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「退屈なアーセナル」は正しい進化プロセス?

IBたけなわ。いかがお過ごし。

さて、PLもここまで12試合を消化し、アーセナルはリーグテーブルで3位を維持。ほとんどの期間を1位で過ごした去年からすると最高とまでは云えないが、まあうまくやれているほうだと思える。すでにマンシティにも勝っているし。

いっぽうで今シーズンのアーセナルは、躍進のシーズンとなった去年とくらべると、やや攻撃の魅力には物足りない感じはあって、それはさまざまな攻撃のスタッツから各所で指摘されていることでもある。

だがそれと同時に、現時点でアーセナルはリーグベストのディフェンスを誇るチームにもなっており、なんというか毎試合で大量ゴールで勝つような派手さはないものの、より手堅い、強いチームになっているという実感もある。

アルテタがよくチームについて「より成熟した(more matured)」と自画自賛しているのは、そういう部分のことだろう。

そんななか、昨日の『The Telegraph』が、現在のアーセナルの状況を俯瞰的にとらえた興味深い記事を公開していたので、そちらをシェアしたい。

Arsenal are less exciting this season – but that makes a title win more likely

今シーズンのアーセナルのプレイはリスキーでもないし、観ていてすごく楽しいわけでもないかもしれない。だが、むしろそのことでリーグタイトルに近づいている。ケイオス減、コントロール増。アーセナルは進化しているのか?



「アーセナルの手堅さはPLタイトルにチャレンジできるきざし」 by The Telegraph

ライターは、アーセナル特派員のSam Dean。短い記事なので全訳したいところだが、彼らのサイトは基本的にペイウォールなので(※全部観られるときもある)、要約版でおとどけしよう。

  • PLも12試合を終えてアルテタのチームは、かつてないほど守備が強化され、より成熟しているように観える
  • だが、ミドフィールドのコントロールとセキュリティ確保には代償を伴っている
  • 単純に去年とくらべて観ていてワクワクしないのだ

混沌を減らし、より我慢強く

  • 今シーズンのアーセナルは、昨シーズンよりもチャンスクリエイションが減り、ゴールが減り、ショッツが減っている
  • ここまでアーセナルのオープンプレイからのxG(12.32)はリーグで12位。エヴァトン、ウォルヴズ、ブレントフォードすら彼らの上位にいる

  • 昨シーズンの大半の期間で、アーセナルはリーグでもっともスリリングな攻撃チームだった
  • PLでの88ゴールズは、アーセナルとしてPLでの最多ゴールであり、インヴィンシブルシーズンのゴールより15も多かった
  • アーセナルは可能な限り全力で攻撃し、エミレーツはそれに魅了された
  • だが今シーズンの数字は落ちている。エミレーツも去年ほどワイルドではない。単純に去年ほどは観ていて楽しくはない
  • カギとなる疑問は、そのインテンシティの減少が意図的か、あるいは強いられたものか
  • 守備のために攻撃を犠牲にするなど、アルテタは計画もしていなかったし、そういう計画はしないと述べた。アルテタ「われわれはよりよい攻撃をしたい」
  • それが意図したものでないなら、その原因はなにか?
  • ひとつは、チームのベストストライカーであるジェズースの不在。ケイオスクリエイター。ジェズース、サカ、マルティネリが3人揃ったリーグ試合はここまで1試合しかない
  • それと、アルテタが云うところの「多くのチームがとてもロウブロックでプレイする」こと。去年のアーセナルはサプライズだったが、今年のアーセナルは相手がかなり警戒するようになった
  • その結果、アーセナルは攻撃のスペイスが減り、より我慢強くプレイすることを強いられている。ファイナルサードでのパスは増加、攻撃は遅くなり、慎重になっている

PLのベストディフェンス

  • 過去20年のPLの優勝チームの平均ゴール(85)からすると、昨シーズン88ゴールを決めたアーセナルは、タイトルを取るに十分な攻撃だった
  • しかし守備では、PLチャンピオンの要求には足りなかった。この20年のリーグウィナーの平均失点は29で、昨シーズンのアーセナルの失点は43。マンシティより10以上多く失点している
  • したがって、マンシティと競えるチームを築くためにアルテタとエドゥが夏に考えたのは、守備を進歩させることだった
  • ジュリアン・ティンバーに£34m、デクラン・ライスに£105m、ダヴィド・ラヤに£30mを投じながら、FWには一銭も使わなかった(※ハヴァーツをMFとして)
  • ライスの加入はアーセナルのミドフィールドを確実にソリッドにした。彼とサリバが守備の中心になり、アルテタのチームは去年よりもレジリエントで耐久性あるものになった
  • PLの12試合でアーセナルの失点はわずか10。リヴァプールとともにリーグリーダーであり、xGAではリーグベスト
  • 今シーズンのアーセナルは、昨シーズンよりも、相手のショッツ、チャンスクリエイション、ボックス内タッチ、すべてを減らしている
  • また、ボールの確保も。ゴールから40m以内でのロストポゼッション(high turnover)も、去年の試合平均およそ7から、5に減らしている
  • バルセロナ育ちのアルテタは、Johan Cruyffのフィロソフィを信奉している。ボールポゼッションも去年より改善され、成功させたパスの数も増加。去年の試合平均459から今年は499に

アルテタの「大男たち」によるセットピース脅威

  • アルテタが述べていたようにセットピースの重要性はPLバーンリーでも証明された
  • 現在のアーセナルのチームは、03/04のインヴィンシブルシーズン以来の高身長
  • 今シーズンここまでで、コーナーやフリーキックから8ゴール(ペナルティ含まず)を決めていてリーグベスト
  • PLにおいてセットピースからのゴール決定率がアーセナル(8/26, 31%)より優秀なのはエヴァトン(6/14, 43%)だけ

 

  • 昨シーズンの同じ時期、アーセナルは2位に2ポインツ差のトップ。G30 GA11だった
  • 現在のアーセナルは、トップに2ポインツ差の3位で、G26 GA10。これは、ひとによっては退行と観るかもしれない
  • だがシーズン全体では、守備のソリッドさがチームをもう一歩先へ進めることになる
  • もし彼らがPLタイトルを手にするなら、アルテタはいくらつまらないと云われたところで気にしない

以上

 

相手のロウブロックで、ファイナルサードでのポゼッション(パス)が増えている件。試合後によくシェアされている“Field tilt”がそれをあらわすスタットなんだが、アーセナルは毎試合のようにこのField tiltで相手を圧倒していて、“Field tilt FC”みたいなことを云われていたりする。それも、いかに相手がロウブロックで、アーセナルが忍耐づよくボールを回しつづけているかの証拠。

CLセヴィーヤ(H)前半のField tilt

アーセナルは正しい進化プロセスにいる?

reddit(r/PremierLeague)でも、この記事でサブがたっていて、ライヴァルクラブのサポーターたちのコメンツが興味深かったので、それも紹介しよう。

Daver7692(リヴァプール):われらにもまったく同じことが起きたな。われわれがより攻撃的で全体的によいフットボールをやってUCLを取ったシーズンと、その翌年によりコントロールするスタイルでリーグタイトルを取ったシーズンとの比較

major_skidmark:マンシティともかなり似てる。去年トレブルを取ったのは、守備が改善したからだよ。アーセナルとマンシティの試合を観ても、ふたつのチームのセットアップは、相手がそこを抜くのはかなり難しいものになっていた。その結果、退屈な試合になっちゃった

Anshul89(リヴァプール):リヴァプールファンとしては、同意せざるを得ない。アーセナルはすごく手強いし、ホームでポインツを落とすのは個人エラーしかない。Haalandだって脅威になれるポジションにはほとんど入れなかったし、3時間プレイしたってゴールはできなかっただろうよ

“boring football”についての議論など、このサブはけっこうおもしろいので、お時間あればほかのコメンツも観てみるとよいですよ。

さて。この話で興味深いのは、チームの進化プロセスだと思う。数年のうちに起きる短期的なやつ。

どうも、うえにあるようなちまたの声を観ていると、現在のアーセナルはシティやリヴァプールのファンが既視感をおぼえるような進化の途上にあるみたいだ。

まずは、攻撃面でブレイクし、スクワッドデプスを構築しながら、守備面が改善されていく。そしてチームとして本物の力強さになっていく。みたいな。

われわれは、今年のアーセナルの攻撃にはなんとなく物足りなさを感じているけれど、それも成長痛みたいなものだと思えば、まあいいか。

The Telegraphの記事では言及されていないが、アーセナルの攻撃面での不足については、ジェズースだけじゃなくオーデガードの不調やパーティの不在も大きい。彼らが戻ってくれば、フルフィットネスでプレイできれば、攻撃面の改善は期待できる。

あと、ジャカからハヴァーツに変わった部分も。いまジャカはドイツでもそうとう活躍しているようで、よけいにハヴァーツと対比的に見られてしまうのは、残念である。

こういったチームの進化プロセスの観点では、トトナムはあんまり信用はされていないだろう。彼らは今年突然にブレイクしていて、プロセスもなにもないし、先日も2連敗したように一貫性を示すまでには至っていない。それにマディソンのようなキープレイヤーが欠けた状態では、まだほとんどテストを受けていない状態。それを信じろというのは無理な相談である。ワンシーズンワンダーで終われ。半シーズンワンダーでもよし。

アーセナルがこのまま進化して、シティやリヴァプールにつづけるといんだけど。

今年はほんとにだいじな年である。

Boring, boring, Arsenal

ところで、今年のアーセナルのフットボールがつまらないといっても、なかには、べつにつまらなくないと思っているひともいるかもしれない。毎週楽しく観ていると。さては、あなたは玄人ですね?

ぼくなんかはアーセナルがチャンスをつくったり、ゴールしてくれないと、全然おもしろくない。寝そうになる。どちらかといえば、こっちのほうがマジョリティだろう。アメリカ人がサッカーを観ないのは、ゴールが少ないから。

こんなデータがかなり興味深かった。

このtwはいまから一週間前だから、先週末の試合はカウントされていないけど。あの週はCHEMCIが4-4の派手な試合をやったりしたので、このデータからけっこう変動はあるかも。

自分たちのxGと、試合相手がつくったxG(xGA)から、どのチームの試合からもっともxGが生み出されているかというランキング。

これ、以前ぼくも数年前にこのブログで、得点と失点の合計で「どのチームがもっともエキサイティンか」ランクしてみたことがある。そのときは、ビエルサのリーズがもっとも多かった。それと同じ考え方。ゴールがたくさん生まれるエンタメ度。観ていて楽しい試合をやるチーム。

1位はリヴァプールで(40.28)、衝撃的なのは20位がなんとアーセナル(29.43)という。もっともゴールが生まれそうにない試合をやるチーム。これは、boringですねえ……

とはいえ、べつにこのこと自体をそこまで憂える必要はあまりない。試合が退屈なのとフットボールの強い弱いは、もちろん別の問題だ。

リヴァプールはxGが多いけれど(※現在リーグトップ)、xGAも多いからここにいるのだろうし、アーセナルはxGは少ないけれど(※現在リーグ7位)、xGAがかなり少ないから(※現在リーグトップ)最下位になっている。シティがだいぶ下にいるのもアーセナルと同じような理由だろう。彼らはxGAがアーセナルに次ぐ2位。

 

ゴールがなかなか入らないようなつまらない試合なんて、誰も観たがらない。フットボール世界もそんなことは望んでいない。FIFAなんか、どうやったらもっとゴールが生まれるか四六時中考えてる。未来永劫アーセナルがそんなチームなら、たぶんぼくだってアーセナルを観なくなる。

でも、それでアーセナルが今年タイトルを取るというのなら、今年くらい許そうじゃないか。うむ、おれは許すぞ!(どこから目線)。

誰かも云っていたように、アーセナルが05/06にCLファイナルまで行ったときも、当時のそれまでのスタイルからは、もっと現実的な戦いかたにシフトしていた記憶がある。ティエリ・アンリを残して、全員が引くみたいな。

あのチームは守備も強固だった。ノックアウトラウンドでは、レアル、ユーヴェ、ヴィヤレアルと対戦し、ホーム/アウェイの6試合で一度も失点せず。アンビリーバブル。

タイトルを取るような強いチームは、かならず守備が優秀でなければならぬ。

そう思うと、やっぱりいまの状況は、アーセナルのファンは吉兆としてとらえてもいいのかもしれない。この退屈なアーセナルが。

 

おわり



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プレヴューエントリでは、試合の結果がわかるようなコメントはお控えください
お互いリスペクトしあって楽しく使いましょう

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