お久しぶりです。うっかり10日以上もブログを放置してしまった。蜘蛛の巣。
さて、ブログ復帰のためのちょっとしたリハビリに、ためていたネタのひとつを。
PL史上最年少プレイヤーのイーサン・ワニエリとともに、今年のAFCの超新星のひとりとして知られるMLSことマイルズ・ルイスケリー(※マイルズ・ルイス・スケリーなんだけど、コメンタリなどではルイスケリーにしか聞こえないんだよな。キリエンバッペと同じである)18才。以前、彼がその年齢にして、地元のコミュニティワークに熱心に取り組んでいるというニュースを観たときは、若いのに立派だなあと思ったものだが、じつは彼の母君であるMarcia(マーシャ/マルシア?)もたいした母ちゃんだというのはご存知だろうか。
マイルズがプロになるとき、それまでフットボールとはまったく無縁の生活だったにも関わらず、自らFIFAの試験をパスして正式に代理人になってしまったり、また“フットボールマム”としての自らの経験の困難さから、その親や保護者を支援する組織をつくったり。なかなかのスーパーウーマン。
今回は、そのマイルズ・ルイス・スケリーのお母さんについて。
マーシャ・ルイス・スケリーはフットボールペアレンツを助ける
今回のエントリの元ネタは、今年のプリシーズンUSツアーのあたりでアップされたThe Athletic(James McNicholas)の記事。要約しよう。
無関心だった母親がフットボール世界へ
マーシャ:(マイルズに最初に接触があったのは彼がAFCアカデミーにいた11才のとき)それはたしか車を運転しているときでした。マイルズは遠征でスペインへ行っていて。電話でこう云われました「こんにちは、マイルズの件なんですが」。わたしはなにか悪いことでも起きたんじゃないかと心配しました。でも、そのあと彼らは代理人だと名乗ったのです。そして、わたしたちとこれから関係を築いていきたいと。
彼が12才のときには、あるトップスポーツブランドからスポンサーになりたいとも云われました。
ただいろんな意味で、わたし自身はこの業界にまったく無知で、そうしたマイルズの将来に影響を与えるような決断をする準備ができていないと感じていました。信頼できるアドバイスもなければ、コンサルティングのネットワークもなし。フットボール業界での家族のつながりもありませんでした。
わたしは、どんどん脚光を浴び始めた彼を守らなきゃと思ったのです。
ほかの親たちとのつながりで気付いたこと
(この業界を知るにはほかの親たちに頼るしかなかった)彼らと話して、すごく安心できたし自信にもなりました。ほかの親たちの支援がこんなにも助けになるんだと、わたしはそのとき気がついたのです。
(投資銀行での職を離れ、2020年にフットボールビジネスの修士号を目指し始める)わたしは、フットボールがどうなっているかを理解したかった。だから代理人の役割を理解するためにFIFAの代理人試験の勉強も始めました。
素晴らしい代理人はたくさんいますが、わたしと彼の父親にとってはそうした関係を築くにはもっと時間が必要でした。そして、代理人がやっていることをちゃんと理解すること。そういう時間を求めることにした決断は重要なものでした。
(現在はマイルズの正式な代理人)わたしが試験を受けたのは、マイルズの運転手をやるためじゃなくて、わたしたち親が知識を得るためでした。
マーシャの修士論文は、ユースフットボールにおける親の経験に関するものだったという。彼女は、15才から21才までの18組の親たちにインタビューを行い、そこで繰り返される問題を発見した。代理人との付き合いかた、アカデミーでの教育、スポーツ法、契約、それともし子どもがクラブを離れることになったとき親はどう支援できるか。
彼女は仲間とともに、フットボールペアレンツにインタビューするポッドキャスト“Behind the Boots”(*Apple)も開始。番組では、アレックス・イウォビの父やジョージア・スタンウェイの母らが出演した。
そして2022年、彼女は若いフットボーラーの親たちにネットワークやリソースを与えるためのプラットフォームづくりを始め、後にそれは“No1Fan.club”になった。そこでは親体験に関するコンテンツだけでなく、この業界のエキスパートやすでにそれを体験してきた経験者たちに話を聞くことができる機会をもたらした。これは、アーセナルのようなエリートクラブだけでなく、草の根レベルにも提供されている。
情報を提供し、経験をシェアするプラットフォームづくり
マーシャ:毎週350万人もの子どもたちが、正式なフットボール試合をプレイしています。そして、その多くはプロのフットボーラーになることを希望しています。わたしたちは、そのような親と保護者に、アカデミーがどういうものかを垣間見せ、スカウト、栄養学、ケガ、睡眠、それにパフォーマンスのためのデジタルデバイスなどについて、エキスパートから幅広い情報を提供しています。
それらはすべて、わたしたちの子どもたちの健全育成のためであり、そして、わたしたち自身のためでもある! これは包括的アプローチなのです。
わたしが強く信じていることは、もし親たちがもっと情報を与えられ、より深い洞察を得られれば、それはこの業界のもう一方の側面を助けるに違いないということです。つまり、わたしたちが長期的な視野を得て、自分たちの子どものフットボールでの成長に、より現実的にアプローチするということ。それはたとえば、代理人やクラブとのつながり、学校とどうバランスをとるかについても、ポジティヴな影響を与えます。全員に恩恵があるのです。
フットボールはビジネスです。そして、どんなビジネスとも同じように、成功するためには理解をしなければならない。もしわたしたちがそれを理解しないのなら、間違った決断をすることになります。わたしたちは、自分たちの道を進みつづけることを期待されていますし、わたしたち全員に与えらている限られた情報をやりくりことを期待されています。
みんながよく話すのは、自分の子どもを通して得る夢の暮らしについて。でも、その夢はわたしのものではないし、フットボーラーになりたかった父親の夢でもない。つねに、そうした意識を持つ親には会います。しかし、わたしはそれが大多数とは思いません。多くの親たちは、ただ子どもの情熱を支えたいだけです。
男社会なフットボール世界での挑戦
“mum agent”でググれば、いつもネガティブな記事が出てきます。この業界における女性の扱われ方は、わたしは間違っていると思います。わたしたちは、自分たちの息子や娘にとてもたくさんの実務的・感情的な支援を行っていますが、そのバランスについては評価されていません。
親としては、まるでやればやったで文句を云われるし、やらなければやらなかったで文句を云われる気分。そこに関わっていくなら押し付けがましい親だし、関わらないなら無関心な親。そのバランスをとるのは難しいです。
わたしはマイルズとの旅を楽しんでいます。圧倒されることもありますが、一度学んだら対処するのはより楽になる。これからは、このプラットフォームが同じようにほかの親たちの助けになることを願っています。
マイルズ・ルイス・スケリー「いまでは母さんのほうがぼくより詳しい!」
この記事には、ちょくちょくマイルズのコメントも出てきて、親子でいっしょにインタビューを受けたのかもしれない。
マイルズ:(急速に業界の関心を集めていたこと)母さんは、ぼくにそうしたことは教えなかった。でもそれでよかったんだ。気にしない。ぼくは、フットボールをプレイできればよかったから。
(フットボールペアレンツへの支援)それはすごく必要だ。親への支援は足りてない。草の根団体もアカデミーもそういったことに無頓着だから。親たちにも教育が必要だし、だからうちの母さんがやっていることはいいことなんだ。
(夜も仕事に熱中する母を気遣うエピソード)だって、あんまり寝てなかったからね!
いまでは母さんから、移籍のことやテーブルのことを聞いたり、リーグがどうなっているかを聞いたりする。もう母さんのほうがぼくよりよく知ってる!(笑い) 母さんは試合を観るのも好きだね。おばあちゃんだって夢中になってる。EUROの試合は全部観てたっけ。
(お母さんが関わってくる影響はある?)ぼくは、そんなふうには考えたこともない。母さんは自分のことをしているし、ぼくも自分のことをしている。子どもがなにしているかを理解するのは、親の義務だと思う。ぼくたちは、いっしょにこの旅をしているんだ。ぼくらは同じ業界にいるけど、違う場所にいる。それって、すごくかっこいいことだよ。
ぼくは守られていると感じるし、安全だし幸運だ。安心してまかせられる。ぼくは母さんを誰よりも信頼している。ぼくが気にしているのはフットボールだけ。ほかのことはみんな母さんがやってくれる。
親孝行。もしこれを読んでる、子どものために日々がんばってるお母さん(お父さん)がいたら、涙なしには読めねえでしょうな。がんばっていればいるだけ。
この動画は、いまから2週間前に彼女がAFTVに出演したときのもの。話し方をみていると、ユーモアと情熱があって聡明という感じ。さすが、make thing happenするひとは違うなと。このひとの前職は、投資銀行で技術トレイニング部門の長をやっていたとのことで、もともとリーダー適性があり優秀だったのだろう。
さて、マーシャさんのこの取り組みは、もし日本にもあったらさぞかしありがたいものになりそうだなと思った。日本でもプロを目指すような子どもを持ち、業界に戸惑っている親はたくさんいそうだ。始めは誰もが初心者。そういう組織はもうあるのかな?
ぼく自身は、そういう場所に身を置いた経験はないのだけど、サッカーでも野球でも、将来プロを目指すような本気で活動する子どもたちを持つ親が、いかに大変な生活を強いられているかは想像できる。
今日日、多くの親は自分の仕事と子どもの日常の世話でただでさえいっぱいいっぱいなのに、それに加えてスポーツ活動に手厚い支援が必要となれば、いかにタフか。さらに自分の親の介護があったり、パートナーが家庭に無関心だったりしたら、それこそ心が折れてしまいそうだ。時間をやりくりしなければならないし、誰もが経済的に恵まれているわけじゃない。週末にボランティアでの活動を求められたときなど、同じチームでも、親によっては関与(興味)の度合いが違うのももどかしい。
マーシャさんがやろうとしているのは、地域のママ友ネットワークみたいな小さいサークルだけでなく、もっと大きなプラットフォームづくりなんだろう。知識と経験をシェアすることで、フットボールマムが個別に抱えてきた共通の問題を解決しようとするもの。そして時間をかけてたくさんのひとが関与し、それが大きく育てば育つほど、これからの親たちにとってより有益で価値あるものになっていく。
ほとんどの親は自分の子どもがそこで過ごす短い時間が終わってしまえば、自分のフットボールマムとしての活動もそこで終わりなわけで、苦労があればあるほど他人を顧みる余裕はないかもしれない。よその家、ましてや業界全体のことまで気にかけようという動機は持ちにくい。だからこそ、彼女の活動は尊いし、すばらしいんじゃないか。
フットボールマムというと、ロンドンコルニーを出禁になったAMNの母ちゃん、あとは世界的に有名な蹴球母は、やっぱりAdrien Rabiotの母、Veronique Rabiotか。ググるとすごいしかめっ面の写真が出てくる……。悪名高いと云っていいのかどうか。それ自体にあんまりよいイメージがないのも、こうした例があるからだろう。子どもがプロになってスター選手になれば大金持ちになってしまうから、そういう利己的・ステージママ的な親が生まれるのもこの世界のダークサイドとしてやむを得ないのかもしれない。
だが、いっぽうでマーシャさんのような自分や自分の子どもだけでなく、よその家族にも恩恵をもたらそうとせっせと活動をするひとたちもいる。
アーセナルFCは、こういった活動にもぜひ支援をしてくれるといいなと思う。アカデミーの子どもたちの親がハッピーなら子どももハッピーなはずで、クラブにも得がある。業界全体によい影響がある。
アーセナルファンであるわれわれが、将来を最高に期待しているひとりであるMLSに、こんな母親がついているという話でした。
CLデビューに感激のママ。
good vibes pic.twitter.com/eTrpCy0iQH
— kwsi. (@jpeeqay) October 2, 2024
ママといえば、ここしばらくで、いちばんほっこりしたママはこれだなあ。
Making his mum proud ❤️
A senior debut for young Gunner Josh Nichols 👏 pic.twitter.com/r6GRtNJwQ0
— Arsenal Academy (@ArsenalAcademy) July 25, 2024
おわり