PLリーズ戦の前後でファンのあいだで話題になっていた、ピラミッド・ピルロこと、モハメド・エルネニーのTVインタヴュー。
ざっと訳したのでシェアしよう。
今年2月の彼のTVでのインタヴュー。聞き手は、エジプトの伝説的選手ミド。またなつかしい名前だなあ。調べたら、彼は2013年にリタイヤしていた。
※これは映像に貼ってある英語サブを訳したものだが、しゃべっている感じと英語の量があまり合ってない気がするので、そこまで実際のコメントに忠実ではないのかもしれない。あしからず。
ミド:みんな「モハメド・エルネニーは全然プレイしないで満足なのか?」って云っているね。これはツラいよね。わたしはキミのことを知っているから耐えられない。プレイせずにどうやってプロのレヴェルを維持しているんだい?
アーセン・ヴェンゲルにキミのことを尋ねたことがある。そうしたら彼はグループのなかのとても大切なひとりだと。彼は試合でプレイをしていなくても毎朝スマイルでやってくる。よくトレインし、いつも100%。どうやってそのメンタリティを保てているのか?
エルネニー:夢があれば、そうしたことも起きる。その夢を手放したくない。それがぼくのなかにあるもので、ほしいもの。
アーセナルではこんなふうに訊かれる。「モー、キミは一度ローンに出たくないかい。それから戻ってくるか。あるいは移籍は? キミはアーセナルにいるがプレイできていないだろ」。
ぼくはこう云った「ぼくのなかには夢がある。ぼくはそれを叶えるつもりです」と。
ミド:でもモー、キミはアーセナルにいてもプレイするチャンスすらない。わたしならワトフォードへ行って、まあ小さいクラブだけど、それでもそこから大きなクラブへ行けるかもしれない。
エルネニー:でも、もし自分がアーセナルでチームといっしょにトレインしていて、スターティング11に入れると思うなら。
ぼくは自分のレヴェルはそれくらい(高い)と思っている。自分のレヴェル/キャパシティを知らなければいけない。
もしグループのなかで自分のスタンダードが彼らより低いと思うのなら、荷物をまとめて明日には出ていくよ。ぼくは頑固だからそこにいるんじゃない。そこが自分に似合わないとわかっていてそこにいるのなら、それは愚かだろう。
たとえば、もしぼくが医者で自分の仕事ができないとする。それならつづけられない。
ミド:でも、たとえばチェルシー時代のサラーは問題はなかったが、試合にあまり出られないのでフィオレンティーナへ行き、そこからローマ、そしていまリヴァプールだ。
エルネニー:ぼくもそうしたよ。それがベジクタシュ(ローン)へ行った理由。ぼくはマネジャー(エメリ)がチャンスをくれないと思っていたからローンへ出ることに決めた。
エメリは、とくにドレッシングルームでの影響力があるから、ぼくには残ってほしいと云っていたけど。ぼくについて、彼らはチームメイツやチームをつなげたりまとめる能力があると観ていたんだ。とくにアーセナルではドレッシングルームがとてもとても重要で、個人的にもそれは重要だと思ってる。
シーズン中には、ぼくをほしがっているクラブがいくつかあって、ぼくは残るか去るか話をしていた。アルテタはそこでぼくに残ってほしいと云ったよ。
ミド:そうだね。でもそれはどんなマネジャーにとってもキミは理想的な選手だからだよ! ベンチに置いても問題なく、よくトレインもする。いつもポジティヴでいいヴァイブスをチームもたらす。
しかし、キミは自分の選手としての利益はなんなのかについて考える必要がある。移籍して試合でプレイすれば、大きなチームに行くかもしれないじゃないか。
エルネニー:だからそれがベジクタシュにローンに行った理由。エメリはぼくをプレイさせることはないとはっきりしていたから、ローンへ行った。でも、そのときですら、トレイニング、コミットメント、つねにアーセナルに戻るためだった。
これまで誰にも云わなかったことを話すと、ローンが終わったときにクラブからは別のチームを探すように云われていたんだ。アルテタのプランにぼくは入っていなかった。これで終わりだった。彼らはぼくのエイジェントを呼んでそれを伝えた。ぼくはエイジェントにほかのクラブを探し始めるよう伝えた。
エイジェントが提案したのは、とりあえずプリシーズンはアーセナルに戻ること。ぼくはクラブがそれでいいなら構わないとエイジェントには云った。そうじゃないのなら、ぼくはベジクタシュでいいシーズンを過ごしていて、彼らもぼくをほしがっていたし、ほかのPLクラブもあった。
そのプリシーズンでクラブが決める。しかしアルテタのプランには入っていないことを思い出す。
ぼくはがんばってトレインして、最初のフレンドリーでプレイした。そしてハーフウェイラインからゴール。そこからアルテタはぼくを観るようになった。
彼の指示があれば、ぼくは彼のやりたいことがわかる。彼のプランを読める。細部まで実行する。どんな指示でも、誓って、ぼくは細部まで実行する。
つぎの試合でも彼はぼくをプレイさせた。そしていいプレイをしてペナルティも決めた。
そしてコミュニティ・シールドのリヴァプール。ぼくらが勝ってトロフィを掲げた。それでもぼくはアルテタのプランに入っていない。
その後に彼はぼくに正直にこう云った。以前キミはわたしのプランには入っていなかった。だが考えを変えた。クラブにはキミがすごく重要な選手だと伝えた。だから、キミはいまはもうわたしのプランに入っている。
これはアーセナルの話だよ? あんなにどえらいクラブだ。グアルディオラのところにいたアルテタのようなマネジャーがいる。そんなマネジャーの考えを変えさせたという意味がわかる?
ぼくがアーセナルで40試合プレイした年(※20-21シーズンに41試合)、ぼくのクラブキャリアのなかでいちばんだ。そして、自分のポジションからゴールもしている。
ミド:そうだね。あのシーズンのキミはすごかった。キミは変わったし、違う選手になったとわたしたちも云っていたものだ。だから、いまキミはそのときほどプレイをしなくなったのは、なにが変わったんだい?
エルネニー:これだとはっきり云うことはできないけど、たとえば、ぼくはいま自分のポジションでは、アルテタにとって3番めか4番めかもしれない。スタートしている選手たちがかなりうまくやっているから、彼も選手をロテイトできない。
ミド:でもどうしてキミのペッキングオーダーは下がったのか。
エルネニー:ぼくが40試合プレイしたシーズンでも、ぼくはファーストチョイスではなかった。ぼくがたくさんプレイしたのは、アーセナルが4つのコンペティションズにいたから。
今年はいくつか。たったひとつだ。リーグのみ。ほかのコンペティションズからすべて敗退してしまった。
だから去年と同じ量のプレイは期待できない。彼が選手をロテイトせねばならないのは試合の数のためであり、そこでぼくも必要とされた。
ミド:じゃあいまの状況で、試合と試合のあいだにプレイしていない時間もあり、自分の将来を決めたくなったりはしてない?
エルネニー:それはそうだよ! ぼくにはいくつもオファーがあるし、クラブともアルテタとも話している。しかし、彼らはぼくに残ってほしいと云っている。1月が過ぎてからも、アルテタと話したら、彼はぼくが必要だと云っていた。
ミド:マルセイユがキミをほしがっていたし、ほかのたくさんのクラブも…… ゲンドゥージを観れば、彼はアーセナルで苦しんでいたがフランスでよくやっている。かんたんなリーグじゃないのにね! 彼がPSG戦でプレイしているのを観て、アーセナルにいたときと同じ選手とは思えなかった。
正直、(キミを観ていると)わたしは現役時代に戻れたらなあと思う。こんなプロ意識があって、忍耐づよく、我慢づよい。
エルネニー:(笑い)
以上
ミドは一所懸命に、エルネニーにプレイできていない自分の現実を直視するように云っているのだけど、エルネニーはあまり気にしていなさそうという。
彼のフットボーラーの先輩として、PLでもプレイしたエジプシャンの先駆者として、もっといいキャリアを歩むべきだというアドヴァイス。その老婆心というか、彼がかわいい後輩にしたがっている忠告はすごくよくわかる気がする。が、たぶんエルネニーのメンタリティはちょっと違うんだね。
それはフットボーラーとしての向上心がどうこうではなく、きっと目の前にある信じているもの(夢)をどう叶えるかということでしかない。悪いことばで云えば愚直?
彼は、自分に自信もあるし、夢がかならず叶うはずだという信念もある。
このインタヴューは今年2月にアップされたもので、実際のインタヴューもそのあたりだとすると、彼の状況としては、ローンにも出ずクラブに残ったものの、アルテタにはほとんどチャンスを与えられていなかったとき。シーズン前半も半分以上試合でプレイしていないし(スタートはたった2試合)、AFCONから戻っても2月から4月にかけてPLの10試合はベンチにも入っていなかった。
エメリもアルテタも、キミに期待しているチームに残ってほしいと云うだけで試合でつかうつもりもなく。期待されている役割は、ピッチ上での戦力としてではない何かだったりした。それでも受け入れようとする彼に対し、ミドが「(どうでも)いいひと」になるなと警告しているようで、それもなんだか笑える。
だから、彼がここまでいつチャンスが来るかもわからないのに(しかも望みは薄い)、毎日のトレイニングも100%でやり、苦しくても笑顔もたやさず、それがいまこうしてチャンスを得て、ピンチのチームを救い、全世界のアーセナルファンから絶賛されているという事実を観るに、これはもうフィクションみたいなものだろうと思う。ちょっとしたフェアリーテイルである。
世の中うまくいかないことがほとんどなのに、こうして、かっこわるいとか、不器用だとか、そんなことを気にもしない愚直さが、苦労のすえに救われるみたいな成功ストーリー。なんというカタルシスなのか。
2016年のヴェンゲルさんのエルネニーに対するコメントも注目されていたので、引用しておこう。
ヴェンゲル:大きな成功を収めるチームには、サイレントリーダーが必要だ。
サイレントリーダーというのは、つまり、メディアに話すこともないし、名前が見出しを飾ることもない、しかし、ピッチのうえではチームのためにすべてを捧げる選手のこと。
仮にエルネニーがアーセナルと契約を延長しても、今後トップチームと競っていくために、アーセナルは夏にはあたらしくより優秀なCMを補強するだろうし、そうでなくともトマス・パーティが復帰すれば、エルネニーはまたベンチに戻る可能性が高い。
本人も自覚しているように、既存のチームですらペッキングオーダーは、パーティ、ジャカのつぎ、あるいはロコンガですら彼の上かもしれないし、もしかしたらオーデガード、さらにチャーリー・パティーノより下かもしれない。実際これまではそんな感じだった。
そんな状況がわかっているのに、それでも自分を証明しようと、腐らず、ハードワークし、アーセナルFCで夢をかなえようとしている漢。
正直、エルネニーのこのような復活劇を観る、つい最近までは、彼はもう過去の選手と思っていた。だが、現実として、いま彼は毎試合ピッチのうえでチームを救っている。
おれも、彼がアーセナルで夢をかなえるところを観たくなってきた。
そのためには、まず彼はクラブとの契約延長を勝ち取る必要があるが、この調子だと、それはますます現実味を帯びてきたように感じる。
モー・エルネニー29才。これからどうなるか観てみよう。
COYGです
※追記
このエントリをアップした2-3時間ほど前に、ちょうどデイヴィッド・オーンステインが「アーセナルがエルネニーと新契約交渉を開始」とリポートしていたことに気づいた。
Ornstein: Haaland deal done, Pogba says no to City move, Elneny contract talks, Olise new deal
まだ交渉は初期段階だというが、選手が前向きなのだから、この交渉はきっとまとまるだろう。
そしてピラミッド・ピルロの旅はつづく。。
素敵なトランスレイションありがとうございます。NTが花道だとしたら、エルネニーは木暮かもしれませんね。
涙でますね。。
素敵な翻訳ありがとうございます。
エルネニーといい、ジャカといい、今年のアーセナルは心動かされるものがあります。
ネガティブな背景を持っているのもベテランの魅力ですね。
規律やハートも重んじるアルテタが監督だからこそ、このようなドラマが生まれてる気もするのは私だけでしょうか?
世間はオールオアナッシング楽しみムードですが、
私は毎週のこのブログで同じくらい感動してます。
いつもありがとうございます!
ジャカに続いてめっちゃええ話!ますます選手を好きになるし、そう思わせてるアーセナルも好きになる。