先日、この世界の信頼できるジャーナリストたちによって、いっせいに「アーセナル移籍が間近」と伝えられたスポルティング・リスボンのViktor Gyokeres。しかしながら、なんとその後も大きな進展が伝えられることもなく、それ以来かれこれ一週間近くたってしまった。OMG.
あの日からこうなるに至った経緯については、さまざまな報道があるが、大きな問題はどうもスポルティング側の心変わりがあるようだ。
スポルティングのプレジデントの強気な発言も取りざたされ、この案件の周囲にはなにやらきな臭い空気が漂っている。大丈夫か?
オーンステイン「Gyokeresはクラブに裏切られたと感じている」
先週の時点で伝えられていたクラブ間で話し合われている金額は、スポルティングの要求が€70m+10m。アーセナルのオファーが€65m+15m。これをスポルティングは拒否したという。
つまり、総額€80mパッケージは同じなのに、保証される移籍金の割合たった€5mの相違で合意できないと。ほんのわずかな違い。
Sporting demand guaranteed €70m as Arsenal close in on Viktor Gyökeres
それならすぐにでも合意に至るだろうと思いきや。一週間たっていまだ合意に届かず。
ファンの多くは、なぜその程度の金額が折り合わず、ここまでこじれているのか疑問に感じている。ぼくもそう思う。もうさっさと払っちまえよと。
しかし、これは憶測ながら、たった€5mの違いではないからこそ、交渉がうまくいっていないんじゃないかという声もある。
一部で伝えられているのは、エイジェントフィーの負担。これをどちらが負担するかが揉めているポイントのひとつだという。こういうとき、移籍元か移籍先かどちらが支払う慣例なのか知らないが、とにかくどちらも払いたくないと譲らない。
それと、分割払いなど支払いストラクチャの条件も。スポルティングが一括払いを求めているとは伝えられていないので、当然ある程度の分割払いになると思われるが、売る側は短期間で払ってほしいし、買う側は単年度の支払い負担のために長期間で払いたい。自然なことだ。
そういうもろもろの条件で、クラブ間でなかなか条件が折り合わないでいる。そう考えると、わからなくもない。たった5mの違いなどという単純なものではない。
それと、これも取り引きがこじれている大きな理由だと云われるのが、今回の案件でも注目されている「紳士協定」の存在。古今東西、紳士協定などというものが守られた試しはないなんて云われているやつ。
この紳士協定について、そもそもGyokeres側はクラブとしていた約束では、すでには取り引き条件には合意しているはずだと考えているという。おとといのオーンステイン。
オーンステイン:Gyokeresは裏切られたと感じている。Varandas(※スポルティングのプレジデント)とは€60m+10mで移籍を許可するという約束があったと信じており、アーセナルのオファーはすでにその金額を越えているのに、まだ移籍金で合意に至っていないこと。
これが確かだとすると、アーセナルはすでに5+5mも相手に譲歩しているうえに、さらに多くを要求されていることになるので、また見え方が変わってくる。
選手側が主張する紳士協定については当然アーセナルも把握していただろうし、それを知りながら、すでに一定の歩み寄りも示しているアーセナル視点では、理由もないさらなる譲歩に抵抗を感じてもおかしくはない。これは交渉ごとであり、ある意味バトル。あくまでフェアな取り引きを求めて、粘り強く交渉をつづけているというのが現状なのかもしれない。
Gyokeres自身は、クラブにアーセナル移籍の希望、ならびに金輪際スポルティングではプレイしないしトレイニングもしないとはっきり伝えたと云われ、すでにプリシーズンが始まったスポルティングの招集にも応じていないという。
したがって、現時点で移籍するつもりの彼と、まだ交渉中でなにも決定していないというスタンスのクラブのあいだでは、関係はかなりメッシーなものになっていると云える。
スポルティングのプレジデンテVarandasはあくまで強気の姿勢を崩さず
タフネゴシエイターというのはいるもので、スポルティングのプレジデンテ、Frederico Varandasがまさにそういう人物のようだ。彼はメディアにこのように話したと各所で報じられている。
Varandas:(Gyokeresの状況について)われわれは落ち着いている。移籍市場が終わるまでには、すべてが解決されるだろう。(Gyokeresに)重い罰金、それにチームへの謝罪を要求する。
もし、彼ら(アーセナル)がViktorの市場価値に対し適正な金額を支払いたくないのなら、われわれは喜んでつぎの3年を彼と過ごす。
もし、この戦略を考案している天才たちが、これがわたしに出口を促すためのプレッシャーを与えると考えているなら、それは完全に間違えているだけでなく、選手の移籍はより難しくなるだろう。
クラブの利益以上の存在などいない。それが誰であってもだ。
もちろん、現実はここで彼を高額で売る機会を損失して、なおかつ完全にやる気を失った選手をチームで飼い殺すなどということは、それこそクラブの利益にならないし、絶対にやらないはずなのだが、それでもこういうかなり強気のスタンスを示して見せる。これは手強い相手だ。
ちなみに、来年はワールドカップイヤーで、彼もまたスウェーデンNTでプレイしたいひとりであり、この夏に万が一スポルティングに残ることになった場合には、その腹いせに無気力に振る舞うなどということもできない。スウェーデンはもしGyokeresがいなくてもIsakを9で使うそうで、自分の不在が大きな問題にはならないことも、彼の危機感になる。
このプレジデンテはそういったこともわかっているかもしれない。絶対的に有利な立場。紳士協定なぞ知ったことか。約束を反故にして後ろめたいどころか、罰金や謝罪を求めるなど、まるで自分たちの立場の強さを誇示しようとしているみたいだ。
この件に関しては、ポルトガルメディアがある弁護士のコメントを伝えていた。
正当な理由なくトレイニングに参加しないなどルール違反を行った場合、もし選手がそれを5回やれば、クラブはルール上選手を解雇できる。
しかし、Gyokeresはすでにアーセナル移籍の希望を伝えており、そのことが「正当な理由」とみなされる範囲を狭めている。スポルティングは彼に罰金を科す可能性があり、もしそれが続けば契約を解除される可能性もある。
そして、それこそがGyokeresが望むものだ。いっぽうでスポルティングには大惨事で、€65mの資産が無価値になる。
ルールは明解だが、フットボールは単なるルールの問題ではない。双方が合意に達するには、強力な理由が必要になる。
ここからさらに長い交渉がつづくの? ぐえー。
アーセナルに選択肢はない?
こうなると、現状アーセナルに9のオプションがないことがまずくなってきた。
アーセナルはSeskoをあきらめ、ターゲットをGyoに一本化していたようだし、そうなればスポルティングがより強気な交渉に自信を持つ理由にもなる。
逆に、メインのメインターゲット(?)をギリギリまで明らかにせず、長らくふたりのメインターゲットを求めていたアーセナルの戦略も、いまとなっては理にかなっていたような気もする。メインターゲットに「ほかにもオプションはある」とほのめかすことは、交渉上有利になりうる。
さて、どうしよう。いっそ9を取らないという究極のオプションもあるかもしれないが、さすがにそれはファンが許さないか。アーセナルはもう2シーズンも9を取っていない(ハヴァーツは当初MF)。この夏の最高プライオリティを失敗してはいけない。
ただ、仮にGyoをあきらめるような展開になったときには、スポルティングのこうした理不尽とも思える対応が表になればなるほど、アーセナルはファンの共感も得やすいとは思う。そうなったらそれこそ大惨事だが。
残る9のオプションは、Watkins? ヴィラが安売りするならアリかもしれないが、こういうときヴィラだってアーセナルの足元を観て強気になるはず。冬には60mだった。
しかしここからのWatkinsだと、アーセナルファン界隈はMaduekeどころではない騒ぎになるような…… フリーエイジェントになったDCLもいざというときに備えてアップを始めているという噂も。ウケる。
おまけ:Gyokeresのインタビュー@L’Equipe「自分はKane、Lewandowski、Haalandと同じレヴェル」
これを忘れとった。
渦中のGyokeres本人がフランスのL’Equipeのインタビューに応えたという。それが昨日話題になっていた。
Viktor Gyökeres : ” Je suis à la table des meilleurs attaquants du monde “
オリジナルはペイウォールで読めないのだが、やりとりのキーパートは各所で引用されていたりするので、そちらを拝借させていただく。
(なかにはキミのパフォーマンスをポルトガルリーグのレヴェルのせいにするひともいます。それにどう応える?……)
Gyokeres:云われがちなことさ。なにか普通じゃないことが起きると、ひとは説明を求めようとするものだ。「リーグのベストチームでプレイしているから」「ポルトガルリーグは大したレヴェルじゃないから」。それは誰かの意見に過ぎない。だから、ぼくは気にしない。
ぼくは自分がここでなにを成し遂げたかわかっている。ぼくはつねに自分のベストを行ってきた。ポルトガルリーグはとてもいいリーグだよ。テクニカルな選手も多い。イングランドほどフィジカルじゃないかもだけど、レヴェルは高い。
(これまでの対戦相手で印象的だった選手は?……)
間違いなくいる。とくにイングランドのクラブ。シティのBernardo SilvaやKovacicのようなMF、あるいはアーセナルのサカも観ていて感心した。
ぼくは、とても高いレヴェルのDFたちとも対戦している。たとえば(アーセナルの)ガブリエルやサリバ。(移籍は)そういう選手と対戦するチャンスなんだ。
(PL行きの可能性……)
ヨーロッパで最大のリーグのひとつ。ぼくもそこに何年かいたが、1試合とてプレイできなかった。だから、もちろん、それはぼくのやりたいことだ。素晴らしいリヴェンジになるだろう!
リヴェンジ。それはもしやレモンターダ?
(未来のスターはとても早く脚光を浴びるものですが、キミは25才でもまだ無名だった。この異例さはどう説明できる?……)
カギは、自分が子どものころにやっていたようなプレイをまたやりだしたことだね。若いときは、あまり細かいことは気にしないし、ただフットボールをプレイして楽しみたい。ぼくもキャリアのはじめのころは、頭が混乱していたんだ。ピッチで考えすぎて立ち止まったり。でも、ぼくは自分のフットボールをもっとダイレクトで本能的なものにした。
ゴールへの執着は、つねに自分にあったものだけど、それがまた自分のゲイムのエッセンスになった。ゴールして勝つことしか考えない。それがすべてを変える。
このインタビューでもっとも注目されたのはこの発言か。
(Harry Kane、Lewandowski、Haalandらとくらべて自分はどこにランクできると思う?……)
ぼくは間違いなくそのなかのひとりだよ。自分を分類するのは難しいけど、そうだね、いまはもう自分は彼らと同じテーブルの上にいる。彼らは際立った選手たち。何年にもわたりトップレヴェルでプレイし、ぼくよりももっと証明されているね。
自分としては、こうしたパフォーマンスを毎シーズン維持できることを示さなきゃいけないと思う。スポルティングでなんとかやってきたように、ぼくは絶対にどこでだってやれる。まだ誰もベストなGyokeresを観ていないのさ。
このインタビューには、アーセナルファンたちの反応もすこぶるよかった。とても「傲慢でよろしい」と。彼のメンタリティには、いまのチームに欠けているものがある。
以前ぼくも、ストライカーとして彼のいいところは「独善的でひとりよがりなところ」と書いたことがあるが、まさに彼のそういうところが、とてもよくあらわれたインタビューに思える。自分に自信たっぷりで、それを隠そうともしない。ビッグマウスとも云う。でもビッグマウスだけでパフォーマンスが伴わなかったたらただのアホなわけで、それだけの覚悟があるということだろう。いい訳もしないし、逃げ場所もつくらない。
こういう性格は場合によってはひんしゅくを買うことだってあるが、ぼくはこういうのはいまのアーセナルだからこそ、とても必要だと思う。少なくとも、もうしばらくわれらのチームにこういったタイプはいなかった。いまもいない。ゴール前でGKと1 v 1になったときでさえパス先を探してしまうようなメンタリティはここにはない。あるのは、たとえ泥臭く地を這ってでもゴールを奪ってやるという執念だけ。いやあ、貴重ですな。
ぜひPLにリヴェンジしていただきたい。できればアーセナルで。
おわり