人が『GOAL』の取材に答えて「お前こそそんなことをいう資格はあるのか」とキーオンを激しく批判するという展開に。個人攻撃にも近い内容もあったりで、若干泥沼化の様相を呈してきた。
ぼくもキーオンのエジル批判については、ちょっと行き過ぎという印象は持っていたのでなかなか興味深く読んだ。せっかくなので共有したいと思う。『GOAL日本語版』にも記事があるがなぜかだいぶ端折ってある。
Arsenal news: Mesut Ozil agent eviscerates ‘jealous’ Martin Keown over ‘stupid’ comments | Goal.com
エジルの代理人が『GOAL』の取材に応えた。
Dr. Erkut Sogut(メスト・エジル代理人):マーティン・キーオンは自分が選手だったからって、いまの世代のスター選手を攻撃する権利があると思っているんじゃないかな。おそらく、自分がまだそこに関係していると思っていたいのと、あるいは単にジェラシーかも。いまのフットボーラーたちが持っている金や名声を妬んでいるんじゃないか。知らないけどね。
でも批判、批判、また批判に批判、何度も何度もだよ。ちょっとうんざりしているんだ。実際。
彼はアーセナルのサブだったんだ、だからエヴァートンやアストン・ヴィラに行った。彼はアーセナルには十分じゃなかったのさ。彼はアーセナルに戻ってもリザーブ。いつもアダムス、ボールド、ディクソン、ウインターバーンの影に隠れていたし、キャンベル、トゥレ、ラウレン、コールの影にもね。
彼のオールド・トラフォードでのファン・ニステルローイへの行いもアーセナルにとっては恥ずかしいものだったよ。彼はそれはパッションの表出だというだろうけど、それは悪しきスポーツマンシップだね。
もしメストやほかのどんなフットボーラーでも現在同じような行いをすれば、彼ら自身やクラブにとって大きな恥辱をもたらすだろう。
2004年のインヴィンシブルのシーズン、アーセン・ヴェンゲルはメダルのために彼をレスター戦の最後のほうで試合に出した。それがなければ彼はインヴィンシブルズでもなかった。出場試合数が足りてなかったんだ。彼は実際にはチームの一員ですらなかった。キーオンのチームメイトのレイ・パーラーなんて、レスター戦で彼を出さなかったらヴェンゲルを承知しなかったと公言していたよ。
彼は以前にロンドン・コルニーでディフェンスコーチの手伝いをしていたことがあった。でもそれは止められたね。彼がそんなによくて、試合のことをそんなによく知っているならなぜ彼は辞めたんだ? アーセン・ヴェンゲル、選手、スタッフが彼にそこにいてほしくなかったんじゃないのか?
それ以来、彼はクラブにとって部外者になっているよ。彼はクラブのなかで何が起こっているかなんてほとんど知らない。自信満々に事情通みたいにしてコメントするポジションに彼はいないよ。チームのメディカルレコードについて何か知っているかって? ノーだよ。
彼は何年もずっとヴェンゲル批判をしてきた。そしてヴェンゲルが退任をアナウンスしてから急にヴェンゲルについていいことばかりをいい始めた。そしてバーンリー戦のあと、彼は厚かましくも本物の忠実なレジェンドであるロバート・ピレスのようにピッチにいた。
彼はメストの忠誠心に疑問を呈している。でも彼自身が矛盾を抱えているのに、どうやって彼の意見が信頼に足るものだとか検証されたものだというのかね。
このバーンリー戦で、元ToTの選手(ジャーメイン・ジェナス)がメストは守備に参加していないといった。ジェナスは、メストがレアル・マドリッドとジャーマニーでチャンスをつくることとゴールをアシストするのを見たといった。なぜ彼はアーセナルの話になると、彼が完全にプレイスタイルを変えるべきみたいに思うんだ。彼はそのプレイでこんなにたくさんの成功をもたらしているというのに。
このプレイスタイルは、彼の代表チームでの成功によるところが一番大きい。ジャーマニーで89キャップ(ドイツ代表チームの黄金世代と呼ぶ人もいる)、彼はフットボール世界でもっとも価値あるトロフィを勝ち取っている。キーオンはイングランド代表で43キャップに過ぎない。
今シーズン、アーセナルはエミレーツで54のリーグゴールを取っている。04/05シーズンに並ぶ得点数だ。だから攻撃は問題じゃない。
問題は守備だ。これは果たしてメストの責任なのか? メストのスタッツをほかのアーセナルの選手たちと比べたことはあるのか? 彼を悪くいうなら見ておくべきかもしれないよ。
なぜメストだけがキーオンから批判されるのか? 世界中のアーセナルファンの大部分が彼を愛しているというのに。
ティエリ・アンリ、フランク・ランパード、スティーヴン・ジェラードのようなテレビやラジオの有名パンディットたちと比べて、名前をさほど知られていないパンディットがいたとして、彼がチームのなかでもよりビッグネームを繰り返し批判したがるのは果たして偶然なのか?
これは前に述べたポイント、ジェラシーとコネへの執着を思い起こさせる。
アトレチコに負けたあとファンがあんなに苦しんでいるときに、あんなふうにヒートアップしてメストを批判するものかね。ファンにスケープゴートを与えることで、まるで自分が一番アーセナルを愛しているヒーローだとでも見せるつもりだったのか? ファンがスタジアムで自分の名前を歌ってくれればそれで満足なのかもね。
メストには忠誠心がない、そして契約更新せずにクラブを去るといったね。いい予想だ。彼は新契約にサインしたよ。
忠誠心と献身について話しているとき、彼はシーズンを通して、メディカルアドヴァイスに抗ってプレイしていたよ。これは公には隠されていたけどね。でもこんなに激しく攻撃されるのでは、黙ってはいられない。
わたしたちは彼のことばに傷ついたからこうやって反発しているんじゃない。単にそれが間違っているからだよ。ファンにもクラブの人間にも影響を与えることができないのだから、われわれを貶めることはできない。メストを愛しているすべての人たちをね。
メストはこのクラブを前進させたいと思っている。彼が公の場で注目を集めるために愚かで見当違いのコメントを出している間にも。
メストが「エモーショナル・ブレイクダウン」だって? メンタルヘルス・ジョークが笑えるなんてほんとに思っているのだろうか?
ちょっと長いけどこれが全文。
代理人を始め、エジルの周りの人間がキーオンに対してだいぶフラストレーションを貯めていたことがわかるようなコメントである。これもキーオンの批判ばりに容赦ないカウンターで、とくにキーオンにとってはここで語られていることは耳が痛いものもあるんじゃないかと思える。
代理人コメントのポイント
まとめるとこんなところか。
- (選手として大したことなかった)キーオンにエジルを語る資格なし
- キーオンはクラブの部外者、レジェンドとも呼べない
- エジルのプレイスタイルがアーセナルでだけ批判されるのはおかしい
- エジルは怪我を隠してプレイしていた
- エジルは愛されている、クラブへの忠誠心もある
このコメント、基本的には代理人の肩を持ちたい内容ながら、少しばかりそれはどうかと思う部分もある。
キーオン個人の資質への攻撃
まず、キーオンの資質について語った部分は、ちょっと八つ当たりというか行き過ぎた個人攻撃に近いものを感じる。キーオンのエジルへの批判を否定するのに、本人のフットボール選手としての実績なんかを責めるのは筋が悪いのではないだろうか。
たびたび議論されることだが「評論」行為に実際にその道の経験が必要かどうか。
ジャンルによっても意見が分かれるところだろうが、実際の経験に基づいて当事者に寄り添ったより深い考察ができるという意味では経験はあったほうがいいだろう。しかし、それがなければ何かを評論できないというのもおかしい。評論対象と評論はイコールではないのだから。だからそれが絶対必要かどうかでいえば、当前ながら絶対必要というわけではない。
映画を撮ったことがない優れた映画評論家なんて腐るほどいるし、文芸評論家は優れた小説家である必要もなく、政治評論家が政治的リーダーシップがなければ務まらないなんてナンセンスだ。
この世界の記者だってパンディットだって実際にボールを蹴ったことがない人間も多いことだろう。もちろんTVパンディットに元選手が重用されるのも理由があることだが、選手時代にどんな選手だったかでコメントする資格がないとする意見には賛同できない。
ここは、キーオンの選手時代については少し触れる程度でよかったのではないかと思える。自分をインヴィンシブルズの一員だと誇っている彼には、それだけでも十分ダメージはあっただろう。
エジルのプレイスタイル問題
これはなあ。
代理人氏のいい分も理解できるが、アーセナルにおけるエジルの守備が鈍重で無頓着だという指摘に間違いはない。彼がいうエジルを愛しているファンだって全員がそう思っているだろう。
マドリーやドイツ代表で突っ込まれないことがアーセナルでだけ突っ込まれるのはおかしいというが、そんなことはない。アーセナルはマドリーでもドイツでもないんだから。
アーセナルは、マドリーよりもドイツよりももっともっと弱いもっと脆弱なチームで、だからこそ彼が一番重要な選手でチームで最も高給である週給350kという大金が支払われているし、その分責任も重い。当然相応の守備負担も求められる(それだって過剰な要求でもない。多くのファンが思っているのは人並みに守備をしてくれというだけだ)。
今日、FWがファーストディフェンダーといわれるように、ポジション的に守備の責任が全然ないポジションはもはやなくなっているに等しい。もしエジルが守備タスクを免れていたとしたら、マドリーやドイツのほうが特殊だった。そういうことだ。
もっとも彼に守備をやらせない戦術もある。アーセナルだ。ファンや評論家がいくらエジルの守備について指摘しても、ヴェンゲルはエジルをNo.10に固定するなど、明らかに彼を組織守備の外側に置こうとしていた。それもまた戦術。だがその結果アーセナルがどうなったか。もうおれたちは知っている。だからエジルの守備意識に不満なのだ。
エジルは怪我を隠していた
うそん。このコメントのなかで最大の衝撃がこれだろう。さらっといってるけど、これって結構重大な話しじゃないか? それがほんとなら、ボスはなんでそんな状態の彼を使い続けたのか?
エジルは好不調の波が激しい選手だ。いいときは試合を支配するし悪いときは試合から消える。その理由が彼が隠していた故障にあったというなら、チームの選手マネジメントは崩壊しているじゃないか。
あるいは、コシエルニのように、ヴェンゲルもそれを知っていてなお彼を起用し続けたというのなら、それはそれでもう悲しくなるような事態だ。だって、そんな状態でも使い続けなければならなかったほど選手層が薄いということなのだから。
この件はわりと衝撃的なので、いずれ本人からもコメントがありそうな気がする。真相を待とう。
まとめ
キーオンのしつこい批判に閉口していた代理人の堪忍袋の緒が切れた。そんなコメントだった。
Arsenal Fan TVもそうだけど、激しい批判というのは称賛よりも注目を集めやすいのかもしれない。だから注目されればされるほどヒートアップしてしまう。キーオン氏もそんな罠にはまったのだろうか。
それに批判しているほうは、批判することでまるで自分が一段上から見ているみたいな錯覚に陥って、ひとり悦に入るみたいなことになることもあるように思う。これはこのブログにも当てはまるので他人のことをとやかくはいえないけど。。
しかし、エジルについては、怪我の件が本当なら同情の余地があるのかもしれないとは思った。ただ、それにしても守備についての批判は否定できないと思う。歴代のアーセナルのどんなクリエイティブな選手だって、守備をしたし味方を懸命にサポートしたというのは本当だろうから。エジルがいくら特別な選手だからといって守備が免除されるなんて思わないほうがいいはずだ。
とかなんとかいってたら、新監督が「チームエジル」をつくって完全にその他10人でエジルをサポートするっていうチームをつくったり。それで成功しちゃったり。アレグリとか……。
おわり
これはサッカーの批評であるという約束ごとが成り立っている間は良いですけど、それが外れたら30も40も年下の相手に人としての尊厳まで否定するような誹謗中傷、罵詈雑言を突然浴びせかけてる異常者になるわけで、そのへんの整合性ってどうやって取ってるんでしょうか。自己アイデンティティーというか。
エメリも結局解任されましたね。うまくはいきませんでしたけど、チームをなんとか勝たせようと毎日朝から晩まで歯を食いしばって仕事をしていたんであろうエメリが勝敗への責任を問われて去り、独自情報ルーツを持つわけでもなく戦術の勉強をするわけでもなく、その場その場ピッチの外で適当こいてるだけのこのキーオンとか言うのが寄生虫を続けているというのも何かえらい不条理だなあと。
サッカージャーナリズムなんて膨大なごみの山にすぎず、ごみの一つってだけなのかもしれませんが、このキーオンとかいうのの卑怯っぷりはすさまじいまでですね。