バックからのビルドアップのこだわり
戦術ついでに今回のバックからのビルドアップについて。
この引いて守ってトランジション勝負という戦略なら、最後尾からロングボールをもっと使ってもよさそうに思えたが、目の前で舌なめずりをしているリヴァプールのFWたちを前にして、アーセナルはショートパスでのビルドアップにこだわったのには面食らった。
(TV中継には映らないけど)もちろんハイプレッシングと後ろのマーキングはセットだから、ロングボールは簡単には通らないし、パスコースを限定されているなかでロングボールの精度はお察しだというのはわかる。しかもFWめがけてロングボールを蹴っても、それを競り合うのは世界最高のCBだ。ボールをキープできる可能性は極めて低い。
しかし、いまのアーセナルのディフェンスのクオリティであのインテンスなプレスをかいくぐろうとするのは、かなり無謀に思えた。
自陣でボールを奪われショートカウンターを食らうリスクと、ボールをこまかくつないで前に運ぶだけというリターンでは、あまりにバランスが悪い。
Arsenal were dispossessed in their own defensive third eight times in the first half. That’s the most by any team this season and the most by Arsenal this decade.
— Adam Bate (@ghostgoal) August 24, 2019
アーセナルはファーストハーフにディフェンシヴサードで8回ボールを奪われた。今シーズンでどのチームよりも多く、アーセナルでもこの10年で最悪。
ここでショートパスのフィロソフィにこだわるのなら、なぜポゼッション&アタッキングフットボールというフィロソフィを捨ててカウンターゲイムをやるかという話しだし、その点ではこの戦略/戦術は目的と手段がちぐはぐに思えた。
「無理をしてバックからのビルドアップにこだわる」については、グアルディオラのシティ1年目から議論がつづいているような気もするが、結局ファイナルアンサーは「状況による」ということに尽きると思うのだ。リスクがリターンを上回るならチャレンジすればいいし、そうでなければやらないほうがいい。
であれば、今回は無理にショートパスでつなごうとせずもっとバックからロングボールを使うべきだったのではないかと思えてならなかった。せっかくルイスのようなCBもいるのだし。
バックからビルドアップするというこだわりが自身を何度も危険にさらした。
守備の個人エラー
今回負け試合にも関わらずさほど落胆の声が聞かれないような気がしているが、この試合の結果にアーセナルのファンがポジティヴでいられる理由のひとつは、失点の原因がわりと属人的なものだったからではないだろうか。
最初の失点シーンをあらためて見ると、VVD、マティップ、ソクラティスらが団子状態のなかでどうもゲンドゥージが競り負けている。2点目の原因はボックス内でシャツを引っ張るという明らかなルイスの無謀なチャレンジによるもの。そして、3失点目はルイスが2枚めのイエローを回避するために、イージーにサラーの進行を許してしまったことで(そのあとにスピードでかわされたモンレアルの過失も)、これもまた属人エラーの部類に入れてもよさそうなものだ。
もちろん、そこに至った経緯からすればその一連のプレイの手前でチームとして防がなければならない類のものだが(ゲンドゥージのプレイは別)、それを云ったらほとんどの個人エラーはチームで回避すべきものということになってしまう。その論法なら誰もムスタフィやジャカを責められまい。
今回のDF陣をあらためて見てみれば、バック4の4人は本来はレギュラーでさえない可能性が高いし(ティアニー、ホールディング、サリバ、ベレリン)、ゲンドゥージもアーセナルのベスト11を選ぶときにCMとして絶対に入っていなければという選手ではまだない。最初の失点だってゲンドゥージの過失は多少はあるだろうが、そもそも世界最高のCBにいつだって競り勝てるなどというDFなぞこの世界に何人もいない。
敗戦の大きな原因となったルイスのやらかしについては失望しているが、多少は想定内なところもあるので、多くのファンにとってはそこまでショックではないのではないか(未来を託そうと思っているホールディングやサリバがあのエラーをやったと考えてみてほしい)。
いまのアーセナルのレヴェルでは、まだある程度の個人エラーは避けられない。そこは織り込み済みでやっていくよりないだろう。
ダヴィド・ルイス、試合後のインスタにて「人生もタフだがフットボールもタフだぜ!!! おれは逃げも隠れもしねえぜ!!!」
アーセナルに来たばかりのルイスが最高に信頼されているCBじゃないってことがむしろ救いだと思われる。
ぺぺがシャイン☆
よかったところも書いておきたい。
この試合のアーセナル最大のポジティヴポイントはもちろんニコラス・ぺぺ。結局90分プレイした。
Nicolas Pépé vs Liverpool (A) 📽️ | #AFCComps
First full 90 minutes for Nico, and by far our MOTM in a disappointing loss. pic.twitter.com/4f2kAFSpLb
— AFCComps™ (@AFCComps) August 25, 2019
さすがのクラブレコード。
前半はとくにひとりでもボールキープできるところを見せていたし、ドリブルもキレていた。まだ100%ではないと考えれば上出来だろう。
後半AMNが上がってくるようになると、さすがにコンビネイションにはやや未熟なところが見られたが、それは時間がたつにつれきっとよくなっていくに違いない。まだチームに合流して一ヶ月もたっていないのだ。
Most take-ons completed so far of the 2019-20 Premier League season:
Nicolas Pépé (12)
Mateo Kovacic (12)
James Maddison (11)
Wilfried Zaha (11) pic.twitter.com/UBvwsou2k1— gunnerstuff (@gunnerstuff) August 25, 2019
今回のドリブルは「7つ」ということで(ここまでのPL単試合で最も多い)、この短いプレイ時間ながらすでにPLのトップドリブラーになっていた。
そして今回のハイライトはこれか。
50 – Nicolas Pepe has become the first player to successfully dribble past Virgil van Dijk in the Dutch defender’s last 50 appearances in the Premier League, since Mikel Merino in March 2018 for Newcastle. Beaten. pic.twitter.com/B1oRZMciOB
— OptaJoe (@OptaJoe) August 24, 2019
ニコラス・ぺぺは、VVDを50試合ぶりにドリブルで抜いた選手に。2018年3月のMikel Merino以来。
ていうかVVDどんだけ。
ジェイミー・レドナップがぺぺを称賛していた。
レドナップ:ぺぺがピッチではベストプレイヤーだったかもしれない。スペシャルなタレントがあるね。たいそう感心したよ。ブレステイキングでヤバいくらいのペイスとラヴリーなスキルがある。ディフェンダーがプレイしたくないタイプのペイスがあるよ。
ロバートソンに問題を起こすなんてところはそう何度も見られない。彼はめったに抜かれないからね。ファン・ダイクにも試合中ずっと問題を引き起こしていたよ。
有能。
いつも楽しみに読ませていただいております。
今節の敗戦はショックではありますが、明るいところに目を向ける筆者さんの姿勢をみているとまた次節を楽しみに一週間ワクワク過ごせています。
また、ジャカの件に関してまったくの同意見です…….とにもかくにも来週のNLDが楽しみですね!COYG!
狙いは分かるものの…っていう試合でしたね。ダイアモンドの意図としては、連動した攻撃を断ち切ることだったかなと思いました。
確かにサイドバックからのクロスはかなりあげられていましたが、ウイングと連動して深く抉られてからのクロスはほとんどあげられていませんでした。単純なクロスに対しては高さで勝るDF陣は回避していました。
ただ、セットプレー、判断スピード、戦術の徹底度など上手な部分が多く、思ったより押し込まれた形になったように思います。
交代の判断が遅かったのは私も感じました。ラカゼットとトレイラをハーフタイムで投入すると思いましたが、まさかのステイ…
ビルドアップは自動化できるかが重要だと思うので、9月ぐらいまでは辛抱が必要かもしれません。蹴り出してしまえば楽ですが、長期的に見るとマイナスだと思います。今は苦しくてもつなぐ、でいいと思います。
まだまだプロセスの途中にいると気づいた試合。とはいえ、ノースロンドンは必勝で。
トレイラがあそこで意地をみせて、マンUとToTが負けたから今週はなんだか明るくなれます。次節は攻めダルマ、のアーセナルが見たいですね!
お疲れ様です。
戦術に関しては色んな考え方ありますから・・・
しかし、弱者の戦術なら、バックからのビルドアップは不要なのでは?苦しい時間を増やしただけ。
なぜ、弱者の戦術なら、トレイラを最初から使わない?ジャカが あたふたするだけでは?
なぜ、3点取られてからラカゼット?今さら?
解説の柱谷が、「エメリはリヴァプールをリスペクトしてる」ってのが皮肉にしか聞こえませんでした。
次戦は打ち合って欲しい!
ジャカはプレスのきつい相手には使わない方がいいですね、本当に。
ビルドアップは多分実戦で経験させていって、チームとしての連動性を高めるつもりなのかなと思います。
ルイスはいい選手だとは思いますが、サラーは本当にいい選手でしたね。
いつもありがとうございます。
戦前はPEA、ラカ、ペペの3トップを期待する声も多かったように思うが、アンフィールドでの対戦ということを考えると、2トップという選択は間違ってないように思う。期待の持てる補強をしたとはいえ、失意のELファイナルからまだ3か月しか経ってないし、スカッドも劇的に変わったわけではないのだから、CLチャンピオン相手に3ポイントを取りに行くというのはさすがにギャンブルが過ぎる。1ポイントを狙いにいくのは支持している。
あーいう戦術を取った場合はどうしても先制点を取られると苦しくなるのは当然なので、3点目のようなシーンはルイスの過失があるとはいえ、しょうがないとも思う。2点目も厳しいコースにパスを通されたので、PKとはならなくても普通にサラーに決められていた可能性も大いにあると思うし。今回はやはり高い決定力を活かして先制→相手が攻勢に出る→さらなるカウンターで2,3点目を狙うというプランしか勝ち筋はなかったかな。
ペペは良くやっていたと思うが、改めてVVDの能力の高さを痛感した。サラーにやられた3点目のようなシーンをペペに期待したのだと思うが、あそこまでぶち抜いたシーンは一度もなかった。どっちかというとマティプのいるPEAのサイドで攻めた方が良かったのかもしれない。それでもそれなりにVVDを混乱させることが出来たのはリターンマッチに向けての収穫でもある。
こういう言い方もどうかと思うが、負ける方が確率の高い相手だとは思うので、この敗戦でエメリのことをとやかく言う必要はないと思う。それよりも次戦のスパーズはじめ、トップ1,2以外のチームにどれだけ進歩したかを見せられるかがエメリの仕事ぶりを測るポイントだと思う。
次戦は期待したい。COYG
ネガティブな面についても皆けっこう似た認識を持ってて、ちょっと笑えた。
ホールディングやサリバがあのミスをしたと考えてみて欲しい、はグーナー全員が内心思ってたんじゃないかな。
トレイラではなくジャカだったのはコンディションの問題だと思う。合流遅かったし。
ジャカが生きるゲームプランではなかった。
とはいえ個人的には、どんな試合でもジャカを使うメリットがデメリットを上回る日が、必ず来ると信じてる。(これだけは皆の認識と違うみたいだw)
個人的には、今回の負けにはそこまでショックを受けていません。
気になるのはエメリのチョイスですね。昨年もゲンドゥージの抜擢やエジル外しなどありましたが、ある程度、納得する部分がありました。
しかし、エメリの基本的戦術であるハイプレス、ショートカウンター、サイド攻撃という強度の高いプランにスピードがなく、狭いスペースが苦手なジャカを中心に据えるのは大きな疑問が残ります。ベンゲルの戦術ならまだわかるのですが、チームの心臓であり、ペップやサッリなど多くの監督が一番重要視して秘蔵っ子を獲得しているポジションです。ウィロックやゲンドゥージを育てつつ、という難しい状態だと思いますが、この中盤の要の力が明らかに足りないと思います。
どのプランにしても中盤のフィルター能力が高いトレイラを軸にした方が間違いないと思う今日この頃です。
リバプールで1番怖い攻撃はサイドからクロスじゃなく3トップの中央での崩しなんで僕は4312に好印象です。リバプール相手にサイドも中央も譲らないってのは不可能ですし。リバプールもシティも4バックの泣き所であるSBとCBの間とバイタルを破壊するのが世界一なんで4312はベストで当然サイド空いてボックス外からクロスやドリブルでの突破が増えますがボックス内での崩しより遥かに良いと個人的には思います。ちなみにベンゲル時代に対戦相手がよく使ってきたのが4312でだいたい苦戦してました。
戦術的なことにかなりお詳しいとお見受けしますが、この試合、カウンター狙いでリヴァプールの3トップのセンターからの崩しに対応するために、3-5-2(5-3-2)より4-4-2ダイヤモンドのほうがよかった理由ってなんですか?
あと、ヴェンゲルさん時代って格下相手が引いてカウンター狙い(2ストライカー)は定石だった印象はあるんですが、ダイヤモンド(2ストライカー+No.10)の相手の印象てあんまなくて。PLのチームで442ダイヤモンドをよく使ってたチームってどこですか。
この日エメリが採用したのは3枚をディフェンシブにフラットに並べるというもの。これは確か昨年のエミレーツでのスパーズ戦の後半に見られたものと同じだった。
スパーズに自由に自陣まで運ばせて、リヴァプール戦と同様にサイドバックを自陣まで釣り出すというものだ。
このやり方は実に成功した。実際2点目なんかはまさにやりたいことを体現したゴールだった。
それをリヴァプール相手にやりたかったのではないかなと思います。サイドバックが良く上がってくるので。
蓋を開けてみるとアーセナルから見て左のサイドはウィロックが素早いスライドでアーノルドに簡単にはクロスを上げさせなかった。
しかし問題だったのは右サイドのゲンドゥージのスライドの遅さ、そしてインテンシティの低さ。
僕の主観ですがヒヤリとするクロスを上げられたのは左サイドからが多かったはず。
このやり方をするのならゲンドゥージではなく、トレイラがベストだったはず。
彼はフィジカルの面でもグッドで、インテンシティの高さはアーセナルの中でもトップクラスだと思う。
そんな彼ならロバートソンに対してハードに対応し、引っ掛けてあわよくばカウンターという場面をより作ることが出来たのでは?と思います。
僕はこのフォーメーションには否定的ではないですが、やるのならそれに合ったメンバーを使って欲しかったなぁと思います。主にゲンドゥージのところ。
戦術的なことに言及してくれるコメントは大歓迎です。勉強になります。
あとできればコメント投稿時に適当でいいので名前を入れてください。でないとみんなアノニマスになってしまうので。
セバーヨスのロールがふわふわしてた気がするのでファビーニョにマンマークなどはっきりとした役割を与えるかもしくは442フラットでよかったかなと思います。。こちらでも言われているように攻撃での役割を期待したとしても、守備ありきの戦術なので早いこと修正してもらいたかったです。
ルイスのアレをイエローにするなら、今後それを基準にVARをしていけるか疑問ですね。
今回の奇をてらった戦術するなら、バーディー1トップみたいな、思い切ったのにすればよかったのになんて、思ったりもしています。w
ぺぺは、アソコ決めてほしかった・・・。
(ToT)
断定的で上からくるのは、戦術クラスタではなく、戦術クラスタのツイートを見た受け売りの人が多いと思います。戦術クラスタは別に他人の意見をねじ伏せてやろうという感じはないので。