かねてから伝えられていたとおり、昨日火曜にSky SportsのTV番組「Mic’d Up」にPGMOLチーフのハワード・ウェブが出演、直近のPL試合におけるいくつかの疑惑の判定について、レヴューと説明があった。
そのなかには、大きなVAR論争を巻き起こした11月4日のニューカッスル vs アーセナルのゴールも当然含まれており、あらためて大きな反響がある。
結論としては、公式にはあのゴール判定は正しかったと再確認しただけのことで、あらためてがっかりしたのでぼくもスルーしようかとも思ったけど、このブログでもさんざん取り上げたので、尻切れトンボも気持ち悪い。ので、いちおう取り上げよう。
もちろん、VARのことは今後も話題にはなるだろうが、まあ、この件は最後だと思ってお付き合いあれ。
23/24 PL #NEWARSでのAnthony Gordon疑惑のゴールについて
試合当時のVARとレフのやりとりの音声がようやく公開された。
Listen to the full four minute VAR check of Anthony Gordon’s controversial goal for Newcastle against Arsenal and PGMOL chief Howard Webb discussing the process of awarding the goal 🔊 pic.twitter.com/f0wGwsPqhE
— Sky Sports Premier League (@SkySportsPL) November 14, 2023
Sky Sportsの公開している映像は、いつものように日本からは観られないので、こちらをありがたく。
🚨🚨| BREAKING: Full VAR audio of Anthony Gordon’s goal for Newcastle against Arsenal.
[Audio via @SkySportsPL] pic.twitter.com/8Ie9ADJPp9
— CentreGoals. (@centregoals) November 14, 2023
と、思ったら、このエントリをアップする直前にこっちも消されてしまったことに気づいた。どこかで探していただければ。
参考までに、この日のオフィシャルは以下の面々だった。
- Referee — Stuart Attwell
- Assistants — Richard West, James Mainwaring
- VAR — Andy Madley
- Assistant VAR — Stuart Burt
- Fourth official — Graham Scott
あのゴールを判断した裏側にはどのようなやりとりが発生していたのか。以下、The Athleticのトランスクリプトを拝借。
<ボールがゴールラインを割りそう>
AR1: Staying in, staying in! Still in, still in!
アシスタントレフ1:残ってる、残ってる! まだ中、まだ中だ!
VAR: Potential ball out of play.
VAR:アウトオブプレイの可能性あり
<WillockがJoelintonにクロス。ボールがGordonに転がってゴール>
VAR: Stu, (referee Stuart Atwell) can you confirm your on-field decision, please?
VAR:Stu(*レフ)、キミのオンフィールドの判断は確認できますか? 教えて
Atwell: Mads, (VAR Andy Madley) on-field decision is a goal. The ask on the pitch is if the ball is out of play on the goal line, and Burty (AVAR Stuart Burty), normal contact on the challenge on the back post.
レフ:Mads(*VAR)、オンフィールドの判断はゴールだ。ピッチ上から頼みたいのは、ボールがゴールラインでアウトオブプレイになったかどうか。それとBurty(*アシスタントVAR)、バックポストでのチャレンジはノーマルな接触だったかどうか
VAR: Stu (referee Stuart Atwell), can you have a look at this as well before we go check the goal? For me, I have got no conclusive evidence that the ball is out.
VAR:Stu、われわれがゴールをチェックする前にあなたもそれを確認できるかい? わたしのほうには、ボールがアウトになったと結論づける証拠がない
AVAR: I agree. You can’t go on that angle. Although it looks like its out, you’ve got the curvature of the ball. Now, you’ve got the challenge at the back post.
アシスタントVAR:それに同意する。あのアングルではこちらから確認できない。アウトのように観えるけれど、ボールも曲がっている。バックポストでのチャレンジのほうを観よう
VAR: Looking for an offside position first of all. No offside position. Now a check for a potential foul on Gabriel. I don’t see a specific foul on Gabriel. I see two hands on his back but I don’t see anything of a push that warrants him flying forward like that. We just need to check that he is in an onside position then.
VAR:まずはオフサイドポジションのほうだ。オフサイドポジションはない。そしてガブリエルへのファウルの可能性をチェックする。わたしにはガブリエルにとくにファウルがあったように観えない。両手が彼の背中に置かれているが、それが彼があんなふうに前方に飛んでいくほどのプッシュには観えない。あとは、われわれに必要なのは彼がオンサイドにいたかどうかのチェック
AVAR: I don’t know where the ball is because the ball is being hidden by Joelinton here. You’ve got no conclusive evidence of (Anthony) Gordon being ahead of the ball. In my opinion, I think you have to award the goal.
アシスタントVAR:ボールがどこにあるのかわからない。ボールがそこにいるJoelintonに隠れている。Gordonがボールの前にいた確固とした証拠はない。わたしとしては、あなたはゴールを認めなければならない
VAR: Stu (referee Stuart Atwell), we are confirming the on-field decision of goal.
VAR:Stu、われわれはオンフィールドのゴール判断を確認した
映像といっしょに観るとこの文字起こしはけっこう端折ってあった。映像のほうには、フレイムごとに映像を再生して確認してのやりとりなど興味深い部分もあるので、ぜひ映像もみよう。
最初のアウトオブプレイについては、VARレフがGLTカメラ(Goal Line Technology)の有無を確認している。なかった。ワールドカップのような大きな大会ならあったんだろうか。
それと本質とは関係ないところでは、一部のひとたちから、VARレフがオフサイドルールをわかっていないんじゃないかという指摘も。このあとすぐアシスタントに訂正されてるのが、ばっちり記録されている。プロがしろうと並の理解力ではいかんでしょう。
I know the assistant VAR corrects him but yikes 😬. Forgetting what offsides is while checking it is not a great look here. pic.twitter.com/nqzpeDafvF
— Scott Willis (@scottjwillis) November 14, 2023
このNEWARSのパートについて、ハワード・ウェブは番組内でなんと述べたか。司会のマイケル・オーウェンとのやりとり。『Sky Sports』より。
オーウェン:これについてどう思いますか?
ウェブ:これはビッグモウメントだった。オンフィールドのゴール判定を、3つの側面からVARチェックするのはよくあることではない。
われわれが観たのは、ボールがゴールラインすれすれまで行くところで、忘れてならないのは、そのすぐ近くにアシスタントレフリーがいたということ。ボールはそこまで速くなかったし、彼はゴールラインのすぐそばで観ている。どのカメラよりもいい位置だ。
ボールが曲がっていたのもわかっていたので、ラインぎりぎりで入っていることもありえた。だから、われわれにはアウトだという証拠が必要だった。
ボールがJoelintonに飛んで来て、ガブリエルにチャレンジした件。これはファウルの可能性があるし、ファウルかもしれない。VARは映像から得られた証拠が、はっきりとそれが誤りだと、レヴューに介入できるほど明確ではないと判断した。
その後の多くの分析によって意見が割れている事実が示唆しているのは、主観性のためには、正しい不介入だったということ。
そして、こうした珍しい状況のひとつとなった、ふたりの選手のあいだにあるボールを正確にどこにあるか特定しようとした件。きっかりどの時点でJoelintonからボールが離れたのか。これはとても判断が難しいものだ。
これも繰り返すように、ボールのラストタッチから、Gordonがオフサイドだったと結論づける証拠がない。VARはそれを熱心にチェックして、ゴール判定を覆すのに介入できる明確な証拠はないと判断した。このプロセスは正しかった。
オーウェン:では、Bruno Guimaraesとカイ・ハヴァーツのタックルについては?
ウェブ:かなり忙しい試合だった。あの重要な試合で多くのことが起きた。あの日に起きたいくつかの件は、われわれも分析していて、あれは両方ともレッドカードだと思う。
この事案以降、ハワード・ウェブが公の場で自らの見解を述べるのはこれが初めてだが、アーセナルファン界隈はこれまでと同じように、多くのファンは納得はしていないし、あらたに疑念を募らせているところさえある。
また、この番組の司会者マイケル・オーウェンは、全然ウェブに突っ込んだ質問をしないし、アーセナルのファンからはPGMOLのプロパガンダに加担しているだけの役立たずと罵られていた。
今回の件では、Sky Sportsと彼らのパンディットたちは、ゴールの無効を支持したほかのTV局やメディアにくらべてレフ側の見解に近いという声もあるが、この番組こそ、PGMOLとSky Sportsが癒着を疑われる理由のひとつだったりする。
VARに関するわたくしの雑感
さて、VAR絡みでこれまでわれらに起きてきたことを考慮すれば、今回の事案についても云いたいことはいろいろある。が、あらためてVAR廃止論には賛成できないと主張しておこう。いまのVARの仕組みには問題が山積みであることは間違いないので、ついやめちまえと云いたくなる気持ちもわかるけど。
ぼく自身は、今回の件はこれまでのブレントフォードでオフサイドラインを描き忘れのようなあまりにも明白すぎる「エラー」などと比べたら、議論の余地が100%なしとまでは云いきれない事案だと思っている。リヴァプールで起きたアレとか。ああいう1000% clear & obviousな誤審とは比べられない。
もちろん、ビッグガビへのファウルはあったと信じているし、Gordonもオフサイドにしか観えない。しかし、決定的な証拠がない以上はオンフィールドのレフに従うというPGMOLのスタンスは理解できなくはない。彼らとて、現状ではそうするよりほかにどうすることもできないという意味で。
これはNEWARSの事案が起きた、たしか直後だったと思うが、ジェイミー・キャラガーが「VARが存在しなければ、どのみちあれはゴールだった」のように述べていて、正直そこは返すことばがないだろう。
だから、VARのような仕組みを廃止して、ゲイムの進化を後退させるようなことはしてはいけないと思う。オンフィールドのレフよりも、大型TVで試合を観ているファンのほうが、もっと詳細に事態を把握しているみたいな状況がすでに生まれてしまっているのだから、もう以前のようにVARなしの生活には戻れない。
今回の件で最大のフラストレイションは、やっぱり技術力の不足だと思う。
GLTがゴールラインいっぱいまで拡張されていたら、アウトオブプレイの議論は存在しなかったし、オフサイドだって、ボールが身体で隠れないアングルをとらえるカメラさえあれば、議論の余地はなかった。来年からPLでも3Dカメラが採用されるみたい話もあるらしいけど、そういうこと。
あともう少し技術が進歩すれば、いまのVARにあるわりと多くの部分が解決できるはず。
押した/押してないみたいなファウル判定については、「あっちのファウルがOKでこっちのファウルがダメなのはなぜ?」となりがちで、明確な判定基準を共有するのは難しいはずだから、これを解決するにはまだ時間はかかるだろうが、そういうものこそ昨今のAI的なものを活用すべきことだと思える。
腐るほどあるだろう、これまでのフットボール試合のフッテイジ資産を利用して、これはファウル、これは非ファウルとAIに学習をさせていけば、ある程度の正確性と一貫性を維持した判定が実現されるのではないか。少なくともいまよりはよっぽどマシな。なぜそういう判断になるのか、説明もできるはず。その判断には、必ず根拠があるんだから。
そして将来的には、すべて機械に任せよう。
こういうの。あ・これは任せたら世界が滅ぶやつか。
アルテタが今回の事案について、「自分たちがこれまでどれだけのものを賭けてきたか」のようなことを繰り返し訴えていた会見があって、ぼくには印象的だった。
つまり、もういまのプロフットボールは、あまりにも大きなビジネスになって、牧歌的なただのスポーツ興行ではありえなくなってしまっている。関わる人間も多い。ヴェンゲルさんはAFCに来たとき70人のスタッフが、辞めるときには700人になっていたみたいに云ってたし。生活かかってる。
ポインツに関わるような致命的エラーがあったとき、ごめんねじゃ済まされない。遊びじゃねんだ。
そんな重要な仕事は、もう生身の人間には荷が重すぎる。無理ずら。
これからすこしづつでも技術的進歩があるはずだから、きっと未来のVARはいまよりよくなるだろうと思う。それまでは、しばらくは過渡期としてガマンが必要と、いまはそう考えるしかない。いや、これからもアーセナルで納得できない判定があれば、激怒はするし、一貫性がないと騒ぐんだけど。
人間がやらかす明白な、荒唐無稽なエラーのほうは、間違いなくいますぐ絶対的に根絶されなければいけない。そっちは、いまのシステムだってどうにかできる部分だろう。技術の問題ではなく、単純にヒューマンエラーだから。それと微妙な判定(程度問題)は、区別する必要がある。そこは大いに現体制を批判したい。
それでも、なかなか改善されず、こういう問題が起きつづけていることを考えると、いまのVARはやっぱり「試合の流れ(flow)を止めない」ことに気を取られすぎなんじゃないのかね。
そっちよりたいせつなことはある。
クロップが再試合を求めた気持ちもわかる。だが、そんなことをやるくらいなら、異例だろうが前代未聞だろうが、試合中少し進んでしまった時計を巻き戻したほうがまだマシだったろう。ごめんなさいで済んだかもしれない。取り返しがつかなくなるよりよほどいい。
おわり
というかあれってハンボーじゃないんですかね?明らかにジョエリントンの手に当たってるように見えるんですけど、なぜみんな無視してるんでしょうか?