やあ。東京はすっかり秋に。もう9月も終わりそうだから、そんなものか。
そして10月といえば、今週土曜日10月1日のPLトッナム(H)。今シーズン最初のノースロンドンダービー。
今回は、リーグ1位(ここまでL1のみ)と3位(ここまでD2のみ)とお互いにファインフォームで迎えるNLDで、その差はたったの1ポイント。結果によっては順位も入れ替わるという、いつも以上に緊張感のある試合となっている。
長かったIB開けが、このようなビッグマッチというのはうれしいですねえ。
さて今回のブログエントリは、このNLDについて、アーセナルとトッナムのお互いの対照的な戦術から試合を展望してみたいと思う。
これは、いつもなら試合のプレヴューエントリで書く内容だが、非常に興味深いネタもあったので、試合日までまだ時間はありながら、いろいろ書いてみたい。
22/23シーズンGW7までのアーセナルとトッナム
まずは基本的なところを。
現在のPLテーブル
リヴァプールのいる8位まで。試合延期で消化数の少ないチームもある。
アーセナルとトッナムは、お互いに7試合を消化し、アーセナルが1位、トッナムが3位。ブライトンすげえ。
フォーム
アーセナルは、W6 D0 L1の18pts。
トッナムは、W5 D2 L0の17pts。
ゴールとxG
xGはUnderstat.comより。
アーセナルは、G17 GA7(GD+10)
総xGが14.17(リーグ2位) xGAが5.90(リーグ3位)
トッナムは、G18 GA7(GD+11)
総xGが12.50(リーグ4位) xGAが7.21(リーグ5位)
アウトプットはほとんど同じながら、パフォーマンス内容(xG)ではアーセナルのほうがややいい数字を残している。
しかしだとすれば、これはアーセナルは内容を結果に十分反映できていないことを示しているし、トッナムのほうは劣るパフォーマンスでも結果を出しているということを示している。
とくに、トッナムはxGより実際のゴールが5.5ポインツも多い。それだけ難しいゴールを決めているということになる。※もっともトッナムは、前回のレスター戦で1.99xGからゴールを6コも決めて数字を稼いでいる影響はあるだろうが。
Spurs have hit the target with 61% of their shots – the highest percentage of any team in the Premier League
— Orbinho (@Orbinho) September 26, 2022
ワールドクラスのFWがいて、効率がいいのはたしか。
ということで、アウトプットからすると、このふたつのチームはここまではかなり競っているといえる。現状ではどちらがうえであってもおかしくはないくらい。
シーズン前の下馬評からすれば、トッナムは唯一シティとリヴァプールのトップ2にチャレンジできるとされた下馬評どおりだろうし、いっぽうのアーセナルは予想外の健闘をしている。ここまでシティよりうえでトップをキープしているのだから、サプライズといってもいい。
対照的な基本プレイスタイル
一般的にも、アルテタのアーセナルとコンテのトッナムの現在のプレイスタイルは対照的と思われているだろう。
アーセナルはもちろん、ボールを持ち、ショートパスを多用するポゼッションスタイル。ハイプレス&ハイラインで相手ハーフで支配的にプレイすることを好む。
今シーズンの平均ポゼッション58.6%はリーグ4位。21-22シーズンのアーセナルのポゼッションが53.2%だったので、今年はさらに支配的にプレイするようになっている。
それがつねに実現できているかどうかはともかく、基本的には、多くの相手にこの戦いかたで勝負を挑もうとしている。
いっぽうトッナムは、ポゼッション52.0%はリーグ9位。ビッグ6では最低。
相手がボールを持ってプレイすることをいとわず、ハイプレスにも消極的(アタッキングサードでのプレッシャーはリーグ13位/ディフェンシヴサードでのプレッシャーはリーグ5位)。高い位置でボールを奪うよりも、むしろオウンハーフに相手を誘いだして、カウンターアタックをやるスタイル。
WhoScored.comによると、今シーズンのカウンターアタックからのゴールはトッナムが2(ゴール全体の11%)。アーセナルがゼロ。「カウンターアタックからのゴール」の定義をもっと緩めれば、この数字はもっと増えているかもしれない。
したがって、この試合もアーセナルがボールを持ち、トッナムは深く守ってカウンターに活路を見出すような試合になると予想できる。
ここで思い出すのは、アーセナルが今シーズン唯一敗けたマンU(A)。あれもアーセナルは60%のポゼッションから、カウンターチームにやられた典型的な試合だった。今回のトッナムがあの試合を再現しようとしてもまったく不思議はない。
アーセナルがNLDでゴールするには?
さてここからは、今回のエントリのネタ元を参考に。「Edu’s BBQ:どうやってスパーズからゴールする?」
Edu’s BBQ: In advance of the North London Derby, a deep-dive into a question. How do you score on Spurs?
https://www.reddit.com/r/Gunners/comments/xpgxbq/edus_bbq_in_advance_of_the_north_london_derby_a/
先日ぼくのtwitterでもちょっと書いたように、redditのアーセナル板であるr/Gunnersで最近よくポストされている「Edu’s BBQ」という戦術分析・解説シリーズがめっぽうおもしろい。アーセナルについてかなり深く分析をしており、毎回とても興味深い。
ぼくの適当なまとめを読むよりも、直接こちらを観てもらったほうが話は早いのだが、忙しいひとのためにまとめよう。
ビッグリスペクト。
トッナムの守備マインド
まずは、典型的なトッナムの基本フォーメイションズ。
3-4-2-1が基本で、3CB、2WB、中央に2CDMがいて、CFケインのホールドアッププレイにふたりのワイドFW。ポゼッション時には3-2-5、深く守るときには5-4-1のシェイプに。
非ポゼッションでボールがアタッキングサードにあるとき(たとえば相手のビルドアップ時)、かなり受け身の3-4-2-1あるいはハイプレスをまったくやらない。ケインはCBのあいだをジョギングしているだけ。
ミドルサードにボールが進むと、ウィンガーがMFに参加。コンパクトになって、ボールをワイドに追いやろうとする。
ディフェンシヴサードに入ったときが、彼らがもっとやりやすいかたち。規律あるゾーンの5-4-1(5-3-2)でブロックをつくり、前後でコンパクトに。コンテは、GKからCFまで35メーター以上にはしたくないと述べているそう。ちなみに35メーターというのは、ほぼディフェンシヴサードの天地。いわゆるパーク・ザ・バス。
トッナムの非アグレッシヴ守備
プレッシャーの強度を示すPPDA(Passes Allowed Per Defensive Action=少ない値ほど強いプレッシャー)では、トッナムはリーグ13位。
ただし、まったくプレッシャーをやらないわけではない。とくにトランジションなど。またセカンドハーフには、プレッシャーが増える傾向がある。
また、タックルやジュエル、ファウルなどを測るチャレンジインテンシティ(Wyscoutの定義)では、リーグ17位。ゾーンディフェンス。
トッナムは、ここまでの7試合、77%もの時間をオウンサードでプレイしているという。
トッナムはゴールに近づくほどショッツを許さない
相手にボールを持たせて、自分たちはロウブロックをやる結果、彼らはゴール前で決定的なショッツを許さない。
- 6ヤーズボックス内でのショッツ4%(リーグ最少)
- 18ヤーズボックス内でのショッツ15%(リーグ最少)
- ボックス外からのショッツ47%(リーグ最多)
- 相手チームのショッツ距離18.5ヤーズ(リーグ最長)
- ショッツブロック(5.57/90min)(リーグ最多)
ショッツのうちほぼ半分はボックス外から。ブロックの内側への侵入を阻み、相手に距離のあるショッツを強いているとも云える。
ちなみにアーセナルは、ショッツブロック1.86/90minはリーグ最少らしい。
つまり、アーセナルが毎試合でやろうとしている相手ブロックの攻略は、対トッナムではかなり難しいタスクになる。
いくらボールを持っても、なかなか相手守備を崩せず、ボールを失って単発のカウンターで沈むという、アーセナルでもよくある展開がもっともありえそうな試合のひとつといえる。
52% of the shots on target Spurs have allowed this season have come from inside the penalty area – the lowest proportion in the top flight.#ARSTOT
— Orbinho (@Orbinho) September 25, 2022
アーセナルはトッナムのロウブロックをどう攻略するか? 5つのポインツ
Edu’s BBQのオーサー氏の提言から。※各コメンツはアレンジしている。
1 ショットクオリティを気にせよ(あるいはロングショッツ)
無謀なショッツを試すよりも、ロブボールやクロスをボックスに放り込め
トッナムのP90の被ショッツは15で、リーグ16位(アーセナルは7.4でリーグ2位)。つまり彼らは、ゴール前にバスを停めても、ショッツ自体はかなり相手に許している。
ゴール前に9人が壁をつくるような守備を相手に、無謀なショッツを打ってしまいがちではある。
トッナムはロングショッツからのゴールを許していないのは、ロリースが際立っているからでもある。ポジショニングや動きはかなり優秀。ただし彼は、至近距離からのショッツを試されていない。
アーセナルは至近距離からのショッツがかなり好きなチームなので、そこは大丈夫かもしれない。
ジャカやオーデガードの深くからのショッツのほかには、ピックパス(pick pass)がある。これは、ブレントフォードでジャカがジェズースにやったようなパス。
ウォルヴズのこのシーンはゴールにはならなかったが、ロングショットよりもいいチャンスになった。
チェルシーもこのようなプレイを試みたし、アーセナルにはこれができるもっといい選手がいる。
2 中央からカウンターすべし
相手のMF不足を突いて、中央突破
彼らがポゼッションで攻撃しているとき、プリシッチペリシッチがウィングをかなり高く上がり、空いたMFのエリアをふたりのDMがカヴァ、また上がったWBの後ろのエリアをCBがそれぞれ埋めようとする。
そのおかげで、彼らは中央からのカウンターには脆弱になっている。
前回のレスターでは、トッナムが前がかりになっているときレスターのCBがボールを奪うと、ケインらフロントラインと2DMのあいだにはかなりの距離があり、CBはそのままミドルサードまでらくらくとドリブル。中央でボールを受けたマディソンは、相手から厳しいタックルを受けるもボールを前方にパス。これでトッナムのディフェンスラインは完全に露出した。
CBのドリブルはリスクの高い動きだが、アーセナルではガブリエルがそれをできる。あるいは、No.6かオーデガードも似たようなボールプログレッションができる。
3 彼らが食いついてくるタイミングを見極めよ
相手がワンサイドに偏るなら、すぐに逆サイドへ
相手のサイドチェンジや危険なパスを防ぐために、トッナムは守備時にボールを持った相手をサイドに誘い込み、タッチラインを利用して幅を狭くし、ときに激しくプレイすることもある。
しかし、もしそこでボールを奪っても彼らは悪い立場になることもあるが。密集しているので即座にカウンタープレスの餌食になりかねず、5-4-1が片側に集まってしまっているということは、そのときすでに相手が攻撃ポジションで浮いている可能性があるから。(チェルシー戦の例)
これを逆手に取るには、サイドで相手の守備オーヴァロードを引き付けてから、逆サイドに大きなパスを出すこと。相手の守備が集まる前にこれをやる。
ジンチェンコならこれができる。KTは?
4 守備が整う前に素早くボールを入れろ
スロウイン/ゴールキックはすぐやれ
WHUでは、ロリースは配球全般、プレスを受けてのパスは試合を通してずっと不安定だった。あやしい判断で、いくつか相手にチャンスを与えたりもしていた。ジェズースがロリースにプレッシャーをかけることは、ゴールへのひとつの可能性になる。
(WHU戦の例)ロリースからの悪い配球からスロウを得たWHUが、素早くボールを入れてチャンスをつくった。トッナムの3-2-5シェイプでは、たいていはかなり高くポジションを取るため、すぐにピッチにボールを入れれば、彼らのフロントラインはボールに追いつけない。
チャンスになるふたつの場所がある。ひとつは、ミドフィールド。彼らのMFはあまりサポートがされていない。それと、RWのエリア(あるいはプリシッチペリシッチのLWB)。プリシッチペリシッチはコーナーフラグまで上がるし、33才はすぐにはその場所に戻れない。
ウォルヴズはチャンスを活かせなかったが、彼らのゲイムプランはよかった。 しばしばJosé Sáは、ボールを受けたらすぐにウィングの裏へボールを送っていた。そこにもっとも攻撃可能性がある。
5 ドリブルでぶっちぎれ
ラインを破ってカットバックのクロスボール
ボックス内のタイトなスペイスで1-2パス、ドリブル。バルセロナメソッド。
今年のトッナムは相手に何度かこれをやられている。レンジャーズ(フレンドリー)やスポルティング。
また、スタンダードなロウブロック対策は、ワイドエリアで相手守備を間延びさせてからのカットイン。だが、ゴール前に4-5人でブロックをつくるトッナムはこの耐性がかなりある。
そうはいっても、ここはサカ vs プリシッチペリシッチ。チャンスはある。サカは右足があまり得意ではないので、この試合ではマルティネリとのポジションチェンジがいつもよりあるかもしれない。相手のマークをかわして、縦に侵入し利き足からのカットバック。
When Arsenal is in possession against opponents’ low block and Bukayo Saka receives the ball, a chance that within next 3 actions Arsenal will make a shot or deep completion equal to 11.5% (higher than Messi 20/21) pic.twitter.com/sYxPNKA37a
— markstats (@markrstats) September 26, 2022
アーセナルが相手のロウブロックを相手にポゼッションしているとき、サカがボールを受けると、彼の3アクションズ以内にアーセナルがショットあるいはディープコンプリーションを決める確率は11.5%。20/21のメッシより高い確率。
その他のオプションズ
- コーナー:ここはお互いによいところだが、とくに空中戦が弱いソン(31%)とクルセフスキ(27%)が狙い所
- Romero:マルティネリやジェズースが彼のカードを誘発できる
- 早いゴール:トッナムの失点の29%は11分から20分のあいだ。リードすれば相手もシットバックしていられない
- ワールドクラスゴール?:ここまでのトッナム戦では、Koulibaly、Mitrovic、Maddisonがワールドクラスのゴールを決めている
以上
おもしろい内容だったでしょ。おれはおもしろかった。
NLDでは、このトッナムのロウブロック攻略と表裏一体のトピックとして、「アーセナルはハイプレス&ハイラインでどう戦うか」というのがある。だが、これは長くなりそうなので別の機会にしよう。試合までに書けるかどうか。
アーセナルは彼らの固いブロック守備にどう対抗してゴールするかと同時に、自分たちのハイライン守備のことも最高レヴェルで気をつけなきゃならない試合なのだよね。なにしろカウンターのチャンスを手ぐすね引いて待ってるチームなのだから、一瞬も気を抜けないし、ミドルサードよりうしろでは一切エラーもできない。
今回のNLDでは、OTでカウンターからまんまとやられた、まだ記憶に新しいあのマンU戦でのあやまちを、どう反省しどう今後に活かすのかがわれらの課題になりそうだ。
おわり
※このエントリのつづきを書きました。
いつも楽しく分析の記事を見ています。とても専門的で現地の情報にも目を通されていることがよくわかります。
私は20年来のグーナーで歴代の数々のブログを見てきましたか、ここに匹敵するブログはありませんでした。
一点だけご相談ですが、英語の略語をもう少し減らしていただくことは可能でしょうか?
私も英語の記事や動画を見るので現地の表現や発音に忠実に書かれていることは分かるのですが、分からない略語や無理なカタカナ表現は読む側にとってはノイズになってしまいます。
無理にカタカナにせずに英単語そのままに表記するか、略語を避けてはいかがでしょうか?
失礼な投稿で申し訳ありません。
ご検討よろしくお願いいたします。
分かる人にはこの方が楽なので、自分で一つずつ慣れていってはいかがですか?
それより記事の翻訳でペリシッチとプリシッチがごっちゃになっているかもしれませんので、見直して欲しいですね。
記事内のプリシッチはペリシッチのことだったんですね(;^ω^)なんでトッテナムにプリシッチがいるの?いつのまにチェルシーから移籍したの?とプリシッチを検索しちゃいました。
コメ主さんの言いたいことは自分も気になってました。トッナムには無理がある。あえて一般的な読み方から変えることにこだわっているように感じて、主さんのこだわりなのは良いとしても読み手のことを考えたらこうはならない気がします。記事の内容が素晴らしいのでこれからも読みますが、もったいな気がしてしまいます。どうしてもこだわりたいと言うことでなければ一般的な表記で書かれた方が良いのではと思います。
書き手の拘りに対してつまらんツッコミするもんじゃないよ
元の言語からかけ離れた日本語英語の表記に加担する方が個人的にはノイズだし、読み手のためにならんと思うけどね。