今回のエントリは、先日見かけた『BBC Sports』の興味深い記事を元ネタに。
Do Newcastle need to spend £1bn to reach top four?
「ニューカッスルがチャンピオンズリーグに出場するためには£1bnの投資が必要?」
新しい金満オーナーがニューカッスルを買収したことは、すでにご存知のとおり。新しいオーナーがサウジ系ということで各所でいろいろ反発もあったようだが、結局ここまでは彼らがオーナーとして認可されないというような大きな動きはなく、英国に新たな金満メガクラブが誕生することは必至。最近では、彼らの選手補強やマネジャーの噂もよく見かけるようになっている(新しいニュースとしては新マネジャーはエディ・ハウに決まったとか)。
BBCの記事では、今後ニューカッスルがPLにおける金満先輩のチェルシーやマンシティのようになるには、どのようなオーナー行動が求められるか、これまでの実績をもとに考察している。
基本的にニューカッスルと成功したPLの金満クラブの記事なので、アーセナルFCのことはまったく触れられていないが、ようやくオーナー投資が始まったり、買収話もしばしば持ち上がるアーセナルもまるで他人事というわけでもない。アーセナルのファンにとっても、金満クラブの金の使い方や、新たなライヴァルになる可能性のあるニューカッスルの動向も興味深いものだと思う。
この記事をざっくり紹介しよう。
ニューカッスルが成功するには何が必要か?
記事雑訳。※小見出しは訳者による
- ニューカッスルが大資本の買収で盛り上がっている。しかしながらPLタイトルを狙うには、現状19位と低迷
- 21世紀に入ってからPLの20クラブのうち19で、オーナーが変わっている。ニューカッスルはこれまでの投資や変革事例から何を学べるか
オーナーが変わって成功しないクラブもある
- ニューカッスルの資金可能性からは、当然マンシティやチェルシーと比較になる。だがこれらのクラブはニューカッスルと違い、もともと降格を争うようなクラブではなかった。ニューカッスルはこの15シーズンで10位以上でフィニッシュしたことは一度しかない
- シティ、チェルシーに加え、レスター、リヴァプール、マンUは、すべてオーナーが変わってからタイトルを取っている。一方、エヴァトン、ヴィラ、WHUといったその他のクラブは、オーナーが変わってもヨーロッパに出場することすら苦労している
成功したクラブはマネジャーに忍耐づよく&選手を大幅入れ替え
- 単純な方程式。マネジャーを変え、選手を変え、投資を続ける。だがそれは正しいアプローチなのか?
- 5つの成功したクラブでは、オーナーが変わってから平均して10ヶ月で既存マネジャーを変えている(※マンUのファーガソンを除く)。新マネジャーの寿命は平均で35ヶ月
- その他の買収クラブでは平均6ヶ月で既存マネジャーを変え、新マネジャーの命は13ヶ月しかもっていない
- ニューカッスルがすぐにスティーヴ・ブルースを解任したことは警告になるかもしれない
- 成功したクラブはマネジャーにより時間を与え、タイトルを取ったクラブはみんな買収後すぐに選手をかなり入れ替えている。チェルシー、マンシティ、リヴァプール、レスターはすべて2シーズン以内に既存スクワッドの50%以上を入れ替えている
投資が報われるまでは時間がかかる
- ただ、巨額を投資するボードルームは我慢できないだろうが、歴史が示唆することは、スクワッドを大きくオーヴァホールしても、ただちにリーグポジションに大きな変化はなく、即効性はあまりないということ。投資は毎シーズンで継続されねばならない
オーナーは金をつかい続けろ
- タイトルを取ったあとのオーナーはもっと貪欲になるものだが、トップを維持するためのコストはいかほどか?
- チェルシーとマンチェスターの2クラブは買収されたあと、みんなそれぞれ5回タイトルを取っている。その最初のタイトルはチェルシーは1955以来、マンシティは1968以来だったが、マンUは当時もすでに強者だった
- PLのトップハーフ以外から上り詰めたのは2016にタイトルを取ったレスターのみ。彼らはそれまで5位以上でフィニッシュしたことがなかった
- よく云われるのが、そこへたどり着くよりもそこに居続けるほうが難しいということ。だが真実味はある
ニューカッスルに必要な投資額は£1bn?
- ニューカッスルのいまのプライオリティはPL残留。降格を免れるだけでもかなりの投資が必要かもしれない。だがどれだけ必要か?
- The CIES Football Observatoryのリポートによれば、移籍金は毎年20%ほど上昇している
- チェルシーは2003-2006の3年で4つ順位を上げるために£450Mを投じていて、マンシティは2010-2013の3年で7つ順位を上げるために£352Mを投じている
- ニューカッスルのよりつつましい目標はトップ4になるが、それはつまり彼らにとって順位を15も上げることになる。仮にかつてのクラブの投資事例と移籍金のインフレを考慮するなら、£1bnの投資が要求される
- ニューカッスルが最後にタイトルを獲得してから、あと6年で1世紀になる。新オーナーにはそれまでにチャレンジできる資金がある。しかし彼らがその大金をつかうつもりがあるかどうかはまだ見ていく必要がある。そして、そのような大きな投資が許されるのかも
以上。
具体的な数字がなかなか興味深い。今後アーセナルが金を使っていくうえで、ベンチマークになるだろうか。
この記事の内容を要約すると、新オーナーでクラブを成功させた事例では、
- 既存マネジャーにも新マネジャーにも寛容になり
- 選手をじゃんじゃん入れ替えて
- 時間がかかっても慌てず
- 巨額投資をつづける
ということ。
ただしニューカッスルの場合は、そもそもが悪いポジションすぎるし、時代も違うので、これからシティやチェルシーになろうとしたらもっともっと金がかかるよと。
強くいるために金をつかいつづけろなんてことは当たり前。しかし、成功しているクラブは比較的マネジャーに寛容というのは発見だったかもしれない。チェルシーなんか年がら年中マネジャーを取り替えてるイメージあるし。
まあ彼らが寛容というよりは、ただ単に成功していないクラブの忍耐が足りないというだけかもしれない。成功していないからマネジャーをすぐ変えるのか、あるいはマネジャーをすぐ変えるから成功しないのか。どっちもあるか。
アーセナルFCが得るべき教訓
まったくの外野ながら、われわれが得られる教訓はここにあるだろうか。
金を使う?
まあ、そりゃもちろんそうなんだけど、アーセナルではオーナーがクラブにようやく投資をし始めているので、以前と違って、そこはあまり心配しなくてもよさそう。今後それが要求に反して滞るようなこともきっとないだろうと思う。
なぜなら、KSEが重い腰を上げてクラブに投資を始めたということは、彼らもプレッシャーを感じているということだろうから。アーセナルFCの買収を狙っている勢力はいくつかあって、今後そのプレッシャーが弱まりそうには思えない。だからKSEはアーセナルFCのクラスにふさわしいオーナーだと自ら証明していかねばならない。Covid期間限定ではさすがに足りない。
それはいいとして、ぼくらがクラブにもっと求めたいことは「賢く金を使う」ということじゃないだろうか。
ぼくはこの手の話だと毎度思い出してしまうのは、アヤックスの年間予算はたった€28Mという2019年のオーフェルマルスの話。ファーストチームからユースまでクラブ全体の予算を使ってもラムズデイルひとりすら買えない。アヤックスは、その程度の小規模予算でやりくりして、金満クラブを向こうにCLのセミファイナリストにまでなっているという。彼らは今年もCLグループステイジでドルトムントにダブルをかましている。
いまでもアーセナルはめっちゃ金を使っている金満クラブのひとつであり、しかしそのわりに得られたリターンがあまりにも少ない。これだけ金を使ってあまりチームが強化されてこなかったということは、やはり金の使い方が間違えているのだろう。盛大に無駄づかいをしている。
もっとも商売上手なフットボールクラブはどこだ(過去5年) | ARSENAL CHANGE EVERYTHING
資金には必ず制限があるのだから、それを賢く使うことができていないということは、フットボールクラブを運営するにあたって大きすぎる障害になっている。ビジネス面でもスポーツ面でも、不利益にしかならない。他者との競争以前に、自分で自分の首をしめるとは愚かしいことだ。
幸いにも、この夏の獲得はほとんどヒットになりそうで、ここから風向きが変わることを期待している。
たくさん金を使って、最大の効果を上げる。そうなればどこでだって戦える。
マネジャーの扱いについては、重要なことは適切なタイミングでの決断だろう。忍耐するとかしないとかでもなく。一度決めた考えをかんたんに曲げないことは美徳であっても、それがが必ずしも最適解ではなかったりするのもフットボールの一側面であり。最近では、チェルシーがランパードを見限ってトーマス・トゥークルを連れてきて、結局CLまで取ってしまったのはほんとうにすごかった。あの短期間でまさに効果てきめん。
アーセナルはいまアルテタにマネジャーを任せていてよかったと思っている期間にいるが、今後もずっとそう思えているかはわからない。
必要なことは、そうしたときに適切なタイミングで適切な意思決定を行うこと。ヴェンゲルさんの末期以降、アーセナルはそれをずっとしくじってきたという印象がある。おそらくヴェンゲルさんはもっと早いタイミングで退任すべきだったし、おそらくエメリ氏は人選を間違えた。もしかしたら、アルテタを早々に見限ってアーセナルがトゥクルを連れて来ていたら、タイトルを取ったのはわれらだったかもしれない。まあ、たらればですがね。
そのとき冷酷に、無慈悲になれるかどうか。いまのエドゥ、アルテタ、ヴェンカテシャン、ジョッシュ・クロンキら若いリーダーたちを観ていると、そのあたりはちょっと不安がある。
さすがにニューカッスルがすぐにトップを競うようになるとは思わない。が、新オーナーの資本力はシティの10倍くらいあるというのだから、FFPにひっかかるギリギリで攻めてくるはず。潤沢な予算を使って優秀なチームをつくり、いずれ台頭することは避けられない。それは、アーセナルにとってもPLで強力なライヴァルがまたひとつ生まれるということ。ただでさえタフな競争なのに、PL内における競争はこれからさらに激化する。
アーセナルもいまはまだ「ビッグ6」などと呼ばれるグループのひとつでも、PLが2強、4強と勢力図が移り変わってきた歴史を思えば、つぎに<ビッグX>や<トップX>と呼ばれるグループにアーセナルが入れるかどうかは微妙なところかもしれない。現在ですら、実力的にはもうビッグ2かビッグ3のような状態であり、5年連続でCLを逃しているようなアーセナルでは、今後急速にチームが強くなりでもしない限りは、エリートグループのひとつと認識してもらうことは厳しいように思える。
ニューカッスルとアーセナルの立場が入れ替わる日なんて想像もしたくねえ。。けれど、思い返せば、チェルシーやシティが金満オーナーに買収されて台頭してきたときも同じことを思った。でも、彼らはわれわれが低迷しているこの期間に、それぞれ5回もリーグタイトルを取っているのだから、いまさら指摘するまでもなく、力関係はほとんど完全に入れ替わったのだ。
ということで、これからニューカッスルが加わって、さらに厳しさを増すであろう競争を生き抜くために、アーセナルは大きな金を使うだけでなく、頭脳を使って、誰よりも賢く立ち回る必要がある。
おわり
DAZNのフットボールコンテンツ「Football Time」で、内田篤人氏とトミーの対談が放送されてたのですが、グーナーとしては非常に嬉しいことをトミーが言っていたので是非ご覧になってください!
いつも貴重な情報ありがとうございます!
僕も富安のダズーン拝見しました!
アーセナルからのステップアップ望むよりも
「アーセナルを、もといた場所に戻したい」的な発言で一気に好きになりました!
最高です!
企業体が投資し続けるってのはまあ当たり前の話で、その中でどういうスキームを作るか。
シティはアブダビ王族資本とガッツリ絡みつくことによって投資して企業価値をあげることがUAEという国が富むというレベルの話になってる。ニューカッスルが目指す方向性だろうか。
ただネーミングライツにリーグ側から規制受けたりしたので急進的な変化は起こらなそう。
だからこそのエディ・ハウという選択かも?
時間与えられたエディ・ハウのチームとか絶対いい、手強いだろうなー。
クロエンケは他の保有クラブ見ても積極的なタイプのオーナーじゃない。
低迷したら低迷したでも大きなアクション起こさなそうなので、是非とも現執行部は頑張って欲しい。
メルテザッカー他アカデミー陣は優秀な選手輩出し続けて欲しいし、エドゥはなんとか売却益をコンスタントに出して欲しいし、アルテタは今季でヨーロッパに返り咲いて欲しい。
コンテがなんぼのもんじゃい!