自分のブログの過去記事を見ていたら、ちょうど去年のいまごろ「フットボール・ディレクター(ディレクター・オブ・フットボール)」について書いた文章が埋もれていたので、少し加筆して新記事として救うことにした。
アーセナル的にフットボール・ディレクターといえば、ヴェンゲル監督がその役職を置くことを拒んだ(自らがフットボール・ディレクターとして動いた)ことで知られ、また今年からAFCに転職しているラウル・サンレヒの役職がこれに近いものとしても知られている。
彼がAFCに入団して”Head of Football relations”という耳慣れない役職名を与えられたとき、フットボール・ディレクターを嫌った元ボスにそこまで忖度する必要はないのにと思ったものだが、ヴェンゲル退任後(ガジディスCEO退任が決まってから)あらためて、”Head of Football”というその名のとおりの役職に着任した。
AFCとしてはあくまでフットボール・ディレクターは名乗らせないつもりのようだが、一般のディレクター・オブ・フットボールとは何が違うのだろう。
フットボール世界の「ディレクター・オブ・フットボール」とは?
「ディレクター・オブ・フットボール」という役割/役職についておさらいしたい。
ぶっちゃけぼくはよくわかっていなかった。ただ、Wikipediaによると、そもそもこのことばの定義は曖昧だということでわからなくてもしょうがない。
A director of football is a senior management figure at a football (soccer) club, most commonly in Europe. The exact nature of the role is often unclear and causes much debate in the sports media.
ディレクター・オブ・フットボールはフットボールクラブにおけるシニア・マネージャー格の役職で、ヨーロッパでひろく使われている。この役職の正確な役割はしばしば不明瞭でスポーツメディアにおいてはたくさんの議論がある。
ひとまず以下はすべて同じものを指すとして考える。
- ディレクター・オブ・フットボール
- フットボール・ディレクター
- ディレクター・オブ・スポーツ
- スポーツ・ディレクター(スポーティング・ディレクター)
もちろん、定義が曖昧なのだからクラブによっては便利に使い分けていることもあるだろうが、一般的には同じものだと捉えても問題ないだろう。適当な役職名をつけるなんて日本の会社なんかでもよくあることである。「参与」ってなんだよ(笑い)みたいな。
そしてSUNの2017年5月の記事。「スポーティング・ディレクターってなんだ?」。この記事ではヴェンゲルが引き合いに出されている。
この記事によれば、近年のフットボール界隈ではこのディレクター・オブ・フットボールという役職がますます注目を浴びているにも関わらず、多くの人にとってはいまだに謎の存在であるとしている。
じつはヴェンゲル監督もその一人で職能も存在理由もわからないという。
ヴェンゲル:ディレクター・オブ・フットボールだって? それは何だね? あの道路に立って交通整理をしている人のことか? よくわからないね。わたしがAFCのマネージャーである限り、テクニカルなこともわたしが決める。それだけだ
もちろん彼がそれをほんとうに知らないはずはない。ヴェンゲル監督はどうもディレクター・オブ・フットボールに自分の職分が侵されると思っていたようだ。
スポーティング・ディレクター、あるいはディレクター・オブ・フットボールとは、本来はクラブのマネージャー(監督)とボード(経営陣)の間を取り持つ役割だという。
現在のアーセナルにフットボール・ディレクターがいるとすれば、ウナイ・エメリとクロンキ(オーナー)やケスウィク(チェアマン)の間に入り、クラブの目指す方向性や運営について両者の調整弁となる非常に重要な役割となる。
フットボール・ディレクター(ディレクター・オブ・フットボール)の4つのタイプ
SUNも引用しているWikipediaの定義によると、ディレクター・オブ・フットボールの役割は以下の4つのタイプに分類できる。
figureheadとして
いわゆる名誉職としてのもの。クラブを象徴するOBなどが就くようなもの。この場合、彼が実際にする仕事は問題じゃないということか。ジーコが鹿島アントラーズのフットボール・ディレクターをやっていた時期があるような。
technical directorとして
テクニカル・ディレクター。これはチームのスポーツ面をマネジメントをする専門職。そのものずばりクラブの方針に合わせて、チームが具体的にどのようにプレイするか、どのようなチームつくりをするか方向を決定し、監督とともに選手個人の成長やケア、チームの戦術・戦略をマネジメントする。コーチ陣のトップであり、ヘッド・コーチと同等かあるいはさらに上位ポジションといえる。レオナルドが鹿島アントラーズのテクニカル・ディレクターをやっていた時期があるような。
go-betweenとして
go-betweenは「仲介者」として訳される。つまりリクルートやスカウトの責任者。既存選手の契約に関するネゴシエイションなども仕事の範疇に入るだろう。
追記:ミズリンタットはリクルート部門の部長で新規獲得選手のスカウティングや獲得交渉、チーム内の既存選手との契約交渉などはサンレヒが担っているようだ。
general managerとして
ジェネラル・マネージャー。スポーツ面だけでなく、移籍やマーケティング、スタジアムなどクラブ運営の業務全般について広範に目を配る、一般的なディレクターやヘッドコーチよりも幅広い部分をカバーする上位のマネージャー。
ここまで来るともうなんでもアリだなという気はする。
アーセナルのディレクター・オブ・フットボール
ラウル・サンレヒが任命された「ヘッド・オブ・フットボール」は、一般的にはいわゆるフットボール・ディレクターだと見られていると思うが、ガジディス退任後で同時にビジネス面でのトップも発表されていることから、おもにスポーツ方面のマネジメントを担うトップということになっている。上記の4分類で一番近いのはやはりジェネラル・マネージャー(GM)だろうか。
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ヴェンゲル監督というのは、上記の4つの分類で考えると、アーセナルにおけるテクニカル・ディレクターでもあったし、ゴー・ビトウィーンでもあったし、ジェネラル・マネージャーでもあったはず。もちろん、それに加えて現場のマネージャー(ヘッドコーチ)でもあったのだから、デイヴィッド・デインやアイヴァン・ガジディスといった社長とパートナーを組んでいたとはいえ、オーナー以下ではほとんど全権を持っているようなものだった。
当然それぞれをサポートをするスタッフはいただろうが、いずれにおいても誰かほかの人間に権限を委ねるようなことはできるだけしたくなかった。とくにスポーツ面では。欲張りすぎて笑えるが、そこへ至るまでそうやってクラブに対する責任を負い成功させてきたという自負があったのだろう。
そういう意味でも、ヴェンゲルさんのようななんでもやりたがる人材に任せていればあとはなんとかしてくれるという牧歌的な時代は、ヴェンゲルさんで終わったのだった。
すごい知識量ですね。勉強になります。
マラドーナの試合。珍しいです。
youtube.com/watch?v=sGoqdqhlq4k