ぺぺがアーセナルでうまくいかなかった5つの理由
前述の『GOAL』をお題に。※内容は、引用した部分を除いて自分で書いている。
1 消えた、ぺぺを獲得したものたち
まずはこれ。
ぺぺは、2019の夏にアーセナルに£72m(€80m)という巨額の移籍金でアーセナルにやってきたが、当時その移籍案件を主導したAFCのキーメンたちがいなくなってしまったという。
ぺぺのプロジェクトの中心にいたのは、もちろん、実質的なスポーティングダイレクターだった“ドン・ラウール”ことラウール・サンレヒ。
そして、契約などの交渉で取り引きをサポートしたハス・ファーミー。彼もまた現在はいない。
ぺぺを獲得したタイミングでは、すでにエドゥもクラブにいたが、当時の彼は、まだいまのような移籍案件を主導する立場にはなかったため、ぺぺの取り引きにどれほど関与したのか不明。もしくはまったく関わらなかったか。
ウーナイ・エメリも。のちに彼は「ぺぺよりもザハがほしかった」とぶっちゃけているので、彼のヘッドコーチ辞任がぺぺにどれだけ影響したかはさだかではないが。そもそも、ヘッドコーチがほしかった選手(右足のLW)と違うプロファイルの選手(左足のRW)を連れてくるとは、ここにも混乱がある。
いずれにせよ、彼がアーセナルに来たときから、このクラブは運営体制そのものが大きく変わってしまい、クラブとしての彼への思い入れのようなものもなくなってしまった。そのことが、ぺぺの退団を促した側面はたしかにありそうだ。
もしいまも、AFCでサンレヒ体制が変わっていなければ、もしかしたらまだぺぺにこだわった(あきらめない)未来もあったのかもしれない。たらればだが。
KSEが任命した弁護士ティム・ルイスのぺぺの取り引きを調査した後に、サンレヒが突然辞任したミステリアスな件は、以前にさんざん書いたからいいか。
いまもアルテタが口を酸っぱくして述べている「透明性」は、そこにはなかった。
2 パフォーマンスの一貫性
ぺぺの大きな問題のひとつは、彼のパフォーマンスの一貫性だった。いいときと悪いとき、まあまあのときを行ったり来たり。その繰り返し。
彼がアーセナルでずっと悪かったというのはフェアではない。いいときもあった。
20/21シーズンには、すべてのコンペティションでG16(最後の11試合でG8)。ウィングの選手としては、まったく悪くない結果だったし、この年のリーグ終盤ではかなりチームに貢献したのも事実。FAカップファイナルではウィナーも決めた。
だが、全体的にパフォーマンスはけっして安定しなかった。リーグではとくにそうだった。
3 守備意識のなさ
彼は守備があまり得意ではない。それが、全員で攻め、全員で守るモダンフットボールでは大きな問題になる。
もちろん、エメリもそうしたマネジャーのひとりだが、とくにアルテタはアタッカーにも守備貢献をかなり求めるタイプ。ぺぺには、試合中もずっと声をかけねばならず、アルテタはかなりフラストレイションをためた。
昨シーズンの終わりに、アルテタのぺぺに対するフラストレイションの集大成というシーンがあった。
残り数分で1-0とリードしていたアストン・ヴィラ戦。ぺぺは遅いサブとしてピッチに入ったが、危険なエリアで雑なチャレンジから相手にフリーキックを与えてしまう。
アルテタは、彼の意思決定にあきらかに怒っていた。そして、それは初めてではなかった。
4 サカの急成長
ぺぺは、左足の右ウィングというポジションを、結局ブカヨ・サカに奪われてしまったかたちでもある。
この3年の期間で、サカがどれほど成長したか。いまやアルテタのチームでもっとも重要な選手のひとりであることは明白で、昨シーズンはPL38試合すべてでプレイした唯一の選手であることも、それを証明している。アルテタの信頼も揺るぎない。ミケルはいつもBを絶賛している。ほめそやしている。
ぺぺにとっては、プレイタイムをどんどん減らしていったのは、彼の存在もとても大きかっただろう。
サカとぺぺの違いを並べてみよう。
- 攻撃プレイのスタイル(単独で仕事をする“クオリテティヴ・スペリオリティ”に適応)
- 戦術理解
- 守備でもハードワーク
- 前向きなアティチュード、毎日のふるまい
こんなところか。どれもぺぺがサカに劣る。すくなくともアルテタはそう思ってるはず。
£72m vs £0で、後者が圧倒する不条理。
5 アーセナルのシステムに合わない
このトピックは、もうこのブログでも何度も何度もやってきたように感じる。
ぺぺは、リールでカウンターアタックで脅威と評判のウィンガーだった。
そして、アーセナルはどちらかといえば、ポゼッション志向。エメリ時代は、一時カウンターアタックを重要な武器にしようとしていた時期もあったかもしれないが、基本的にアーセナルは「つねにボールをもってプレイしたい」チームだろう。エメリですら、当時「主導権を握ってプレイしたい」と繰り返し述べていた。
エメリからアルテタの時代になって、アーセナルはよりいっそう支配的にプレイするようになり、ボールを持って攻撃しているときは相手ハーフにほとんどよけいなスペイスはない。カウンターアタックで脅威になるタイプの選手のための、時間も空間もなし。これでは、そのような選手がワークしないのは自明。
カウンターアタックは、アーセナルを含めて、どんなチームにもつねに重要な攻撃手段ではある。とはいえ、すくなくとも、ぼくが知るこの20年でアーセナルがそれをメインの武器にしようとしたことは一度もない。これからもないだろう。
だから、そのような選手をなぜアーセナルが取ってしまったのか。しかもクラブレコードのような大金で。それが悲劇の始まりだった。
これが、アーセナルがアイデンティティ・クライシスに陥っていたエメリ時代に起きたというのが、なんとも象徴的な気がする。あのときは、自分たちがなにものなのか、まったく混乱していたし、迷っていた。
ここでアーセナルにおけるぺぺを、システムに合わないと一方的に断罪するのは、彼に悪いと思う。どちらかといえば、環境が合わなかったゆえの不幸な事故と云うべきなのかもしれない。彼のプレイのスタイルとアーセナルのそれが合わなかった点については、ぺぺに罪はないのだから。
システムと選手のマッチングという意味では、直近のアーセナルでも、先日のフラムで露呈したKTとジンチェンコの事例を興味深く観ている。
KTは、アルテタのチームでも(ケガをする前は)チームプレイを支える非常に重要なひとりだったはずだが、アレックス・ジンチェンコがそのポジションに入ったとたんに、アルテタがほんとうにやりたかったこと(システム)が観えてきた。そして、KTのプロファイルはアルテタのシステムに合っていないんじゃないかと、みんなが思い始めた。みたいな。
KTが悪い選手だとはまったく思わない。だが、アルテタが望むシステムのなかでは、LBとしてジンチェンコのほうが合っているのは明白で、実際チーム全体のパフォーマンスもそうとうに上がったように見える。
これもシステムにとり、選手選びがいかに重要か示す事例だと思える。
※追記
このエントリをアップしたすぐあとにリリースされた、デイヴィッド・オーンステインのウィークリーリポートによると「ニース移籍のためにぺぺは25%のペイカットを受け入れた」そうだ。
つまり、ローン中の彼のサラリーの半分をニースが負担し、25%をアーセナルが負担、残りの分をぺぺがあきらめるということらしい。
追記ここまで
おわりに
さて、ぺぺ。
個人的には、彼のことは好きだったから、ずっと活躍してくれるのを待っていたんだよね。だから、去年からアルテタがサカ重視・ぺぺ軽視の姿勢を隠さなくなって、正直残念だった。
でも、しょうがないか。大きな契約の失敗は、多かれ少なかれどのビッグクラブもやっている。アーセナルは、まだ比較的マシなくらいかもしれない。
ぼくは、ニコの最大の課題は、やっぱりメンタリティだったと思うのだ。
彼はスキルも才能もあるし、フィジカリティもあるし、プロフットボーラーとしてとても恵まれている。そうでなきゃ、(アーセナル前に)あんなふうに名声を高めることはできない。
だが、とくにアルテタは、彼の試合やトレイニングなどでのアティチュードをつねに問題視してきただろう。あのひょうひょうとした態度は、アルテタのようなアツいコーチにはきっと受け入れられなかった。
さすがにアルテタも、この移籍に際してはぺぺについて称賛のことばを述べていたが、あまり本心だとは思えない。もしあれが本心なら、もっとふだんからそのようなことばで彼をほめていたはずだ。結局、「彼は完全にこころを入れ替えた」みたいな時期もありながら、なんだかんだ最後まで満足させてくれなかったというのがアルテタの本音なんじゃないか。彼の能力だとかシステムに合致云々の以前に、まずはプロフットボーラーとしての向上心とかメンタリティ。
そういうのは、個人の性格もあるから、なかなかむずかしい。AoNでメンタル面をケアするカウンセラーみたいなひとが出てくるが、それでも……という人間はいるだろう。ぼくもたぶんそっちのほうの人間だから、なんだか同情できる。
また、アルテタの性格もある。とにかく厳格。non-negotiable。彼がもっと寛容なタイプだったら、ゲンドゥージやオバメヤンもまだここにいたかもしれないし、ぺぺにももっとやりたいようにやらせて、彼本来のよさを引き出していたかもしれない。それもマネジメントのやりかただろう。もちろんそんなにひんぱんに例外を許すようなら、それはそれでまたべつの問題も出てくるだろうから、かんたんではないが。
いまは、彼の幸せを願わずにいられない。フランスで活躍して、またかつての名声を取り戻してほしい。27才なら、まだ選手としても成長だってできる。そして、アーセナルのファンとしては、来年の夏にはそれなりの金額になっていてほしい。
それでは最後にお聴きいただきましょう。ぼくのYouTubeのLike動画シリーズから。Lloyd Brown & Tippa Irieで“Its a Love Thing”。ラヴァーズ・ロックのなかではわし大好きな一曲。大音量でどうぞ。右のひと、ちょっとぺぺを思い出すんだよ。For real?
アーセナルも、ちょうどジャマイカ文化をリスペクトしているところですし。
Born from our culture 💚💛🖤 #createdwithadidas @Arsenal pic.twitter.com/qGMOKbfv7w
— Emile Smith Rowe (@emilesmithrowe) August 28, 2022
おしまい
AoNでなんとなく思ったのはペペとNTはなんか繊細なキャラクターが見え隠れしてた気がします。
言語面もあるでしょうがシャイでもありそうで。
反対にハッピー野郎と取材スタッフに言われるロブ、常にプロフェッショナルなエルネニー、そして意外にロッカールームでも周囲と交流し、当時のキャプテン格のラカゼットにも注意してファイトしちゃうような同じくプロフェッショナルなソアレスとか見ると、ぺぺはサブでも重宝される面子と比較するとアルテタのテイストではなかったのかな~と。
プレー面でも日進月歩までいかなくても、それなりに成長はしてた感(最初が驚くぐらい酷かった。。)があったんですが、如何せん競争相手がワールドクラスに片足つっこみ始めた若手ですからね。厳しい。
しかしリーグアン、今こんなアーセナルなのか~~
OMとかちょっと注目しちゃいますね~~