おはよう。
昨日、アーセナルの攻撃の問題について、とある戦術解説tweetsにひどく感銘を受けてしまって、拙いだろう翻訳ながら日本語にして紹介したらなかなか反応もよかった。
In soccer, there is something called ‘qualitative superiority’, especially in the offensive phases, where you have a superior player (eg, Mahrez) line 1v1 against an inferior opponent who wins the duel and makes a decisive action (shot, cross, pass) after.
(a thread on Arsenal). pic.twitter.com/B6rIerpbnF
— AI (@nonewthing) September 5, 2021
彼は当たり前のことを云っているような気もするし、でもそれなのに、これまでになかった重要な気づきがいくつもあったとぼくは感じた。
これまでにも多くのそうしたたぐいの分析を目にしているのに、どうしてそう感じたのだろう?とか、そのあとも、なんだかこのtweetsのことがなかなか頭から離れなくて、しばらく考えていた。
今回はちょいとその思いをシェアしたい。
「アーセナルの攻撃と質的優位性」AI氏のtweetsから
そのtweetsをざっくり訳したものを以下に。※ぼくのtweetsを見返したら一部あきらかな誤訳があり、気づいた部分は修正した。
質的優位の重要性
サッカーにおいては「質的優位性(qualitative superiority)」と呼ばれるものがある。
それはとくに攻撃の局面において、優秀な選手(例:マーレズ)が劣った相手選手に1 v 1のジュエルで勝ち、ショット・クロス・パスのような決定的なアクションをするようなこと。
そのチームで、コンスタントにそのような質的優位性をつくり出すことは、コーチとしては好ましい攻撃ダイナミクスを生み出すキーファクターになる。 アルテタには、そのようなファイナルサードでの攻撃において、1 v 1状況で確実に決定的になれるシニア選手がいない。ぺぺ、オーバ、ラカ。
それは、なぜわれわれが、いつもサカとESRがプレイするときによりベターに見えるかの理由になっている。 彼らの対峙する相手に勝つ能力と、その後の決定的なアクションは、相手の守備ストラクチャにバタフライエフェクトを与え、チームの攻撃の能力を拡大させる。
ESR vs Doherty = Odegaard NLD goal.
アルテタはトップコーチだと気づかれていない
このような問題がありながらも、アルテタは外科的にオバメヤンを孤立させ、なんとか彼の決定的なクオリティを引き出している。それは、トランジションにおける相手ディフェンスの不安定さを際立たせるようなカットイン&シュート。試合のシナリオのなかでそれは彼のために再生産される。
アルテタについては誰がなんと云おうが、それはトップコーチングなのだ。 そういったことを理解している人々にとっては、それがアルテタがまったくもって優秀なコーチであることの証明になっている。しかし、多くのひとはそんなことは知らない。
1 v 1で勝てないぺぺ
どんな場合においても、アーセナルの大金をかけたFWたちの質的優位性の欠如は、大きな問題であり、クラブの凋落において重大な要素になっている。
ニコラ・ぺぺは最悪の例である。最初に1 v 1で向き合ったところから、相手に確実に、コンスタントに勝てない名ばかりのウィング。
アルテタのシステムでは、そこはその点ではペップのシステムに似ているが、RWは基本的に1 v 1になり相手マーカーに対して孤立する。マーレズ/スターリング。たいていは、チームメイツが攻撃しているなか、ボックスのなかに決定的な配球ができるワイドウィンガーには、少ないそれよりも、もっと多くの決定的なときを期待できる。
しかし、アーセナル、あるいはイングランドにおいてすら、確実にこれができるのはブカヨ・サカしかいない。
このことでおかしい(funny)のは、そこで必ずしも相手を打ち負かさないでもよいということだ。ただ必要なことは、ボックスのなかにクロス/パスを入れることができるスペイス/アングルを持てるように、ただ自分と自分のマーカーのあいだに十分な分離をつくればいい。 ニコラ・ぺぺはいつもそれに失敗する。
このような質的優位性を持たない選手がフロントラインにいて、プレイのオプションズがなければ、チームはかなり悪いときを過ごすことになりかねない。とくにポゼッションベイスのチームであるなら。
アーセナルのようなチームは、多くのゴールズはポゼッションの結果で取る(取るべき)ものだ。それが、アイデンティティであり、評判であり、クラブでの内と外においての期待である。とくに£170Mもの価値がある攻撃タレントを使ってプレイしているなら、なおさら。
残念なことは、アーセナルは投資すべき攻撃タレントの「タイプ」の特定をミスしていること。ボールを持ったときに十分ではない、トランジションで輝くタイプの選手を残してしまっている。 ペップのようなコーチにとってなら、それはフットボールヴァージョンの地獄である。
アーセナルの解決策
もし、選手たちが1 v 1で質的優位性を持っていないのであれば、もうふたつのオプションズしかない。
- 完璧にシステマティックな動きから得点チャンスをつくること
- ぺぺやオバメヤンが活きるような「ミニトランジション」をたくさんつくること
最初のオプションは、ボールを持ったときとタイトなスペイスでのクオリティも要求される。もしぺぺやオーバがビルドアップにヘヴィに関与するならば、そのクオリティは落ちる。
つぎのオプションは、より対トップチーム向けである。そこには悪いチームよりも背後のスペイスがあるから。
ミニトランジションは、バックに十分なクオリティで配球できる選手なしでは成立しない。ゆえに、トミヤスとホワイトを獲得した。彼らは、ポゼッションベイスのチームにフィットしていくなかで、いまのアタッカーズをより助けることになる。
以上。すばらしい。Big respect @nonewthing
フットボールの戦術をよく知っているひとなら、あるいはそうじゃなくても、当たり前のことが指摘されているだけと思うのかもしれないが、自分としては、ここまですんなり腑に落ちるアーセナルが抱えている攻撃問題の解説はこれまであまり見たことがなかった。
なお、qualitative superiorityでググって少し調べたところ、このフットボール戦術のなかの「質的優位性」は、まさにグアルディオラ(とアルテタ)がやっているような、ひとつのサイドのワイドエリアでウィンガーを意図的に孤立させて、そこで相手DFを打ち負すという状況とセットで語られることが多いようだ。
ぺぺと質的優位性
ここでのアーセナルの攻撃問題の核心として説明されているのは、ニコラス・ぺぺの存在。このような状況下における、彼の質的優位性のなさ。
彼がアーセナルのフロントラインで、オバメヤンともラカとも違うのは、彼らはストライカーでありフィニッシャー(専門)であるのに対し、ぺぺはチャンスクリエイションを期待されているウィンガーだということ。
ぺぺがクラブレコードの£72Mという巨額でアーセナルに来てから、彼がなかなかフランス時代に見せた大活躍をしてくれないことにフラストレイションをためているファンも多いと思うが、結局アーセナルでの彼は何が悪いのかが、ここでうまいこと説明されているように思える。
過去を振り返るに、これまでアーセナルで彼の本来の能力がアンロックされないのは、いろいろな理由があると説明されてきたことについては、このブログでも何度か触れてきた。
イングランド(PL)適応説とか、スペイスがないと活きない説(カウンター専用)とか、孤立させすぎ説とか。エメリ時代は、彼には同じサイドからのパスばかりで、ダイアゴナルなパスをしないから彼がボールを持ったときに相手DFに対していつも不利な状況になっているなんていうのもあった(拙エントリ「なぜぺぺはアーセナルで苦しんでいるか」)。
どれも彼が活きない説明としては、一理あるんだろう。
今回AI氏のぺぺ評価で「名ばかりのウィンガー」の部分、“a nominal winger who can’t reliably and consistently beat his man 1v1 from a standing start.”で重要なところは、“1v1 from a standing start.”だと思った。
要するに、彼とDFが向き合った状態で「さあ1 v 1勝負を始めましょう」という状況は、ミケルアーセナルがずっとやっているような遅攻でとくに目にする機会が多いが、そんなシーンでは、彼はほぼ毎回何もできないという。安全パスに逃げるか、あるいは無謀なドリブル勝負でボールを失うか。
サカやESRがいい感じにワイドでボールを持ったときには、つねにそこから何かが起きそうな予感があるが、ぺぺの場合はそこでプレイがぶった切られる。そこから決定的なプレイにつなげて相手守備にバタフライエフェクトを起こすみたいなことはあまりない。
バタフライエフェクトとはうまいこと云いますよね。そのきっかけになるプレイ自体は決定的でないささいなプレイに見えても、そこから相手守備ストラクチャを侵食していって、一連のアクションズの結果として大きなチャンスにつながっていくという。
いっぽうで、1 v 1あるいは2 v 1でも3 v 1でも、ぺぺがぼくらが「おっ」と声が出てしまうようなプレイをするのは、相手DFの心の準備ができていない、攻守が入れ替わるまさにトランジションのときなのだよね。相手がぺぺと一緒に背走しているような状況では、彼はかなり危険になるという印象がある。
これは彼が混乱した場のなかで相手を出し抜く脳みそ、あるいは反射神経を持っているということなんだろう。他方、流れがリセットされて、あらためて正座で向き合っているような状況では全然良さが発揮できない。
そしてアーセナルでの問題は、アルテタがぺぺを使うときに、彼にマーレズ役やスターリング役をやらせようとしていたことだろう。彼が得意な混乱した場を提供せずに、つねに正座を強いているみたいな。
ミニトランジション?
AI氏は当面の解決策のひとつとして「ミニトランジション」を挙げていて、これは非常に納得感がある。
意表をついたパスがいきなり出てくれば相手DFはぺぺやオーバをつかまえていないので、そうした状況なら彼らのストロングポインツが活かせると。そのためにホワイトやトミヤスが重要だった。そのことはいいと思うし、アルテタはそのことを考えていた可能性も高い。
ただ、個人的にモヤッとするのは、それは結局昨シーズンまでに観られたジャカやルイス(のロングボール)に攻撃のトリガーをあずける発想とあまり遠くなくて、ミドフィールドを経由したショートパスでのビルディングアップとは、異なるオプションだというふうに思えるということ。
もちろん両方を併用すればいいだけの話でもあるが、アルテタのこれまでを観ていると、今シーズンに入ってすら片方への依存度が高いように思えるので、現時点においては、諸手を挙げて歓迎できるという気もあまりしない。
ホワイトやトミヤス頼みみたいなアーセナルの攻撃を観たいですか?という。
現在進行系の悪いスカウティング
いまチームがこういう根深い問題を抱えてしまっているのは、なぜニコラス・ぺぺのようなアーセナルのプレイングフィロソフィに合わない選手を、しかもクラブレコードのような大金で獲得してしまったかということで、いまとなってはスカウティングの痛恨のミスとしか云えそうもない。
この夏に手放したジョー・ウィロックもぺぺと似たところがあるが、彼らのようなトランジション/カウンターで活きる選手は、アルテタの遅攻戦術にはあきらかに合っていない。ウィロックはアーセナルにいたら、絶対に7試合連続得点のような記録はつくっていないと断言できる。
ぼくは、アーセナルがいくつも抱える問題のなかに、当然ニコラス・ぺぺの本来の能力が発揮されないことも含まれていると思っていたが、こうして彼の問題を具体的に指摘されて、かなり納得できるところがあると思った。彼をメインのウィンガーとして、そしていままでのように使いつづければ、必ずついてまわる問題。たしかにそれはずっと問題だったし、思っていたよりももっともっと大きな問題だった。
もっとも、アルテタはもう彼にマーレズ/スターリング役をやらせることは、あきらめているように思えるところもある。オーデガードが来てからは、ESRがウィングのファーストチョイスになりそうで、サカを外せない以上ぺぺはサブにするよりない。
ちなみに、ぺぺの名誉のためにも断っておくと、ぼくは彼が好きである。もっともっと輝ける場所や環境は必ずある。だから、これは(もし今後も彼が能力を発揮できないのなら)お互いにとって不幸な結婚だった。
アーセナルFCとしては、ヴェンゲルさんが去ってから、チームの再構築に全身全霊をかけて臨んでいるはずだった。しかし、こうして現在進行系でやらかしてしまっている。なかなかフォームが上向かないわけである。今年の夏のリクルートメントは大丈夫だったろうか?
ぺぺのことだけに限らず、このチームの問題はまだまだある。
アルテタはこのバランスの取れていないスクワッドと戦術を、これからどうやって競争力あるチームとして適応させていけるか。
ようやく週末から始まる新シーズンのスタートが楽しみになってきましたね。
おわる
更新お疲れ様です。
言いたいことは分かるんですが、個人的には結果のでない人間を優秀だと思いませんけどね。
結局選手の質を見極められず自分のエゴを通しているだけですし…
私は遅攻の時のペペが全く仕事ができてないことに関して、彼がそれを苦手としているかどうか以前に、遅行の時の選手の距離感や動きの悪さが影響していると感じます。
彼がボールを持って落ち着いてるタイミングはいつも孤立していますし、逆によく突破できるなと思うシーンも見られます
アルテタもそう感じてかは知りませんが、RSBの冨安を獲得したのだと思いますし…
相手DFと対峙したときに、ドリブルしか選択肢がなければメッシ程のスーパークラックじゃなければチャンスにまでは持っていけないでしょう
質的優位性において、ペペがアーセナルのスタイルに合わないから能力が発揮できてないとは思いませんね…
ペペは好きです。レッド出したこともあったけど、あそこらへんからかわり、守備うまくなって、努力家だと示した。ファンダイク抜いたのも、縦への突破って感じでカットインするドリブルではないような。
ま、トミが助けてくれると信じて。
ひとつ、チェンさんが以前リツイートしていて気になったツイートを。
↓
「Nicolas Pépé vs Chelsea – No Help」
https://twitter.com/pepe_19i/status/1429579606059851780?s=21
ペペいいですよね。あのひょうひょうとした感じとか、フィニッシュとか。
もしベンゲルがまだいたなら、きっと彼に14番を与えてCFに抜擢したんじゃないかな。ペペを孤立させずまわりに7、8、10番がいたらけっこうおもしろくなりそうですけど。
同感!
同感!
ミニトランジョンを作成すると活きるのであれば、ぺぺのトップorシャドーストライカーとかのアイデアはアルテタにないのですかね、??
右ウイングと併用して起用出来れば、チームとして戦術の汎用性が増えるのかなと思いました。
以前smarterscoutでぺぺを比較してるブログを拝見しましたが、ぺぺのプレースタイル/エリアは入団年と去年とで変化しており、アイソレーションで質的優位で局面打開する選手としてではなく、よりフィニッシャー的な選手として扱われましたよね。
リーグ・アンとのレベルの差もあってのことなので、これはスカウト面では仕方ないことのように感じます。
(個人的にぺぺはどちらかというとプレーセレクションに難があるような気がするので、1つ1つプレー整理してけば、、と思います。というか進歩みえますよね。
質的優位を活かすってのは何も完全に相手をドリブルで抜くだけではないですし)
逆に走力があり、守備も厭わない点とかは素敵な面ですよね。チェルシーの時のウィリアンみたいに(笑)
走力ある守備に走れるフィニッシャーというプロファイルならショートカウンター時に活躍できるんでしょうが、こりゃまたオーバメヤン/ラカゼット、そして何より右サイドにはティアニーがいない!(笑)ことで持ち味を発揮しにくいですよね。
幸運なことにポジションを争うサカが器用で他ポジションもできる、オーバメヤン、ESRは基本左サイドってことで、今季も出場機会は多いのは間違いないので是非ありし年のスターリング位点とって欲しいですね!
ちょうどスターリングの改善に一役買ったと言われてる人が監督な訳ですし!
何度も長文失礼。
お疲れ様です。
マフレズとの比較、というのがすごくイメージしやすかったですね。
仰る通りペペは(アーセナルの中では)1対1は強いぐらいのイメージでしたが、言われてみれば確かにという。
あと、ラカはともかくオーバの対人の弱さは今更触れないでよって感じですね。笑
逆にあれで得点王になれるのが凄いんだよと。
雑感失礼しました。。
よく理解できる考察です。
ただ、1対1で勝つと言うのは、大変難しいことだと思います。それこそどなたかがおっしゃる通りスーパースタークラスでないと。
問題点としては、チームとしてどう1対1を作るのかではないでしょうか。左で使われる時は、ティアニーのフォローの良さが彼を助けており、右で冴えないのは右SBのクオリティ不足のためだと思います。
かのバスケットボール漫画で、流川くんがパスを選択できるようになったことで、1対1で凌駕できるようになったように、ぺぺにもチーム戦術や仲間のポジショニングによってマッチアップする敵に迷いが生まれるような仕組みを作って欲しいと思います。
仲間がぺぺに1対1を任せてしまっている場面があまりにも多いしように感じます。
ぺぺ、球離れの悪さが直らないですよね。すぐに離さないことが分かってるから、相手にも読まれやすい。
今のアーセナルの遅攻と、あの球離れの悪さは、絶望的に相性悪い気がします。
そして、たしかにぺぺが輝いたシーンはその球離れの選択肢がなくていい状況だったかなと。
でもホワイト、富安、サンビ、ウーデゴーアをとった今季は、そのぺぺが得意な状況でパスを渡せる機会が増えるのでは。
ぺぺのCF化、少しだけ期待してるんですけどね。アーセナルだけに。
ぺぺ、ダイレクトで合わせるシュートとかペナルティエリアの境界辺りから転がすシュートはうまいと思うので、チャンスメイカーというよりかはフィニッシャーとして考えた方が良い気がしました。
前にフィニッシャー3人だからこその停滞感も感じてます。
やっぱりストライカー寄りの選手なんだと思う。ぺぺは「ワンタッチで落とす→裏を狙う」の繰り返しが一番得意みたいだけど、それはお膳立てするよりもされる側のプレーだし。
現状、あれだけパスが回らないと普通は最前線に2人残して後ろを4-4のブロックにすると思うんだけど、アーセナルの場合FWにフィジカルと高さがないのでそれもできない。と言って前線3枚にしてあくまでもパスを回そうとすると、今度はウイングのぺぺやオーバが機能しない。
結局のところ、当たり前だけど「後ろ8人でいかに良いパスを回すか」という話になるんじゃないだろうか。これだけストライカーがいるのは財産ではあり、活かす方法を探すべきだと思う。
妄想なんだけど、後ろのパスワークが改善されていくとどこかに臨界点があって、相手のハイプレスが追いきれなくならないだろうか?ガクッと。後ろの選手のプレーって成功率が要求される(でないと危ない)から、一度追いきれなくなったらかなりの高確率でそれが発生しないだろうか?。。。まあ現状はその兆候も見えないんだけど。w