ウィリアム・サリバのゆくえ。そこに「一貫したプラン」はあるのか
これまでのアーセナルのサリバの扱いはほんとうにほんとうに謎だ。
2018年にASSEから£27Mという、18才にしては巨額の移籍金で獲得されたウィリアム・サリバ。
18-19の初年度は、約束どおりASSEに1年ローンバック。2年めの19-20は前半はアーセナルでリザーヴ(※移籍の書類手続きが間に合わなかったという理由で不本意にアーセナルの残ったと云われる)、後半はニースでローン。そして来る21-22シーズンは彼にとってアーセナルで3年めとなるが、クラブでの将来は不透明と云わざるを得ない。それが、今回の一件でますます不透明になった。
3年ローンを見込んでも将来のスターに大金を投じるようなケイスは、それこそメガクラブ的な発想だろうと思う。アーセナルのようないつも金がなくライヴァルと競争力が保てないと嘆いているクラブがやることだろうか。
そもそもアーセナルが持っていたサリバのプランとはどういうものだったのだろう。
3年間ローンで過ごすのも予定どおり? いや、そんなことはないんじゃないか。少なくともいくつかの報道や本人のインタヴューなどでのコメンツからすれば、サリバ本人はクラブからそのような説明は受けていない。そもそもそのようなプランだったら、サリバがあのときアーセナルを選んだかどうかはわからない。「ファーストチームでのプレイするチャンスは十分ある」とか、もっと甘いことばで誘ったはずだ。
18才のサリバはフランスリーグでももっとも有望なプロスペクトとしてもてはやされていたのだし、アーセナルがあのような大金をかけるならば、すぐにとは云わずとも、遠くない未来にはファーストチームでプレイすることは当然期待していたはずだ。
それが21-22シーズンからだったら、まあそれでもよかったと思う。期待よりは少し遅れたが、家族に不幸があったりフランスリーグが中断されたり、もろもろの事情を考えればやむを得ないところもあったから。彼がまだ20才ということを考慮すれば、遅すぎるということもない。
だが、いま彼と同じポジションに£40-50mで23才のレギュラー候補を取るとなれば、話はまったく違うものになる。この動きがほんとうならば、現状ではサリバの将来はほとんど期待されていないと見るのが自然だろう。
これは彼が21-22シーズンもローンに出ればよいということではない。仮に22-23シーズンに戻ってきても、そのときホワイトがいればレギュラーではプレイしないのだから。
サリバは今年はプリシーズンでポジションを競うつもりでいただろうが、もしベン・ホワイトのような選手を取るならば、事実上レギュラーポジションの競争はない。もしサリバがレギュラーポジションを奪うなら、そもそもホワイトは必要なかったということになり、いきなり大きな矛盾が生じてしまう。
サリバはクラブが期待していたより成長しなかったのか?
フェアにいえば、そういう側面もあるのかもしれない。だが、個人的には、これまでの彼の評判を見ればそのような評価は少し疑わしいように思える。
たしかに、プレイについては拙い部分もあると伝えられているが、20才のCBなら許容できるものだという意見も多い。ボールを奪うのになかなかファウルをしないとか、ドリブルで抜かれないといった優秀なスタッツもよく伝えられていたし、悪いほうの評価も「しいて云えば」というようなニュアンスで語られることが多い。ぼくが観ている彼の評価は基本的にポジティヴなものだ。いきなりレギュラーでなくとも、少なくともアーセナルのファーストチームでCBのレギュラーを競う権利くらいはあってもよさそうに思える。
またフランスとイングランドのリーグの違いも考慮されるべきだが、そこはレスターのウェズリー・フォファナというベンチマークがある。ASSEではサリバとCBコンビを組んでいた彼もまた20才と若く、いまはレスターでプレイしているが、イングランドでブレイクしたと表現してもいいくらいの活躍を見せている。MVは、PLのCBのなかで6位(£36M)。フォファナにできることがサリバにできない理由もよくわからない。当時はサリバのほうが高評価だったというのだからなおさらである。
直近の20-21シーズンはフランスリーグのチームオブザシーズンのショートリストに名前が載る程度には、ニースで目立って活躍していたわけで、とくに成長が滞っているとか、停滞しているというふうにも見えない。
20-21シーズン ダヴィド・ルイスとベン・ホワイトとウィリアム・サリバのスタッツ比較(FBref.com)
この3人の比較を観てもらうとわかるように、スタッツ上ではサリバのそれはほかのふたりに特別に劣っているようなことはない。それどころか、ほかのふたりよりも優れたスタッツだっていくつもある。リーグのクオリティの違いは割り引く必要はあるけれど。
サリバの売却可能性
アーセナル(アルテタ)が、ここでサリバを見限るのだとすれば、それはほんとうに不自然で本人にもアンフェアなことに思えるが、もしホワイトがほんとうに獲得されるようなことがあれば、サリバが売られる可能性はかなり高まるのではないだろうか。
ホールディングは契約を更新したばかりなので、彼を売らない(売れない)となると、サリバのペッキングオーダーはよくてサード。だが、彼はサードにしておくには価値が高すぎるだろう(現在のMVは£16.2m)。毎日のニュースを見ていれば、彼をほしがっているというクラブも多そうだ。
もしほんとうにここで彼を売却するようなことになったら、ファンはそうとう怒りそうだが。
ぼくもそのうちのひとりだが、ぼくは怒るというよりも、アーセナルのプランやヴィジョンの一貫性のなさがほんとうに心配になる。たった2年前に大金で取ったヤングプロスペクトを、たいして試しもせずに放出しようとしている。しかもそこで損が出るとなれば、救いがたいほどの愚かさだ。そして移籍先でサリバが活躍などしようものなら、阿鼻叫喚だろう。そのときは、クラブの運営をまるごと変えたほうがいい……
アーセナルは、いまのようなブレブレのやり方で、ちゃんとこのまま前に進んでいけるのだろうか。
「アーセナルウェイってなんですか?」とあらためてアルテタやエドゥに訊いてみたい。
おまけ
プランついでに、先日見かけたいくつかのアーセナルおもしろ情報を。
アーセナルは2013年以降、選手売却益をまったく得ていない
Since 2013, Arsenal made over 30 FIRST TEAM signings (excluding free agents) and are yet to make a profit on the sale of a single one of them. The last 2 players Arsenal signed for money and made a profit on was Giroud (signed 2012) and Chamberlain (signed 2011).
— LTArsenal™ (@ltarsenal) June 11, 2021
LTArsenal:アーセナルは2013年以降、30人のファーストチーム選手と契約しているが(フリーエイジェントは除く)、その誰ひとりとして、売却益を得ていない。アーセナルが最後に買った選手から利益を得た選手は、ジルーとチェンバレンのふたりだけ。
これがほんとうなのかどうか裏を取っていないけれど(TMとかで調べればすぐわかるはず)、まあありそうな話ではある。
ジャカとネヴェスのリプレイスで差額が£20Mとかなんとか云っているのだが、そもそも世の中にはこうした選手リプレイスメントで金銭的な利益を得て、なおかつスポーツでも競争力を増すようなクラブがたくさんあるのだよね。レスターとか。RB系とか。今夏もサンチョやハーランドを巨額で売ろうとしているBVBにもそういうイメージがある。
アーセナルは「ヨーロッパでもっとも商売下手」という評価があるが、ほんとにそうかもしれないと思う。
誰が悪いのか。
アーセナルに金がない理由のひとつは、オーナー投資がないとか健全経営とか自律経営とかだけでなく、この商売下手もかなり大きい。50Mで売れたラムジーをフリーで手放したりしているし。
クラブのフィロソフィとかきれいごと云ってないで、クラブ運営をレッドブルにアウトソースしたほうがいいかもしれない。
アーセナルは毎年CBを買っている
毎年じゃないけど。
Arsenal bought centre backs in 2014, 2015, 2016 (two), 2018 (two), 2019 (two), 2020 (two). Is there such a thing as institutional addiction?
— James Benge (@jamesbenge) June 11, 2021
ジェイムズ・ベンジ:アーセナルはセンターバックスを、2014年、2015年、2016年(ふたり)、2018年(ふたり)、2019年(ふたり)、2020年(ふたり)に買っている。インスティチューション依存症ってあるのかね?
つまり、毎年「いまのCBじゃダメだ」と思ってるってこと?
笑える。いや笑えない。
おわり
オスピナやカヴリエルは普通に売却したような
マルチネスは利益だしてますよね。それにしてもベンゲル止める寸前までオーナーからの資金提供なくとも利益でクラブにキャッシュがあったのに本当にひどいですね。
買った時より高く売れた選手がいないということでは?
あとマルティネスが加入したのは2010年だから今回の範囲からは外れるでしょう
> オスピナやカヴリエルは普通に売却したような
David Ospina 2014/15 £3.60m → 2019/20 £3.15m
Gabriel Paulista 2014/15 £13.50m → 2017/18 £9.90m
惜しい!
> マルチネスは利益だしてますよね。
エミマルはアカデミーからなので、ここには入らないかな。12/13からファーストチーム。
ArsenalのAll transfers
https://www.transfermarkt.co.uk/fc-arsenal/alletransfers/verein/11
ラカゼットがいるのにオバメヤンを連れてくるチームですからね、その後のオバラカ問題は言わずもがな。
ホールディングとチェンバーズいますが、どちらもユーロに選ばれてない。2人とも年来的にはピークな感じですけど。エディ、ネルソン、ウィロック、ナイルズもいま一歩。開幕をどんなメンバーで迎えるのか、期待と不安でいっぱいですね。
色々な意見があるだろうが、もしジャカの位置がエリクセンだったら、アーセナルの今の問題点の多くが解決していたように思う
それはアヤックスから引き抜いてって事ですね。
そしたらカソルラが2列目で活躍し続け某疫病神がいない状況でしょうから、機能しまくりです。
スパーズの躍進も2割引とかで、
もはや全く違う世界線でしょう。
あの夏から全てが狂ったわけですよね。
CBに求めるものって監督によって大きく違うから、近年のアーセナルのCBに関する迷走は「監督(スタイル)を固定できなかった」という事なんじゃないかと思う。
アルテタが監督になった途端に、戦力外だったムスタフィが抜擢されたのは記憶に新しい。一発で逆サイドに飛ばせるという事が、アルテタがやりたいサッカーの重要な一部分なんだろう。
そして非常にマズイ事に、サリバの獲得はその前年だった。
たぶんサリバは、アルテタがCBに求める能力の一部を持ってない。
しかし今夏4000万ポンドかけてそこから補強するんだとしたら、サリバの放出も含めてかなりの入れ替えが必要だ。
平素からCBのビルドアップの重要性ばかり言ってる僕が言うのも何だが、だいぶ思い切った手だと思う。放出がまとまらないと、かなり苦しいことになる。
一度ヨーロッパの大会を失って、ここから這い上がる過程のリクルートは非常に重要だ。
僕は基本的に実務者に任せたいと思うほうだけども、慎重にやれよ!とは思う。ここでコケるとだいぶ遠回りすることになるから。
場当たり的な補強方針で嫌になりますね…。
サリバが文句言いたくなるのもわかる
プレイ動画の印象だと頭の良いDFという印象受けました。フィジカル的な強さや高さは良く分からない。
足元は凄く良さそう。パスもまぁそうだけどなによりドリブルというかボールの扱い方というか。それによって自分で持ち上がることもするしそれは凄く魅力ではあると。
右SBとして使うつもりならまぁ納得。なんか右っぽいところでプレイしてるなと思ったら3CBの右でプレイしてること多かったのかな。
チェンバースを重宝したのがSB(の片方)にある程度の高さを求めてるのだとすれば合致する補強のような気がします。イングランド人というのも地味にいいのかも。ただ金額はちょっと厳しいところな気も。
セントラルDFとしても足元のうまさキープ力落ち着きは魅力かもしれないけど、元々いる選手をどうするのかは気になるところ。
サリバの道を閉ざすようなことはして欲しくないですね個人的には。
横からすいません。
僕はどうもCBとしてシティのストーンズみたいな役割を期待してるんじゃ?という気がします。
ストーンズは一発で逆サイドに飛ばすわけではないですが、あの変態な足元で前に出てリターンを受けるプレーは、プレスするほうはたまらんと思います。ず~~っとポジション修正し続けなきゃなりませんし。
しかしサリバ。。。欠点は「攻撃が尖ってないこと」だけなんで、本人は何も悪くないんですけどねえ。
たぶん見たプレイ動画の印象で4バックのCBを任せられる守備力があるのかに少し懸念を持ったからの感想だと思います。フルのプレイ見てるわけではないので間違ってるかもだし戦術でどうとでもなるようなものかもしれないですのであれですね。
相手のプレスを躱す能力は凄く面白く感じましたしCBにそういう役割や能力は今のアーセナルに足りてないというかもっとあった方が良い部分でもあるとは思ってます。
ベンホワイトを右CBファーストチョイスでいくとしてセカンドの選択肢をどうするのか。ホールディングは足元というところでは課題があると思ってるけどいきなりサリバと立場逆転する選択はするとも思えないし。
ベジェリンが移籍するかもしれないというところでその枠を使ってサリバにもチャンスを与えて欲しいというのが本音かもしれない(笑)SBもこなせそうな気がしたので。
でもそれだと本職のSBを補強しないのかとなるとやっぱり自分のは異質な意見なのだと思います(笑)
イヤ、全然自然な見方だと思いますよ。ホワイト君のCBとしての守備力にやや?がつくのも同感です。シティはストーンズを実用化(?)するのにかなり時間かけてますしね。
というか、今の戦術ってホントに今までの常識では考えられないところに解があるので、考え方は限りなく柔軟でいいと思います。僕の子供の頃とか最前線のプレスは1~2人が限界でしたもん。今ヘタすると4人使いますからねえ!?
ちと自己訂正を。改めてベンホワイトの別のプレイ動画を見たのですが印象がちょっと変わったというか。以前見たのは結構昔のやつなのだろうか。守備に関して拙さのような危なっかしさよりもいい意味でのチャレンジングな守備として確立してきてるというか。あと身長がここ数年で伸びたのかな?ぱっと見た感じで別の動画と違うように感じたので。普通にCBとして面白いというか見てみたい気持ちも湧いたり。
CB買いすぎでしょ、そこまで補強ポイントとは思えないんですが
予想通り金の無いマンUみたいになりそう
全く現実的ではないですね。
金銭的にどうとかいう前に
獲得におけるライバルクラブより
優先され選ばれる要素が無い。
個人的にホワイトは大好きな選手なので獲得出来れば嬉しいですがなかなか厳しいのかなと。ある程度売却が上手く行ってからチャレンジ出来る金額だと思います。
なんて愚かなチームのサポーターになってしまったんだと、毎年夏に思わされる。
もしサリバがいなくなるなら、本当につらい。
サリバにはアーセナルで辛い無駄な時間を過ごしたという記憶しか残らないだろう。
辛い。