試合の論点
クリスタル・パレス vs アーセナルのトーキングポインツ。
進歩した22-23式アーセナル
試合前には、アーセナルの敗けも予想されたこの試合。直近8試合で1勝しかしていないという相性の悪い相手だけに、アーセナルにとっては、かなりタフな試合になるだろうことは予想できた。
しかし、結果は2-0でアーセナルが勝利。
結果については、ややラッキーな面があったことは否めないものの、勝ちにふさわしくなかったというほどではない。勢いのあった時間帯では、このチームのポテンシャルも観せた。
ジェズースの加入は、攻撃においてまさに決定的としか云えない。彼自身が個人で脅威になることもしばしばだが、それよりも周囲の選手たちがそれに合わせてレヴェルを上げている印象さえある。優秀な選手というのは、ピッチ上でそうしたケミストリを起こすのだなと実感した次第。シティは、あんな選手がずっといたんだから、ほとんどチートである。
ずっと好調だったアーセナルのプリシーズンはともかく、それを本番のPLで実行できるかどうかは別の問題だった。しかし、このトップレヴェルの試合でも自分たちがやりたいプレイができることをちゃんと示していたと思う。
この試合のアーセナルのパフォーマンスに関しては、もちろん悪い時間もあったので(というか半分以上?)誰もが諸手を挙げて称賛しているというわけではないだろうが、TVパンディットもOBも概ね高評価で、去年までのアーセナルとは一味ちがうとは、誰もが抱いた印象ではないだろうか。昨シーズンが終わってから、いきなりこのアーセナルを観たひとがいたらけっこう驚くんじゃないか。
まあ、こういう高評価はさすがにちょっと大げさかなと思わないでもないけど。ガブリエル・アグボンラホールが「アーセナルがシーズンベストの45分を観せてくれた! 2011年式ペップバルサみたいだ」とアーセナルを絶賛。「いや、まだ1試合めだから」というリプライが笑える。。でもまあ、ファンとして気持ちはわかる。ちゃんと強かったし。
👏 “Arsenal showed me the best 45 minutes of the season so far.”
🔥 “They were unbelievable. They were like Pep’s Barcelona from 2011!”
Gabby Agbonlahor was a big fan of what he saw from Arsenal last night pic.twitter.com/RCb5NZoOtl
— talkSPORT (@talkSPORT) August 6, 2022
アーセナルはプリシーズンからひきつづき印象的なハイプレスについては、新シーズンももちろん継続。ジェズースとオーデガードがリードしながらも、無駄走りが減ってオーガナイズされている印象がある。けっして深追いしないし、待つところは待つ。今回もそのようなハイプレスからボールを奪ったシーンが何度か。チャンスにつながった。
ハイプレスに関しては、後述するようにパレスのプレス耐性/回避が優れていたため、おもしろいようにそれが効果的だったとまではいかなかったが、それでも今後もひきつづきアーセナルの武器になっていくのは間違いない。今シーズンは、それがさらに洗練されたものに。
それと、試合中のポジションチェンジ。プリシーズンではフロントの選手たちのそれがよく観られたが、この試合については、ジャカとジンチェンコが印象的だった。ジャカはもちろんLBで経験を積んできたし、ジンチェンコがCMでも自然にプレイできるゆえ、ふたりのポジションの入れ替わりは非常にスムース。
マルティネリとジェズースもお互いに何度もポジションを入れ替わるし、そういったところにはアルテタが状況判断を選手に任せる、チーム内の「自由」の萌芽を感じる。それも、新しいアーセナルではカギになるかもしれない。AoNでも、アルテタがコーチMTGで「選手に自由にやらせてみたい」と発言するシーンがあったのが印象的だった。徐々にそういう要素が増えていき、いまはもっとそれがふつうになっている。
アルテタは、おそらく当初はもっと厳格にポジションや役割を決めていたはずで、それが心置きなく選手に任せることができるようになったのは、やはり選手クオリティという理由もあるはず。ペップ流/ミケル流のディシプリンが染み付いたジェズースやジンチェンコには、安心してそれが任せられるとか。
自由と規律は、これまでのアルテタのフットボールを語るうえでひとつの重要なテーマだったように思えるが、ここに来て自由の成分が増しているとしたら、それはこのチームにとり非常にポジティヴな傾向に思える。
アルテタはジェズースについて「不確定性・混沌をつくりだせる」とたびたび述べている。このチームもようやくそのようなフェイズに入ったのだと思うと、アルテタのチームを最初からずっと観ているわれらとしてはとても感慨深いじゃないか。「単次元な攻撃」とか「予測可能すぎ」とか、その点ではアルテタのチームはずっと評価されていなかったのだから。
そんなアルテタのチームが、ようやくアンロックした実績が「ケイオス」。こりゃあ、来年はヌーノの居場所もあるな!
“ビッグウィリー” サリバの鮮烈PLデビュー
この試合では、難しい試合だったゆえに、守備にも注目が集まっている。
最大の成果は、もちろんウィリアム・サリバ。チームのなかで誰よりも落ち着いていたという評価には大納得。これがPLで初めてプレイする21才とは。マルセイユが、あれだけしつこくサリバにこだわった理由が初めてちゃんとわかった気がする。ギャリー・ネヴィルは彼を「ヤング・リオ・ファーディナンド」と絶賛。ジェイミー・キャラガーも「彼はほんものに観える」。
恵まれたフィジカリティに加えて、彼のアウェアネス、意思決定、それとペイス。どれもトップだった。
彼は、フランスではファウルを全然しないCBとしても評価が高かったが、この試合でもクリーンなタックルを何度か観せていて、とくにボックス内でのザハへのタックルはお見事。
ザハの対処に苦労していたホワイトも、サリバには何度も助けられた。
この試合で彼はファンのこころをがっちりつかんで、いっきにファンフェイヴァリットになってしまったところさえある。
ホワイトは、本気でRCBのポジションをサリバと争うことになることを覚悟せねばならなさそう。
しかし、アーセナルで、CBのようなポジションでそのようなハイレヴェルの競争があることもまた隔世の感がある。
それにしても、サリバのこれからはほんとうに楽しみだ。リヴァプールにVVDが訪れたときのようなインパクトをもたらすと考えたら、これはもう単に新しいCBが加わった以上の意味がある。
ちなみにVVDは、この試合を観てInstagramでサリバのフォロウを開始したとか。実力を認められたのかな。
新シーズンの課題?
この試合では、シーズンの課題も観えたように思う。
それは、90分エナジーを保ちつづけられないこと。この試合のアーセナルがかなりよかったのは、せいぜい前半の30-40分程度くらいまでだった。もちろん、パレスの強さがアーセナルが勢いをキープするのを許さなかったという側面はあるにせよ、アーセナルは試合のコントロールを失い、多くの時間で相手に合わせることになってしまった。そんな時間帯は、いかにもエナジーを欠いているように観えたものだった。
考えてみれば、プリシーズンのパフォーマンスがよかったとはいえ、それもほとんどの試合でベストチームでプレイしたのは90分未満で、まだ長時間でエナジーを維持するやりかたをチームは身につけていないという感じはする。
とくに、この試合の後半は相手に7割近くボールを持たれるなど、かなりプッシュされていて、サカのクロスからのあのラッキーなオウンゴールがもしなければ、3ポインツ取れていたかどうかはけっこうあやしかった。
ただ、そこもそこまで悲観してはいない。要するに新しいチームにはいろんな意味で時間が必要なのだろう。アルテタがつねづね述べているように。
このチームで本気の実戦はこれが初めてなのだから、むしろよくやったほうかもしれない。しかもこんなキツい試合で結果を持って帰れたのだから、云うことはないくらいの。
悪い試合でもなんとか結果を出す。そのためのレジリエンス。もちろん、それはそれで必要。でも、その前に自分たちのやりたいプレイがもっと長くできるような、もっと試合を支配できるような、いい試合をやれるようにならねばならない。ポテンシャルは高く、実際にアウトプットできている時間もあるのだから、あとはそれをどうコンスタントに出すか。あるいは、いい時間に効率よくゴールして試合を殺してしまうか。
勝ったり敗けたり、よかったり悪かったりを繰り返すのではなく、いつも安定して高みにいること。一貫性の維持は、このチームの重要な課題であり、今年こそはそれを獲得できるようなチームになってほしいし、きっとなれると思う。
開幕戦勝利めでたいです。
前半は一方的でしたが、後半プレス回避され出して、ホワイトがザハ止めようとしてカードもらってからはヒヤヒヤしどうしでした。
後半途中に試合が中断した際、皆かなり水を飲んでいたようで、もう少し早く交代してよかったのではと。
まあとにかくめでたいです。
お湯を張る間に読もうと思って開きましたが、残念ながらしっかりお風呂が溢れました。
本当にありがとうございます。
ブログの更新待ってました!今季も宜しくお願いします!
交代が遅かった&3枚しか替えなかったことに関しては、後半はパレスペースで進んでいたや開幕戦ということもありハイインテンシティだったことなどを踏まえると動きづらかったのでしょう。実際スクワッドデプスはまだあまりないですし、今後の移籍市場での動きに注目したいです。
ジンチェンコがフリーでクロス上げさせたり、守備で?があったのでティアニーも普通に出番ありそうですね
Abemaは途中から見ようとしたら『最初から見る』ボタンがあったので、これはかなり便利。
あたしも昨シーズンまでちょい寝坊したときはDAZNで再生押して画面見ないように巻き戻してました。Abema最高。
勝ちました。それだけですばらしい。
ギャラガーいないから問題ないとか思ってましたがかなり強かった。アンダーセンは攻守にやばかった。特にセットプレイ。いつもジンチェンコみたいなのねらってましたね。
しかしサリバですよ、正にワールドクラス。
シーズン始まるまではすごい素行悪いんだろうと勝手に思ってましたが、ほんとにごめんなさい。
アーセナルにもどるために英語を勉強したり試合を見てたり、かなり優秀ですよね。あのグエンなんたらに感化されてなくてほんとによかった。
ひとつひとつしっかり勝ってほしい。
COYG
長い記事が大好きです。ずっと続けてください!
パーティに関しては偏見というか、別にうまくプレイしてましたけどね。ふつーにパレスのプレスが激しかったから、そう見えただけでは。
マルティネッリ、ジャカ、ジンチェンコのラインはあまりうまくいってないように思えました。役割はいいとしても、立ち位置はもう少し決めないとあんまり有効的じゃないというか、ちょっと詰まっている。マルティネッリが球離れ悪いのと、ジャカとジンチェンコをあんなに入れ替える必要もないと思う。あとふたりの守備強度も心配です。足元の技術以外は、ポジショニングも含めてティアニーのほうが安定して見えた。
AoNの「自由にやらせたい」発言はアルテタの理想として受け取るべきものではないと思います。ここでの「自由」も文脈があまりなく、実際どのような意味合いや度合いで使っているかわからないけれど、チーム状況を鑑みたカンフル剤であって、それでも約束事は共有しているはず。より重要なのは、「自由にやらせたい」発言の後に、サカがアルテタの戦術面を称賛し、それからアルテタ自身が「秩序がなければカオスになるだけだ。カオスを組織化できれば、それが武器になる」。これだと思います(AoNはエモーショナルな部分に特にスポットを当てるから、アーセナルファンにとっては感涙モノですが、具体的な戦術のやりとりはほとんど切られていて、サッカーファンにとっての優れたドキュメンタリーではないんですよねぇ)。
勝ってよかった、サリバは素晴らしい、ジンチェンコの手放し称賛は注意で、まだ数試合見るべきだというのが試合を見た感想でした。
やはり本番は本気度が違いますね。ベンとジンチェンコのサイドは高さと速さの弱点を相手はついてくるし、攻撃の連携もまだまだクリエイト不足が否めない。開幕だから練度は上げてほしいし、上がるはず
個人的にサカの出来がかなり悪かったように見えました。ただのコンディション不良かな
プレミア開幕!どの試合見てても、どのチームも強く感じる魔鏡リーグ。パレスのアウェイも、数年前とは違い、勝てればラッキーくらいの感覚で見てましたが、クリーンシートで開幕勝利!これ以上の結果は望むべくもなく。
本当にまだ補強を考えてるなら、今シーズンは少なくとも本気でCLを狙いに行くんでしょう。勝っても負けても、ヒリヒリした興奮出来る試合が見たいですね。
いつも楽しく興味深い記事ありがとうございます!
今シーズンも楽しみにしています。
試合のプレビューもレビューも、移籍記事や雑感含めて、大好きなサイトです。
今シーズンは、メンバーや雰囲気など考えても、期待ができそうです。
トーマスの怪我や離脱が大きな問題になりそうなので、早めに補強して欲しいものです。
記事を書き続けることは大変なことも多いと思いますが、健康に気をつけて頑張ってください!
アーセナルの勝利と共に記事を楽しみにしています。
さすがにプレシーズンマッチとはインテンシティが全く異なりましたが、まずは結果が大事。アイェウとザハは、どのクラブでも手こずるはず、危ない場面なんどもありましたが、運も我らに味方しましたね。来週の予習に、とレスター戦も見ていたのですが、ティーレマンス、すごい良かったです。マディソンも。でも、彼らでさえ引き分けとは。やっぱりシュマイケルがいない、というのは違うでしょうし、あとはバーディーの覚醒あるある、だけ回避してほしい。連勝しましょう!COYG