試合の論点
アーセナル vs ブライトンのトーキングポインツ。
A battle in N5 ⚔️
The highlights from today’s 1-1 draw with Brighton & Hove Albion 👇 pic.twitter.com/HH6Ju6oWf5
— Arsenal (@Arsenal) August 31, 2024
前半までのアーセナル
この試合は、後半の49分、レフリーがライスに2枚めのカードを出して台無しにしたし、そこからまったく違う試合になってしまったが、それまでのアーセナルのパフォーマンスは記憶しておくべきだろうと思う。
まず、試合のスタートは悪くなかった。序盤はとくにサカがシャープで、彼によくボールが集まった。あれだけ彼がプレイに関与するならきっといい試合になるという予感はあった。
ブライトンは、バックからのプレイやポゼッションに異様なこだわりを見せるという、これまでのイメージよりもずっとシンプルなプレイ、たとえばロングボールを選択するようになっていて、なんだかこれまでの彼らよりもふつうのチームっぽく思えたものだ。
そして、守るときは典型的なミッドブロック。ミドルサードに全員を集めるような圧縮具合で、中央にスペイスを開けない。なるべく中央からビルドアップしたいアーセナルのようなチームにとっては、やっかいなやりかた。だが、おそらくこれはわれらの事前のスカウティングもあったのだろう、GKからのリスタートではラヤがDF裏へ向けてロングボールを蹴ることが少なくなかった。
だが、前半しばらくするとアーセナルのリズムがおかしくなる。アルテタも試合後に苦言を呈しているように、一度奪ったボールを簡単に失うようなシーンが散見されるようになった。
このSky Sportsのグラフィックは、ライスの退場以降の試合の流れの変化が一目瞭然となるものであるが、それと同時に注目すべきは前半で、じつは11人同士でプレイしていた前半ですら、かなりブライトンの流れになっていた時間帯があったのは否定できない。前半のポゼッションは、アウェイチームが53%である。
ぼくがHTにスタッツデータを確認したところ、アーセナルの気になる点をいくつかみつけた。ひとつは相変わらずの右偏重の攻撃。
これは前半だけのデータだが、これまでの傾向とまったく変わらず。左からの攻撃は中央よりも少なく、それは見た目の印象とも大差ないものだった。
おかげで、前半はライスも、トロサールも、ティンバーも攻撃の存在感があまりなかった。右にはサカとオーデガードがいるという個人の影響もあるだろうが、シーズンにおけるチームの課題は依然として残ったままなのが気になったものだ。
もうひとつはオーデガードで、前半の右偏重攻撃とやや矛盾するようだが、この日の彼は決していつもどおりのハイスタンダードではなかった。
前半のパス成功率が50%。試合ごとの平均パス成功率が80%以上ある彼にはさすがに珍しいのではないか。足を蹴られた影響もあるかもしれない。もちろん、この日はいいチャンスだってつくっていたが、いっぽうで密集地帯で囲まれてボールを失うなど彼らしくないところもあった。
そういう試合展開だったので、ライスの最初のイエローカードとなった42分の無謀なタックルは、なんだか気持ちはわかると思ったものだ。彼はああいうどっちつかずの攻防のなかで、ボールを奪って勢いをつかみたくて、つい無理めのチャレンジを挑んでしまった。一瞬、レッドカードと思うくらいの激しいタックルだった。
だから、前半のわれらのパフォーマンスから、この試合結果にいたるまでの伏線はあらかじめ用意されていたようにも感じる。事案が起きる前から楽に勝てそうな試合には観えず、なにかちょっとしたトラブルがあれば、ポインツを落としかねないような危なっかしさはあった。
ブライトン相手でも、ホームで圧倒的なパフォーマンスを期待していただけにそこは残念だった。
ここで取ってつけたみたいだが、ゴールのときのハヴァーツのラン、それとロブのショットは完璧だったということは、書いておこう。
ライスのレッドカードは正当か? 不当か?
試合後はこの件でもちきり。ここまで書いてきたような、この試合のそれ以外のことは、あまり関心を持たれていないようだ。
アーセナルFCの生き字引、いつもわれらに最高の写真を提供してくれるAFC社カメ、Stuことスチュワート・マクファーレン「50年以上フットボールを観てきて、いまだにルールがわからない」。
After watching football for over 50 years I still don’t understand the rules, thankfully I’m just a photographer. Proud of the team today, we move on….together #COYG pic.twitter.com/Txx0wsPc2g
— Stuart MacFarlane (@Stuart_PhotoAFC) August 31, 2024
ぼくは、ほかの多くのひとが感じたのと同じように、あのカードはライスを故意に蹴っ飛ばしたJoël Veltmanに出るものとばかり思っていた。あれはどうみても、明白な暴力行為でしょう。だから、それがライスの2枚めのカードだとわかったときは、ほんとうに一瞬だけ頭が真っ白になった。目が点。
昨夜試合が終わってから今日も、何度も見すぎてゲシュタルト崩壊しそうになっているこのシーン。
Football can be a strange beast. Imagine showing this video to someone with zero interest in the sport and explaining that the bloke in red is the one who was punished pic.twitter.com/LODIH7bZVN
— Sam Dean (@SamJDean) August 31, 2024
この試合のレフリーChris Kavanaghからすると、フリーキックを得たVeltmanが蹴ろうとするボールに、ライスがちょこんと触れて外に出したのが遅延行為でカードの対象だということなんだろう。上のクリップには映っていないが、その後レフが現場に来てからほかの選手に詰め寄られているときのジェスチャでも、そうだとわかる。
その判定における問題点はいくつかあるが、まずもっとも追求されているのが、この判定以前の前半のJoao Pedroのプレイ。
— Billy Carpenter (@billycarpy) August 31, 2024
明らかにタッチラインを割り、アーセナルのスロウになったボールを大きく蹴り出している。この瞬間、タッチラインのアルテタ含め付近には抗議をする姿も観られるが、レフはこれにまったくの無反応。ライスのあの行為が相手のリスタートを妨げる遅延行為でカードというのなら、これも同様のはずで、同じく罰せられなければ基準が保てない。
そして、試合後のアルテタは、ライスのあれが処罰の対象なら、そのつぎのアクション(Veltmanの蹴り)もカード(レッドカード)だろうと述べている。
まあライスの罰はさておき、中立の人間から観ても、あの故意にしか観えない蹴り飛ばしがお咎めなしというのは、ちょっと理解できないというのはあるだろうと思う。だが、実際無罪であった。
そのほか、今シーズンのPLでVAR改善策のひとつとして、今年から導入されている「PLマッチセンター」のアカウントの当該ポストに寄せられたコミュニティノートで指摘されていることがある。現在は削除されたようだが、スクリーンショットをとっておいた。
- ボールが動いている状態でフリーキックを蹴ろうとしているので、それがそもそもルールで認められていない
- ボールが動いていたのは、それがすでに蹴られたからで(ボールは最初Veltmanの足に当たってライスにぶつかった)すでにフリーキックは行われた
- フリーキックの場所もファウルが判断された場所から8ヤーズも離れていて適法ではない
ルール絶対遵守というのなら、これも耳を傾けるべき意見なのかもしれない。
それと、あれはそもそもファウルなのか?という声もある。
このアカウントは、そもそもこうした議論のある事案について、ファンに説明するためにつくられたはずだが、まったくその役割を果たしていないので、役立たずとしか云いようがない。だいたい、今回VARはレフにモニタで確認するよう促すような仕事をしたんだろうか?(※追記:あ、あれは2枚めカード問題か。VARはイエローカードに関与しないやつ)
Sky Sportsは、この事案について、すでにレフリーを引退しているかつての名物レフ、マイク・ディーンのコメントを伝えている。
マイク・ディーン:デクランには残念ながら、彼はボールを蹴ってしまった。彼はそれを遠くまで蹴ってしまったわけではないが、シーズン前に彼らにも伝えられていたように、ボールを蹴ってしまったり、どんなリスタートの遅延も警告の対象になる。彼はすでにイエローカードを受けていたので、退場はやむを得ない。
彼がリスタートを妨げたのは、ブライトンに早くピッチに戻らせたくなかったからだろう。
おそらく、この点はライス本人も認めていることだろう。彼も極小のアクションとはいえ、相手にボールを渡すまいと、とっさにボールを蹴ってしまった。だから、彼もまたファンのようにこの判定に目立った抗議はしておらず、試合後はチームメイトとファンに謝罪している。
いっぽうで、アーセナルファン界隈のほぼ全体が判定の一貫性含めて疑問を呈すなか、中立の見方もみてみようとぼくがr/Soccerの当該サブなんかをチェックしてみた限りでは、アーセナルの肩を持つ意見は多数派ではないものの、一定の同情はあったと思う。ほかのクラブのサポーターからも「意味がわからない」みたいな反応は決して少なくなかった。
ちなみにBBC Sportの記事にあった「ライスのレッドカードは正しい?」というアンケートでも、今朝ぼくが観たときは正当だという回答は50%程度だった。この世界のおびただしいほどのアンチアーセナルの人数を考えれば控えめな割合で、あの判定はさすがにおかしいと思ったひとが多かったのかもしれない。
今回の件では“letter of the law”ということがよく云われている。「ルールにそう書いてあるから」。たしかに厳格にルールを運用するなら、今回の判定も妥当なんだろう。ライスがボールに触れたのはたしかだから。ルールにもそうある。
だが、問われているのは100%ルールブックの文言に従うことが、レフリーの本来あるべき姿なのかどうかだ。
メインレフリーにはピッチ上における裁量がある。程度の小さな違反は、見逃すことだってレフリーに委ねられている。ピッチのうえでは、日常的に起きていることだ。それも、観客が観て楽しめるものにするためだろう。試合のフロウを重要視して、あまりファウルを取らないPLにはとくにそういう傾向がある。
プロフットボールは、所詮はエンタテインメントなのだ。主催者は、できるだけ多くの観客を楽しませなければならない。
誰かが、これを「ロボティックなレフェリング」だと批判していたのが印象的だった。
ルールに完璧に従うだけなら、それこそロボットやAIにやらせればいい。もう技術的にはそれも実現可能な時代に突入しつつある。それでも人間にこだわるのだとすれば、一定の興味を維持できるよう、ゲイムバランスを損なわない微妙なさじ加減や、空気を読む能力が要求されるからだろう(※もっとも昨今のAI進化をみてるとそれこそうまくやりそうだけど)。
実際、そうやってプロフットボールは運営されてきた。一般的に、試合に決定的影響を与える2枚めのイエローカードが躊躇されるなんてことはふつうのことで、つまりそれがその証拠である。最後までユーザのコンテンツへの興味が失われないよう、人間のレフリーはエンタテインメントの興行としての魅力を損なわないことと、ルールブックの正当性のバランスを保とうとしてきた。一般に、カードの多いレフリーは試合をコントロールできていないとされ、あまり有能扱いはされないものだ。
今回のことで、マーティン・キーオンは、「レフリーには11人づつをピッチに維持する責任がある」と云った。彼のアーセナルへのバイアスはともかく、これは真理でしょう。フットボールのファンなら、誰もがわかっているように、実際のファウル判定にはルールブック以上に細かい判断が要求される。本来、今回のような、あまりにもソフトな違反で選手を退場にさせていはいけないのだ。選手の退場というのは、もう死刑宣告に等しい。
そして、アーセナルのファンとしては、「またか」という気分にもさいなまれる。マルティネリのダブルイエロー、トミヤスの5秒スロー、ルイスの触ったか触ってないのかわからない接触。RVP@CLバルサ……etcetc。
今シーズンだけでも、ここまでにハヴァーツへののどわ、ジェズースへのセクハラ、サリバへのボールぶつけといった事案が起きているが、どれもおとがめなし。ジェズースに至っては抗議で逆にカードを受けている。
ちなみにChris Kavanaghは、もちろんグレイターマンチェスター出身。PLの多くのレフがマンチェスター出身なので、とくに驚くべきこともでもないが。本人はなんとかというローカルチームのサポーターだと公言しているようだが、シティのファン疑惑もある。
Chris Kavanagh was born in Ashton, Greater Manchester. An area well known for being full of Man City fans. It’s literally minutes away from their training ground.
Isn’t it funny how Kavanagh always seems to fuck Arsenal over in recent seasons? @FA_PGMOL pic.twitter.com/7aiPazFvVa
— GoonerTalk (@GoonerTaIk) August 31, 2024
Kavanaghが担当する試合で、アーセナルの勝率は52.6%らしい。この2シーズン全体でアーセナルの勝率71.1%。
なんならこの試合だって、彼は前半のPedroにカードを提示してもよかったし、ライスの事案ではVeltmanの暴力行為にカードを提示してもよかった。どちらも正当性がありそうだし、そうすれば、ここまでの反発は受けなかっただろう。アーセナルファンだって、いまよりも判定の公平性を認めるよりなかった。だが、そうしなかった。なぜなのか。
彼は、22/23のボーンマス、ネルソンの劇的ウィナーでアーセナルが勝利した試合でも、ゴールセレブレイションについてFAに調査の進言を行ったというので、根っからのアンチアーセナルの可能性はある。
PLで14年レフを務めたというMark Halsey「このレヴェルのレフリーがこの程度で選手を退場させてはいけない。彼はもともとトラブルを探していた」。
🗣️ Former Premier League referee for 14 years, Mark Halsey, on Declan Rice’s red card. 🟥😳
“Kavanagh went looking for trouble and he found it.” 😤
“A referee of his calibre at this level should not be sending players off for this.” ❌
Spot on, @RefereeHalsey.
[📸 @pjcadden] pic.twitter.com/pDoYnHHqjV
— DailyAFC (@DailyAFC) September 1, 2024
や、まあこのコメントはこのタイミングで注目を浴びたいがためだけのコメントな疑惑もあるけども。信頼と実績のThe Sun。
アーセナルは去年シティに2ポインツ差でタイトルを逃した。今回逃した2ポインツは、血の2ポインツになりうる。もしKavanaghにアーセナルに勝たせたくない動機があるなら、今回はかなりうまくいっただろう。
この件で、アーセナルはPLにライスの1試合バン撤回を要求することはあるんだろうか。
まあ、今回の件ではライスの判定は厳しかったとはいえ、完全にノット・ギルティという感じではないので難しいか。「厳しすぎる」では弱いのは確か。
アーセナルはひとまず無敗をキープはできたものの、たった3試合めにして、まったくなんてことになったのか。信じがたい。
この試合については以上
まさに後味の悪い試合で嫌な週末を過ごしました。代表明けはスカッと勝って欲しいものです