昨日のEUROのイングランド。観ましたか。90分の終了間際に追いつくという劇的展開で、結局120分で勝ったのはともかく。あれは彼らは勝つに値しない試合だったなあと。
サカもライスもいるし、名前を知ってる選手も多いしで、なんとなくイングランドを応援しながら観ていて感じたが、彼らのパフォーマンスはなかなか劣悪だった。観ていてあんなにイライラさせられるとは。ビルドアップの局面では、誰もリスクをかけて中央の狭いエリアにボールを入れようとしないから、ボールまわしがつねにUシェイプで、なんだかエメリ時代のアーセナルを思い出してしまったな。
あんなだから、ライスを批判したくなるひとがいるのも理解できなくはない。彼だけではないが、多くのうしろの選手が基本的につねに安全なほうを選択するから、いつまでたってもことが起きないのだよね。ライスの6からのパスはアーセナルでも隠れた課題なので(?)、新シーズンに向けて彼の進歩すべき部分というのを再認識した。今回はあのポスト直撃のショットが入っていれば、彼はヒーローだったけども。
第三者がイライラするくらいだから、英国のひとびとのフラストレイションは想像に難くない。
正直、スロヴァキアのほうがよほど魅力的なフットボールをやっていたんじゃないか。ロボッカ。逆にスロヴァキアは、かなりオーガナイズされた守備でイングランドの効率的なビルドアップを阻止したとも云える。相手にやりたいことをさせなかった。あれは、23-24のアーセナルがかなり苦しまされたミッドブロックってやつだな。そしてボールを持てば少ない人数でも着実に前に進めるし、けっこう強かった。あんな敗けかたでちょっと同情してしまう。
ああいうビルドアップがままならず、攻撃のリズムがつかみづらい試合であればあるほど、セットプレイが重要になるわけなので、昨今アーセナルがそれをかなり進歩させているのは非常によいことだとあらためて思った。
で、ぼくはアーセナルのセットピースの進歩を眺めつつ、昨シーズンの終わりごろから、このチームにダイレクトフリーキックを決められる選手がいたら、もっと強くなれるだろうなあなどとなんとなく考えていたのだけど、いつだったかの試合でコメンタリが「アーセナルはフリーキックで直接ゴールをねらったショッツが6しかない」みたいなことを云っていたのが頭の片隅に残っていた。six? いやたしかに少ない印象はあるがそれは少なすぎないか。聞き違いかもしれない。と、そのときは思って、今回それをテーマにブログを書こうと調べ始めたら、なんとそれは事実だったのだった。
今回は、この直接フリーキックについてすこし。
「PLではダイレクトフリーキックによるゴールが減っている」
この件で調べていたら、Opta Analystがちょうどいい内容で記事をアップしていた。『PLのダイレクトフリーキックはどうしちゃったの?』。5月11日の記事なので、MD36くらいで各チーム残り2試合ほど残っているというタイミング。
What’s Happened to the Premier League’s Direct Free-Kick Goals? | The Analyst
こちらをざっと要約しよう。
PLでは近年フリーキックからの直接シュート、ゴールが減っている
- かつてPLには素晴らしいフリーキックのスペシャリストたちがいた。ベッカム、アンリ、ゾラ、ロナウド。最近ではJWP
- いまPLではフリーキックゴールは枯渇しているのだろうか?
- 23-24のPLではこれまで1666ゴールが生まれていて、これはシーズン38試合になってからはすでに最多を記録
- このうちフリーキックから生まれたゴールは「9」。9/1666(0.54%)。これは、03-04以降ではもっとも少ない
- 22-23シーズンのダイレクトフリーキックゴールは18だった
- 00-01シーズンから09-10シーズンの10年間のダイレクトフリーキックのゴールは、シーズン平均が32.1ゴール。その後の10年間の平均では27.2ゴールに減少。20-21シーズン以降の平均は14.7ゴールで減少はさらに顕著に
- 考えられる理由はなんだろう?
- いまやポゼッションを基本にしたシステムが増えたので、マネジャーは直接よりも手数をかけることを好むようになったとか?
- 興味深いことは、17-18シーズン以降ではフリーキックからのショットが400を越えたシーズンがひとつもないこと。17-18以前ではそれが400を下回ったシーズンはひとつもない(03-04シーズン以降)
- 下のグラフは、ファイナルサードでのフリーキックがショットだった割合。08-09以降から約10%下落
- ファイナルサードでのフリーキック自体も減っている
- しかしショッツが減っていながらも、フリーキックのゴールまでの平均距離は08-09以降2.5mほど短くなっている
- 距離が短くなればもっといいチャンスになると考えるひともいるかもしれないが
- PLには質の高いセットピーステイカーやフリーキックのスペシャリストがいないわけではない。だがサウサンプトン時代のWard-Prowseはまるでペナルティのようにフリーキックを決めたが、彼はウェストハムではリーグでひとつしか決めていない
PL 23/24シーズンのフリーキック
- 23-24シーズンのフリーキックからのショッツは264あり、そのxGはたったの16。ショットごとではわずか0.06に過ぎない
- どのチームがフリーキックからのシュート、ゴールが多いか
- もしポゼッションがフリーキックのショッツを減らすなら、マンシティのそれは少ないと思うかもしれないが、実際は彼らは23ショッツでトップ。3ゴールもトップ
- シティは被ファウルはリーグ11位だが、ファイナルサードでの被ファウルがトップ。そして、こうしたフリーキックの19%で直接狙っている
- 今シーズンのダイレクトフリーキックからゴールを決めたチームは6チームしかない
- 他方、アーセナルはダイレクトフリーキックからのショッツがわずか6。リーグタイトルを競った2チームが好対照
- 今シーズンのフリーキックからのゴールを詳しく分析すると
- 9ゴールのうち7ゴールが20-25メーターのあいだで決まっている。このほかは、ひとつがFodenがヴィラ戦で決めた25.2mのゴール、それとヴィラのJohn McGinnがマンU戦で決めた40mのゴール。ただしこのゴールはOnanaのエラーで9のフリーキックゴールのうちひとつはまぐれだった
- 9のうち最高xGはIvan Toneyのずる賢いフリーキックで0.11xG。フォレストのマット・ターナーがやらかしたともいえるが
- 今シーズンでもっともトライした選手は、Ward-Prowseがトップ。16フリーキックのうち15を狙った。ただしひとつも決まっていない。サウサンプトン時代では17フリーキックで3つ決めていた
- マンシティのÁlvarezが13で1ゴール。パレスのEzeが12から1ゴール。マンUのBruno Fが11、バーンリーの Jacob Bruun Larsenが10
- Fodenのコンヴァージョン率は際立っている。3フリーキックから2ゴール。ブレントフォードのMathias Jensenも3から1ゴール
- Raheem Sterlingが4から1、Alexander-Arnoldが5から1。Toneyが7から1
まとめ
- 23-24シーズンは異常事態のシーズンになるかもしれないが、最近のシーズンの傾向からフリーキックからのゴールが減っているのはあきらか。今後ダイレクトフリーキックからのゴールはますます珍しくなっていく
以上
23-24PLのすべてのゴールのうち、ダイレクトフリーキックでのゴールは全体のたった0.5%。200ゴールに1本程度。どうりで少ないと感じるはずだ。そのショットごとの平均xGが0.06。オープンプレイでたまに0.05みたいなxGで決まるゴールもあるっちゃあるが、ふつうは決まらないチャンス量である。
フリーキックからの直接ゴールって、やっぱりフットボールの華というか、エンタテインメント的に大きな見せ場のひとつだと思うのだけど、それがトライすることも含めて減っているというのは、やはりさびしいと思う。現代フットボールで、個人の才能がものをいう古典的No.10ポジションがなくなっていくのにもちょっと似ているかも。ロベカル、ベッカム、ジュニーニョ、ホンディとかシュンスケとかなあ。そういう時代じゃなくなってしまったのか。
記事中にある、シティとアーセナルの対比はけっこうおもしろい。はっきりとした戦略の違いがある。
シティはもっともダイレクトフリーキックを狙い(ゴールも決め)、いっぽうのアーセナルはそれを狙うことすらまれ。アーセナルのセットピースからのショッツ全体は152らしいので、6/152で約4%ほどしか狙わない。ほとんど最初から狙うつもりがない。
云われてみれば、いまのアーセナルはフリーキックのかなりの場面でボックス内にクロスボールを送るか、あるいはあらかじめ仕込んでおいたルーティーンにトライする。直接ぶっこむのにけっこうよさそうに思うような場所でも。それだけ、自分たちのセットピースに自信を持っているということなんだろう。チームとしてのセットピース戦術があり、個人スキルに頼らない。
以下はOpta Analystの別の記事から。23-24シーズンのアーセナルはセットピースゴールがトップ(20)。PLでもっとも結果を出したチーム。これが興味深いのが、SPショッツやSP xGはアーセナルはトップじゃないこと。つまり、コンヴァージョン率が高い(13%)。いかに高効率か。直接狙って無駄にすることを減らしている効果もあるんだろう。
ただ、アーセナルが直接フリーキックからゴールを狙わないのは、単純にふさわしいテイカーがいないというのも大きいのだろうと思う。シーズン中、ライスがコーナーやフリーキックを担当してすごくいいボールを供給するようになったことは注目されたが、彼は直接狙うようなタイプでもない(なんで?)。アーセナルが直接狙おうというときは、やはりオーデガードか。正直、すごく期待できるというとウソになるな。
いまの時代のスペシャリストといえば、WHUのJWPだろうが、記事にもあるようにフリーキック16のうち15で直接ゴールを狙ったという。結果はともかく、ゴールが見込める選手がいたからこそ取ったチームの戦略。
アーセナルの移籍の噂でも、フリーキックがどうこうなんて誰も気にしないが、もし今後それがとてもうまい、期待できる選手が入ってきたら、やっぱり楽しいと思う。フリーキックからのゴールはアガる。
おわり
逆説的に危険な位置でのファールが減ってるのかもしれませんね
ペナルティアーク付近でのファールを避けるようにディフェンスが高いクオリティをキープできてる
個人的にはやっぱりあのカソルラのFK が忘れられないので是非とも1人ぐらい直接もやっちゃうキッカー欲しいなー?
直接ゴールが減ったのはゴールキーパーがより優秀になったことも原因かも?と思います。
キーパーの大型化に伴い、ゴールのサイズも大きくしては?的な話をブッフォンがしていましたよね!?
あとはキッカー側のクォリティも下がっていてもおかしくないかな?と思います。
アスリート能力が重視される中、有効性の落ちた技術のレベルアップに割く労力は、やはり落ちるのが自然かな?と。
時代とともにアスリートの能力は上がっていくはずなのに、ジェラード、ベッカムやロベカル、アドリアーノみたいなキック能力の選手は見ない? or 減ってるかも?となんとなく思ってます。
単なる思い込みかもしれませんが!!!
Burnley(2021),AC Milan(Dubai Super Cup/2022)あたりのOdegaardが決めたのが最後ですかねぇ?
印象に残っているのはPepeのEL2ゴールも